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第31話 何事も無かったかのように生き返っているうまなちゃん

 目の前で殺される栗宮院うまなを助けることが出来なかった。自分に戦う力があれば違った展開になったのかもしれないけれど、工藤珠希には戦う力などないのだ。

 みんなは仕方ないと言ってくれたのは本心からなのはわかっているが、工藤珠希は何も出来ないなりに何かすることが出来たのではないかと一晩中考えていた。何も出来なかったとしても、動くことは出来たのではないかと後悔していた。

 助けることが出来なかったのは仕方ないにしても、何も出来ずにただ立ち尽くしていたという事実を自分の中で受け止めきれないでいる工藤珠希はいつもよりも暗い気持ちで教室に入っていった。


「もう、昨日は変なのに絡まれて大変だったよね。珠希ちゃんは怪我とかしてなかったかな?」


 工藤珠希を迎え入れたのは昨日殺された栗宮院うまなであった。

 いつもよりも少しだけ高いテンションのように感じられたのだが、生き返らせてもらったものは死んだことの現実を受け入れてテンションが下がるものと生き返ることが出来たことに幸せを感じてテンションが上がるものがいるらしい。栗宮院うまなは今まで見たことが無いくらいテンションが高くなっていた。


「もう少しどうにか出来ると思ってたんだけどさ、向こうの方が一枚も二枚も上手だったって事だね。私もそれなりに強いはずなんだけど、考えも行動も全て先を読まれていたみたいでどうすることも出来なかったよ」

「昨日はごめんなさい」

「ええ、なんで珠希ちゃんが謝るのさ。謝るのは何も出来ずに殺されちゃった私の方だよ。あの後に変なコトされてないか心配だったんだけど、みんなに聞いても何もなかったって言うんだよね。それって、私を安心させるためにそう言ってるってコトじゃないよね?」

「うん、ボクは何もされてないよ。それよりも、うまなちゃんが殺されるところを黙って見ていただけで助けることも出来なかった」

「それは仕方ないよ。珠希ちゃんは戦う人じゃないから。私たちの女神であり生きる希望だからね。珠希ちゃんを守るためだったら私たちは命を何度失ったって構わないからね」

「そんな事言わないで。ボクはみんなにも死んでもらいたくないから」


 工藤珠希が落ち込んでいる姿を見た栗宮院うまなも少しずつテンションが下がっていっていた。生き返ってすぐの高揚感も薄れていき、少しずつ現実を感じてきた栗宮院うまなは目の前で悲しんでいる工藤珠希の姿を見たことで生まれて初めて死んだことを申し訳ないと思い始めていた。

 そんな二人の姿を見てクラスメイト達にも少しずつ工藤珠希の気持ちが伝播していっているのを感じた栗鳥院柘榴は工藤珠希の頭を軽く叩いていた。頭を上げた工藤珠希と目が合った栗鳥院柘榴は小さい子供に言い聞かせるような優しい声でそのまま話し始めたのだ。


「珠希ちゃんがそんなに落ち込む必要はないんだよ。この子たちは自分の命をその辺に落ちているゴミと同じくらいの価値しかないって思ってるんだよ。まあ、それはこの学校にいる間だけの話なんだけど、それってどうしてかわかるかな?」

「どうしてって、死んでもドクターポンピーノが生き返らせてくれるから?」

「そう、その通り。それがわかってるんだったら珠希ちゃんは何も落ち込む必要なんてないんだよ。この子たちサキュバスは自分の命を捨て駒にしても問題ないって意識なんだけど、それは私たち普通の人間と価値観が違っているからなんだ。どう価値観が違うのか珠希ちゃんはわかるかな?」


 栗宮院うまなだけでなくイザーも他のサキュバス達も普通にしている分には人間にしか見えない。それどころか、学校の外にいる一般サキュバス達も外見だけであれば普通の人間と何も変わらないのだ。翼や尻尾なども無く、外見から人間とサキュバスを区別する方法があるのか工藤珠希は前々から疑問に感じていた。


「わからなくて当然だよね。珠希ちゃんがこの子たちとの付き合いって高校に入学してからなんだし、それまで人間とサキュバスが殺しあってるなんて想像もしていなかったでしょ?」

「全く想像もしてませんでした。サキュバスがいるってのもここに通うまで知らなかったくらいですから」

「意外と気付かないもんだよね。私たちは昔から付き合いがあるからある程度は見わけもつくんだけど、普通に生きていたら区別なんてつくわけないんだよね。でも、簡単に見分ける方法が一つあるんだよ」

「それって何ですか?」

「この子たちって、程度の差はあれ怪我をしても普通の人間よりも早く治っちゃうの。骨折したとしても寝て起きたら治っちゃうくらい治癒力が高いんだよ。それを利用してなのかなのか、戦闘になると自分が傷つくことも恐れずにどんどんと向かって行っちゃう傾向にあるんだよね。この学校みたいに生き返らせてくれる人がいる場所じゃなくても腕や足が切断されるくらいの怪我は怪我と思ってないみたいで、戦い方は肉を切らせて骨を断つって感じになってるんだよ。戦い以外でも、普通の人だったら危ないって思うような場所も平気で進んで行ったりするし、高いところからも平気で落ちていったりするからね。まあ、不死ってわけではないんで普通に死ぬこともあるんだけど、死ななければどうなっても平気って思ってるのがこの子たちなんだよ」


 普通の人間であれば躊躇するようなこともサキュバスの人達は何のためらいもなく進んで行っているのを見ていた。

 それはドクターポンピーノの手によって無事に生き返らせてもらえるという確信があるからなのかと思っていただが、それ以前にサキュバスは治癒力が高いので死なない程度の怪我が怖くないという理由だったようだ。


 自分の肉体もサキュバスと同じくらい高い治癒力があったとしても怪我なんてしたくないと思うし、命を粗末にするような戦い方なんて出来ないと思う工藤珠希であった。

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