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第23話 おじさんの作るたい焼き

 家に帰った太郎はたい焼き屋での出来事を工藤家の人達に話してしまった。

 たい焼き屋のおじさんにはお父さんとお母さんには言っちゃダメだと言われていたのだけれど、工藤珠希のお父さんとお母さんは太郎の本当の両親ではないので話してもいいのだと思ってしまった。

 もちろん、工藤家の人達は太郎の事を見守ってくれていたおばさん達から話を聞いているので何があったのかわかっていたのだが、今までは何をするのにも遠慮がちだった太郎が楽しそうに話しているのを見ていると黙っていた方がいいのだろうと思ったのだ。


 それからも何度か太郎はたい焼き屋さんに行っていたのだ。

 一人行動が多かった太郎も極稀に珠希を誘って一緒に買いに行くことがあった。珠希は太郎ともっと仲良くなりたいと思っていたので嬉しかったのだが、たい焼きを買いに行っても食べている時も変える時も太郎は珠希とではなくおじさんと楽しそうに話をしていた。

 小さな子供である珠希にとってもそれは少し寂しさを感じさせる出来事でもあった。


 寂しい思い出になっていた太郎と一緒にたい焼きを買いに行ったことをすっかり忘れていた珠希ではあったが、あんこがぎっしり入った中華風たい焼きを食べてその時の事を急に思い出したのだ。


「確かにそんな事があったかもしれないね。珠希ちゃんはいっつも一人で家に閉じこもってたからたまには外で遊んだ方がいいんじゃないかなって思ってさ、無理やり外に連れ出してたい焼きを買いに行ったんだった」

「小さい頃のボクはあんまり外に出るのが好きじゃなかったからね。今と違って虫も動物も怖いって思ってたし、お手伝いをちゃんとしないと怖いお化けがさらいに来るよってお母さんに言われて怖くなってたもんね。今にして思えば、お化けだろうが悪魔だろうが怪物だろうが怖くないんだよね。普通にその辺を歩いているし、何だったら普通の人間の方が何をするかわからなくて怖いってことまであるからね」

「いつからか人間と動物以外も普通に出歩いてるもんね。昔の映像を見たら人間しか映ってないのが逆に違和感あるもんね」

「お父さんたちから言わせると、そっちの方が普通って事なんだろうね。ボクたちにとっての当り前って時代をさかのぼるとおかしいことなんだってね」


 今日も画面越しに工藤太郎と話をする工藤珠希。

 いつもであれば飲み物を用意しているくらいでおやつなんかは用意していないのだが、今日は食べきれなかった中華風たい焼きがこっそりと置いてあるのだ。夜にこんなものを食べるのは体に良くないとは思っているので、工藤珠希は晩御飯をいつもより控えめにしていたのだった。

 工藤太郎はいつもと少し違うという事を感じ取っていて、画面の中の工藤珠希をジッと見つめていた。

 モニター越しとはいえ目が合っている事で工藤珠希は少し照れてしまったのだが、工藤太郎はいつもとは違うという違和感の正体を突き止めるため色々なところを見つめていたのだ。


「あれ、珠希ちゃんの食べてるのってあそこのたい焼きだよね?」

「あそこのたい焼きってのはよくわからないけど、たい焼きだよ。駅の所にあるたい焼き屋さんのやつ」

「懐かしいな。高校生になってから一回も行ってないから久しぶりに食べに行きたいかも。珠希ちゃんは良く買いに行くの?」

「ボクは初めて行ったよ。駅の方まで行くことなんて滅多にないからね。太郎ってそんなに駅に行ってたっけ?」

「部活の遠征とか模試を受けるとかで駅にはよく行ってたよ。それ以外にも長距離を走りたいなって思った時のランニングコースに駅付近も入れてたしね。頻繁ではなかったけど、週に三回くらいは行ってたと思うよ」

「週に三回って、週の半分って事じゃん」


 久しぶりに聞いた中学生の時の話題はつい最近の事のはずなのに何故か懐かしい気持ちになっていた。

 工藤珠希も大会などでは応援に行っていたりもしたのだが、普段の活動はあまり詳しく知らなかったので工藤太郎の口からきくことが出来たのは嬉しかった。自分が知らなかった太郎の一面を知ることが出来て、工藤珠希はそれだけで幸せな気持ちになっていた。


「珠希ちゃんが食べてるのって中華風たい焼きだよね。一人で食べきれないから俺はほとんど食べたことないんだけど、何人かで食べるとちょうどいいよね。珠希ちゃんは一人で食べてるの?」

「一人で食べるわけないじゃない。海に行った帰りに買ってうまなちゃんと半分ずつに分け合ったんだよ。ボクだったら一人で食べてそうって思ったの?」

「だいぶ小さくなってるから、こうして話す前に食べてたのかなって思っただけだよ。でも、珠希ちゃんってお菓子とか結構食べてたイメージあるかも。いつも何かしら食べてたよね?」

「それはお母さんが買ってきたお菓子とかを太郎が食べないっていうからでしょ。ボクだって好き好んで食べてたわけじゃないんだからね。太郎のせいでダイエットするの大変だったんだよ」


「それは俺のせいじゃないような気がするんだけど」

「なに? 何か言った?」

「なんも言ってないです」


 おやつやケーキを買ってきても太郎は基本的に食べる事は無い。

 工藤太郎の育ての親である工藤珠希の両親に気を使っているというのではなく、良いパフォーマンスを発揮出来るように自然と体重を管理してしまっていたのだ。これは工藤太郎本人も気が付いていない無意識に行っている事だったりするのだが、その事に気付いている人は誰もいなかった。

 たい焼きを食べる時はその前にエネルギーを十分に消費した状態にしているので問題なく食べることが出来ているのだ。もちろん、普段の食事もその辺を無意識のうちに行っているので何も問題はないのだ。


「そう言えば、太郎って間食ってあんまりしてるイメージなかったけど、たい焼きは良く買ってたよね。それって、このたい焼き屋さんのやつだったりするの?」

「そうだよ。おじさんの作るたい焼きが一番美味しいからね」

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