第21話 中華風たい焼きと工藤太郎
中華風たい焼きの正体は、見た目が鯉のぼりに似たしっとりとした生地であり、その中にはこしあんがぎっしりと詰まっていた。
普通のたい焼きよりもボリュームがあってあんこがこしあんだという違いはあるものの、一体どこに中華要素があるというのか疑問しかなかった。
中華料理のデザートの一つである胡麻団子の中がこしあんであることが多いというのは中華まんじゅうと呼ぶ理由になるかと思って見たけれど、さすがにそれだけの理由だと弱すぎる。胡麻団子以外にもこしあんを使ったデザートは数限りなく存在していることも考えると、その理由で中華風たい焼きと名乗るのはおこがましいとしか思えない。
見た目が鯉で中国っぽい感じだと言ってみたいところだが、中国と言われて鯉をイメージすることの方が少ないと思うのでそれも中華風と言うには弱すぎる。
一体どこが中華風なのか理由を知りたいこところではあったが、栗宮院うまなと工藤珠希の二人ではその答えは出てこないと思われた。
「なんでこれが中華風なんだろう。お店の人に聞きに行こうにも遠すぎるし、いったいどうすれば答えがわかるんだろね」
「作った人に聞かないとわからないと思うよ。何でも知っていそうな太郎もさすがにこの中華風たい焼きの謎は解けないと思うんだよね」
「スマホで調べてみたけど、中華風たい焼きで出てくるのはコレと全然違うやつなんだよね。これみたいに大きくて太いのはどこにも見当たらない。もしかしたら、あのお店のオリジナル商品なのかもしれないね」
「そうだったとしたらボクたちには答えは見つけられないって事になるね。どうしても知りたいってわけでもないからいいんだけど、ずっと気になってふとした時に思い出して集中できなくなりそうかも」
「勉強中に思い出したら最悪だね。集中出来なくて点数もとれなくなってしま僧。でも、それよりも最悪なタイミングって、デートしている時だったりするんじゃないかな。どんなに楽しかったとしても、相手が自分以外に興味を持ってるって感じ取ったらそこまでってなりそうだしね。デートの時くらいは自分に集中してほしいって思っちゃうんじゃないかな」
半分に切った中華風たい焼きはずっしりとした重みを感じさせていた。
先ほど食べた普通のたい焼きよりも半分に切った中華風たい焼きの方が重量があるように思えたのだが、それは気のせいではないようだ。
「これを一個食べるのは大変そうだね。大食いの人じゃないと食べきるのは厳しいと思うけど、うまなちゃんは食べられそうかな?」
「さすがに今から一人でこれを食べきるのは無理かな。家に帰ってから何人かで分けて食べようと思うけど、珠希ちゃんは一人で食べられそう?」
「全然無理だね。ボクも誰かと分けてゆっくり食べることにするよ」
答えに繋がる糸口すら見つけられなかった二人のもとにバスはやってきた。
もう一本遅らせてみたところで答えは見つからない。そう感じた栗宮院うまなはバスに乗り込んで工藤珠希が見えなくなるまで手を振り続けていた。もちろん、工藤珠希もバスが見えなくなるまで手を振っていたのだ。
家に帰ってからも中華風たい焼きについての情報を探していたのだが、知りたい情報は何一つ見つけることが出来なかった。公園で調べた時と同じ情報しか見つからない。
このままでは何も解決の糸口を見つけることも出来ない。そう感じた工藤珠希ではあったが、そろそろ工藤太郎と通話が出来る時間帯だという事に気が付いて中華風たい焼きの事は頭から抜け落ちてしまっていた。
「そんなわけで、頼まれてた写真はたくさん撮ってきたよ。太郎が直接その目で見ることが出来ればよかったのにね」
「直接見るのが一番だとは思うけど、こうして撮ってもらった写真でも凄さはわかるよ。これだけ大きいんだったら近付いてみたら高い壁にしか見えないのかもね」
「凄い望遠レンズで撮ってる人もいたんだけど、そこまで用意するんだったらもっと近くに行けばよかったのにね」
「近くに行けない理由でもあるのかもしれないね」
船の話は出るものの、今日一日工藤太郎が何をしていたのかという話をしてくれないので、工藤珠希は少し寂しい気持ちになってしまった。
自分の話もすべて船の話題に変わってしまうという事を考えると、工藤太郎がどれだけあの船の事を待っていたのかという思いにいたってしまう。
そんな事を考えていると急に工藤太郎が何かを見つけた子供のように大きな声を出していた。何をそんなに驚いているのだろうと思っていたところ、工藤太郎の口から全く想像もしていなかった言葉が飛び出してきた。
「それって中華風たい焼きだよね?」
「そうだけど。太郎はこれの事知ってるの?」
「もちろん知ってるよ。だって、おじさんと一緒に俺が考えた名前だからね」
「え、どういう事?」
工藤太郎とあのたい焼き屋のおじさんはみんなが考えたよりも深い関係にあるのだ。
もちろん、肉体的に深いつながりがあるという事ではない。
「あの時はまだ俺も小さかったからな。たまたまあの場所を通らなかったら何も知らないまま高校生になってたのかもしれないよね」
「ごめん、ボクにはどういう事なのかさっぱりわからないんだけど」
「それだったら、今日は俺とおじさんの話をすることにしようか。あんまりおもしろい話はないかもしれないけど、聞いてくれたら助かるよ」




