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第16話 心変わり

「あんまり遅くなっても心配されちゃうと思うし、そろそろ帰ろうか。うまなちゃんと遊ぶの結構楽しかったよ」


 工藤珠希はバス停に向かいながらそう伝えたのだが、当然栗宮院うまなはその言葉に同意などしない。デートらしいことは何一つしていないし、楽しいのはこれからだと思っているのだ。


「いやいや、デートはまだこれからでしょ。まだ海水浴もしてないじゃない」

「この辺で海水浴は出来ないよ。ここは海水浴場じゃなくて港だからね。こんなところで泳いでたらビックリされちゃうよ」

「それはわかってるけどさ、海のデートと言えば海水浴って昔から相場が決まってるでしょ?」

「それはわからないけど、サキュバスの世界ではそれが当たり前なの?」

「サキュバスの世界じゃなくて、珠希ちゃん達人間の世界の話だって。ほら、漫画とかアニメとか映画とかでも夏に海に行ったら海水浴してるじゃない。日本の夏って海水浴をして楽しむもんじゃないの?」

「でも、この辺って海水浴場とかないし、海でデートって言われても港で釣りをするか船を見るくらいしかないと思うんだよね。夕日とかも綺麗だって話は聞いたことがあるけど、その頃には最終バスも出ちゃってるから帰れなくなっちゃうんだよね。だから、そろそろ帰った方がいいんじゃないかなって思うんだけど、うまなちゃんは他に何かやりたいこととかあったりするのかな?」


「そりゃたくさんあるよ。珠希ちゃんと一緒にやりたいことはたくさんあるし一日じゃ足りないって感じだもん。それにさ、船を見に行っただけってのは先生もデートって認めてくれないんじゃないかな。ほら、デートってのはもっとこうなんていうんだろう、親密な感じに楽しく二人だけの空間を楽しむって言うか、そういうのが大事なんじゃないかな」

「うまなちゃんの言いたいことは何となくわかるけどさ、デートってのは人それぞれなんだと思うよ。ほら、ボクたちみたいにお金もない高校生が漫画やアニメみたいなデートが出来無いと思うんだ。バイトとかしていれば別かもしれないけど、ボクもお小遣いそんなに貰ってるわけじゃないから遠くに行ったりとかは無理だしね。それに、片岡先生は海か温泉でデートして来いとしか言ってないんだし、海でデートしたのは紛れもない事実だと思うよ」

「珠希ちゃん。珠希ちゃんの言っていることはわかるよ。私たちみたいな高校生同士のカップルが出来るデートなんてお金をかけないささやかなものって言いたい気持ちはわかるよ。でもね、私はただの高校生じゃなくて栗宮院うまななんだよ。お金の心配なんてしなくても大丈夫なんだよ。今からこの辺の土地を買い占めて私有地に変えて立ち入り禁止区域にすることだって出来るんだよ。だから、普段出来ないようなことをもっと軽い気持ちで言ってくれていいんだからね。私は珠希ちゃんが望むことを叶えるだけの力もお金もあるんだよ」


 金と権力にものを言わせて女を黙らせる。人として最低な行為のようにも見えるのだが、栗宮院うまなはサキュバスの女王でもあるのでそんな事は気にしないし、誰一人としてこんな栗宮院うまなを軽蔑するようなものはいない。むしろ、そこまで清々しく言い切る姿に感動すら覚えてしまうかもしれない。

 そんな栗宮院うまなの態度が工藤珠希の考えを少しだけ惑わせていた。

 もしかしたら、自分の方が間違っているのではないか。そう思わせてしまったのだ。

 それがサキュバス特有の力なのか、栗宮院うまなだけに備わっている力なのかはわからないが、工藤珠希の心は徐々に栗宮院うまなの方へと傾いていっていたのだ。


 もう一押しすれば工藤珠希を落とすことが出来る。自然とそう感じ取っていた栗宮院うまなはごく自然な感じで話しかけていた。

 いや、その姿は遊び慣れたナンパ師のようでもあった。それに気付かない工藤珠希はますます栗宮院うまなの意見を受け入れようという気持ちが強くなって言っていた。


「それなら一つ提案があるんだけど、聞いてもらってもいいかな?」

「提案って何?」


 少しだけ警戒心が出てきた様子の工藤珠希ではあったが、栗宮院うまなは気にせずに続けていた。


「あんまり遅くなってしまうとバスに乗り遅れて帰れなくなっちゃうかもしれないから、いったんここを離れて珠希ちゃんの家の近くで何かするってのはどうかな?」

「ボクの家の近くって家ばっかりで何も無いと思うけど、あっても公園くらいだと思うよ」

「それでも良いよ。私は珠希ちゃんと一緒にいられれば場所なんてどこでもいいんだからね。なんだったら、珠希ちゃんの家の前とかでも全然かまわないよ」

「さすがに家の前はイヤかも。ご近所さんにも見られちゃうと思うし、そうなるとうまなちゃんも困っちゃうんじゃないかな」

「私なら気にしなくても大丈夫だよ。そんな風に私の事を心配してくれる珠希ちゃんはやっぱり優しい良い子だね」

「そんなことないよ。ボクは別に優しくなんて無いし。普通だと思う」

「そこも優しいと思う理由だね。とりあえず、バスに乗って駅まで戻ろうか。何をするかはバスの中で決めてしまえばいいと思うしね」


 バスを待っている間は無言であった二人だが、バスに乗り込むと工藤珠希は二人掛けの席に向かっていった。

 栗宮院うまなは遠慮がちに隣に座ってみると、工藤珠希は窓の方へ顔をそむけただけで何も言いはしなかった。

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