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掟の目的  作者: 柩屋清
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第二章(全四章)

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「実はな、小隊長に昇進した」


少しニヤけて平は報告をする。

ここ数日、長居が出勤した日には必ず、この店に顔を出していた。


「ーーと云う事は組織の正社員か・・」


長居は、彼の立場というモノを再確認した。そうだーーと頷く彼はより小声になってゆく。


「バカヤロ」


そう云って平は長居のヒザの上にあったスケッチ・ブックを取り上げた。


「見付けたのがオレで良かったものの・・」


平が帰宅したと思い、長居はイスに腰掛けながら、適当な小物のデッサンを手掛けていた。平日の深夜ともなれば、通常の行為である。独り勤務の店番ときたら止むを得ないと云えなくもない。買い物から戻った平は、黙ってその絵画一点一点(ひとつひとつ)を破り捨てるに至っていた。


-----


「もしもし、長居さんですか?おたくの御父さんが、大変な事に!」


翌朝、帰宅し床に就いていると、彼は電話のベルで起こされていた。


「ーー自殺未遂です」


声の主の女性はそう現実を伝え、長居を慌てさせるに至らせた。


「今から行きます」


()()()()()など構わずに長居は部屋を出る。ともかく馳せ参じるしか念が芽生えない・・


親父(オヤジ)!」


病院に着き、()()()()のカーテンを開きながら息を切らし長居は素早く、そう叫んだ。


「おゥ・・」


そこには何と平が私服姿の(まま)寝そべっている。


(貴様・・)


悔しかったが声を張り上げなかった。

個室に移ったらしいよーー平のそのセリフに(ようや)く、これは悪戯(いたずら)なんだと彼は気付けていた。勿論、あの電話の主も平の手下に違いない。


-----


「忘れてねェーだろうな」


再び先日・来た病院の屋上へと場所を移し、平は長居にそう問い(ただ)し、そして更に続けた。


「オレ達の役目は、世の天才達を封じ込める事にある。そのオマエさんが絵なんか描いて、夢見てんじゃねーよ。親父の死に際よりテメェの未来、考えな!このボケナス・トンマ」


平は(つば)を吐き、長居をコケにしまくっていた。


「ニセのハガキ作れよ」


今度は指図だ。無論、平から長居に、である。要は”落選”の知らせを敢えて通達し、万一、入選や審査通過の連絡が発生したら、何とか喰い止めろーーとの事だ。


(もう、嫌だ)


思えば〝思いやりのある奴”そう見込まれて平に〝一緒に理想郷を作ろう”とこの組織に誘われて入会したのが機会(キッカケ)であった。(とて)も安易な物で矢張り若気の至りだったと云えよう。


-----


(とにかく気分転換だ)


出勤前の夕焼けを横目に長居はアパートにてガット・ギターをかき鳴らした。


「長居くーん」


平の声だ。もう完全に尾けられている。

玄関のカギが開き彼は侵入して来るや否や、”活動しろや、オンドレ”そう一喝して、()()()と消えうせてしまった。

長居はもう笑うしか無く、人生を十二分に、諦める決意が出来てしまった。


「はい、長居です」


しばらくして鳴った電話に彼が出てみると”嫌なら新会員、連れて来いや”と平が非常に難しい交換状件を差し出てきた。


(こんな組織にダレを誘えるか!)


今夜、勤務中にハガキを作る約束をし長居は受話器を独り淋しく置いていた。


(親父、オレの方が死にてェよ)


ため息をひとつ吐いて長居は蟻地獄とは正にこの事を云うのだろうと強く確信していった。


-----


「今、三人で外堀りを埋めている」


カラオケ・ボックスの空き部屋にて平が事の詳細を打ち合わせに来た。

”外堀り”とは友人の振舞いをしZに近付き、徐々に小説を諦めさせるという戦法だ。


「女に関心があんま(あまり)無いんで女子隊員が、使えねェときてる・・」


平は更なる情報を伝えた。

前回、Aの時は女に助けを借りて山に埋めた。Zに死角は少ないと平は見込んでいる。


「ーーそれで長居君、(キミ)の出番という訳だ」


要は昼間に常時、手の空く人間が必要であるーーと促している。


「編集者に化けれるか?」


「せいぜい ”元” が限度だろう」


長居は粉装するまでの意欲を持たなかった。


「それで役は果たせるのか?」


「ーー知り合いに元は居る。研究は()()()()


長居は、なるだけ足を突っ込みたくはなかった。未だにAの幻影が消えぬ日など無いが()()である。


-----


「最悪でも、これだけはこなせ!」


平はZの提出したオーディション先、並びに作品名、作品数を聞き出せーーと命令した。


「全てをか?」


長居の問いに彼は無論と答えるだけであった。長居はこの時、自身の業の深さを強く感じてしまう。取り敢えず()()と云われた活動初日、それは数人で死体を埋めた日でもあった・・。


「もう共犯だからな!」


当時の小隊長の言葉が胸を離れない。


「今回は()っても構わん」


何の気無しに平は云ってのけた。


「どう云う事だ?」


長居は当然そう尋ねる。今まで、()()という手段は最終段階で取り決めていた事でもあったし()()Zは政治家の息子だ。


「だから、依頼主が居るんだよ、長居クン」


「ビジネスか?」


「しかし依頼主とは同じ志だ」


平は彼に全く付け入られたく無く発していた。


-----


「安心しろ、もう山は買ってある」


平のその発言は昼間でも道を閉鎖して堂々と作業が出来るという意を表していた。

おそらく林業関係者に変装しショベル・カーなどを導入し合理的に片付けるのであろう。


依頼主(クライアント)はダレだ?」


気になって長居は尋ねた。


「ーー云ってなかったか・・奴の親父だよ。Zのパパちゃん」


長居は平のその返答に、思わず唖然とした。


「勿論、X(エックス)国へ拉致(らち)された事にするよ・・・今回も、いつものパターンでな」


平は定石のプランを通達しておいた。

で、ないと容疑者が発生しかねない。


「また、新潟支部にデマを流して貰うのか?」


長居は確認の為、そう尋ねてみる。


「新潟とは限らん」


「まぁ、日本海側のどこかだろう?」


長居のその質問に平はハッキリと答えなかった。未だ、そこまでは見えていない様相だ。


-----


ーーコン・コンーー


晴れた日の正午、長居宅の(ドア)はノックされた。


(平なら勝手に入って来るな・・)


そう思い扉を開けると中年の女性がひとり、ポツリと立っていた。


「この辺りで行方不明になったウチの息子を見かけた方が、いらっしゃると聞いて来たんですが・・」


まぎれもなくAの母だった。長居は、すぐに察知して素知らぬ振りをして彼女を帰した。


「もう、オレからは絶対、逃げれないよ」


ベランダから侵入したであろう平がAの母との応対直後、長居にそう釘をさしに現れた。もう、何も返す言葉も無い。

長居は彼の存在を無視してテレビを見入った。


「オレを恨んでいるか?」


「ーー」


返答されない平はベランダから静かに消えた。幸いAの母はカラオケボックスでは見掛けていない。あの話だけは(デマ)だったのだろうか?


(続)

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