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掟の目的  作者: 柩屋清
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第一章(全四章)

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「久々の尾行ゲーム、楽しませて(もら)ったぜ」


トレンチ・コートに身を包んだヤサ男はそう告げていた。

(たいら)か?ーー彼と向かい合う()()ひとりの男はそう尋ねるだけで手一杯であった。


「随分、採算に合ってねェようだなァーー」


平はその店の精算所にて嫌らしく問い掛けてきた。数日前に始めた、そのバイト先にまで彼は無理矢理(むりやり)押しかけてしまう・・

深夜のカラオケ・ボックスには閑古鳥が鳴き、おまけに受付に居るのも、平と話す彼ひとりのみという環境であった。


長居(ながい)、又、オマエさんの担当になったゼ」


色白の平は片肘を精算台に乗せ彼を充分に見下し今後の相互関係を嬉しそうに伝えていた。


-----


「おっ・・」


翌朝、日の出と共に帰宅した長居は鳥カゴに触れてみて、いつもと違う様相に気付けていた。

カゴの中の鳥は串で突き抜かれ当然、呼吸(いき)も途絶えている。

平の奴だーー言葉にはしなかったが彼以外に見当もつかない。

”不似合いだ” そう書かれたメモまでカゴの中に残されている。字の趣からいって、やはり平に違いない。


「やっぱり・・」


玄関のカギまで開けられていた。壊そうと、思えば手の掛からない安アパートのドア()()なのだが平は律儀にも合いカギを、長居の元恋人(あた)りから手に入れ侵入に至った模様だ。


”御勤め御苦労さん。余暇は活動に、当てて貰います” やはり茶袱台にもメモがあり彼の不法侵入を証拠づけた。


「いつもの事だ・・」


長居は戸締りもせず独り床に就いてしまう。


-----


「平、職場まで足を運ばれるのは勘弁して貰いたい」


長居は過去の定石から平にそう願い出ていた。一日・経って()()()平は精算カウンターに現れている。


「しっ。静かにしろ。Aの一族が潜入しているーーという噂だ」


平は長居の要求を遮って、そう報告を伝えた。


「まさか?」


長居は苦笑いを浮かべ半信半疑で聞いている。

深夜であっても金曜となれば(いく)らか状況は一辺する。

ここにAの一族が紛れ込んでも一見、見分けがつかない。

一年前、長居が担当したAは今、山の中に、埋められていて、もう現世(このよ)の人ではない。

一応、世間ではAは行方不明となっているが、この店に現れるーーというガセ・ネタを、あえて平かダレかが流したのであろう。

長居はすぐにピンーーときていた。


-----


「いつもの事だな」


ポツリと告げる長居に、平は無言を通した。平は組織の常套手段を()()()とばかり使ってくる。


「Aの一族、洗い直しじゃねぇか!」

長居は怒った。自分を休ませず脱会させない手としてAの家族を更に苦しめている。

それは正にアリ地獄と云えた。

まァ、まァーー平はそう告げるだけで、話の核心に触れはしない。


「これ、記念にとってあるんだ」


キャンセルの発生したボックスにて平は彼に、と或るビンを見せつけた。


「おい・・」


ビンには、ホルマリン漬けになった左手の人差し指と中指が()()()浮いている。

それは(まさ)しくAのモノであり、彼が優秀な、ギタリストであった事も物語っていた。


「そんなモン、持ち歩くな」


さすがに長居も、気が滅入ってくる。


-----


「実はあるアマの作家を封じ込めたいーー」


平はついに本題を明かしてきた。


「ここではZと呼ぼうか・・」


ターゲットになる男をアルファベットひと文字で云い代える手段はいつもと変わりない。平は意気揚々だ。

だいたいターゲットの男の名にZの付く箇所など、まるっきり見当たらない。

長居は、そんな人権さえも感じさせない平の態度が可也(かなり)カルト的に思えて仕方無かった。


「なんだーー政治家の息子じゃねェか・・こりゃ、ヤバいゾ・平」


B5版のコピー用紙を手渡された長居は平に軽く喰って()()()()

用紙にはZのプロフィールが記されてある。


「オレは降りるゼ」


長居は()()()とばかり拒んでみた。

正当なる理由があれば、組織に参加しないで済む。

もう誰かを(おとしい)れるなんて真っ(ぴら)御免だからだ。


-----


「ーーしかし今回は違うゾ」


禁煙指定になっている、そのボックスにて、平はタバコを吹かし目を細めながら、長居を見下すように、そう答えていた。

四脚のイスに腰を掛け、ソックスの裾を上げる平は我が事務所の様に、そのボックスを使う。


「要は親と違う思想なんだよ」


平は更に付け加えた。

思えば彼が、そんなマヌケなヤマなど持って来る(はず)がないーー長居はそう考え直していた。


「だが・・本当に大丈夫か?」


長居は念を押す。

数年前、警察官の息子をやる予定になったが結局、後々の問題を考えて、撤退した過去があった。


「心配すんな、長居」


「やるからには完璧しか道は無い」


「ゼロか百の選択なんだ。今までも、上手くやってこれたし万が一ダメなら早期撤収する」


平は長居に安心を与えるのに懸命になった。


-----


(今日は病院に行かないとなァ)


始発列車で帰宅する長居はガラガラにすいたシートに座り、独り胸中にこう呟いた。

彼の父は肺ガンの末期で、残り数ヶ月の命と宣告されている。

それを理由に(しばら)く組織を休んでいたのだが、あえて再び急ぎのヤマを平は手伝えと云ってきた。

云う以上、それはかなり張りつめた・意義のあるプロジェクトなのであろう・・


(しかし、嫌っていても父は父・・)


長居は幼少の頃より、父を苦手としていた。仕事一途で家に居る事も少なく、夕方からは母までも同じ仕事場にパートに出させていた。その環境がたたってか長居の姉はグレ始め、若く結婚をしたまでは良かったが(わず)か六年で離縁し、出戻っていた。

そんな父を看病していた母が、たまには外に出たいーーと云ってきたので長居が一日、代行する約束を取り決めてあった。


-----


「何!」


正午になって病院へ(おもむ)くと、車イスに乗った長居の父を世話している人間が居る・・


ーーなんと、()()は平だーー


唖然としたが、平然を装わななければならない。


「おゥ、平君に良くして(もら)った」


父は彼の素性を全く知らない・・

こんな時に限って、父の(ひざ)は水を溜めてしまったらしい。若い時からの持病で半生、()()()()ならなかったのだ。


「オ前は親父(オヤジ)さんの危篤をダシにしている」


病院の屋上にて呼び出し、平は説教を始めた。


「長居、これは命令だ」


次のプロジェクトには絶対参加しろとの意である。

黙秘を続ける長居は助からないであろう父の姿と、消される可能性の高い・Zと呼ばれる男のイメージとを、ダブらせて考えていた。


(去って行くーーその方向は同じなのだが)


未だ煮えきらない思いが彼の心を占めてゆく。


(続)

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