留守番3
1556年 5月 近江大津宮跡
互いに対陣して一週間弱。互いに陣に籠り、物見を出し相手の出方を覗うだけであり、小競り合いすらおこらなかった。そして、父義賢の観音寺城帰着の報が届くと同時に三好の軍勢が摂津に撤退を始めたらしい。おそらく相手方にもこの報告が伝わったのだろう。
「兄上、相手から仕掛けてくれたら手柄を挙げる機会に恵まれたかもしれぬのに。口惜しいですな。」
「互いに何事もなく終わったのだ。数が不利な中、手柄を求めて撤退する敵を追撃する必要はなかろう。」
「ここは、堅実に動くことこそ肝要。功を焦り、いたずらに軍を疲弊させることは亡国の行い。まことによろしからぬことにございます。」
「宮部の言う通り、やらなくても良い戦は世の中にごまんとある。」
不満そうな鶴寿丸を宥めながらこちらも撤退の準備を進める。戦というものは、出来ることならやらない方が良い。兵や銭をいとも容易く浪費してしまうからな。この一週間の在陣でも莫大な費用がかかっている。
観音寺城
「忠定、帰還するまで良く対応した。されど未だ元服していない弟を戦に連れ出したことはどう申し開きをするつもりか。」
「これに関しましては、鶴寿丸の希望を受け某の一存にて判断を下した次第でございますので、如何様な咎も甘んじて受け入れましょう。」
「ふむ、お前もそうであったが我が子らはみな幼き頃は血の気が多すぎて困る。其方もそうであったように隠れてついてこられるよりは、牽制の三好と対陣しただけなら咎めるほどでもあるまいか。次からは弟達にねだられても戦に出してはいかんぞ。弟らを守るのが長兄の役割。良いな。」
「そのお言葉をわが身に刻み、これからも精進したすつもりであります。」
「分かったなら良い。して、お前にも此度の美濃で斎藤と結んだ和議の内容について教えねばならんな。」
「ここからは御屋形様に代わりましてこの後藤賢豊が忠定様に此度の戦の和議について説明申し上げまする。此度の和議においては大垣城を含めた安八郡・不破郡の割譲と我らに服属した竹中をはじめとする国衆の承認。この二つが大きな項目でありまする。」
「改めて御戦勝についてのお祝いを申し上げまする。」
「後藤よく説明してくれた。忠定、其方はもう下がっても良い。」
父からは、何の咎も受けなかったし、美濃に関してもよく知ることが出来た。こういう時はさっさと部屋から退出するに限る。
部屋から下がった後、屋敷に戻ると今度は職人集団が待ち構えていた。
「お殿様、おっしゃられた設計図と仕様の通りのからくりが出来たのでお持ちした次第でございます。」
「そうかそうか。よくぞやってくれた。さて実践してみてくれぬか。」
今回作らせた機械は、宮崎式人力用製縄機である。この人力用製縄機の製作者史実においては、佐賀県佐賀郡兵庫村出身の宮崎林三郎である。彼は盲人でありながら1905(明治38)年に製縄機の特許を取り、今日において製縄機の開祖といわれる人物なのだ。
形状としては、糸車を大きくしたものだ。無論万能ではない。製縄機によってできる縄は少し太くて粗く、用途によっては使用できないものもある。例えば細縄・かみご縄・太い縄・きめ細かい縄等は、今まで通りに手で綯わないといけない。しかし、一般的な荷作り縄用などとしては十分に使えるものを作ることが出来るのだ。
こいつを作らせるために、大金をはたいて西洋時計を購入し宇張に分解させ、食い違い歯車やフェース歯車を拡大させ製造させたのだ。ちなみにボルト・ナットを規格化するなんて出来ず、それぞれ一対一でしか対応していないオーダーメイドになってしまった。一応、同じ機械内では融通できるようにしたが交換の際にはボルト・ナットごと交換しなければならなくなった。規格化の偉大さを思い知らされる。
そしてもう一つこの製縄機と組み合わせて必要になる機械がわら打ち機である。この機械が有ることで、生産速度が上がった縄綯いの次に障害となる作業である、木槌で藁を打って叩いて柔らかくする縄綯いの前段階わら叩きの効率化を図ることができる。
この機械は二つの金属製の円胴を上下に重ね、その狭い隙間に片方からわらを入れ、円胴に連結していて円胴を動かすハンドルを手で回す。すると二つのローラーが上下逆方向に動いてわらを呑み込んで潰しすことで柔らかくし、二つの円胴の隙間から外に吐き出すという仕組みである。
早速、実践が始まった。さっそく足ふみで縄を編み巻き取っていくが、足ふみも全体重を乗せないと動かないようだ。一人が藁を入れて、もう一人が足ふみで回転させてと大掛かりな縄綯いであることがよくわかる。
「縄綯いですか。思ったよりも遅いですな。」
通りかかった三雲賢持が職人たちの作業風景を見ながらそう言いう。
「某、今綯っている二尺くらいであればあのからくりの四倍は早くできますな。」
自慢げにそういわれたが、大体脈拍で八十回ぐらいであったので二十秒ぐらいでできるのか。確かに早いな。
「されど、あのからくりの四倍の速さでできるのも半刻から一刻が精々。あの速さを一日中続けられるというのは大変便利ですな。ぜひとも二台ほどいただきたいものですな。」
どうやら、この機械の有用性に気付いてくれたようだ。二台ぐらいなら格安で譲ってやろう。
「よくやってくれた。お前たちには褒美を取らせよう。」
また一つ、生活を豊かにする道具をそろえることが出来た。
宇張さん存在を忘れていました。
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