父殺し
1556年 2月 稲葉山城 斎藤高政
父利政は、大桑に逃れ何とか味方を集めんと走り回っているようだ。だが、美濃国内において父の味方となっているものはいずれも弱小の者達。それよりも恐ろしいのは、高須の土岐よ。
六角によって、美濃国主の座を将軍によって認められた土岐頼芸であるが、もはや、美濃国内にその権威・権力を認めるような者はいない。されど、その存在自体が六角の介入を招く疫病神のようなものとなっている。これを速やかに排除したい。
「弘就、土岐をなんとかして排除出来ぬだろうか。あれが生きている限り、近江からの圧力を警戒せねばならぬ。父は、必ずや六角を招き入れるだろう。されど、介入の口実は少なくしておくのが良いはずだ。」
「なれば、高須の者に銭を幾らか握らせればよろしいでしょう。頼芸は、兵を集めるための銭を捻出する為に重税を掛けているとの事。怨みを持つものは多いでしょう。」
「重税を掛けているということは、頼芸は金満の六角から援助を受けていないと言うことか。」
「幾らかの援助は受けているようでありますが、それでは足りない様子。加えて、六角との連絡も疎かになっている様であります。」
「気位の高い土岐頼芸のことだ。己の力で我らの背後を突いて漁夫の利を狙っておるのだろう。弘就、頼芸の正室は殺すなよ。六角が介入してくる口実となる。」
「お任せくだされ。」
弘就をさがらせる。悪運強い土岐頼芸も年貢の納め時であろう。
観音寺城 六角義賢
「我が主、斎藤利政殿は土岐頼芸殿を再び美濃国主として迎え入れようと準備していた所、それを不服とした斎藤高政が自らの弟を斬り殺し此度の兇行を行った次第であります。どうか、六角殿には斎藤利政への援軍を送ってはいただけませぬか。」
斎藤利政からの使者は、役者の如く大袈裟な仕草を持って同情を引こうとしているようだ。
「もし、其方の言うことが本当であれば今すぐにでも高須におられらる土岐頼芸殿に旗頭としての御出陣を願いでるのが筋である。されど、我らの元には土岐殿を国主、総大将に据えようなどという噂すら入っておらん。これもまた蝮の戯言か。」
「本来は、戦が終わり次第、土岐頼芸殿を稲葉山城に迎え入れるべき所を高政に譲り渡し、反旗を翻されてから我らに援軍を求める。約束を守らず、このような虫の良い話がどこにあろうか!」
蒲生と後藤が使者を激しく責め立てる。最もこれは、約束事を守らなかった斎藤一族の身から出た錆である。我らが考慮するべき事情ではない。
「御屋形様、土岐頼芸殿斎藤高政の手の者に殺されたようであります。」
「真か。それは真なのであろうな。」
「土岐殿が倒れた次の日には高政勢が攻め寄せ城は陥落しましたので絶望的かと。」
「妹は。我が妹は無事なのか。」
「土岐頼芸殿のご正室は助命されましたが、ご子息は皆城下にて磔にされたとのこと。」
目の前の使者に動揺を一切知られないようにする為に全神経を集中させねばならん。しかし、腹の奥底から溢れ出る怒りが顔を赤くすることはどうしても抑えられなかった。
遂に国主と幕府に認められ、美濃奪還の一歩を踏み出したというのにここでその命を落とすとは。さぞ無念であったろう。
「さて、使者殿先程我が手の者が高政の手に掛かり土岐頼芸殿が亡くなられたことと高須城が落城したことを伝えてきた。我が甥達が城下にて磔にされたこともな。」
私の言葉に、使者・家臣達は大いに動揺する。これで、美濃国内に介入する口実は無くなった。されど、高政の首を取らねば我が妹が浮かばれまい。
「最早、斎藤と六角の間には埋め難い溝ができた。帰られよ。」
使者は、逃げるように帰った。行き場の無い怒りが身体の中を巡り続ける。高須城に頼芸殿を置いたのは間違いであったようだ。私のせいで妹は、夫と息子を同時に失うこととなってしまった。
「義賢。頼芸殿が斎藤の手に掛かったと言うのは本当ですか。本当なのですか。娘は、あの子は本当に生きておるのですか。あの鬼の斎藤のこと無事に近江に戻っ「母上、残念ながら本当のことであります。」」
「なんと…何故土岐は斎藤にここまで良いようにやられるのですか。」
報告を受けた母慈寿院は半ば狂乱状態に陥っている。無理もない、ただでさえ一族の中で骨肉の争いを繰り広げやっと纏まったと思ったら一族が、斎藤によって暗殺され領国まで奪われたのだ。
「母上、この義賢必ずや斎藤の首を持ってまいります。どうか落ち着きください。」
気休め程度ではあるが、母の手を握る。されども落ち着かない様子なので女官に後を託す。相も変わらず、六角は東西を敵に囲まれておる。なんとかして抜け出せぬものか。
頼芸さんここでナレ死。
久しぶりの慶寿院様。土岐氏出身という説もあるので土岐出身にさせていただきました。
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