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六角氏軍記~戦国乱世を生き抜きたい~  作者: タスマニア


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新年

忙しすぎ。

 1556年 正月 六角義賢 観音寺城


 家臣たちとの、年始の三献の三献の儀を無事に執り行うことができた。その後に宴会を行い、吉書を交わし、連歌・茶・能などを楽しむことができた。



 加えて喜ばしいことに、大和猿楽四座の内、父定頼が贔屓にしていた金春座を呼ぶことがかなった。父は、金春座を贔屓にするあまり金剛座との席次論争において公方様に働き掛けて金春座を上座に置いたのだ。その後、臍を曲げた金剛座に対して父は興福寺に命じて新能への金剛座の出席を拒否させた。生前の父の権勢と入れ込み具合を物語るものである。



 良い事もあれば反対に悪い事もある。それは跡取りの忠定の事である。連歌や茶に関しては文化人達との交流を通じて人並みの水準となったが、能に関してはどうも興味がないのか身が入らない様子だ。



 贔屓目抜きに考えても政務においてはこのまま行けば父定頼を越える逸材であるのに勿体ない。武芸においても弓馬の道に真摯に向き合い鍛錬を重ねている。戦が多少下手であってもそれは家臣達の事を良く聞けるのだから大敗するような事はないだろう。後は文化の面で何とかなれば言うことは無いのだが。



 「定持よ、もう少し忠定に文芸に力を入れさせる方法は無いものか。」



 「若様の文芸嫌いは相当なものですからな。和歌ですら、千代女殿からせがまれてやっと腰を動かしたぐらいですので。」



 「なんと。忠定は、女子にねだられると弱いか。」



 この言葉に、定持は考え込む。互いに酒を何杯も呑んでいるので頭が回らぬのだ。されど酒が入っているからこそ、このような話ができるのだが。



 「御屋形様、あれは何度も使える手ではないでしょう。それに千代女殿の心を射抜いたの若様の和歌であったから腰を上げたのであって、何か背景がなければ若様は動かないでしょうな。」




 「父定頼は中々の能筆家であったが、その才は私には受け継がれなかった。烏滸がましいことではあるが代わりに武術の才に恵まれた。良き師にも出会うことが出来た。我が息子なら思ったが、中々文武両道は難しいものだ。」




 「御館様、あまり高い理想をお求められてはなりません。主の足りぬ所を我ら家臣がお支えしていく為にいるのであります。光武帝のような人物には中々なれませぬ故。」



 「忠定も、お前達の様な優秀な家臣達に支えられればより家を発展させてくれるだろう。」



 大分の酔いが回ってしまったのか、頭が回らなくなっている。定持も船を漕いでいる。他の者もその多くが床で眠っている。わたしもそろそろ奥に引っ込むとしよう。




  伊賀上野城 六角忠定


 父義賢と共に正月を過ごした後、伊賀上野城にもどった。自らが初めて作った城なのでかなり思い入れがある。堂々たる天守閣等がその代表である。その様な城に今は、私が取り立てた直臣衆、親族衆が集まっている。



 何かと小煩い重臣達が多くいる観音寺城よりも、気心知れた者達の多いこの伊賀上野城の方が意心地が良いのは当然だろう。



 近頃、父義賢は何かにつけて隠居を口にするようになった。曰く、観音寺城を退出して京極家に養子に入る次男と共に今浜城へ移り住み北近江に睨みを効かせたいとのことだ。私としても経験豊富な父が北近江を抑えてくれるのは非常に嬉しいのだが、こちらとしてはまだまだ遊び足りない年頃だ。必死に抵抗しているが後、数年が限度だろう。



 「新年が始まったばかりなのに、なんでそう辛気臭い顔ができるか。俺には全く分からないね。」



 「千代様、畏れ多いことを。もう少しおしとやかに振舞って貰わなければ後からお父上に怒られますぞ。」



 「俺が可愛くて可愛くて仕方がない、親父が何処まで怒れるかな。そんな事より平八、こいつの辛気臭い顔を何とかしろ。刀が錆びちまうだろ。」



 「千代様!」



 「こいつがいっつもこんな顔をしてるのを見ると大名の家に産まれなくて本当に良かった。俺なら一瞬で尼寺行きさ。」



 従者平八はもう泣かんばかりの勢いで我が儘な姫様を宥めるが、お姫様はそんな事はお構い無しに次から次へと自分の思った事を口に出し続ける。



 「全く平八の言う通りだ。誠に素晴らしい物を持ってきてやったのにな。」



 そう言って、桐箱の中身から刃渡り3尺程の太刀を取り出す。鞘から抜くと、直刀から刀身に鎬と反りのある形の日本刀へ変化する時期の古い時代に作られた一品である事がわかる。



 「平八、この太刀はとある貴族から多額の金子を払って手に入れた逸品だ。しかもかの高名な本阿弥光心殿に確りと鑑定してもらい、本物との証明を頂いた。何だと思う。」



 そう言って太刀を渡そうとすると、辛抱たまらんとばかりに横から伸びた手が太刀を回収していった。



 「刀身に三日月形のうちのけが沢山.........」




 千代の顔が青くなったり赤くなったりを繰り返す。刀剣を収集している彼女のことだ。噂には聞いた事があるだろう。その噂の逸品が当代一流の鑑定人のお墨付きを得た状態で目の前にある。顔の色が目まぐるしく変わるのが普通の反応だろう。想像よりも大きな反応に笑いが止まらない。



 「三条宗近の三日月.........か?」



 「正解。日野家より買い取ってきた。これも千代が喜ぶと思って買ってきた。」



 「気持ちは、有難いが.........流石にこの品は受け取れない。女の手には余る品だ。買い付けたお前が佩用した方が絶対にいい。」



 何時になく真剣な顔で、太刀は返された。


 「意外な反応だ。もっと泣き叫んで喜ぶかと思っていたが。」



 「これがもう少し格の下がったものなら泣いて喜んださ。だけど、業物の中の業物を女の俺が持ってたら罰が当たっちまう気がする。それにお前の泊付にはこれ以上ない品物じゃないか。一応.........旦那のお前を立てて置かないと親父からまた.........言われるから.........」



 顔を赤らめてこう言われると今度はこっちが辛抱たまらなくなって来る。ふと部屋を見渡すと平八はいつの間にか居なくなっており代わりに布団が敷かれ、水差しが置いてあった。もうすぐ正室を迎える身ではあるが、据え膳は食わないと恥だからと言い聞かせるのであった。

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最後に濡れ場! そういや一応夫婦でしたもんね…… 某銀河帝国の謎の伯爵「あの二人ちゃんと出来たのだろうか?」
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