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ここは小さな宿屋「青い空はキラキラ」
私はその受付で台帳を見て毎日恒例のため息をついていた。
「今日も一人しか来ませんでした…」
「一人来てくれただけでもよかったの!」
受付の裏から励ますように元気名声を出すのは幼なじみのエリシスだ。
「そうだよね、一人も来ない日ばっかりだものね!」
「名前はダサいけどお部屋も綺麗で値段もお手頃、かわいい看板娘もいるのー!
チョー美味しい料理があるのに何で来ないの!」
名前ダサいって…良い名前なのに…
「くす♪自分でかわいい看板娘だなんて」
料理担当の彼女が自分で言い切ってしまうのもすごいけれど、自分に自信なんて持てないからそう言えるから羨ましいなぁ
「何言ってるのー、うーのことなのー♪」
うーとは私の名前がうるりなので彼女には昔からそう呼ばれている。
真っ直ぐ言われて顔が熱くなってしまう。
「わ、私なんて全然なんです! エリシスの方がずっとかわいいよ…?」
頬が熱くて押さえていたらエリーにビシッと指を差された
「ほらかわいいの! 街で一番かわいいの!」
「・・・ぅぅぅ////」
・・・。
この宿屋は半年ちょっと前に親から引き継いだお店だ。
良くない話だが、昔からあまり客入りは芳しくなく、ギリギリになる前に泣く泣く逃げることとなってしまったのです。
そして、他の街に行くことを幼なじみの彼女に話した。すると次の日に彼女が朝早くからやってきて言い放った!
「仕事辞めたの! 言うこと聞いて、うーとやれば繁盛間違い無いの!」
すごい衝撃だった。私の親もいる中で彼女の案を取り入れたら繁盛すると言うのだ。 当然みんな苦笑いした、彼女がこういう性格なのは知っていたので笑って流されて、ショボンと帰っていく。
しかし、夜私は彼女の言葉が頭を離れなくてあの言葉が繰り返される
「(エリーはなんて言うつもりなんだろう)」
仕事も辞めたと言ってたなと思ってしまったらもう会いたくなって仕方なかった。
コソコソと宿屋を出た私は彼女の家へと行った、そしたら入口に灯りがついている。寝てるだろうと、無理だったら諦めて帰るつもりだった私は期待してトントンとソッと扉を叩くと向こう側から扉がドンッとぶつかる音がしてバタバタと開かれた。
「うー!待ってたの! 寝ちゃって驚いて頭痛いしちゃったけど待ってたのー!」
彼女は扉の前でずっと私が来るとずっとずっと待っていてくれたようで愛おしくなってギュッと抱き締めた。
「体冷たいよ!何で…」
「うーが来るから待ってたの!」
そんな確証ないし、行く予定も全くなかったのに…
「中で話そ? 宿屋の事聞かせて♪」
「ありがとなの!」
温かい飲み物も美味しく入れてくれた彼女の話を聞くことにした。
そんな彼女の提案はかなり無茶苦茶だったのだ!
「おじさんのご飯不味いの、作るの!
うーがあんまり出ないからダメなの!」
まず最初に語ったのは、宿屋にお客さんが来ない理由だ。 出している料理が美味しくなくて私が裏方ばかりをしているからだと言う。
「ご飯不味い?」
問い返したら驚かれた
「あれは無理なの… ご飯は作るの!」
そう感じなかったけどそうらしい。料理が上手なエリーが作ってくれるとのこと。
「私が出ないってどういうことかな?」
「うーが受付にいたらいっぱい来るの!」
お母さんじゃダメらしい、若い娘の方が人気出るって話はあるけど宿屋でそれは関係無い気がするけどなぁ。
「うーと二人で宿屋やるの楽しみなの♪」
彼女の中ではもう再開するのが確定らしい
「あれ、二人で?」
「そうなの!二人で頑張るの!」
「お父さんとお母さんは?」
「二人でやりたいの♪」
・・・。
なんてことを経て、予定通り両親は心配そうに出て行き、私だけは彼女に付き合うと残ったのである。蓄えのあるエリーのおかげで…。
結果は見事当たりで料理が美味しくなったと少ないながら前より来る人が出たのだ(たまにだけど多く来てくれる日もなくはない)。エリーは不思議がっていたけど妥当だと思っている。
「肉買った時に回復くすりが売ってる「なんでも屋」が出来たって聞いたの! 500ダナで何でもやるって言ってたの!」
切羽詰まったお店みたいだけど、エリーの話しぶりから悪く聞いた話ではないようだ
「宿屋を教えてもらうの!」
「・・・え?」
エリーが言うのは「青い空はキラキラ」の宣伝をそのお店に頼みたいである。
こうして次の早朝に行ってみることにしたのだった。
エリシスは待ちきれずに私を太陽も昇らぬ朝早くから起こしに来ては「行くの!」と誘っていた
開いてないよと二人で散歩しながらまだまだ早い時間にお店に行ったのだが、お店の前に女の子が立っていた。
「もう並んでいるの!」
「開くのでしょうか?」
あっと思ったらエリーはその子の所へ行ってしまうので追いかける
「いらっしゃいませ♪」
「お? うー、お客じゃなかったの!」
「え、エリーそんな大声で言わないで…」
とにかく恥ずかしかったがこの女の子は看板で見たこのお店「ミリーのなんでも屋さん」の子みたいでニコニコとエリーにも負けず劣らずの美少女だった
中に入れさせてもらうと初めてだから説明書を読むように勧められて私が目を通す。
ちょっとエリー…500ダナは一作業の場合だったよー… それでも、本当になんでも引き受けてくれるんだなぁって感じだ、家壁の色を変えるなんてもある!? 材料費だけで2000ダナはいっちゃうんじゃ?
「ちょっとエリー待ってね」
「の!」
受付で頼もうとするエリーを止めて訊いてみた
「あの…きょ、共有とはなんでしょうか?」
説明を受けてまさかぁ~なんて考えていたらエリーが無用心にもすぐに頼んでいた。
「いいの、楽しみなの♪」
向こうの女の子の確認にもワクワク前向きなエリーにしょーがないなぁ~って気持ちにさせられる
「共有」は意外と速く終わるようで二人がちょっと顔を合わせただけ。 女の子がこっちを見た?
「エリシスさんはうるりさんに「大大大大大大大大大だーーーい好きでこんなすごくすごくすごくすごくかわいいうーと一緒に暮らせて幸せ過ぎるの!!」 とのことですよ」
「え?え!」
何、急に!? この子に名前言ってないし本当に心を? エリーがすごく満足気にこっち見てる!恥ずかしいよぉ!
「ありがとなの! 嘘じゃないの分かってくれたの?」
「知ってたよ・・・エリーは素直で嘘は言わないから!」
ただただ恥ずかしく自分に自信がないだけだから否定してただけですよ!
「うーのこと大好きなのー♪」
「ぅー、私もエリー好きです…」
エリシスは立ち上がって私にしがみ付いてスリスリと愛情を態度で示していた。
こんな場所で恥ずかしい…。 でも、私の彼女に対する思いが大きく「好き」という感情に変化したのだった。
受付の対応してくれている女の子の視線を気にしつつもエリーが離れないので本題に、と思ったけど気付いてしまった
「あ、あの、今のにもお金かかります…よね?」
一作業500ダナ、共有したから250ダナ。これでエリーが依頼した「うるりにエリシスの思っていることを伝えて欲しい」を終えたことになる。本依頼は別口だ…半額意味ないよぉ…
「ウフフフフ♪ 魅せてくれてありがとう♪」
「キャ!?」「誰なの!」
いきなり来たのは・・・子供?
「私はそのミリーの自称恋人のレンよ♪」
エリーと二人で対応してくれていた娘と今来た子を見る。
「(この娘がお店の主人様でした!?)」「そうなの!」
エリシスは目を輝かした! 周囲で一度も見たことなどなかった女同士で恋人がいて自分もいいともう既に切り替えていた。
「ウフフ♪ 「青い空はキラキラ」の宣伝も一作業でやってあげるわ。ね、ミリー?」
「いいですよ♪」
な、なんだか分からないけど250ダナで引き受けてくれるみたい!
・・・あれ? この子には何も話してなくないですか?
「やったの!うーの恋人頑張るの!」
あぅ…分かってたけれどエリーはもうそのつもりだった…
・・・。
次の日からお部屋が足りないくらいにお客様が来て驚いてしまった。
「本当に細部まで綺麗で使いやすかったです!」や「聞いた通り飯が最高なんだな!」なんて聞いたことなかったような言葉をもらったり、中には「二人で末永く仲良くやりなよ」なんて優しく声をかけてくれる人もいたよ…。
一体どう宣伝したらこうも効果があるのだろうか? あのお店も開店したばかりで効果は大きくないはず…
「うー、うー! 部屋大きくしてもらうの!」
大きくは部屋数を増やすだ。これからは余裕も出来るだろうし可能ではありそうだけれど…
「人を雇わないと手が回らなくなっちゃうよ…」
受け入れ数が少ないからこそ二人でやれているけど正直、休みも作ってギリギリだ。
「なんでも屋に頼むの♪」
それはさすがに仕事の範囲外だろうと思いはするが大丈夫そうな気がするのはなんでだろう…
後日、増改築も500ダナで引き受けてくれて、人手の悩みも従業員として髪の長いあの娘の妹(と名乗る娘)が一日たったの250ダナの給金で毎日来てくれるようになる。 彼女は部屋全体を整えてくれたり塵一つ無く掃除や整頓をいつの間にか終わらせてくれたりと怖いくらい完璧である不思議な娘。
この何日かで数段も宿屋経営が良くなったのだった。