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目が覚めるとそこは豊かな森の中、その少女は一輪の大きな花をベッドに眠っていた。
「ベルエ」
目醒めた少女は直ぐに起き上がりにある女性の名前を呼んだ。
周囲を確認するが誰も無い。
「これがあいつの言ってた・・」
自分と彼女が繋がっているようなのを感じて自然と顔がニヤけてきて再び寝っ転がる、足をバタバタさせながらいざ!と彼女との繋がりを更に意識するようにゆっくりと巡らした。
「あら、まだいないのね?」
どうやら自分の方が先に生まれたらしい
「ベルエはミリーで・・。私はテュンレイ・・」
自分の力を確認しようとした少女は自分の中にあるマナを感じようと目を閉じると体の内に意識を集中させた!
「うーん…少ない! ベルエに教えてもらったアレやんなきゃいけないわね
あーもうっ!今日中には会いに行けないじゃないの!」
スゥーハァーと深呼吸しながら外気と自分と体内に気を集中させるとそこへと力を入れていく。
「あらっ!簡単ね?高位種様はこんな楽をしていたのね」
元々、どこにでも雑多に存在しているような名前無き者だったアルエは力を使う上で必要不可欠なマナのコントロールを制御出来るようになるまでにおよそ五年かけたという。初歩の初歩でそれであったので全くの手応え無いのに笑えてさえくるのだ。
自然や外気に含まれるマナを取り込みながら自分の持つマナを身体に一巡させてから放出させるのをひたすら繰り返していく。滅茶苦茶に集中力を高めないでも簡単に行えてしまうのが今までに無かった感覚で楽しくなってきた。
・・・。
次の日もその次の日もと同じことを一日中繰り返し続けて、なんと!五日間もぶっ通し行っていた。
「ウフフフフ♪ウフフ♪うへへへ・・・けほっ…いけないわ!はしたなかったわね」
途中で止めても問題ないほどには成長していたのだが現ミリーへの最大限のサポートを行うとなればまだまだ続けていかないといけない、自分を頼ってくれると考えたらいくらでも頑張れるのだ!
あの彼女が自分を頼ってくれることを想像しただけで気分は最高潮である。
だけれども一旦は終了する・・理由はミリーが即行動をモットーにしているので既に事を興しそうな行動をしていたから、と言うのは建前で早く逢いたいだけである。
「この森は良い所ね? どこかしら」
自分のお花を保護してお空へ木々を抜けながらスイーッと飛んで森を出ると絶句した! そこは海に囲まれていた小さな小さな島だったのだ!
「残念ね、ミリーと来たかったわ…」
心底残念だなと得意闇魔法の空間移動で繋がりを辿ってこの島にさよならしたのだった。
・・・。
「ミリーー!」
「きゃ!」
テュンレイが暗闇の中を抜けて出たそこはとある家の中だった。 看板の製作は終わり文字を書いていたミリーの目の前に現れた少女に驚いて可愛らしい声をあげる。
「もぉ、アルエ!びっくりしたでしょ?」
「ごめんなさいね、早く逢いたくて仕方なかったのよ♪
あとね、ミリー?私はテュンレイよ? アルエはもういないの、ね!ベルエ?」
「そうだったわね、テュンレイ♪」
わざとらしい会話のやり取りを楽しむ二人、お互い姿形も違うけれど結ばれている繋がりによって元の関係のままである。
自然と会話が止まると流れるように看板製作を一緒に再開させる。
「フフフ♪ミリーあなたどうかしら?」
突然始まる要領の無い質問だけどミリーには何を尋ねられているかは分かる、立ち上がるとテュンレイに向けて笑いかけた
「ふふ♪ 可愛いでしょ?」
「クスクス♪ ええ、最高に可愛いわミリー
でも、訊きたいこと違うの分かっているでしょ?」
「まぁね♪ この身体になっていつでも漲ってくる感じ! まだ四日目だけど凄い勢いで高まっているの、何でも出来る気がする」
「そう♪ だったら隠してないで私に魅せて欲しいわね♪」
ミリーからマナの力は一切感じられない。精霊となった彼女にそれはおかしいので意図的に消していることは一目瞭然である。
「だーめ、でもこの家で分かっているでしょ♪」
ミリーが家をつくってから中で先ず行ったことはマナを満たさせて循環させたこと、これほど精霊にとって快適な環境はない。
「私ミリーを連れてきたくなるような素敵な場所で生まれたけれどここはもっともっと素敵だわ♪ あなたが居るものね♪」
「ふふふ♪」「ウフフ♪」
凝って出来た看板に喜び合い、生まれた日からのお互いこれまでの経緯を話した。
「なんだか物々しいわね」
「仕方ないよ、でも予想通りだし、即逮捕なんても思ってたからよかったんだ」
「本当、人間って面倒くさいわね!」
「その面倒くさい僕に捕まって可哀想だね♪」
「意地悪ね」
「ふふ♪」「フフ♪」
テュンレイは一度は文句を言わないと気が済まないだろうとそれを考慮して今後の方針を決めた。
どこでも暮らせる二人に優しい彼から提案がされるのはすぐである。
・・・・・・・・・・。
時折激しい突風が吹き荒れる緑鮮やかな高原の中心部、魔物たちは異変を本能で感じて無意識にそこを避けるようになった。
そんな日が半年も続いていたある日、地から離れ宙に周囲のマナに干渉せずにマナが収束していった!
ゆっくり、ゆっくりとマナが人の形を形成していくと白い光が弾けたように色付き少女が誕生する!
そしてその少女はゆっくりと地面へと下降していきすやすやと眠っているようだった。
「(パチリ)」
少女は今に目覚めた。自分の状態を理解しようと首を横へと向けると周りとは違った生き生きと若々しい柔らかい芝生に横になっていることを確認する。
周囲との植物の生態の違いにこれは自分の影響だと確定する。
「とりあえず起きよ」
グイっと背筋を伸ばして辺りを確認したけれど全くの知らない場所であの人が言っていたことと大分違うなと思った。
「(アルエ・・・いや・・)テュンレイを感じる、すごい!」
相棒にして大親友の彼女も生まれ変わってきて既にどこかに存在していることが確認出来て一安心した。
「あ、マナが満ちてるのが自然とわかるんだ」
相棒に聞いてはいたが自分には持ち得ない感覚のせいで理解が出来なかったことが種族変わった今にして分かった。
自分の中にあるマナも確認してみようと意識を内に向けるとそれだけで適正やどれくらい保有していて、持ち得られる限界なのかが分かってしまった。
「・・覚えてた魔法は全て使えそう…」
マナ量や制御の難しさによって使えなかった魔法の種類も構成し行使出来ると確信する。
・・・でも
「とりあえずマナ量増やす。聖精霊も始めから何もかも出来たわけじゃないんだ」
とりあえず気持ちの良い場所にいるので体力作りも兼ねてランニングしながらマナの制御および向上の特訓をするのだった。
・・・。
「朝日が綺麗」
徹夜明けの朝、キラキラと光る緑に心靡かせながら休憩していた。
特訓をしてみて分かったことは前世の時より能力の伸びが圧倒的に高いということ。 初期基礎能力はかなり低く、体力も数メートルとちょっと走っただけで疲れてしまっていた、しかし、休憩挟んで特訓を二三度繰り返すと五倍くらいには大丈夫になっていた、繰り返していたら恐ろしい化け物の完成だよ。マナの方もあっという間にぐんぐん伸びていくのが種族柄、言葉通り目に見えて感じられるので楽しかった。
「まだ弱いけどそろそろ魔法を・・・の前に」
増えてきたマナで魔法の慣らしをしようとしたのだけどもその前にやりたいことがあった!
「何が出来るのかな♪ おー?そんなこと出来るの?」
殆どの生物種にはそれぞれの固有能力というものがあって、それは生まれつき分かるという。例えばミリーの前世のベルエ、爬人族だった彼女は固有能力を親から受け継いでいた。生まれ変わって産まれた瞬間には鱗部を硬質化させたり身体能力を飛躍的に上げる方法が分かったという。
そして今生の精霊の固有能力というのが驚きだった!
ミリーはマナを纏うと自分の意識を二つに割くイメージをした。 すると彼女の前に割いたマナが放出され形を形成していくともう一人のミリーが現れたのだ。
「・・・精霊、すごい」
マナ量はキッチリ半分、少し分け与えるつもりで同じことをしても分体はつくられない。故に半分になるならいくらでも人数を増やせるということである。
そしてこの分体、全員が本体でもあり自分の意思で動かせるし個別に意識を宿すことも可能、この辺は聖精霊特有の思考回路になるので理解されないだろうが全てが同時に見た聞いた五感を共有していていずれかに傾くこともないのだ。
もっともっと試したい気持ちを抑えて魔法のお試し練習に移っていった。
・・・。
「朝日が眩しい」
徹夜明けの朝、とても充実している気分でそろそろ活動しようかと行動を開始する
今もこちらに来ていない彼女のことだから自分と同じようにひたすらに自分を磨いている姿が容易に浮かんだ、これで動くだろう。
素早く高原を下っていくと魔物達が現れ始めてスピードを速める。
「やば、ここ強い場所」
魔物の強さに危機を感じたわけではない、他の者の仕事を奪ってしまうことになるのが嫌で急いで通り抜けたのだ。
整備された道が見えた!
道伝いに歩いて進んで行くと馬車が走っていたので姿を隠すと追い越して道の脇へ、自然に歩いてきた感を演出する
「お、何だ!? 一人でどうしたんだ?嬢ちゃんや、危ないぞ」
馬車を操舵していた人が止めて話し掛けてくる
「・・・(ビクッ)あ、魔物に…襲われて…街へ…」
何故か身なりは綺麗だが震えながら話す少女に「あぁ…」と納得し気の毒に思った
「そうか…大変だったね… これからメリメレイルへ行くんだ、嬢ちゃんもそうだろう? 乗ってきなよ」
優しい人だと思った、ついでに街の名前を聞けたので満足である
「いえ…大丈夫です…これでも私…強いので
ありがとうございます、お兄さん♪」
「お、お兄さんか!? でもな…」
明らかに中年くらいの人に向けて「お兄さん」と呼んだせいか動揺しているが悪い気はしてないみたいだ
「頑張りますね♪ またお会いしましょう、バイバイ♪」
「え、ちょっと!」
馬車が動き出せない内に走って行ってしまう少女を見送るしか出来ない彼だった。
・・・。
メリメレイル、場所は知っていたし精霊信仰していたようなのも聞いたこともある。
さて、街を囲うようにある壁の前を見て誰もいないことにちょっと驚いた。入り口が立派になっているのはあり得るとして見張り番までいるし治安が良いのかと予定していた街での浮浪者暮らしに不安を抱く。
しかし、初志貫徹! 無理ならテュンレイと街から離れた場所で暮らせばいいだけ、彼女も文句は無いだろう。
虐げられたベルエ時代では一切お金は持たずに山に籠もってひたすら魔法の研究と習得をしていたりだった、生活面は全てアルエ(テュンレイ)がお世話も含めてやってくれていた。
・。
・・。
・・・とりあえずさっき思い付いた今後の準備はする。
暗くなってきた頃に門にいた人が来たけど立ち退きかなぁっと考えていた。
「お風呂入りましょうよ♪」
「どっちでもいいよ、お風呂スペースだけは広くとっているから入るならお湯入れちゃうよ」
お風呂好きの彼女のためにお風呂場は凝った造りになっていた
「さすがミリーね、ありがと♪」
お風呂から出たら二人は頂いた力の「共有」の検証も兼ねてその力を通してお互いの生まれてからの出来事を知る。
「くふ♪二人で修行ばかりね」
「そうだね」
ミリーの温まって上気した微笑みにドキッとしながら街の前に住むのは難しいかと思案する
「なんでも屋ねぇ、需要無さそうね」
「まぁね、でもなんにも必要無いし気ままに出来る仕事だろう?」
「そうね♪ ミリーのためならなんでもやってあげるわよ?」
「嫌なことは拒絶していいから」
「ええ、本を作っちゃうからこっちは任せて」
「ありがと♪ 後で闇精霊様の固有能力も見せてね」
「もちろんよ、聖精霊様」
・・・。
役人さんがの助力で住む場所もお金もなんとかなりそうだ。
「ミリー、何であの人の前で色々と変えて見せたの?」
ダレボレの前で様々なキャラになっていたのが気になった
「フッフン♪分からないようね?」
高らかに腰に手をあてたミリーにクスクスと笑う
「ええ、分からないわ♪ 教えて下さらない?」
「いいでしょう! それはね・・・特に無いわ」
溜めて出た言葉にやっぱりと笑った。せいぜい彼は信用出来るから普通の反応を確認したかったといったところだろう
「ウフフ♪ 練習みたいなものね♪」
「それよ!」
二人で笑い合っていたのであった。