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ぼくはクリエンス17歳のエルフなんだぁ!
今、ぼくが目指す場所は人間の街でぼくの腕前がどこまで通用するのか試してみようと勝手に家出してきた。 腕試しという意味もあるけど里を抜けてきた理由は他にもあってぼくは女顔と呼ばれていて声も澄んでいるから男にモテて女には無視される。男にモテたいとか望んでいない、楽しく話す女友が欲しい!「人間ならもしかして」なんて考えて出てきた。
エルフはかの王のように長命種であり。20歳くらいまでは赤ん坊に等しいと大人には思われる。
外見的特徴は人間と変わらず人間から見て整った顔立ちをしているということだけである。
そして彼が侵した事だが、里の「外」へ出る事は禁忌とされ、それを破りし者は「存在しなかった者」として扱われてその名を口にするのもいけないのであった。
・・・。
ゆっくり歩いていると何やら声が複数聞こえてきて身構える。ここは高原で僅かな平丘の高低差を利用して魔法で気配を薄くし潜んだ。 大きい人間一人と小さな人間七人がいる。
「うわぁ!すげぇ!お前、もう次に進むのか!」
「う、うん!」
無意識にマナを使いこなしていた男の子が課題だった体力が少し付いてきたので次はマナを自覚させる訓練へと移行した。
親が来た子も酒場の親子も遅れて参加している。
どうやらマナを使う練習をしているのだと観察して分かった。 人間はマナも解らぬ愚か者だと聞いていた彼は興味を惹かれ声を掛けてみようかと立ち上がる。
「ちょっと止めて下さい!」
「「「「「「はい!」」」」」」
その瞬間のこと! 小さな女の人間の一言で動いていた他の人間も止まり指示を待つ。 急な展開に何かあったのかと周りを見るが何もなかった。
「???」
自分が行動したことで起こったとは思わずに慎重に歩き出そうと一歩踏み出した
「こんにちは♪」
「!?」
さっきまで向こうで指示していた女が目の前でにこやかに挨拶している
「な、なんで?あっちにいたのに?」
「こんにちは♪」
敵意は感じられないし近くで見ると見慣れているぼくでさえ見惚れるかわいさだった。
「こんにちは♪」
「・・・あ、こんにちは!!」
挨拶を求められていると気付いて頭を下げたが大袈裟になってしまい恥ずかしかった
「こんな場所でどうしました?」
「…あ…に、にん・・・どこか街に行きたくて」
「人間」と言うのは駄目だと咄嗟に隠す
「そうですか♪ どうぞこちらに」
言われるがままに付いていくしかない。気配消していたぼくに気付かれないくらい精巧にマナを使って近くまで来た強者、従うしかない。
「(一人増えてるよ!?)」
指示待ちしてた人間は警戒心も無く自己紹介してきたので驚いた。里でやったら紛れ込んだ曲者かと疑われる行動だ、安全そうだからぼくもしたけど知らない地は怖いなぁ。
「クリエンスはこっちに来てね?」
このレンちゃんと名乗った小さい女の人間からは微かだけど力を感じる、ミリーからは何も感じなかった・・わからない。
なぜこんな場所にあるか解らない扉を通るとそこは心地良い建物内の一室で驚いてしまう。
「クス♪ ここは「ミリーのなんでも屋さん」の一部屋よ。 アナタは何かしら?」
瞬間的に尋問されるために閉じ込められたのだと悟り、せめてもの抵抗と鞄から愛用の槌を出した。
優しい人間もいるが非道な人間が多いとも聞いている、ぼくはあんまり戦う力が無くて逃げるばかりだから力のある人間に敵うわけがない
「まぁまぁ♪ 落ち着いて欲しいわ。アナタは人間でないのかしら?」
「え…、ぼくがエルフって分かっていたんじゃないんですね… あっ…」
自爆した、危ない目に遭った経験が無いため自分でバラしてしまった!
「アギレディウスと同じなのね」
その時出た名前にハッとなる。アギレディウスはエルフの中で最も忌むべき者としての象徴になっている名前だ。 なんでも、人間に手を貸し同胞を滅ぼそうとしたとかで脅しの決まり文句でも出てくる。
「そ、そうですよぉ!」
足が震えている、とその時冷静になって、気配を消してここを逃げようと決断した。
「アナタ、可愛いわね♪」
気配を消した瞬間、ぼくの手が彼女に取られる。逃げるのを察知されたようだ。
「エルフなら透明な瓶を作れるかしら?」
絶望したぼくへ問いかけられたのはぼくが里を抜け出した目的であった。 これは交渉材料になるのではとすぐに答える。
「はい!ぼくの腕が人間に通用するか確かめるのに来たんです!」
「クフッ♪ 通用するか・・ね? はいと答えた時点でもう上回っているわね♪」
「え?」
だって人間は器用で繊細で秀逸な作品を作るって…、里長の家にある昔貰ったって言う小さな透明の像は人間から…。 あれには遥か遠く及ばないよ?
「なんか五十年くらいで色々失われたみたいよ?」
かなりの衝撃だった! 憧れの人間の職人に学べると帰れないを承知で出てきたのにその技術者はもういなかったなんて!
「私もこの街しか知らないけれど、役人の話によれば全体がそうね」
「そんな… もう…ぼく…帰る場所も無いのに…」
「そんなアナタ、ここで住み込みで働いてくれないかしら?」
え? 全くアテが無いから有難い話ではあるけど…
「人間のことあまり知らないから迷惑かけると思うけどぉ…」
「構わないわ、小瓶を作って欲しいの」
もう内容に入ってる!
「ぼく男ですよ?」
「アナタは可愛いって言われたくはないのかしら?」
「そうじゃなくて、女と男が一緒に住むのって・・・番に…なるってことじゃないですか…?」
親子でないなら、そこに歳は関係無く一緒に暮らせばそれは番だ! あわわ、この人間と…
「アナタは獣系の種族の考え方を持っているのね? 人間の法では一緒に住むだけで結婚した事にはならないから大丈夫よ」
獣系種族と一緒にされるのは不快だけど人間の場合はそうならないらしい。安心したような残念だったような…。やっぱり知らないことばっかりだなぁ…。
「いいのですかぁ…?」
「それ可愛いわねぇ♪」
…答えてくれない。けど、ぼく「可愛い」って言われてかなり嬉しいかも! あんなに里の男に言われて嫌だった言葉がまるで違う言葉に聞こえる
厄介になってよさそうで住処の心配が無くなったなぁ!
・・・・あ!!
「ごめん…テラジウム石無いと作れない、それに火釜無いよね…?」
人間の職人にお世話になれたらなんて思ってたから職人で無いこのお店に作れる火釜あるわけない
「フフ♪今ミリーから作っていいって言われたの」
「へ?」
「私も基本魔法くらい簡単に操れるようになったのよ♪」
まずは得意魔法で部屋を増やしにかかる。大きな音も鳴るがそれは空間へと取り込まれて静かだ。
次は強化、前は火魔法や土魔法は苦手だったが高位精霊になったことで今では自在に使えるので楽勝だ。
「ひえ!?」
流れでる強さが籠もった濃密なマナに軽い悲鳴が出た。
「熱耐性は・・・ミリーありがとう♪」
「??」
さっきからよくミリーの名が出るけどいないよね?
ミリーはこの場にいないがテュンレイの五感を頼りにマナ適正量、必要構築、構想、やり方を瞬時に教えていた。
「ここからひがま?ってのを作りたいのだけど絵とか書けるかしら?」
絵…人間と同じか分からないけど文字すら怪しいです…
「材料あれば作れるかしら?」
火釜を作るなんて考えたことないですぅ!
「む、無理かも」
「フゥ…「共有」するわね」
「きょ、共有ですかぁ?」
説明受けたらとんでもない力だった!
ぼ、ぼくの思っていることが全部知られちゃいますよぉ!? 里のことバレたら殺されるかも!?
「ねぇ、クリエンス♪」
「!!」
いつの間にか足払いされて転びそうになったらフワリとゆっくり景色が流れてポスッと座った彼女の膝の上に頭が乗っていた
「私たちは誰が何を思ってもそれこそ個性で悪いことでも変なことでもないと思っているの」
「私たち」というのは何度も出てきたミリーだろうとさすがのぼくでもわかった。
「え、エルフは外に里の情報が漏れたとわかったら原因は排除されちゃうんですぅ…」
「アラ♪ そんなの私たちしか知らないのだから平気よ♪」
「甘くみてはダメなんです…! どこで何をされているかわからないから…」
「そうね、すごいわね? 障害物は無いのにミリーの所まで付いて来られたのだから」
「へ?」
・・・。
クリエンスがミリーのなんでも屋さんへ移動した後
「大丈夫なのか?」
レリリは名前しか分からぬ奴に魔法を見られた事と子供たちの不用心を止められたのに止めなかった事に対してミリーへと尋ねた。
「あの子は大丈夫です
ふふふ♪ そちらより違うお客様が来られましたから」
ヒッソリ話して子供たちには聞かせない。やはり面倒事だったのかと嫌な予感が当たってしまったことに頭を痛める。
「…少しは手伝えるよ?」
「いえ、ありがとうございます♪ 大丈夫です、ここには近寄らせませんので♪」
ニコリと天使のような癒しの笑顔を見てるとこれからするであろう事を全く予想出来ない
『では、行って来ます♪』
「ぅえ?」
目の前にミリーが立っているのに更にその後ろから声が聞こえて耳が変になったのかと訝しむと目の前のミリーが人差し指を口元にシィーっとしていたのだ。
「テトニーちゃんはみんなと違うやり方をやってみるよ♪」
「はぁい♪」
「オレフ、お腹から移動してないですよ。もう一度通してみるから頑張って♪」
「ハイ!」
あたしと話してこちらをずっと見てた気がするけど、子供たちも一人一人しっかり見ているんだなと、あちらは彼女に任せて遅れている自分もがんばろうと思ったのだった。
・・・。
ミリーの分体の一人は肉眼では到底見るない平丘二つ先に立つ木の下で結界を施した。 怪しい影はそれに気付かないでどこか見回した後に黙々と紙に何か書いている。
『テュンレイ、お願いね』
『ハーイ♪ あーあ、アギレディウスは良かったのにエルフでは変わり者だったのね』
『そうだね、他の種族も消えちゃったのは寂しいけどエルフは昔からあの御方一人だったよね』
『そうね…良い話でなさそうだから可哀想。
さぁ曲者はどうしようかしら♪』
『その里を出る条件に「里に帰りたくなる」ようにするのがいいと思う』
『さすがミリーね♪ 後は任せて!アイツを帰らせてそうするわ♪』
ミリーは消えてテュンレイが入れ替わりでやってくると曲者はフラフラと無表情で帰って行ったのだった。
・・・。
彼女が「行ってくるわ」と出て行ってしまって数秒後、さっきマナを教えていたミリーがやってきていた。
「「共有」するけどいいのかな?」
「ひ、一ついいかな…?」
「いいよ♪」
この人間はぼくより年下っぽいけどお姉さんの感じで話しているからもしかしたら上なのかもしれない。|レリリ《あそこに居た人間の一人》はあからさまに大人だったと思うけど人間の事はわからないからなぁ……とりあえずやられるかもと怖いよぉ!
「愚かなこと訊くみたいだけどね? ミリーはレンちゃんと共有してたりするのぉ…?」
「うん、ずっとしてる状態だよ♪」
や、やっぱりだ…、ぼくとレンちゃんとの会話も知ってるってことかぁ…。 ずっとって知られちゃって嫌じゃないのかなぁ…?
「大丈夫だよ♪ クリエンス君と「共有」するのは火釜を作るための一瞬だから」
いつも誰でもやったりしないってことは信用出来そうだけどねぇ…
「いいよ! 火釜のことを考えていればいいんだよね?」
「うん、ありがとう♪」
・。
・・。
・・・。
「もういいよ、ありがとう♪」
本当に一瞬でいいと言われた!
考えまいとすると色々と思考してしまった気が…、でも彼女から流れてきたことは「ようこそ♪」と歓迎してくれた思いと里へ対処はしてくれてレンちゃんが追っかけに付いていってくれている最中だと報告だ。 この二人、会ったばかりなのにすごく良くしてくれている!
「マナを使うみたいだね!
レンちゃんの作ってくれたこのお部屋にマナを満たすよ♪」
作られたばかりで無かったマナが里で慣れ親しんだくらいに放出されていった。
ハッ!? ずっとこの家に来てから感じていた違和感がやっと分かった! あまりにもマナが濃かったんだ!
そして部屋の一角には立派な火釜も作ってれるけど、普通の部屋に火釜が置かれた状態。
「これだと床とか煙とか…」
「床の汚れとか傷は保護してあるから大丈夫、換気はこの部屋を常に空気は聖浄されるから害が出ると消えるようにしたんだよ」
ン・・・? 伝説の聖魔法!? 里で語り継がれていてどうにか使えないかと長きに渡って使い手を出そうとしている魔法だよぉ!
もしかして人間って優秀なのでは…?
「後はテラジウム石だけど、レンちゃんも少ししか持ってないから採ってくるよ
クリエンス君はテラジウム石が採れる場所知ってる?」
「・・・はい、里の入口から見えるにん・・こっちの山の穴に…。 でもエルフも…」
そこには代々里長のまやかしの魔法が施されていて近寄れないようになっている。
「一緒に来てくれる?」
「へ? は、はい?」
「アイツ遅くて飽きてたのよ、よかったわ」
「わぁ!?」
突如目の前に現れたレンちゃんにのけぞった
「良い反応ね♪ 案内頼むわ」
手を掴まれると一瞬で高原に立っていて、怪しい男がボーッと目の前に居たのだ
「そう構えないで大丈夫よ♪」
落ち着けばさっき共有した時に教えてもらった追っ手だと分かって恥ずかしくなり顔をかいていた。
里までもうすぐの場所だったが場所を示せば速かったようでレンちゃんは気分良さそうに駆けて・・・地面からちょっと浮いてる!? か、浮遊?マナも上手く使えばここまで出来るのかな…?
隠蔽された入口が見えてくるがレンちゃんは視えないようで反応が無い・・と思っていたら突然気付いたように「こんな奥にね」なんて声を出した。
「・・・ミリー?」
もしかして共有によって聖魔法を使えていたミリーならすぐに判るなと思わず呟いてしまった
「え? エエ、そうよ」
肯定してくれて安心、本当にぼくに思うところは無いんだなと再確認。
「じゃあ、ミリーを呼ぶ前にやっちゃうわね♪」
追っ手の男がフラフラと入口に歩いていくとレンちゃんから黒い糸みたいのが入口の縁へと流れている
そこへ男が通り抜けた瞬間、視えない扉の表面を黒で塗り潰していた!
本来、出入りした瞬間に管理している者へ伝達されるようになっていて、それを他者が干渉しようものなら弾かれてその者に力が返される危険な行為である、それが起こらないのは彼女が一瞬で消し去るくらいに圧倒的な力で押し潰しているから。
数秒間でいつも通りの光景に戻って溜まった息を大きく吐き出していた…
「ん、来るわ」
「え?」
彼女がそう言ってすぐにゆっくりと半身を覗かした武装した男が慎重にこちら側を調べようとした。
しかし、その男は完全に出てくることもなく引っ込むとそれっきりだった。
「クフフフフッ♪ 馬鹿ね」
「なにが…?」
「入口を通過すると帰りたくなるようにしたのよ♪」
「そんなこと出来るの…?」
「私の得意分野よ」
怖い!? レンちゃんは暗い方に強いってことか
「そんなに怯えないでも使い方で面白いのよ?」
あ、あれ?
「ぼくってかわいい? え!?」
「エエ♪とっても可愛い」
勝手に口から出た言葉にカァっと顔が熱くなっていく
「嬉しかった言葉を貰えるような言葉を出ささしたの」
「え…あ…うぅ…」
あぁ、言われたかった言葉に大きな心当たりが!
「フフ♪ これミリーにやったら跳ね返されちゃって私がミリーに「好き」って言って欲しくて甘えまくっちゃったの」
呪いだろうと使い方次第で変わるなんて、何のものにでも言えることだ。 まぁ、闇精霊の彼女に自分の魔法なんて少ししか効果は無いが利用しない手はないのである!
「そろそろミリーに来てもらうわね」
「わ、わかった!」
ちゃんと心構えもさせてくれるし優しい人に拾われてよかったと思う。
あれ?里のみんなにぼくが出たことを忘れてもらったら帰れる?
・・・会ったばかりだけど強くて親切なレンちゃんとミリーに興味あるし、力にもなりたいから帰らない! 透明な瓶作り頑張るぞぉ!




