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34.ミューデリアという少女


 商品の補充が間に合わない。


 というわけで、リクウたちは再びアロナの森で素材の採取を行い、ルナリアのひたすら調合タイムが始まっていた。

 店は休業状態だ。

 なにせ並べるものがないのだ、開いていても意味がない。


 リクウとルリは散歩に出ていた。

 面白い店を見つけて昼食を楽しもうという腹である。

 ルナリアが必死に調合している時にそれはどうなのか、と思うかもしれないが、リクウができるのは邪魔くらいである。

 こうして外に出ているのは逆に貢献しているとさえ言える。


 最初から気付いていた。

 いつ話しかけてくるのかと思っていたがいつまでも話しかけては来ず、時計塔の広場まで来て、リクウは突然身を翻した。

 

 ミューデリアがいた。

 お嬢様なフリフリとした服装の金髪碧眼が固まっている。


「よおミューちゃん、また会ったな」


 あれから数日が経っていた。

 リクウ以外は気付いていないようであったが、ミューデリアはなぜかルナリアの店を監視していたのだ。

 そして、今日リクウが散歩に出るにあたって、尾行しきていたのだ。


 ミューデリアは黙って気まずそうにしている。


「誰じゃ? こやつは」

「ミューちゃんだよ」

「ミューちゃんって呼ぶな!!」


 ようやくミューデリアが動き出した。


「で、なんの用なの? 腹減ってるんだけど、俺」


 ミューデリアは言いにくそうに体をもじもじとさせている。


「ちょっと、アンタに、用があって」


 そう言うミューデリアの態度には先日のような高圧的なものがなかった。

 本当に困っているように見える。


「俺に用?」

「ちょっと話がしたいの、着いてきてくれない?」

「だとよ、ルリ、どうする?」

「それは主が決めることじゃろうが」

「うーん……」


 どうも面倒事の気配がする。


「大事な話なの! アタシにとっては!」

「じゃあ行くかぁ」

「まあそうすると思ったよ、主は」


 ミューデリアは時計塔広場の、図書館側の通りを行った。

 それからしばらくすると、商店のような場所にたどり着いた。

 三階建ての大きな店で、大型の商店といった様相だ。


「ここ、うちだから」


 とミューデリアは言う。


「それって、つまり、これも錬金術の店ってことか?」

「そうに決まってるじゃない。書いてあるでしょ」


 生憎とリクウに文字は読めない。が、置いてある品を見るとポーションが確認できた。

 それぞれの用途はわからないが、他にも薬品やら装飾具やらが所狭しと並んでいる。

 ポーションしか置いていないルナリアの店に比べると天と地の差と言えよう。

 こんな店が同じ街にあるなら、ルナリアの店などいずれ潰れてしまうのではとリクウは不安になってくる。


「三階まで来て、依頼受付用の応接間があるから」


 店に入り、階段を登っていく。

 二階には短剣や外套、それに軽鎧などが見受けられ、三階には巻物が並んでいた。


「こっち」


 とミューテリアに導かれて応接間へと入る。

 応接間の中は、造りのしっかりとした木製のテーブルと椅子があるだけだった。


 リクウは言われる前から椅子に座り、ルリも隣に座った。

 ミューデリアが対面に座る。


「で? まさかルナリアに悪さをすんなって話じゃないよな?」

「なにそれ」

「いや、そういう経験があってね」

「わかんないけど、アタシは頼み事があってアンタを呼んだの」

「話は聞くよ」


 ちょうどそこで応接間の扉が開いた。

 店員らしき女性が、暖かなお茶とクッキーを運んできてくれた。

 ルリが真っ先にクッキーに手をつけて口をほころばせていた。

 リクウは店員らしき女性に軽く会釈をした。

 

 ミューデリアは、女性が退室するまで待ってから話しだした。


「アンタには、ルナリアを説得して欲しいの」

「説得?」

「そう、ただアタシはあの子とちょっと喧嘩しちゃって…… アタシじゃ熱くなって上手く話せないし、あの子も本気で話を聞いてくれないから」

「なんの話だ?」

「値段の話よ。アンタは知らないかもしれないけど、この街には錬金術ギルドが存在しないの。だから商品の値段をつけるのも完全に自由なわけ。それで、あの子に安すぎる値段をつけるのをやめるように言ってもらいたいの」


 リクウは理解した。

 要するに、同じ錬金術店としての問題なのだろう。

 ルナリアの店の値段が安すぎると、ルナリアの店にある商品はこちらでは売れなくなる。

 その平衡を取るために交渉をしようという話なのだろう。


「それはルナリアの勝手だろ? あの子はみんなが買える値段でってのに誇りを持ってる。それがあの子の方針なら俺が口出しするところはないね」


 ミューデリアは軽く首を振ってから、身をかがめて椅子の下から何かを取り出した。

 

 紛うことなき酒瓶であった。

 読めはしないが、金の縁取りがされた文字から高級感が漂ってくる。


「アルテ・ナ・シストール。この地方の名酒よ。もし手伝ってくれるならお礼にはこれを考えているわ」


 なぜリクウが酒を好きなのか知っているのかがわからなかったが、それよりもリクウの頭には強い感情が渦巻いていた。

 リクウは廃人のような瞳で酒瓶を見つめて、


「ル、ルリ……」

「なんじゃ」

「さ、酒だよ……」

「なんで報告するんじゃ。妾も隣で見ている故わざわざ言われんでもわかるわ」

「で、でも、酒だよ……?」

「ちょっと、アンタ大丈夫?」


 リクウは首を振って正気を取り戻した。


「その酒、とりあえず下に隠してくれ」

「わ、わかったわ」


 ミューデリアが酒を隠した。


「で? どういうことか説明してくれ。相手の言い分をちゃんと聞かずには断れないからな」

「主はさっき口出ししないみたいな事を言っとらんかったか?」

「ルリよ、生きていく上では柔軟性ってやつが大事なんだ。どんな場面でも現状をしっかり把握して臨機応変に動く必要がある」

「生臭坊主が言っても説得力がないのぅ……」


 ルリはため息をついて茶を啜っている。


「いいかしら?」


 ミューデリアが遠慮気味にたずねてくる。


「ああ、構わんぞ話を聞こう」

「じゃあ、できるだけわかりやすく話わね」


 意外なことに、ミューデリアの話は筋が通っていて、リクウにも納得できるものであった。


「話はわかった。俺がルナリアにちゃんと伝えよう。ただ、ひとつ条件がある」

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