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27.アルテシオンの錬金術店


 アルテシオンには、二つの錬金術店がある。

 一般市民の認識からすると「すごい方」と「ちっちゃい方」である。


 ルナリアはそのちっちゃい方の店主である。

 アルテシオン魔導学院を卒業し、卒業したと同時に母に逃げられ、いきなり店を任されることになった。

 歳は十八。好物はりんご。元気が取り柄の女の子だ。


 ところが、その元気も今はしぼみかけている。


「ごめんね、ルナリアちゃん。今からじゃ緊急で出しても冒険者は捕まらないと思うよ。それに緊急だとお金も余分にかかるしね」

「はあ、そうですか、わかりました」


 いきなり店を押し付けられる形になったとはいえ、ルナリアも錬金術師だ。

 店の体裁を保つくらいのことはできる。

 それも、素材があればだが。


 要するに素材がないのだ。

 だから錬金術で何かを作ることができない。

 補充がされなければ、店に商品は並ばない。


 というわけで、ルナリアは採取に出かけたいわけだ。

 街で買うという手もないわけではないが、そんなことをしてルナリアの思う価格で売りにだしたらだいたい大赤字になる。

 採取は一部の素材を除いて自前で揃えるに限る。


 そうなると採取が最適なわけであるが、採取には護衛が必要だ。

 ルナリアとて魔導学院の卒業生、最低限の護身はできるにしても危険には違いない。

 それに狩猟まで視野に入れると、やはり人出は必要だ。


 そういった人を頼むのは、当然冒険者ギルドとなる。


 ルナリアは冒険者を雇って護衛を頼もうと思ったのだが、昼も近い時間となると、当日に依頼を受けてくれる冒険者などいないらしい。


――――どうしよう、お店から商品がなくなっちゃう……


 ルナリアは首を振って、両手で頬を叩いて気合を入れる。


――――だめだめ、落ち込んでちゃなにも始まらないんだから!


 こうなれば、直接依頼をもちかけるしかない。

 

 昼近くの冒険者ギルドでも、一定数の冒険者はいる。

 その中から良さそうな人を見繕って直接交渉をすればいい。

 金銭での交渉が難しければ治療薬ポーションなどの錬成品を報酬に加えれば依頼を受けてくれる人もいるかもしれない。


 ルナリアは早速周囲を窺う。


 酒場の方には比較的人がいた。

 昼時だから食事をしているものが多いのかもしれない。


 受付周辺はといえば、掲示板を眺めている若い二人組の冒険者がいた。

 男女のペアで、依頼書に指をさしては何やら相談している。

 彼らに頼むというのはどうだろうか。近場の森なので危険は少ないと思うが、ルナリアも採取は母親に連れられていったことしかない初心者である。

 できればもっと経験豊富な相手に頼みたいところだ。


「ォホン!!」


 大きな咳払いが聞こえた。

 ルナリアが音の発生源に目を向けると、


 なんかすごいのがいた。


 ピカピカのハゲ頭がまず目に入る。

 次に黄土色をした民族衣装らしき変わった服装。

 それらのインパクトが強すぎて、顔を見るのが一番最後になるというおかしな事態が起きていた。


 男の顔は、髪型――髪がないのでそういっていいかわからないが――を勘定に入れなければ比較的ハンサムに見えた。

 細い眉毛に黒い瞳、低い鼻に薄いオレンジ色の肌。

 変わった衣装といい、本当に異人なのかもしれない。


 そこまではいいのだが、その男はあきらかにルナリアを意識しながら、冒険者証をチラチラと見せていた。

 それも、銅級の冒険者証を。

 銅級といえば冒険者の最底辺というか、なったばかりの初心者を意味している。

 細かい規定は忘れたが、銅級の冒険者は依頼をこなした経験がいくつかあるだけで青銅級に上がれるのだ。

 つまり、この人は完全な初心者を意味しているわけだ。


 それが、こう、どうしてこんなに誇らしそうなんだろうとルナリアは逆に怖くなってくる。

 チラチラと冒険者証をルナリアに見えるようにしながら、どこか誇らしげな顔をしている。

 精霊銀ミスリルの冒険者証でもここまで誇らしそうにできるかはかなり怪しい。

 ある意味で大物なのかもしれないが、少なくともルナリアはあまり関わりたいとは思わなかった。


 ルナリアからわざと視線をそらしながらも強烈に意識したその姿が「どうだ、俺に任せてみないか?」と言っているようであったが、ルナリアは無視した。

 意図がわからない。

 なにかルナリアを騙すつもりではないのか、もしかしたら怪しい宗教にでも勧誘されるのではと思ってしまう。

 触らぬ神に祟りなしだ。


 ルナリアは酒場側に移動して、そこにいる誰かに話かけようか考えていると、


「のう、主よ」


 声がしたのに誰もいない。

 ルナリアがあたりを見回すと、


「こっちじゃこっち、下じゃ!」


 視線を下げると、声の主が視界に入った。


 小さな女の子だった。しかもめちゃくちゃにかわいい。

 歳の頃は八歳くらいだろうか。なにもかもが小さい。

 黒い綺麗な黒髪に翡翠色の瞳。顔は怖いくらいに整っていて、絵画のモデルにすれば傑作が創れそうな気がする。


「かわいーーーー!!」


 ルナリアはついついそう言ってしまった。

 それからハッとして口を抑えたが、幼女は満足そうに胸を張っていた。


「そうじゃろうそうじゃろう。妾はかわいいじゃろう。主はなかなか見込みがある!」


 幼女はゴキゲンだ。


「っとそうじゃ、主は護衛をしてくれる冒険者を探しているのであろう?」

「どうしてそれを?」

「さっきの受付での話を聞いておった」

「そうなの、すぐにでも素材の採取に行きたいんだけど、今の時間からだと依頼は出せなくって」

「妾に心当たりがあるぞ!」

「ほんと?」

「ついて参れ」


 と幼女はルナリアの手を取って歩き出した。

 手がちっちゃい。ルナリアはそのことに不思議な感動を覚えた。


 そこで、ルナリアはようやく気がついた。

 顔のパーツが良すぎて、そこにばかり目がいっていた。

 

 幼女は、異国風の服を着ていた。


 幼女は迷わずに歩く。

 その先には、ルナリアの思った通り、さきほどのハゲ頭がいた。


「話は聞かせてもらった。俺が手伝ってやろう」


 銅級の男が立ち上がった。


「俺はリクウ。七光宗が光岳寺の武僧だ。腕にはそれなりの自信があるぜ」

 

 リクウと名乗った男は杖を地面につき、決めポーズらしき格好をしている。


 ルナリアは予想外の事態に頭がついていかない。


「シチコウシュウ? コウガクジ?」

「それはこの男の宗教じゃ」


 宗教、その言葉がルナリアの頭に浸透していく。

 ルナリアは思わず叫んだ。


「やっぱり怪しい宗教じゃないですか!!!!」

 

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