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17.湖へ


 癒やし手のリィスか、エルフのカーミラか。

 選択肢は二人だけだった。

 

 何をかといえば、湖に誘うメンバーの話である。


 リクウとルリはこれからピピンとリックに案内されて湖に遊びに行くのだ。

 そうなるとリクウには不満がある。


 女性がいない。


 ルリも一応は女性なのかもしれないが、こんなちんちくりんはリクウの基準で言う女性には含まれない。

 もっとこう、ばいんとしていて欲しいというのがリクウの心情であった。


 そういったわけで、リクウはギルドで見かけたリィスに声をかけた。


「よう、センセ」

「リクウさんにルリちゃん、こんにちは」

「センセって明日空いてたりしないか?」

「どうしたんです?」

「いや、東の湖に行こうって話があってね」

「湖……何をしに行くんですか?」

「そりゃあ遊びに」


 リィスが目を瞬いてから、


「あ、あそびに、ですか……?」

「リクウは助平ゆえ、女人がおらんとつまらんと言いおる」

「おま、ばっか……!」

「そう言うてたろうが」

「本人の前で……」


 リィスが不審そうにリクウを見ていた。


「いやあ最近暑いくなってきてるし、ちょっくら気分転換でもどうかなってさ」

「うーん……」


 そこに、一人の男が現れた。

 軽薄そうな長髪で、歳はリクウより少し上か。

 冒険者にしてはあらくれよりも紳士的といった顔立ちで、左目の下にある涙ぼくろが目立っていた。


「あれ、リィスちゃん、どうしたの?」

「あ、モランさん」

「もしかしてそいつがマトーニャから来たガイジンくんかな?」

「ええ、リクウさんです。リクウさん、こちらはモランさん。鷹の爪というパーティのリーダーで、金級冒険者です。私もお世話になっています」

「そいつはどうも」

「いったいなにを相談してたのかな?」

「えーと、リクウさんから明日遊びに行かないかってお誘いを受けてて」


 モランはそこで大仰な身振りをして、


「あー、すまなかったなリクウくん。リィスちゃんは明日うちらのパーティと出かける予定があってね。申し訳ないけど行けないんだ」

「そうなのか?」


 リクウはリィスに尋ねた。


「そ、そうでした。忘れてました。すいません」

「そうか、なら仕方ないか」

「すいません、また機会があったら誘ってください」


 それだけ言って、リィスとモランは去っていった。

 ふたりが去ると、後ろで見ていたピピンとリックが近づいてくる。


「だから言ったじゃん」


 とリック。


「クッソ、いけると思ったんだが」


 とリクウはふたりにそれぞれ銀貨を投げた。


「まいど」

「ありがとうございます」


 賭けていたのだ。

 二人はリィスに断られる方に賭けていた。

 掛け率は三対一で、リクウが勝てれば銀貨六枚になるはずだったのだが、そう上手くはいかなかった。

 あるいはあのモランとかいう男がいなければゴリ押せたかもしれないのに。


「それじゃ、明日の朝ギルド前に集合でお願いしますね」

「ああ」


 帰り道、ルリが突然リクウの尻をぺちんと叩いた。


「そんなにしょげかえるな。妾がいるではないか」

「だってお前おっぱいないじゃん」

「失礼な!!」


 尻をペチペチ叩くルリを無視してリクウは歩く。

 こうしてほぼ男だけの湖行きが確定した。


***


 翌日は、快晴で、気温も高く、湖に遊びに行くのには最適だった。

 季節は春から夏へと移り変わりつつある。


 東の湖は、正式名称をノワール湖という。

 ノワール湖はヴェローズの北東に位置する湖で、歩きでも数時間で行ける距離にある。

 危険な生物のいない平和な湖で、ヴェローズの市民にも馴染みのある場所だ。

 ノワール湖という名前があり、正確にはヴェローズの北東に位置しているのに、なぜか昔からヴェローズの市民には東の湖、と呼ばれている。


 湖の近くは森になっているが道は整備されていて歩きやすい。

 ルリを先頭に、四人は軽快な足取りで湖への道を歩いていた。


「あの……ちょっとお尋ねしたいんですが……」


 ピピンが遠慮がちにリクウに言った。


「なんだ?」

「ルリさんってその、人間ではないですよね?」

「たぶんな」

「もしかして魔族とかそういう?」

「いやぁー違うんじゃないかな」


 ルリが振り返り、


「なんじゃ? 妾の話か?」

「ピピンがお前が何者なのか知りたいんだとよ」


 ルリは花開くような笑みで、


「ひみーつじゃ!」


 それだけ言って正面に向き直り、ずんずんと歩いていく。


「だそうだ」


 しばらくは話さずに歩いた。

 澄んだ風に木々の葉が揺れる音。

 緑の香りに土の香り。

 照りつける太陽は温かいよりも暑いよりで、リクウの坊主頭には薄っすらと汗が浮かんでいた。


「その、リクウさんは前に取り憑かれてる、みたいなこと言ってましたよね?」

「ああ、たぶんな」

「いいんですか?」

「なにが?」

「いえ、そのなんというか……」


 はっきりしないが、ピピンの言わんとすることはなんとなくわかった。


「別にいいんじゃねーの。旅の道連れがいるのはいいことだし、今ん所はまあ面白おかしく過ごせてるよ」

「そんなもんですか」

「そんなもんだよ」


 またしばらく歩いてから、


「あの、ちょっと気になったんだけどよ」


 今度はリックだ。


「その……娼館とか行きたい時ってどうするんだ?」

「あん?」

「なんかよ、取り憑かれてるとあんま離れられないって話なんだろ?」

「いや、そこそこの距離は離れられると思うし、そういう時は……」

「なんじゃ、助平な話か?」


 ルリがいつの間にかふわふわと浮いてリクウたちを覗き込んでいた。

 リクウはものすごく真面目な顔をして言う。


「なあルリ」

「なんじゃ?」

「俺が娼館に遊びに行ったらどうする?」

「邪魔をするかのぉ」

「どうしてそういうことをするんだ?」

「面白そうじゃから」


 リクウはやたらめったら杖を振り回して叫ぶ。


「うおおおおおおおおお悪霊退散!!!! 悪霊退散!!!!」

「にゃははははははは」


 ルリは大笑いしながら杖を躱して飛び回る。

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