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絶対のんびり至上主義  作者: sakura
地底世界編
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86話.3人の先生達

小垣さん達に遠藤さんの授業内容を確認したところ、思いもよらないことを言われた。


「遠藤先生の授業は何ていうか、中島さんの授業みたいです。」


どの辺が?

私にあんな楽しく勉強させる能力はないんだけど。


「不思議そうにしてる意味がちょっとわからないんですけど」


山北さんも同意のようだ。


「中島さんは相手の興味を上手く引いて、根本的な部分を教えようとしますよね」


山北さんの言葉に小垣さんもうんうんと頷いている。


「いえ、私にそんな力はないですけど」


「「はぁ~」」


ため息をつかれた。


「理科でも体育でも面白いように生徒達の興味を引いて、運動が苦手な生徒までコツを覚えて動きが良くなってましたよ。」


「中島先生にとっての理想の先生かもしれないですね。遠藤先生は」


まぁ、私が理想とする教育者像に一番近いのは確かに遠藤先生かもしれない。


「それで、中島さんはどこに行ってたんですか?」


「それが・・・」


私が藤原先生との一件を話す。

情報共有は必要だと思うし、休ませるいい方法を思いつかなかったから、協力もしてほしいという思いもあった。


「藤原先生の休息ですか。」


小垣さんと共に山北さんも黙り込んだ。


「部外者のわたくしが言うのも変かもしれませんけども、わたくしのモモちゃんのように、ご自身の愛犬と暮らせば良いのではなくて?」


ハッとする3人。


「モモちゃんとゆったり過ごすのも落ち着きますわよ。

その間だけは他の人の事を忘れられるのではありませんの?」


ふむ。相手のことを真剣に考えるほど慈愛の心を持っているのなら最適かもしれない。

ペットと入れる温泉とか、何かしら用意してみようか。

どちらにしても、最終判断は本人に委ねられるわけだから、藤原先生自身が飼いたいと思ってくれないとだけどね。


いや、藤原先生のことだから、自分で育てられるのか自身がないとか言い出しかねないな。

生徒達の感謝を手紙にしてもらうのもあり、か。


急遽、私は遠藤先生の授業時間を少し借りた。

教室に入ると明らかに遠藤先生の授業ではないことに落胆した生徒達。

私もお門違いだと思ってるからそんな嫌そうな顔しないでよ。


「皆さん、遠藤先生の授業はどうでしたか?」


一言目から遠藤先生の授業の話題を出していく。


「楽しかった。」

「面白い」


概ね好評だ。


「では、藤原先生は?」


「う~ん」


煮えきらない返事が返ってくる。

こういうところ子供は正直で残酷だよね。


「藤原先生が難しい事をわからないと悔しそうな顔をするのが嫌」


「ものすごく頑張って教えようとしてくれるけど、わからないから悲しい」


そんな声も聞こえてくる。


「では、皆さんが先生の立場だったらどうでしょう?」


「先生の立場?」


「皆のために教えてあげたいと思っていても、わかってもらえなくて眠れないほど悩んでます。

皆だったらどうしますか?

自分が思ってることをお父さんやお母さんにわかってほしいのにわかってもらえない時皆さんはどうしますか?」


暗い話になるけど、仕方ない。

楽しい授業ではないけど仕方ない。

生徒と先生の間のすれ違いを何とかしてあげないと。


「私は、お母さんに魔法をやめてスポーツをしなさいって言われた時嫌だった。

何でわかってくれないのって悲しくなりました」


「俺も、野球よりバスケが好きなのに父さんが野球をやれって。俺は野球よりバスケが好きなのにわかってくれない」


ぽつりぽつりと言葉が出てくる。


静まった教室を見渡してから私は口を開く。


「皆さんが思うように自分の気持ちをわかってもらえないことはあると思います。

藤原先生も同じです。

皆さんにわからないことを馬鹿にされないように必死になってわかってもらえるように努力しました。

だけど、上手く教えられる力がなくて悔しい思いをしています。

遠藤先生程藤原先生の教え方は上手ではなかったかもしれません。

それでも、皆さんの事を考えて一生懸命だったことだけはわかってあげてください。」


少し喉の乾きを感じて水を出して喉を潤すと、最後に言葉をかけた。


「皆さんに上手く伝えられるようにこれからも藤原先生は努力するでしょう。

だから、皆さんも藤原先生が頑張ってくれていること。

わかってほしいのに上手く話せないけど、頑張る藤原先生に感謝の気持を持ってあげてください。

もし、わかってほしい時にわかってもらえないなら、先生はどうしていたか、思い出してみてください。」


「先生ってすごいんだな」


「わたし、お母さんにわかってもらえる気がしないから諦めてたよ」


「私は理解してあげる事から始めないと、わかってもらうことは出来ないと思ってます。

先生の大変さがわからないのに先生をわかってあげることは出来ないでしょう。

生徒の事が理解できないのに、生徒に理解してもらうことも出来ないでしょう。

だから、私の今日の授業は、先生になってみよう。です。」


「は?」


困惑の表情を浮かべる生徒達。


「皆さん、自分の好きなことを思い浮かべてください。

勉強でもスポーツでも、ペットでもいいですよ。

それをお友達にわかってもらう為にどう話せばいいのか考えてみましょう。

今から10分の時間をあげますので、ノートに書いてもいいし、相手の気持ちを考えながらお友達にわかってもらう言葉を考えてみましょう」


そこから10分、あーでもないこーでもないと考える生徒達を眺めた後、発表してもらった。

先ほど野球よりバスケが好きといった生徒が野球は一人二人がサボってても試合は進行するけど、バスケは10人が全員動き続けないと試合には負ける。

その一瞬一瞬がすごく大事でとか説明し始めたけど、数名がうへぇと表情を歪ませる。


ある女生徒はペットの可愛さを話すけど、半分自慢話になっている。


ある生徒は運転免許も持ってないのに、カーレースについて熱く語っていた。


全員が発表を行った後、私が再度教団に上がり話し始めた。


「皆さんどうでしたか?自分以外の人全員の話が理解できた人は挙手」


誰も手を挙げなかった。


「そうですよね?感じ方は人それぞれです。それが理解です。

先生は全員になるべく理解してもらうために頑張る。

その大変さが、好きなことですら理解してもらえないことでわかってもらえたんじゃないかなと思います。

そんな大変な先生をしてくださってる先生方に、感謝しないといけませんよ。

わかんねーよってわかろうとしないことは先生の努力をあざ笑う行為です。

理解しやすい先生も、しにくい先生もいるでしょうけど、等しく皆さんのために考えてくださってるので、せっかくだからなるべく吸収したほうが良いですよね。

皆さんがより多く理解して、より多く理解させてあげられる能力を身につければ、皆さんがそれだけ成長したということです。

私は皆さんの成長を楽しみにしてます。」


校長先生のような話で締めくくってしまったが、伝わったかどうかはわからないけど、考える切っ掛けになってくれると良いなと思う。

私は壇上から降りて遠藤先生に後を託した。


代わりに壇上に上がった遠藤先生に期待の視線を向ける生徒はいなかった。

思ってた以上に刺さってしまったかもしれない。

空気を変えて上手いこと授業を頑張ってくれ。

そう思って教室の後ろから見渡そうと思っていた。


「やっぱり中島先生はすごいです。」


遠藤先生は静かに話し始めた。


「勉強を工夫して教えることは得意だと思ってました。

だけど、心については勉強不足ですね。

皆はどうだった?

考えたよね?

自分が本当に好きなことでも、友達にさえ理解してもらえないのは辛いよね?

伝え方を考えたり、受け止め方を考えたりしないといけないことを理解できたと思います。

だから、みんないっしょに頑張ろう。

皆の成績は先生たちとの二人三脚だからね。」


少し顔を上げる生徒達。


「そんなわけで、皆で中島先生にお礼を言わないとね。

大事なことに気づかせてくれてありがとうって。」


すると、生徒を代表するかのように、例の女生徒がせーのと言って

声を合わせて


「中島先生、ありがとうございます」


と声を揃えた挨拶をされた。

不意打ちを食らった私は教室の後ろから


「皆さんは遠藤先生には感謝してないのですか?」


というと、ハッとして


遠藤先生、ありがとう」


とお礼を言った。

(も)って何だ?と数名が入れたお礼に笑いそうになったけど。まぁいい。


遠藤先生は、藤原先生にもお礼を言わないとねと言ってから、笑顔で授業を締めくくった。

全員で藤原先生にお礼なんて言おうものなら、藤原先生泣くんじゃないか?と思ったけど、そういうのも藤原先生には必要だろうと思って黙っておいた。


課外授業がすべて終わって皆が帰ったら、藤原先生のテコ入れを本格的に始めよう。

そう思うに十分な貴重な時間だった。


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