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絶対のんびり至上主義  作者: sakura
地底世界編
85/86

85話.頑固一徹・藤原先生

「藤原先生。生徒のために責任を考える事は大事だと思いますよ。

ですが、そんな先生の姿を見て育つ生徒が先生と同じように頑張りすぎて寝不足でも必死で勉強してたら、その責任も藤原先生にあると思いませんか?」


厳しい言い方にはなるが、ワーカーホリックは許しません。


「しかし、私のように才能がない者は時間を使って考えないと、生徒達を導くことなど出来ないのです。」


「では、才能がない生徒にも寝る間を惜しんで勉強時間を確保しろとおっしゃるのですか?」


「いえ、そうは言いませんが、才能がないなら無いなりの努力は必要でしょう」


ふむ。


「藤原先生は生徒にどうなってほしいのですか?」


「どうなって?より良い大人に」


「それは勉強面ですか?精神面ですか?」


「うむむ。両面ですかな?」


「極論を言いますと、勉強をしなくても生きていけます。

最悪、食事が取れるだけの魔法が使えれば勉強の必要はありません。」


「それは! そうですが」


「先生が求める生徒像がどこにあるのかわかりませんが、生徒達の人生を決めるのは生徒達自身です。

先生が必要なのは、生徒達が苦しまないように、ある程度の生きる知識と精神面の成長を促すためだと思いますが、藤原先生はどう考えます?」


「私は、私が持つ知識のすべてを吸収してもらいたいと思います。」


「藤原先生が得意なものと生徒が得意なものが違ったり、生徒の方が藤原先生よりも多くの知識を持っていることもあるかもしれませんよ?

それを無視して自分より劣ることは許さないということですか?」


「そこまでは言ってないでしょう!」


「では、質問を戻しまして、生徒にどうなってもらいたいのですか?」


「ぐ、うぬ」


藤原先生は言葉に詰まり勝手に生成していた机の上で自身で書いたノートを見返す。


「先生が生徒を想う気持ちは素晴らしいものですが、生徒達の意思は尊重してあげてください。」


「中島さんは生徒にどうなってほしいのですかな?」


「私ですか?他人に迷惑をかけず、自分がしたいことをして楽しく生きてくれればそれでいいという考えですね」


「それでは、教師は何のために!」


「生徒がやりたいことを探す手伝いだったり、迷惑をかけないモラルを身につける手伝いでしょうか」


「生徒が望むことばかりやるのであれば、今人気の野球の授業しかできなくなります」


「そういうことではないのですよ。

例えば、野球選手になりたいならそれもいいでしょう。

しかし、なってからやっぱり建築会社に入社したいなと思った時にその知識も技術も全くない状態だと困りませんか?」


「それは確かにそうだ」


「つまり、ある程度何でも学校でやっておけば、どういう事をするためには何が必要かがわかっている状況を作っておけるわけです。

すでにご存知でしょうが、こども食堂は食べ物を提供するために何が必要かわかった上で二人の生徒が始めたことですね。その選択肢を作ってあげたことを誇ってほしいのです」


「つまり、無理に自分の知識を理解させる必要はないと?」


「ええ、そうです。例えば、藤原先生が得意なことでも苦手な生徒は理解に時間がかかります。逆に藤原先生が苦手で細かく理解できていないことでも生徒は理解できるかもしれません。

その才能を発揮できるようにしてあげてください。」


「その方法が勉強ではなかったのですか?」


「それはアプローチ方法の一つでしかありませんよ。

私が先ほど遠藤先生の授業を見ていたところ、理解力が高く応用できる生徒が二人目立っていました。

名前は知りませんが、藤原先生にはどの生徒かわかりますか?」


「男女一人ずついたのでは?」


「ええ、その通りです。つまり、藤原先生はその才能を見抜いているわけです。

その才能を開花させてあげれば劣等感に悩んだりしなくて済むのではないですか?」


「それは無理です。彼らの才能は私より余程ありますから私に正しく導くことは出来ません。」


う~ん。

藤原先生も他の先生と自分を比べて悩んでいるのかもしれないな。


「藤原先生。他の先生ができることは任せて、ご自分の得意分野で他の先生を助けることは考えないのですか?」


「それは職務放棄です」


ものすごい石頭だな。

頑固一徹のラーメン屋大将みたいな。


「教師の目的は何でした?」


「生徒の為に生徒の成長を促すこと」


「でしたら、教師陣全員で取り組むことですよね?

誰の生徒がどこまで才能を伸ばしたとか競うわけではありませんよ。」


「ふむ。それは確かに」


「学校という場の中で協力体制を築いたり、教師陣の中で教え合ったりしてもいいじゃないですか。

藤原先生は苦手な部分を考えて休めない毎日なのでしょう?」


「なぜ、それを」


いや、わかるでしょう。

こんな頑固に責任感が強い先生が考えそうなことだし。


「生徒達は先生を見てますよ。先生が生徒達を見ているのと同じように。

先生がとんでもない努力をしているからこそ、必死で苦手でもついていこうとする生徒もいるでしょう。

だから、生徒に無理をさせず、自分も無理をしない範囲で導いてあげてください。」


「善処します」


そういうと、話は終わりとばかりに黙り込んで考え始めた。

また考え込んでる。

これはもう一生治らない性格なんだろうな。


釣りでも教えて無駄な時間の過ごし方でも伝えてみるか。

釣り堀と釣り竿やら魚やらを生成しないといけないな。

本当に釣りをする必要はないけど、この性格じゃ目的がないとやらないだろうからね。


少し真壁先生たちに話を聞いてみるか。

一度家に戻ってから樹先生にメールを送った。

真壁夫妻は夫婦揃って教師だから、樹先生にメールしておけば情報はもらえるだろう。


恐らく、今は授業中だから返事は夜かな?

その間に少し和泉の様子を見ておこう。

狂犬病のような状態になっていた和泉は治ったと思うけど経過観察中だ。


こちらの心配を他所に和泉はすごく自然に穏やかに駆け寄ってきた。

なんだか妙にじゃれついてくるな。

何かあったっけかな?

噛まれた記憶しかないんだけど、妙に懐いてくる。

檻に入れられたことで寂しさでも感じたのかな?

わからないけど、特に問題が無いようで何よりだ。

ある程度頭をなでてから立ち上がるとキューンキューンと悲しそうに鳴き声を上げる。

いやいや、今は課外授業で忙しいからもうちょっと待ってくれるかな?

そんな風に思いながらももう一度地面に座り直してしまう。

どうしてもかわいそうに思えてならない。

仕方がない。とりあえず樹先生からメールが来るのを待ちながら和泉とゆったり休んでおくか。


どれほど、そうしていたかわからないけど、気づけば落ち着きすぎたのか和泉は寝息を立て始めた。

まだ子犬だからね。

少し様子を見ていると着信音が鳴って和泉がハッとして起きてしまった。


「大丈夫。ここにいてるから」


そういいながら頭を押し付けて催促してくる和泉の頭をなでた。

右手でメールを確認しながら。


メールは樹先生からで


藤原先生は真面目過ぎてちょっとどうしていいかわからないほど疲れ切ってしまってます。

いつも、本気すぎて、他の先生もちょっと近寄れないくらいで。

中島さんなら何とか出来ませんかって気持ちで送り出しました。

何とかなりますか?


質問に質問で返ってきて苦笑を禁じ得ない。


文面から同僚にも煙たがられるほど本気なのかな?とは思うけど。


考えられることとしては藤原先生自身の劣等感か?

他の先生が先進的な教育方法を次々試すも、自分が同じことをできないからより時間を書けて指導しようっていう考え方なのかもしれないね。


よく、才能がないなら才能がある人の倍勉強しろとかいう人がいるけど、勝手に才能がないと決めつけて寝食を削れっていうただの虐待の言葉なんだよね。

親が子供に言う言葉だと思うけど、虐待どころか追い詰めてる事実に気付けない親に育てられる子供が可愛そうだ。

こういう事を平気で言う親に親たる資格なんて全く無いと私は思う。


それはさておき、根性論で何とかしようとする藤原先生はもうちょっと落ち着かせるしかないね。

周りも見えなくなるほど、責任感に押しつぶされそうになっているのだろう。

同僚と酒でも飲めばいいんじゃないかと思わなくもないが、街に居酒屋なんてものもないからな。

作ったら死ぬほど愚痴りそうだけど。


やっぱり釣り堀でも作るかな。

しかも、隠れ家的な場所にほしいから街から少し離れたどこかのSAに作ってみよう。

地底から魚を持ってくると、おかしな病原体とか持ってると困るので、イメージできるかどうかわからないけど、魚を大量生成してしまおう。

今、私が生成してしまうとおかしな病原菌も一緒にイメージしそうだから、泉のことが落ち着いてからになるね。


それまではクラシック音楽でも聞いてα波におぼれてリラックスして寝てくれたら少しは気持ちも楽になるだろう。


その辺りを樹先生に返信していると和泉が甘えてきた。

左手がお留守だった。

また撫で始めると気持ちよさそうに目を閉じてすぐにうとうとし始めた。

今は和泉のことを優先でいいかな。

絶対にやりたくないけど、睡眠導入剤やリラックス効果のある薬でも生成して渡せばいいだろう。

頭空っぽにして、考え込みすぎない程度に、上手く先生方や生徒と付き合っていってもらいたいな。


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