82話.狂犬病の可能性
問題は早朝に起きた。
私の眠りを妨げる遠吠えのような鳴き声。
和泉だった。
防犯カメラからの音声は消しておけばよかったと思うほどに大泣きしている。
映像を見るが特に何も異常は見当たらない。
手早く着替えを済ませてワンコ達のベッドルームに駆け込むが、やはり何も無い。
寝ぼけてるのかな?
よくわからないけどとりあえず落ち着かせようと和泉をなでていると思いっきり噛みつかれた。
子犬と言っても噛みつかれれば痛い。
かなりイラッとしてしまうが相手は子犬。
痛みに耐えながら顔をなでて離すように口を開けさせようとしてみるも、本気で髪ついてる。
血が出て本当に痛い。
しかし、ここで無理やり剥がそうとでもしようものなら私の肉ごと千切られることになってしまう。
「和泉!」
怒鳴って口を無理やり開けさせた。
和泉は反省するどころか興奮してると言うか、フーフーと荒い呼吸を繰り返し、牙を向いて睨みつけるようにこちらを見ている。
本当に何なんだよ。
ここまで敵意を向けられると流石にイライラする。
が、ブチギレたのは朝陽が先だった。
加減はしているけど本気のタックルのあと、和泉の足に噛みついた。
これあかんやつや。
「朝陽。大丈夫だから。離してあげて」
落ち着くように今度は朝陽の頭を撫でる。
ゆっくりと朝陽の興奮が抜けていき、口を離した。
和泉も出血していた。
和泉は怪我した部分を舐めながら痛い思いをして目が覚めたのか丸まってひたすら舐めている。
これは、本格的にしつけないといけないけどどうしよう。
こちらの方が強いとわからせる必要があるのか?
うーん・・・。
何が理由でこうなったのかもさっぱりわからない。
こりゃ、西園寺さんにも頼めないな。
わんこランドに問題はないけど、和泉に問題がありすぎる。
怪我をさせるわけにもいかないし、ウイルスはないと仮定してたけど、狂犬病のようなものなら、噛まれた私も助からない。
洒落にならないな。
ワクチンもないし、狂犬病ワクチンなんて日本で見たこともないんだから生成も出来ない。
吠え方の異常と噛みつきは狂犬病の症例としてあるけど、朝陽や裕太に噛みついたりはしなかった。じゃあ、何だ?
考えられるのは魔力か?
ウイルスが考えにくいなら朝陽や裕太が使える魔法。
厳密に言うなら魔法を使う為の魔力。ここに原因がありそうな気がする。
子犬の噛み付きは歯が痒いとか甘噛とかあるけど、今回はそんなレベルじゃなく本気のかみ方だった。
朝陽も裕太も日本で自制できていたそれを和泉は本気で噛みつく。
多頭飼いではあまりないことだけど、喧嘩をして噛まれると痛いと覚えて加減を覚えていく。
朝陽や裕太も本気で迷惑なときには容赦なく噛んでいるからそれがわからないわけではないし、他の子犬で似た症状は聞いていない。
一先ず、噛んでも良い物。骨の形の超硬いガムでも与えておこう。
さっきちらっと思ったことで、噛む事に魔力が関係しているならそれも考慮に入れておかないといけない。
子犬の時期に魔力を溜めすぎると、行き場を失って体の中で暴れて痛みのために噛んでいるというのは考えられることだ。
「朝陽、裕太。ごめんね。大変だと思うけど和泉に魔法を教えてあげてくれない?」
「え~、絶対この子、魔法覚えたら痛いことしてくるよ」
「そうそう。ぼくらだけじゃなくてご主人も危ない」
「私なら大丈夫だよ。教えて使えるようになったら、この子の魔法が周りに飛ばないようにしておくからね。」
「すごい。そんな事もできるの?」
期待の目で見てくる二匹に私は
「やったことないけど多分できると思うから。お願いね」
ちょっと弱気に返したのだった。
おっと、先に生成しておかないと。超硬いガムを生成すると和泉の方に投げた。
近づいて興奮されたら今度こそ本気で手が出てしまう。
状況の改善が見られない場合、可愛そうだけど檻に入れて出さないようにするしかなくなってしまう。
猛獣のような扱いだ。
早急に何か効果のある一手を打たないといけない。
原因がわからないと他の子も同じ症状が出てしまうかもしれない。
私は急いで市長に電話をかけたのだった。
そこから何かとバタバタしていたけど、一先ず窮屈にならないように大きめの檻を生成してから状況説明のために小垣さん、山北さん、西園寺さんを呼んでわんこランドに案内した。
3人共犬は可愛い存在、守らないといけない存在と思っていたようで、今回のことが大きなショックになっていた。
わんこランドで檻に入れられた和泉を見て悲しそうな顔をする3人。
「それでも、中島さんが引き取ったからこそ、被害は最小限です。良かったと思いましょう」
「そうですわね。わたくしたちでは対処できなかったでしょう。同じ症状の子が出る前に原因を特定しなければなりませんわね。あ~モモちゃんが心配ですわ~」
「でもさ~、うちの子にそんな事なったら、中島さんみたいに檻に閉じ込めとけばいいってわかってるんだから、時間はありそうじゃない?」
三者三様とはまさにこの事だ。
今のところ檻の中で和泉は怪我をした足を舐め続けている。
さっきの鬼気迫る感じの興奮状態は鳴りを潜めているので、特に小垣さんには危機感がなさそうだった。
「そういうわけなので、流石に見ていてもらうなんて無責任なことができなくなりました。頼んでおいて申し訳ないです。」
「私は問題ありませんわよ。モモちゃんとここでみんなと遊ばせるだけのつもりでしたもの」
だけど、モモちゃんをここに連れてきて感染しても困るから朝陽と裕太と一緒に小垣さん達も早急に上に戻す事になった。
和泉だけ可愛そうだけど当面は地下生活になる。
餌と水はあげに来るので、その間は我慢してくれな。
それにしても、朝陽も裕太も狂犬病のワクチンは接種済みだし、日本で狂犬病は駆逐されてる。
朝陽や裕太や私が、この世界にいなかった未知の菌を持ち込んだのであれば大問題だ。
病気か。本気でどうしたら良いのかわからないな。
魔力による何らかの影響なら何とかなりそうだけど、
どちらにしても原因をどうすれば特定できるかも問題だ。
気が重い。
隔離?洗浄?
何かしらの処理をしておかないと、人に感染しない理由もない。
餌と水を生成して檻の中に入れたあと、和泉用のベッドを置いて虹色に光る膜を張っておいた。
イメージは菌の出入りをさせない事と、清浄化の祈りを込めた。
これで上手くいってくれるならそれでもいいんだけど、原因は特定したいな~。
上で、朝陽と裕太をなでながら、朝陽と裕太がおかしくならないことを祈りつつ様子を見よう。
課外授業、断りたいな~




