80話.新築計画
目が覚めてからスタジアム周辺を散歩する。
「ここはあまり来てないから楽しーね」
「でもトイレはないよ」
朝陽と裕太の会話にわかってないはずなのに返事をするようにキャンと鳴き声を上げる和泉。
君たちは散歩を楽しむ心も失くしちゃったのかい?と思うような会話だった。
和泉はまだ幼いけど、散歩には連れて出ている。
というより、朝陽と裕太と離すと暴れるので仕方なく連れて行かざるを得ない。
末っ子が我儘なイメージだけどそんな感じだ。
朝陽と裕太が甘やかしてる感じはないんだけど何でこうなんだろう。
不思議だ。
散歩から帰ると朝食を作る。
みんな思い思いに散歩に出かけてるようだ。
朝食を作って待っている時に思いついた。
一旦先に帰って、家を作ってあげたら良かったのでは?と
一夜明かしてるわけだから今更だけど、ここで何かしたいこともない。
野球観戦くらいかな?
皆が喜ぶならテレビではなく迫力の本物観戦もありかもしれない。
そんなわけで皆で朝食の後、スタジアムで観戦をすることになった。
最初の試合からみっちりスケジュールを組んである。
スタジアム使用許可の関係上、延長戦はなく、引き分けたら引き分けという記録になる。
それでも、試合進行上時間は管理されており、7回くらいでも時間次第で勝敗がつく。
逆に早く終わり過ぎたら、時間がもったいないとばかりに、野手が投手になってみたりとせっかくのスタジアム使用時間をフルに満喫していた。
野手投げの投手もなかなか面白い。
何しろ、全てファストボール。
つまり、ツーシームやフォーシームのストレート系ピッチングになるので、ボコスカ打たれていたりする。
変化球を覚えさせれば野手投げの大投手も誕生するかもしれない。
そんな穿った見方をする私を尻目にみんな楽しそうに応援していた。
どうやら、負けてる方を応援するらしく、負けてても必死に頑張る姿に盛り上がっていた。
夕方になり、ようやく、一つ街よりのSAに到着したと連絡があり、合流は明日になりそうだった。
明日到着してから野球観戦したがるかもしれないし、帰るのは明後日かな?
この日はみんな野球観戦を思いの外楽しんで戦艦に戻って寝ることになった。
翌日になり、4人が合流した。
案の定野球観戦になって、その日の夕方にようやく出発することになったが、遠藤さんと楽斗さんが交代で運転しても、初心者に長時間運転は流石にきつかったらしく、疲労のため車を戦艦に乗せて帰ることになった。
戦艦の中で寝てたら良いよ。
無理してもしょうがないからね。
しかし、ここでも問題発生。
疲れてるはずの2人が車とは違う戦艦の加速度に興奮して寝ることもなく起きていた。
しかも車でスタジアムまで来た4人が4人とも空の旅を満喫していた。
免許取得で加速度を楽しむようになったのかもしれない。
運転しないから気楽だよね。
夕方から出発しても陽が落ちきる前に自宅につくことが出来たが、夜に家を建てることもよろしくないかなと、地下基地に留めた戦艦の中で更に一泊することになった。
明日から、家造りとテレビ設置をすることになる。
奏美さんはペットと暮らせる家を希望するだろうから、小垣さん達の家と同様に裏庭につながる勝手口を作っておけばいいだろう。
楽斗さんは奏美さんの家に近いところに建て直そう。
梅野さんは、本人に希望を聞いてからだけど、奏美さんと似たような要望になりそうだから、ペットもセットでかな?
他の二人も一応要望を聞いて立地だけ考えてもらってこちらに任せてもらえば大丈夫なはず。
静かな方が良いなら少し離れた場所に作ってもいいしね。
そのあと、魔法生物の生成と、畜産業、農業をできるようにすればいいかな?
寝付く前に色々考えすぎてしまった。
目が覚めると朝食を取ってから全員で地上に上がる。
同じ地下にわんこの遊園地があるが、地上に上がれなくなりそうなので全員で上がる。
そこで家を立てたい場所の希望を聞きたいから、どこが良いか見てきてくださいと解散した。
その間に朝陽と裕太と和泉の散歩に行く。
久しぶりに我が家周辺の散歩コースに少し嬉しそうな表情の朝陽と裕太に、何でも全力全開で楽しむ和泉を眺めながら散歩コースを回る。
そう言えば、後でもう一度楽斗さんの車を降ろすために戦艦を地上にあげないとな。
面倒だと気づきながらゆったり散歩コースを歩く。
一部全くゆったり出来ない子もいるけど、リードを引っ張る度に引っ張り返す。
これもしつけだ。
わがまま放題の暴君では和泉の下位に全員が入ってしまう。
絶対に逆らったらいけないのが朝陽と裕太と私だと覚えさせるところから始めよう。
常々思ってることとして、幼い子犬だから厳しくし過ぎとか虐待とかいう人がいるけど、そういう人は躾ができない駄目親か、関心がないのだろうなと。
保健所に連絡するようなおかしな正義感の人とか、保護団体を名乗るクレーマーみたいな人とかはもうちょっと考えたほうが良いよ。
保健所も、またか。あそこの家はちゃんとしつけてるから問題ないのに何の嫌がらせなんだろう?連絡は一体上こっちも確認にいかないといけないから本当に迷惑だとか思ってるんだろうなと考えてしまう。
上司批判をする責任を持たない平社員のような勘違いさんだ。
責任もないから良いたい放題だけど、いざ、責任を与えられると、結局批判した上司ほども上手く出来ない。
同じ立場になって考えられないから好き放題言えるんだよな。
だから今のうちからしっかりと和泉のしつけを行う。
そうしないと、朝陽や裕太のご飯まで奪い始めそうだからね。
なかなか困ったちゃんな和泉を引っ張りつつ散歩を終えた。
「朝陽、裕太。和泉の面倒を見てあげてね」
「え、うん、頑張るよ」
「はーい」
どちらも不安そうだ。
犬からしても面倒に思われてるのかも
「私もちゃんとしつけて、朝陽と裕太に従うように優先順位は間違えないようにするからね。ご飯の順番とか」
何とか納得してもらって家に入った。
モモちゃんの時と反応がえらく違った。
さて、こっちは家造りに勤しみますか。
まずは佐伯兄妹からかな。
順番的に。
ここの場所も知ってるお兄さんがいるし、決まるのも早いだろう。
どうせ西園寺さんとこにいるだろうし行ってみようか。
バイクに乗るほどの距離でもないけど、バイクを引っ張り出して西園寺さん宅に向かう。
案の定佐伯兄妹はそこにいた。
東屋で小垣さん、山北さんも一緒にいてわんこを眺めている。
「場所は決まりました?」
「ここが良いです。」
即答で東屋の地面を指さした。
いや、東屋は生活するためのものじゃないから。
「この裏庭につながるように建てましょう。
そうなるだろうなとも思ってましたし」
すると楽斗さんが申し訳無さそうにすみませんとつぶやいた。
苦労症のお兄さんだね。
決まったのなら後は早い。他の3家に隣接するように魔法で家を生成する。
作りはイメージしやすいから他の3家と同じ構造になった。
早速家に入って物珍しそうに見て回る佐伯兄妹。
いや、お兄さんは別に家を建てるから一緒に見学に行く必要はないんだけど?と思っていると
「あのお兄さん、妹さんが心配で仕方ないって感じね」
と小垣さんが言うと山北さんが吹き出した。
「そうですね。まるでモモちゃんで頭がいっぱいの櫛菜さんみたいで微笑ましいです」
「そんなことはございませんわ。わたくしのモモちゃんへの想いの方が、遥かに強いのですもの」
「何張り合ってんの、くっしー」
呆れた様子の小垣さんの一言に更に笑いが起きる。
ここに戻るとみんなリラックスして自然に笑うからいいね。
ま、話題が尽きないっていうのが謎だけど。
一通り見て回った佐伯兄妹が戻ってきたので、早速奏美さんのわんこを生成した。
泣いて喜んだ奏美さんは早速辰起と名付けて抱きしめて離さなくなった。
日本犬保存会では確か認められていない白柴でそんなイメージはしてなかったのに白になった。
胡麻とかだと狼っぽくなるから少し怖く感じそうだし、ある意味ちょうどいいのかもしれない。
その様子を見た楽斗さんはまたぼそっとすみませんと謝っていた。
続いて楽斗さんの家の話になったのだが、
「妹の家で大丈夫です。そこまでご迷惑はかけられません」
と恐縮しきりだったけど、兄妹とはいえ、異性なんだから、気を使わなくてもいい自分の家を持たないとと3人に説得されていた。
「でしたら、妹の家の隣でお願いします。すみません」
ものすごい謝るな。この人。妹さんを助けてからというもの、恐縮したり遠慮したりが普通になってしまった。
妹さんの家の隣に建てるとはいえ、玄関は私の家の逆側にあって、そこの道路を90度曲がって山北さんの家という立地になっている。
隣というか、玄関の道を挟んだ向かい側でいいだろう。とお向かいさんに建てた。
渡り鳥の三人はどうするんだろうな。
―――大野 大地―――
さて、いい場所を見つけてくださいと言われても、ここは静かで穏やかというか、自由気ままな空気が漂っている。
目的地が楽園という事にはなっていたけど、実際は宛もなく自由に旅を楽しんでいた俺には最高の立地だ。
勉強したければ街に自由に出入りしていいと言われてるから、旅をするように歩いたとしても苦にはならない。
まして、所々にサービスエリアという寝泊まりできる施設まで揃っているんだからこれで何の文句があろうかって話だ。
佐上は一人で静かに生活できるなら何でも良いとか言って、他の人達が住んでいる場所から公園の反対側を見てくると言っていた。
梅野は一応ついてきているけど、視線が1方向に向いてソワソワしてるから女性達が生活してる場所に頼むだろうし、俺はどうしようかな。
「どうですか?一通り案内したと思うけど」
案内役を買って出てくれた遠藤さんに問われて返答に窮する。
「う~ん。正直どこでも楽園なんですよ。空いてる場所であればお任せしたいくらいです。」
「なるほど。でしたら、中島さんの家の近くにしてもらいましょう。あの人のやること成すこと、とんでもなくて、スリル満点ですよ」
楽しそうにそう言って笑う。
「それは、空まで飛んだので理解してます。」
「一応、自分の経験談として、わからないことや悩んだことを中島さんに相談すると、解決策でないのに気持ちが軽くなったりする不思議な人ですね。答えは自分で見つけるしかないけど、答えがわからなくてもいいじゃないって感じで」
あまりピンとこない。
解決できたほうが良いのでは?
いや、教わる答えより、自分で見つけた方法が自分のためになるっていう教え?みたいなものか。
一度俺も、学校とやらを見学してみたいな。
やりたいと思ったことを自由にできるんだ。
旅を辞める。ここが俺の楽園だから。
それだけで俺は自由なんだから、やりたいことをやって自分で生き方を見つけてみるか。
「でも、突然空を飛ぶとかそういうのは勘弁してもらいたいな」
「面白い話がありますよ。
最近先輩の先生に教えてもらったんですけどね。
街では『中島さん前、中島さん後』という言い方が流行ってるそうです。」
「なんです?それは」
「中島さんに会う前の自分と会ってからの自分の違いみたいな話で使われる言葉で、例えば中島さん前の人が街に来るとマンションを見て何だこれは?と腰を抜かします。
中島さん後になると、巨大な家や生物が空を飛んでても、あ~中島さんねで終わるっていう」
「もうちょっとゆっくり慣れていきたいところですね」
「常識崩壊が日常的に起きると超常現象でさえ常識になるっていう良い例ですよ。
ゆっくり慣れていてはより楽しい娯楽に自分だけ参加できなくなってしまいますからね」
「それもそうだな」
確かに、ここには楽しめるものが多い。
考えること、遊ぶこと、食事や生活ですら楽しめるだろう。
「じゃあ、俺も中島さんの家の近くを希望してみようか。今のところやりたいことも見つけられてないわけだし、生き方を決めるのは中島さん後になってからでいい」
そう言うと嬉しそうに遠藤さんが笑う。
中島さん後か。会ったばかりでは全く慣れないから中島さん前なんだろう。
これから徐々に慣れていくしかないけど、今までと全く違う環境は楽しみでもある。
まぁ、先は長そうだけどな。
空を飛んだり、魔法を使わずすごいスピードで走る車があったり、非常識の塊だからな。
この上でさらにバイクというものまであるらしい。
十分すぎるだろ。
中島さんはまだ更に他のことも考えてるらしいけど、あの人の頭の中はどうなってるんだよ。
あんなに遠く離れた場所の試合を見られるだけでもありえないのにな。
一度遠藤さんとともに佐上と梅野に合流すると、佐上は公園の向こう側
梅野は裏庭ドッグランとやらとつながる家を作ってもらっていた。
結局折れは遠藤さんと中島さんの家の近くに作ってもらったけど、あの人発想だけじゃなくて魔力もとんでもないな。
あんなでかいものをいともあっさり生成しちまった。
それを4軒とかどれだけなんだ。
すぐに慣れるとか言ってたけど普通に無理だと思う。
魔力を使わない生活をしてれば似たようなことができるようになるからと言われたけど郷に入っては郷に従えってやつか。
不慣れでも楽しんで頑張っていこう。




