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絶対のんびり至上主義  作者: sakura
地底世界編
78/86

78話.渡り鳥

渡り鳥と呼ばれる集団がいる。

どこからそんな名前になったのか、判明していないが、はるか昔に渡り鳥を名乗り始めた彼らは多い時は30人規模、最近は12人で旅をしながら生活する楽園を目指す集団だった。


彼らの目的はどこかにあるという楽園。

楽園には魔法を使わずとも食べ物に溢れ、豊富な水と楽しめる娯楽が豊富にあると言われていた。

本気でそんな場所があると信じているものは誰もいないけど、定住するつまらなさから、ただ一処に居を構えず自由気ままに移動する集団。

たまたま訪れた場所に根を下ろすものも居れば、それまでの生活が嫌になって加わる者もいる。

彼らに共通するのは一人旅をする気はないけど、全員でまだ見ぬ大地に思いを馳せ、旅程を楽しめるという気持ちだけだった。

とは言っても、森があって、川があって、荒廃した大地があってと地形の変化は何パターンかしかない。

感動する光景がないわけでもないが、そこで何日も居着くと飽きて移動する。

リーダーを務めていた大野大地はそろそろ引退を考えていた。

最近強化魔法に陰りが見えている。

実は、強化魔法の精度は上がっているのだが、40歳を超えてから肉体の衰えのせいで無意識に強化魔法を強めにかけてしまっていた。

一族の掟で配偶者を見つけても子供が成人するまで旅を続けよ。

子供が成人し、代替わりをして初めて、安住の地に落ち着いて良い。


それは呪いのように一族に重くのしかかっている。

自分に子供が出来てもそんな過酷な生活はさせまいと思っていた大地だったが、42になる今日現在で配偶者候補は0人

旅仲間にも女性はいるが、全くそんな気は起きなかった。

かわいいなと和むことはあってもそれくらいだ。

子供を見てかわいいと思う気持ちとさほどの違いはなかった。


野を越え、山を越えしてきた一行だったが、流石に想定外の事態がおきた。

荒野を歩いていると、とてつもない規模の何かわからない物がそびえ立っていた。

多くの人の歓声まで聞こえてくる。


「どうする?」


リーダーである俺に問うているのは間違いない。

顔を向けずに返答する。


「確認しよう」


短いやり取り。

緊張する時はいつもこんな感じになってしまう。

周囲を警戒してる時に長々喋ってる暇などないと旅を続けるうちに自然と身についている。

おそらく、親父もお袋もそうだったのだろう。


「メンバーは?」


「警戒はすべきだが、危険はないと判断。

全員で行こう」


「了解」


俺と最も付き合いの長い佐上が答えて隣に位置取る。

俺達はゆっくり慎重に歩みを進める。

近づけば近づくほどにその大きさがはっきりしてくる。

その威容に少し震えているのは気のせいじゃない。


その大きなものからいくつもそれよりは小さいが人を丸呑みできそうな四角いものが行ったり来たりしている。

いや、よく見ると色やら形が微妙に違っている。

ここは何なんだ一体。

楽園という言葉が浮かびはするが、あまりの異常さに首をふる。

楽園はもっと理解できる範疇のはずだ。

食物と水

それが豊富にあるというだけなのだから。

こんな巨大なものでは決してないだろう。


俺達は一歩一歩がだんだん重くなりつつも、その巨大なものに近づいていった。



―――橋田 巧―――

「しっかりこれ作った中島さん、マジでヤバイな。って、ここの食堂とホテルの部屋のテレビ設置で終わりだな?」


「へい、ここが終わったら終了予定です」


部下の返答に満足気に頷いた。

スタジアムに来てまでテレビで見るこたぁないだろうに、市長も大変だな。

バスケや野球を通して、ライバルのような関係になってしまった市長に同情する。


「ケーブルを加工できるやつはケーブルの両端の位置が決まり次第その場で加工して接続

それ以外はケーブルを通す作業にかかってくれ。

スタジアムもホテルも規模がでかいから、ダラダラしてると帰れねぇぞ!」


指示を飛ばしてから中島さんがメンテナンス用に作った地下室に潜ろうとして外に出たところで奇妙な集団を見かけた。

全員ローブ姿でオドオドしている。

最近来た連中か?

と思ったが違うようだなとすぐに自分で否定する。

最近来た連中でもあそこまで警戒して近寄ることはないからだ。

しかたねぇな。

部下に対する時の口調が変わってしまうので、気をつけながら近づいた。


「どうしました?」


そんなにいきなり話しかけたつもりはないのに死ぬほどびっくりした顔をされた。


「ここは何です?こんな巨大なものがあって何で平気な顔をしてるんだ?」


相手の言葉にそういうことかと納得する。

今、街では中島さん前と中島さん後という言葉が出回っている。

彼らは中島さん前の状態だ。

つまり、どこかからたまたま流れてきただけで、何の情報もない状況でたどり着いたってことだ。


「ここはスタジアム。野球やスポーツをする場所・・・って言ってもわからんな。

説明は苦手なんだが、まぁ、娯楽設備だ」


「娯楽?こんな巨大なものの中で娯楽?」


10人ほどの集団が信じられないとざわめいていく。

俺だって仕事じゃなきゃ試合に出たいんだよ。

仕事着の俺を見て娯楽が結びつかないことを理解はするけど、切実に今すぐ仕事を終わらせて出場できなくてもせめて観戦はしたい。

あ、こいつらの案内をするってことで観戦していくか。


「ちょっとまってくれ、一応仕事中なんでな。」


そう言うと俺は部下にスマホで連絡を取って迷い人発見。

案内するから仕事は任せる。

困ったことがあれば連絡してくれと伝えてスマホを切った。

その動作にもまた、驚愕の表情を向けられる。

やっちまった。

中島さん後の俺が自重しないとますます恐怖させてしまいかねないな。


スタジアムの中に案内して観戦席に連れて行く。

今は、げっあいつか。

市長の妹がいつも通りのえげつない球で打者を翻弄していた。

うちとやる時は高確率で出てくるピッチャーなのに未だに攻略できない相手だ。

何より、周りのファンが熱狂的すぎて声援の意味でも厄介な相手なんだよな。


っと、今の俺は案内役だったな。

これが、野球だ。と説明しながらルールを教えていく。

そのうち、彼らも周囲の熱狂にのまれたのか、応援し始める。

しかも、よりによってあいつに一層声援を送っている気がする。

ちっと舌打ちしてしまった。

歓声がかき消してくれなければ危なかった。


忘れてた。迷い人発見の時は役所の担当者にメール連絡だったな。

12人いた全員が試合を夢中で見ているのでその間にスマホで担当者にメールを打った。

発見場所がスタジアムなので、役所の担当者が到着するまではホテルで待機の指示が来たので、仕事ついでだからこの試合が終わればホテルに向かうか。


試合が終わってスタジアムを出ると口々に凄かったなと感想を言い合っている。

あの女の話題が多いのが腹立たしいが、確かにあいつには花があるからな。


「で、ここがホテルだ。ついてきてくれ」


そう言って空いている部屋を自分で探す。

ホテルの鍵は使っている場合持ち出し、チェックアウトの時に戻すルールなので空いている部屋はひと目で分かる。

12人だからな。


「12部屋は確保できるんだが、3部屋だけ少し離れる。

それでも大丈夫か?」


「大丈夫だ。」


「なら案内しよう。それぞれに鍵を渡しておく。

使い方も説明するけど、全部同じ構造だから全員の部屋で説明はしないので注意してくれ」


仕事柄、部下に指示を出すようになって、こういう事を先に伝えておく重要性を感じていた。

まだ、ホテルの各部屋にはテレビ設置されていない。

優先順位的にスタジアムの食堂の前にエントランスに設置しただけだからな。

そうか、宿泊客がいるんだから、工事もその状況に合わせる必要があったな。

今回の仕事は何日か滞在する必要があるわけか。

考えてなかった。

こういう凡ミスはかなり悔しい。


鍵の使い方や、風呂の使い方等を説明していく。

俺達も仕事で滞在することになるから、良かったら食事はこちらで用意しようと言うとあからさまに喜んでいた。

旅をしているなら魔力はほぼ空っぽだからな。普通は。


ホテルの部屋で食事も味気ないので食堂でカレーを振る舞った。

この味は以前家を立てた時に、うちの自慢のカレーと言われて食べさせてもらったものを再現したものだが、本家には及ばない。

残念ながら、味の再現は難しく、なかなか思うようには出来ない。

こども食堂の食事はいつも一定水準以上のものが出てくるのに、再現が特に難しく、何名かが通っているとも聞いているのに上手くいかないらしい。


カレーの味に感動したり、トイレや風呂に驚愕したりで疲れていた迷い人達は、さっさと部屋に戻して寝てもらった。

仕事の報告を聞くために部下たちと合流して報告を受ける。

スタジアムとホテルの宿泊客のいない部屋は完了か。

特にトラブルもなかったそうだ。


じゃあ、明日は一人が鍵の返却を受け取って、テレビ設置が完了してる部屋の鍵を渡すようにしてくれ。

それ以外はハブとケーブル設置と返却された鍵を受け取ったらすぐに作業を完了できるように準備だ。

宿泊客次第だが、明日で全部終わらせるぞ。


そこからは宴会に突入してから、風呂に入る。

風呂でもテレビ、いや、それは必要ないな。

明日は、迷い人達を役所の担当者に引き渡してから、俺等も帰るか。

明日の朝で今日の宿泊客が全員帰りますように。


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