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絶対のんびり至上主義  作者: sakura
地底世界編
70/86

70話.ある男の地上放浪

俺たちの白竜市は先日崩壊した。

知らなかったと言い張っていたが、麻薬認定されている草の栽培が確認されてからの国の行動は驚くほどに早かった。

雑草と思って鉢植えに移して植物の研究素材として成長速度の違いを見ようとしたらしい。

研究者のくせに植物の種類も確認しないとかありえないだろ。

そんな馬鹿一人のために6700人いた市民全員が路頭に迷うことになった。

俺は集落で多人数と共同生活でまた迷惑をかけられることを嫌って生活必需品を全て持って一人で旅に出た。

非国民集落を知ってる人に連れられて行く市民を横目に、宛もなくさまよっていた。

幸い、野生の生き物や水には事欠かない。


歩いて食べて寝てを繰り返した。

ある時、ふと見上げた天井の穴に丸くて明るい物が見えた。

それは神々しく輝いて俺を誘っているように見えた。

天啓と思った。

だから俺は、野生の生き物を解体して焼いて食べた時に何かに使えるかと残していた骨を使って崖に骨を打ち込み足場を作って登り始めた。

水力発電が確立されてからこんな原始的な生活を余儀なくされるなど誰が想像しただろうか。

最近流行りの旅に興味のなかった俺はキャンプグッズなど買ったこともない。

故にテントも何も所持品にはないのだ。

骨を2つ打ち付けて両手両足を安定させて登っていった。

何日もかかり骨を集めてドライバーの反対側で打ち付けていく。

機械修理に必須のドライバーは流石に俺でも持っていたので、地味で地道で辛い作業を繰り返した。

何日も何日も一心不乱に。

高さがある程度上がってくると、危険を感じて大型の動物、主に馬の骨を使うようになっていった。

直上に打ち込むことをやめて、途中から階段状になっていった。


そうしてようやく地上に出ると俺は生き物の気配を全く感じなかったので、一度地底に戻って食料確保してから地上に出た。

まさか、水がない世界とは思いもしなかった。

肉も野菜もあるのに水がないまま、地底の穴ももうどこかわからない。

ただ、彷徨い続けて原始的な作りの土の塊が集まっている場所を見つけた。

外から何日も観察したが、普通に人が生活していたので旅人だと伝えて集落に入れてもらった。

残り少ない野菜を提供して、肉は自分のために取っておいた。

火を起こすことを知らないここの住人の文化レベルの低さに驚いた。

俺は火を起こして木材を加工し、野生の綿を集めて寝床を作った。

ここの住人は金の概念すらなかった。

自分と家族のために魔法を使って、ただ生きているだけの無機質な存在だった。

俺はログハウスを建てて、住み始めた。

やがて、俺の家を気に入った数人が一緒に住むことになって、地底では何も買えない金銭を給料として渡した。

貨幣経済の始まりになって、誰かのために働く、誰かのために魔法を使う事で賃金が発生するという考え方が時間をかけて浸透していった。

金だけでなく、時には衣服や森で探してきた食料と交換したりもした。


数年が経ち、貧富の差が少しずつ出てきた頃、不意に地底世界を懐かしく思って、お世話になった皆に挨拶をしてからその地を後にした。

地底の穴を探してさまよったが、魔法の使えない俺に地上での旅は不可能だった。

集落は何度か見かけたけど、最初の集落で渡せるものなどすでになかった俺は、何の協力も取り付けられずに、追い出された。


俺の人生ってなんだったんだろうな。

最後の瞬間、走馬灯とともに無為な人生を振り返っていた。

他人のせいで罪人となり、無謀にも地上を目指して、魔法が使えなければ餓死する世界で何を成すこともなく人生を終える。

せめて魔法が使えたら。

せめて罪人が出なければ。

俺の人生はもっと前向きだったはずなのに。

俺はゆっくり意識を手放した。

もう腹の音も聞こえない。

腹が減りすぎてから寝る時間が増えた気がしていたけど、朝と夜のあるこの地上にあっても時間がわからなくなるほど寝ていた。

楽になりたいから次こそ目覚めませんようにと。


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