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絶対のんびり至上主義  作者: sakura
地底世界編
69/86

69話.地底世界の話

「おはようございます。」


朝陽と裕太の散歩中に遠藤さんと佐伯さんがランニングをしていた。


「おはようございます。」

「お・おはようございます?」


佐伯さんの挨拶はぎこちない。


「佐伯さん?」


「あ、ああ、いえ。挨拶に種類はなくて、いつもこんにちはだったので」


地底世界は常に明るいらしく、朝昼夜を認識しないので、どうにも慣れないようだ。


「暗くなるのって怖いですね。こんなのは初めてです」


「慣れませんか?」


「実はすぐ慣れそうです。寝付きやすかったというか、時間の感覚が地底にはないので」


「寝ることは良いことです。私見ですが、朝起きて、夜寝る事ができないと、睡眠時間がおかしくなったり、不調をきたしやすいと思うので」


そんな話を軽くしてから二人はランニングに戻っていった。

よく朝から息苦しくなるのにランニングなんてできるものだ。

小児喘息に苦しんだ経験から呼吸関係のストレスは感じたくない。

というか、ほぼ全て拒否していた。


朝陽と裕太を見ると、どこか不思議そうな顔をして佐伯さんが見えなくなるまでじっと見ている。


「どうしたの?」


「あのね、あの人火を出すときのもやもやがないの」

「水を出すあれを持ってないみたいだ」


そういえばそうだった。

佐伯さんは使えないとかではなく、魔力そのものを感じられないし、持っていないのだ。


少し気になるような表情をしていたけど、変なのというと散歩の続きを促してきたのでゆったり歩いた。


私は少し気になっていたので遠藤さんの勉強時間にお邪魔することにしていた。

地底世界の状況を知っておきたいからね。

光があって、豊富な水資源がある。

それ以外の情報は実際の所殆ど持っていないので、探索するのもいいかと思ったこともあったけど、結局何もしてなかったからね。


小垣さんの授業中に山北さんに挨拶して聞き耳を立てる。

佐伯さんは数字に強く、科学知識が豊富なようだ。

横にいる山北さんが、朝の授業でわかったことを説明してくれた。

遠藤さんより計算が早く、応用力もあるらしい。


小垣さんの授業を聞きながらその理解力の高さに目を見張った。

1を聞いて3を知るような感じで理解していることを要約して返す佐伯さんは本当に優秀な生徒さんだった。


「中島さんはどう思います?」


「ん、何が?」


聞いてなかった。


「ですから佐伯さんですよ。地底世界があることはわかりましたけど、何か思惑とか?」


「あぁ、そういうことですか。今は情報が少なすぎるので判断できないですね。魔法が使えないのは本当みたいですし、特に警戒する必要もなさそうですけどね」


「それもそうですね」


そう言って山北さんは佐伯さんを見て


「でも、気になりませんか?」


「気になります」


「ですよね」


そう言って嬉しそうに笑った。


授業が終わった後、佐伯さんを囲んで歓迎会をすることになった。


「佐伯さんはどうして地上に出ようと思ったのですか?」


小垣さんが遠慮を見せずに質問する。


「えっと、そうですね。地底世界は色んな国がありますけど、どこも似たような感じで面白くないんですよね。

地底世界が広すぎて旅をするにも不便ですし、面白いものなんて何もありません。

変わったところに行ってみたいと思ってる人も少なくないと思います。」


「地上からすると地底のほうが変わってると思いますけど」


ぼそっと山北さんが呟く。


「見たことのないものを見たいとか、新しいことをしてみたいって思うじゃないですか」


「それは確かに」


うんうんと小垣さん達も頷く。


「俺は地上に上がったから、こんな面白い状況を見て、家畜を連れ回す人に会って、寝心地の良い寝床で寝られる。最高ですよ」


家畜、家畜か。地底には何らかの生き物が居るのは確実だな。

朝陽と裕太を家畜と呼ぶのは許せないけど。


「うちの朝陽と裕太は家畜ではなく家族です。他の皆も同じですよ。」


家畜にピンとこない小垣さん達は何のことかわかってないから置いておく。


「それはすみません。動物を家族という人なんて地底にはいなかったので。」


「佐伯さんに質問があります。地底の生き物に空を飛ぶ鳥はいますか?」


「空を飛ぶ?普通にいますけど・・・」


何でそんな事を聞くのかって顔だ。

だけど、それはおかしいだろう。

空を飛べるのなら他の生き物がいない地上の空は楽園のはずだ。

それが何故か地上に出てこない鳥というのに違和感しかない。

しかも、家畜という味方をしている人類の側にいるのは種の存続という本能があればおかしいと思う。


「地上にはいないのですか?」


「地上には人以外の生き物はいませんよ。この子達も中島さんが魔法で生み出してくれただけでそれまで見たこともない生き物でした。」


山北さんが陽太を優しく撫でながら思案する。


「え?鳥は空を飛べるんだから地上に出てもおかしくないのに何で?」


「さぁ?それはわかりません。地上と地底には相当大きな違いがありそうですね」


・・・・・・・・・・・・・・・・・


生き物の話から食べ物の話を経由して市町村の話になっていった。


「それで出生登録と市民帳をもらって税金を収めて国外旅行するときとかの身分証明書も兼ねているので旅をするために必要になるのです。」


ほぼ日本の行政のようなシステムを語りだした。


「以前私が地底に降りた時に誰も住んでいない街がありましたが、あれはどういった状況ですか?」


「えっと、多分犯罪者が出て重税を課せられて全員が逃げた街とかじゃないですか?」


「犯罪者?」


「殺人や麻薬栽培とかそういうものです。どこの市町村でもそういう人が一人でも出ると教育不足として市町村の全体で責任を負わされるので登録証がある限り他の場所で隠れることも出来なくて、市町村以外の場所に逃げて登録されてない非国民集落で生活してると聞いたことがあります。」


非国民集落?江戸時代の犯罪者が被差別部落に送られたようなイメージかな?

差別がいまだに残っていて問題になっているけど、ハッキリ言ってその当時の不倫で被差別部落行きになった人の子孫を差別するより、現代の犯罪者のほうが余程質が悪いと思う。

なんなら不倫したりする人を差別するなら現代社会に生きている人達は犯罪者の数がとんでもない数になるだろうな。

不倫だけでなく、犯罪者をそうやって隔離していけば、日本で普通に生活する人はかなり真面目な一般人に限られそうだ。


それにしても、なかなか徹底して犯罪者を糾弾する社会が形成されてそうだ。

地底世界は登録証がなければ危険みたいだし、あまりウロウロしなくて正解だったかな?


「地上にはそういうのないのですか?」


「ないですね。」


皆が揃って即答した。

街では登録証ではないけど運転免許が発行されていて、身分証明にもなるようにしてるけどね。


「どこかの市町村に行くと最初に登録証をリーダーに通します。そこで誰がいつ入ったのかわかるようになっていて、通さずに入ると警報がなります。」


地底世界の一般常識の話が続く。


「たまに子供が初めてのお使いで警報を鳴らしてあたふたしてる光景を見ますね。

一度でも鳴らすとトラウマになって絶対に鳴らさないように注意するようになりますけど」


とおかしそうに笑う。

登録証か。佐伯さんの登録証を魔法でコピーしても駄目だろうな。

もし行くのなら、地上の人間だと明かした上で正直に接しないとすぐに困ったことになりそうだ。


「地上に出てきて税金の支払いは大丈夫なんですか?」


「税金は問題ないです。俺は放浪の旅ついでに行商で稼いでいたので、資産は結構あるんですよ。しかも、カードから勝手に落とされるので30年は放置してても問題ないです。」


税金が安いのか、地底世界の中では金持ちなのか判断に困るな。


「別に家族もいないし、ただ旅をしてるだけって無機質な感じが嫌だったんで、非国民集落でも良かったんですよ。面白そうなものがあるならね」


娯楽に飢えてたって感じで地上に上がってくるのはなかなかすごいと思う。

それにしても地底世界はかなりモラルを重視してる場所のようだ。

妖狼帝国の各市町村だけでなく、他国でも同様に犯罪者を許さない風潮らしい。


「でも、今どっちか選べって言われたら地上って答えるけど。

眩しいくらいの明るさも眠くなる暗さも体験できる。

住心地は良いし料理も美味しい。

地底には飲食店ももちろんありますけど、ここほど美味しい料理は食べたことないですし」


なんにせよ、ここを気に入ってくれたのなら何よりだけど、犯罪者が地上に上がってくるのは困るな。

工夫しておこう。


色々地底世界の事を聞いた後、私は地下格納庫周辺に犯罪者を通さないイメージをして階段も含めた一角を大きな膜で囲った。

一応出入りできるかどうかをエレベーターで一緒に降りて佐伯さんに試してもらって問題なく出入りできたので佐伯さんも犯罪者ではないようだし大丈夫だろう。


佐伯さんの話が全て本当なら行商できるはずもないから問題はないと思ってたけどね。

科学と監視社会の地底世界に魔法の地上世界か。

何もなければいいけどね。


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