68話.地底からの来訪者
皆でサーキットを堪能して帰宅してから数日が経った。
なぜか小垣さんがあの後何度か暇を見つけては結城を連れて車で出かけることが多くなった。
サーキットにでも遊びに行っているのだろうか。
事故には注意してもらいたいものだ。
山北さんは遠藤さんの勉強を見るうちに自身が理解不足だと自覚して勉強し始めたらしい。
陽太が少し寂しそうだと西園寺さんが言っていた。
その西園寺さんはモモちゃんモモちゃんと一筋の愛を貫いている。散歩に行ってからモモちゃんのためにと少し筋トレを始めていた。
遠藤さんは勉強の息抜きに安全運転でドライブを楽しんでいる。
特に困っていることはなさそうだ。
私はここ最近地下格納庫を作った為か、完全に燃え尽き症候群で休んでいた。
散歩に行くくらいしか外出しないのに、散歩で結構誰かに会ったり一緒に散歩させたりした。
一緒に散歩?だったのかな。
朝陽に会えた嬉しさに暴走した子達が離れそうになくて結局一緒に行くことになるパターンだった。
そんなとある日のこと。
恐ろしく長い地下からの階段を上がってきた者がいる。
知ってる人ではない。
防犯用の全てを無効化して。
私は警戒した。
何が起きるのか分からなかった。
その人は佐伯楽斗と名乗った。
こっちに来てから始めてみた愛想笑いを浮かべた彼は朝陽と裕太がひどく吠えたので気になって外に出たらいた。
普段普通に会話してるのに危険があると吠えるんだなと妙なことを考えながら彼に話しかけたら自己紹介し始めた。
その内容に気になった事がある。
妖狼帝国の幻龍市に住んでいたと言ったのだ。
この世界には国と市町村がある事がわかった瞬間だった。
しかも地底に。
私が地底を確認した時は廃墟になっていたが、地底はもっと広く、国に市町村もあるそうだ。
地底を放浪する旅をしていた彼は、水の乏しく資源のないと揶揄される地上を見てみたかったが、さすがに地上につながる階段などはない為、諦めていた所、ここのメンテ用階段を見つけて上がってきたらしい。
彼は色々質問してきた。
資源がない、水がない、食べ物もないと聞いていたのになぜ生きられるのかから始まり
家を紹介すればこれは何、あれは何?と
家の作りは似ているのに全く違うそうだ。
私は細かく説明するのに飽きたので、遠藤さんの教材として遠藤さんに彼の世話を頼んだ。
佐伯さんはひとまずここで生活したいと言い出したので一緒には面倒という気持ちから遠藤さんに教材として渡すことにした。
教えるということのポイントがつかめるなら一石二鳥ではないだろうか。
地底の国や市町村に興味がない訳では無いが、一人しか知らない状況で地底の国探索でもするかとはならない。
一応社長にだけはメールで連絡しておいた。
地底では魔法を使える人がいないことだけ分かれば問題ない。
今のところは特に問題もないから佐伯さんがここをタボ死んでくれるなら滞在してもらって問題ないけど、人を連れてくるのだけは勘弁してほしいな。




