62話.自己定義が曖昧
目覚めは爽快だ。
生まれ変わったようにね。
はぁ~、私は今、本当に人間なんだろうか。
自分で自分を作り替えた。
サイボーグではないのは間違いない。
それでも、イメージで何もかも生み出せるこの世界で、自分を作りえたわけだ。
疑心暗鬼にもなる。
眠っている時に魔法が発動していたら?
あんな事があった後だと言うのに、私の心は晴れている。
不思議な感覚。
どうにも自分が自分でないような・・・。
私は今、人間だろうか?
ま、うだうだ考えていても、私は私として今ここにいるわけだから後回しだな。
そして、いつも通り散歩に行くが、朝陽と裕太に元気がなく、何となく気まずさを覚えて遊びも控えめなものになった。
それから私は地下基地に向かいせっせと戦艦製造をしていたのだが、ありえないほどあっさり作れてしまった。
骨格がむき出しの部分から驚くほど詳細にイメージが出来て魔力もそこまで使うことなくすべての建造が完了した。
朝陽と裕太が元気になってくれればいいなと思い、朝陽と裕太を呼びに行って地下に降りた。
見たことのない部屋におっかなびっくり入って、巨大な戦艦に尻尾を股に挟んだ。
大丈夫だよ。と声をかけて戦艦に乗り込む。
乗り込んだら尻尾が振られた。
家やキャンピングカーのような構造に嬉しくなったのだろう。
走り回って色々と探検し始めた。
ちなみに、この戦艦には特別室が用意されている。
そこは、うちの土間のような場所でわんこ用のトイレまで完備されている。
わんこ用の遊び場と砂場まであって、楽しめるように作った。
戦艦に似つかわしくなかったが、怪我の後でイメージしているとふいに詳細にイメージできた。
観光目的に作ったし、家族の憩いの場所は必要だろうと思ったから。
まぁ、そのうち見つけるだろうな。
そんな風に思いながら私は一人でブリッジに向かった。
せっかくだからな。
戦艦のブリッジではドライブシュミレーターのようなセットが用意されている。
上昇と下降はアクセルとクラッチの位置、ブレーキはブレーキでつけて、ハンドルで左右を前進と後退はハンドルに付いたスイッチによって動作する、
私はその構造をもう一度自分自身に刻み込むとアクセルを踏み込んだ。
音もなく、艦は上昇を始めた。今頃朝陽と裕太も興奮してるかな?
気分が乗ってきたのでそのまま地上のハッチを開けるスイッチを操作した。
すると巨大なハッチがゆっくりと開いていき艦は吸い込まれるようにそこから地上に上がった。
地上に上がると自然の光が目に飛び込んできたが、眩しくない程度に軽減される。
いや~ブリッジ作る時にアニメで見たビームの眩しさを腕でガードするシーンを思い出したけど、アニメって偉大だね。
(注)ビームから身を守るための反射行動の描写と思われる
徐々にアクセルを戻していくと空中に静止した。
そこで私はハンドル奥のパネルに設置されたスイッチを押した。
艦船は着陸態勢から移行するために変形を始める。
一分ほどで変形が完了すると、ハンドルのスイッチを押した。
前進スイッチ。
これを押すと、もう一度押すまで前に向かって飛び続ける。
私はハンドル操作だけに集中する。
スピードについては10段階の1段階目だ。
設置したパドルシフトで+スピードを操作する。
徐々にスピードを上げていき、戯れに作ったスタジアムが一瞬で後方に去っていく。
パドルシフトで少しずつ速度を落としていった。
何故か? 街が見えてきたからだ。
見覚えのある建物も上空から見下ろすとだいぶ違って見える。
前進スイッチを押して空中に静止しているとショウが迎えに来た。
何となく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか?
着陸態勢に変形してから高度を下げていく。
数名が街から猛スピードで出てくるのがみえるが、殺気立ってないか?
まぁ、会えば誤解も溶けるだろう。
着陸後朝陽と裕太を探して艦内をウロウロする。
朝陽と裕太はしっかり家の土間にわんこのおもちゃが大量のわんこ部屋にいた。
「朝陽、裕太。降りるよ」
「はーい」
返事をしてからついてきた。
タラップを降ろして見覚えのある場所に朝陽と裕太は尻尾を振り始めた。
車と違ってこちらは酔わなかったようで一安心だ。
朝陽と裕太を連れて遠出する時はこの戦艦を使おう。
タラップを降りると社長が目を輝かせて舞っていた。
周りは魔法を使うつもりだったのか掌をこちらに向けていたが、私が降りると安堵して手をおろした。
「いや~なかじまく~ん。何だいこれは、すごいじゃないか。
乗せてもらっていいかい?
さすがに空は飛んだことがないからね。
すごいな~いいな~僕も飛びたいな~」
すごい勢いで捲し立ててくる。
しかも大声で。
聞こえてるから、十分すぎるほどに。
「で、どうやって作ったの?
他にも作れる?小さいので良いんだけどさ。
なんでも手伝うよ?
それとも、中島くんに嫁ぎたい可愛い女の子を募えばいいのかな?
お嫁さんがいると家の中が明るくなってさ~楽しいし可愛いし最高だよ~」
いつまで喋ってるんだこの人は。
そう思っていた所に1組の男女が向かってきた。
「あなた、興奮を抑えてくださいね。皆さんにご迷惑ですよ」
「はいっ!」
背筋を伸ばして返事をした後。恐る恐る振り返ってガックリと肩を落とした。
「なんでいるの?奈美」
「あなたの部下の人が、多分暴走するから助けてくださいって」
それを聞いて連れてきた男性を睨む社長とぴくっと反応したけど平成を保つ部下。
何というか、これだけで家庭の力関係が垣間見えるし、職場環境も透けて見えるね。
絶対外せない重要な会議でもスポーツのために逃げ出す社長にたしなめる奥さんって感じか。
苦労してるな。
「ああ、でも」
奥さんが呟くように小さく言った。
「これは本当にすごいわね。貴方が興奮するのもわかる気がするわ」
何だかんだで理解のある奥さんだった。
「私も乗ってみたいわね」
このセリフでただの似た者夫婦と思ったわけだが。
「わかりましたけど、後でいいですか?
せっかく来たので子犬たちを見ておきたいので」
「おお、そっかそっか。なら案内するよ」
社長と奥様に先導されて役所に向かう。
その間も何やら噂されながら通りに人垣ができた。
パレードみたいだな。
役所につくと早速わんこ部屋に向かう。
あれ、なんだか数が少ないな。
そこには数匹しかいなかった。
何で?
「聞いてよ中島くん。
みんな基準をクリアしちゃったもんだから慌てて役所で飼う子犬を確保したんだ。
課長一家の犬が子犬を生んだから何とかなってるけど、全然足りなくてさ。」
なるほど。それなら良いか。
仕方がないので一気に魔法で生み出した。
また子供が産まれたりするだろうし、どんどん増えていくから大変だけど、みんな失う苦しみを味わうことになるのか。
辛いけど頑張れよ。
「ちなみにだけど、うちでも二匹引き取ったんだ。」
「ええ、かわいいわね。そのお世話をしてるだけで幸せよね」
それは完全に子供ができるのが遅くなるパターンですね。
それにしても一家に一匹ではなく一人一匹か。
これは、役所のわんこ管理をブリーダーのようにしておかないと厳しいだろうな。
私は社長にオスとメスをしっかり確保して子供が産まれたらその世話と管理を考えてもらうように伝えておいた。
役所をペットホテルのように管理して、満2歳を過ぎたわんこに子供がほしいという飼い主がいた場合にペットホテルを利用するようにして産まれた子犬のうち一匹を飼い主へ、残りを役所預かりへ、と管理しておかないと把握できなくなる。
話を終えると役所を離れた。
しれっと逃げ出すつもりだったのに、すぐに指示を終えた社長と奥さんはしっかりと付いてきた。
仕方ない。
うちの土間に行っててとおいていった朝陽と裕太を引き取って戦艦へと向かう。
朝陽と裕太は我先にとタラップを上って走っていった。
相当わんこ特別室が気に入ってくれたらしい。
社長と奥様、有志の5名を連れてブリッジについた。
雰囲気のためにシートは前だけを向いているわけではないけどそれぞれが適当にシートに付いた。
私は上昇させてからゆっくりと街を旋回した。
ショウが続いて上空へ上り、同じ高度で横を飛び始めた。
空を飛ぶ仲間ができて喜んでいるのだろうか。
背中についている家が使われることもなく寂しげだった。
「社長、少しショウの相手をして緊急時でなくても家を使って飛ばせてあげてくれませんか?」
人を乗せて飛びたいような気がした。
「わかったけど、一度本気で飛んでもらってもいいかい?
せっかくだから中島くんの今の家まで案内してよ」
話をそらされた気はしたけど一応了承はしてもらったので良しとした。
交換条件のように案内することになったので速度を上げていき、最高速度に達してそのまま飛び、家の近くで徐々に速度を落としていった。
着陸態勢を取り高度をゆっくりと下げていき地面に設置する衝撃をダンパーが吸収してからタラップを降ろした。
社長は止めるまもなく奥さんの手を取り走り出した。
タラップを降りても家が4軒あるだけなので楽しめる要素は殆どない。
ここで気づいた。
車が積めるようにしてなかったためにまた、往復しないといけない事に。
一台車を作ってもいいけどそんなにポンポン出していたら駐車場も足りなくなるだろう。
それはなかなか面倒だ。
それぞれの愛車を大事に使ってもらいたい。
駐車場にエレベーターを設置していなかったことを思い出して往復するついでに作っておこうと思った。
社長と奥さんは小垣さんたちの家を訪問してわんこの遊ばせ方を見て頷いていた。
何を納得したのだろうか。
勝手についてきてモモちゃんたちと遊び始めた朝陽と裕太をおいて、運転で疲れた私は少し仮眠すると言い残して家に戻った。
スピードを出すと周囲をしっかり把握しておかないと通り過ぎてしまう可能性があるから仕方がない。
戯れに作ったスタジアムはいい感じの目印になっている。
だがそうなると、やはりGPSは再現したい。
そういうものだと考えれば再現できるのだから何とかなるだろう。
戦艦でも大気圏を突破できるだろうからな。
人工衛星を浮かべて即位するためにもマップを作ることを優先しようと思う。
今度星を全てスキャンする機械をイメージして衛星のように飛ばすことにしよう。
その後GPS衛星を飛ばしておく。
そうすれば全員の車のGPSで位置測定もできるだろう。
ナビも使えるようになるってことだ。
まぁ、今はいい。
少し本当に寝よう。




