55話.子ども食堂の相談のはず
私は今、小垣さんに子ども食堂について相談している。
そのはずだ。何も間違っていない。
なのになぜこうなった。
小垣さんとの会話を遡って思い出してみる。
「それで、子供達だけでは心配なので奥様方が協力してくれると助かると思い、その橋渡しをしていただけませんか?」
「えっと、連絡先はわかりますし、皆さん協力してくれると思いますけど、
中島さんから頼んだほうが絶対にいいですよ?」
「いえ、私がそういう話をすると、なぜか強制みたいに思われてしまいそうですし、小垣さんから頼んでもらえたほうが乗り気になってくれるんじゃないかと」
「う~ん・・・、この際だから言いますけど、中島さんってすごい人気者なんですよ。
気づいてます?」
「それって、人気者って言うより、今までと違った常識を持ってるから、その知識がありがたがられているだけじゃないですか?」
「何でそういう自分なんてみたいな考え方してるの?
あたしならあたしの事見てる人がいるな~。あたしに気があるのかな?とか思うけど
中島さんだと、みんなが珍しいものを見るような目で見てくる
みたいになってません?」
「あ~・・・ないとは言えないかも。人の視線も苦手ですし」
「あたし達はみんな中島さんに感謝してるんだけど伝わってる?
伝わってないならそれってすごく悲しいことだよ?」
「・・・・・・。」
「中島さんはさ、みんなが感謝してる理由がわからないと感謝を受け入れられない?」
「私が感謝されるようなことをしてるなんて考えてないからね」
「あたし達が感謝してるのは中島さんだからだよ。
例えば会長みたいな人が違う世界の常識を知っていて自分のためだけにそれを活かしてたら、誰も感謝しないでしょ?」
「それはそうかも」
「中島さんはみんなのために色々考えてくれて行動してくれたから感謝されてるの。
別に知識があるからってだけじゃないんだけど、それはわかってもらいたいかな」
「でも、私じゃなくても同じことをする人はいると思うけど?」
「でも、じゃないんだよ。
仮定の話をし始めたらそれこそ話は進まないから、それはなしにして」
「うっ・・・。」
「中島さんが考えてくれたんだよ。魔法が甘えだって。
だから、みんな楽しく運動を始めてかっこよくなったりかわいくなったりしたの。
それだけでも感謝される事なんだよ。
中島さんがもしも、太ってると不健康だからやめろとか
とにかく走れみたいな人だったら誰も行動しなかったし
理屈だって中島さんの常識と照らし合わせてみんなのために良くないから楽しく運動できるようにしてあげたいって
そこから始まったんだよ」
私の事がすごく美化されてる気がする。
そんな立派な人間ではないのに。
「他の人が中島さんみたいに来たら、魔法を使おうとか思わなかったんじゃない?
中島さんにとっては非常識で理解不能な内容だったんだよね?
あたしは最初、それが理解できてなくて、まなちゃんとか課長に叱られたんだよ。
だけど、中島さんは自分でも使えるようになって、このままじゃみんなにとってよくないって思ったから、順番に一つ一つ説明して教えてくれたんじゃない。
だから、あたし達が中島さんに感謝してるのは中島さんだからだよ。
ここだけは絶対に間違えないで」
目に涙をためながら話されてようやく私は少しわかったような気がした。
私は無意識に私よりもっと素晴らしい人がいるから私なんてと考えていたんだな。
「あたしもさ、まなちゃんも、社長も課長も、みんな中島さんが大好きなんだよ。
落ち込んでたら心配もするし、体調が悪かったり、無茶をした後とか本当に心配したんだよ
でも、そうまでしてくれた中島さんが、ここを出ていくってなった時、あたし達は中島さんに負担をかけてたんだなって思ったし、悲しかった。
あたしとまなちゃんが勝手についていったのは恩返しもあるけど、本当に中島さんのことが好きだから。
みんなも離れてても心配してるんだよ。」
「ありがとう」
それだけ言うのが精一杯だった。
「わかってくれたら良いよ。それで、何の話だっけ?」
子ども食堂の相談に来て染みる話をされて、自分でみんなに声をかけろという話に戻す気力はなかった。
私は叱られることが本当に嫌いなんだ。
今回はそこまでキツくはないけど、やっぱりしんどい。
私は自室に戻り、枕を涙で濡らしながら、苛立ちとか感情がごちゃごちゃになったまままだ。
まだ昼だというのにもう寝ることにした。
何も考える気は起きなかった。
もう、面倒だから、私が全部やろう。
ある程度折り合いがついたら地底世界でも旅しても良いかもしれない。
私はいい人じゃないし、期待も好意もしんどい。
あんなふうに言われてもどうして良いかわからないし。
だから、私は帰ろうと思う。
美野里ちゃんとあおいちゃんには建物は用意したんだから約束は果たしたし、犬の約束も果たした。
そもそも、こっちに長く滞在するつもりもなかったし、明日帰ろう。
何かしんどいよ。
夜中に目覚めた私は夜のうちに車に乗り込んで走り出した。
二度目の逃亡だった。
SAをいくつか無視して何度目かのSAで少し落ち着いたので、宿泊施設で眠ることにした。
運転疲れが少し取れたら、また走ろう。
目が覚めたらまだ夜は明けていなかった、
再度車に乗り込むと家路を急いだ。
休みながら家にたどり着くと、インターホンを無効にしてスマホの電源を切ってまた寝た。
自分でもメンタル弱すぎと思うけど、無理して頑張って八つ当たりしそうで嫌だった。
朝陽と裕太だけ通れる虹色の膜をわんこ用の出入り口に設置すると、完全に外界と隔離された自宅を手に入れた。
私はたまに朝陽と裕太が帰ってきてくれたらそれでいい。
それに、朝陽と裕太をこっちに呼び戻すと3匹の子犬がどうなるかわからないからね。
あの子達の世話はうちのわんこに任せてゲームでもしてよう。
私はそんなつまらない人生を生きていく。
もうそれでいい。




