53話.社長との通話
私は寂しさと人の煩わしさを同時に感じていたのかもしれない。
人のパーソナルスペースを踏み越えようとする者。
遠慮なく叱り飛ばす輩
そういった者に辟易して逃げ出したくなるくせに、同時に寂しさも感じている。
そんな複雑な感情が体をぐるぐると巡ってだるさを感じていた。
子供達に癒やされ、わんこに癒やされしたものの、どうにも気持ちが上向かなくて体調不良と言って先生と生徒が帰るまで散歩以外で外を出歩かなかった。
ちょっと頑張るとすぐこれだ。
我ながら情けなくなるな。
何はともあれ約束したからには果たさないといけない。
気分は乗らないけど、というか街に入ったらまた異様に持ち上げられて囲まれるだろう。
本当にしんどい。
仕方がなく社長に連絡を入れた。
まさ、話しやすいし似たような境遇から唯一仲間のような意識だからかそこまでの拒否感はない。
3コール前に繋がり
「おお、中島くんから連絡が来るなんて明日は氷が降るんじゃないか?」
「いや、氷が降るってどんだけよ」
「それにしても」
口調を穏やかに変えて話し始めた。
「どうやら大きな衝撃を与えたらしいね」
「何のことだ?」
「真壁くんだよ。絶賛してたよ。やっぱり先生はすごいとね」
マジでそういうのいらないんだけど。
「イメージの仕方を上手く説明したんだって?」
「まぁ、引っ掛かりそうな内容だったからね。
やっぱり知識は知識。学校の勉強では実際に結びつけて応用なんて出来ないでしょう。
応用の手法を一つ体験してもらっただけですよ。」
「それで学校の授業内容が大幅に変わりそうなんだけど?」
「それこそ樹先生や翠先生。他の教師陣が考えて出した結論でしょう?
本人たちをたたえてあげてくださいよ。」
「それで囲まれて気分が悪くなりそうな状況なってしまったと考えて体調不良だったのかい?」
よく私のことをよんでいる。やはり方向性は違えども似た者同士か。
「それで?僕のところに連絡してきたってことは犬の件かい?」
「まぁ、そうだね。今度そっちに行こうと思うけど、いくつか作りたい建物とわんこたちの生成をしようと思ってます。」
「それは良いんだけど、囲まれるよ?」
「ある程度は我慢しますよ。」
「ある程度ね~。とりあえず、飼い主は認可性にしておくから希望者をリストアップしておくよ。
こう見えて、僕も役所の長だからね。
それと、戸建てに住むって条件だけど、作る必要はないよ。
橋田くんが張り切って住宅注文受けてたからね。
見返りは筋肉と美味しい食事でそれぞれの家庭から食べ物もらって気に入ったら生成するってレパートリーを広げてるらしいからね。」
本当は橋田さんにこそお食事どころが必要なんじゃないかと思った。
「では、戸建ての生成はせずに、他のものだけ作りに行きます。
たぶん同行者がいるので、好きに見学させてやってください。」
「見学も何も、ほとんど中島くんが作って育てた街じゃないか」
いくら箱物を作ろうと住む人が居なければ虚しいだけだ。
「そちらのことはそちらで好きにしてもらいたいので、私がしゃしゃり出ていったりはしませんよ。」
「相変わらずだね。それで、日程はどうするんだい?」
「気が乗ればふらっと行くと思います。同行者にも聞いておきますので。」
「わかったよ。楽しみに待ってるから人に酔うなら役所で窓口を作って仲介してもいいし、任せられることは任せてしまって気楽になりなよ」
そんな会話を続けていると奥様が焦れたらしく。
「ちょっと横にいる人の目がつり上がってきてるからまたね~」
唐突に通話は切れた。
自分を無視して楽しげに話す旦那に嫉妬してたのか?
こちらには関係ないから日程を含めて相談しておこう。
と思っていたところに訪問者
件の3人プラスワンコたちだった。
噛んで喧嘩してたと訴えてきた。
甘咬みだろうと咬むことに違いはないので心配するのは当然かも知れないけど
「犬の社会は弱肉強食、つまり喧嘩に強いかどうかで序列が変わります。
ですが、このくらいの小さい子犬たちはそういう喧嘩から加減を覚えていくものです。
喧嘩してるからといちいち止めていては飼い主であっても本気で咬むのでそこそこ自由に喧嘩させておいてください。」
私からすればものすごくくだらない一般的な常識の範囲内だったが、中が悪いとかどの娘が怪我したとかそんなところだろう。
犬にとっては普通のことだから騒ぎ立てなくて大丈夫だ。
「解決したところでこちらからもいいですか?」
そして街に行くことを告げると西園寺さんは今から行きましょうと言い出す。
よほどウェディングドレスを見たいのだろう。
小垣さんと山北さんも行きたいと言うので同行者は4人になる。
わんこはどうしよう・・・。
朝陽と裕太に任せることにした。
朝陽と裕太に3家の庭で戻るまで生活してもらうことになり、餌を大量に出しておいた。
連れていきたいけど、車酔いが嫌だというので早めに帰るように日程を組もうと思う。
向こうに行ってすぐに帰れるように動こうと思う。
西園寺さんもモモちゃんをいつまでも置いていられないだろうからね。
その場で決まって朝陽と裕太も留守番するというので任せて3人はそれぞれの車で移動。
西園寺さんは山北さんの車に乗ることになった。
いつも人に流されてばかりだな。私は。
私達が駐車場からそれぞれの愛車を出して小垣さんと山北さんが前を走り私は後ろからついていくことにした。
念のため3人の車のナビで通話できるように設定しておいた。
グループ通話が可能なので眠そうだったら休む事を確認して走り出した。
運転も時々しておかないと二人の運転技術が錆びついても怖いからね。
しかし、高速道路を生成したわけだが、100キロに届かないスピードで走り出した。
上りも下りもないので踏みシロが同じならずっと同じ速度になる。
ご想像の通りずっと3人でガールズトークが展開されていた。
SAには毎回立ち寄った。
せっかくだから全部見たいそうだ。
モモちゃんが心配ですのに興味で立ち寄りたくなりますわ。
ごめんなさいですわモモちゃん
等と一人悲観にくれていたが、旅路は順調だ。
ある程度進んだところで今日は休むことになった。
手頃なSAで宿泊施設に入り、食事を取り、風呂に入って寝る。
明日からも運転だから、早めに寝て疲れを取らないとね。
そんなこんなで数日後に街に到着した。
夜中だったのでとりあえずそれぞれの自宅(西園寺さんは小垣さんの家)で寝た。
明日からの不安はあるが、疲れはまぶたを落とさせる。
抗う必要もないので近年稀に見るほどすぐに寝入った。




