52話.課外授業
そこから話し込んでいたが結婚結婚と男には中々入りづらい会話が繰り返されていたので樹先生と子供達の様子を見る口実で逃げ出した。
「また逃げられちゃいましたね。」
「やっぱり小垣さんは中島さんが好きなんですね」
「あたしだけじゃなくてまなちゃんもだから」
「そうですけどとばっちりにもほどがあります。いちいちバラさないでくださいよ」
そこで不意に沈黙が降りた。
数秒間の沈黙の後、沈黙に耐えられなくなった誰かが笑い、波及していった。
「でしたら中島さんはダメですのね。わたくし、早く結婚したいですわ。どなたかいらっしゃいませんの?」
「うちの主人から紹介してもらう?」
「そんな事してたら中島さんがまた逃げ出しちゃうよ」
「それは困るわね」
そう言ってまた笑った。
庭に出てみんなで食事の用意をするために大型のキッチンを作った。
「学校と同じだ~」
そう言ってみんなが食事の準備を始めた。
もう子供達だけで料理ができるのか。
感心した私は食材を適当にテーブルに並べた。
何を作るのか楽しみにしていた。
「今日はみんなでカレーを作ろう」
「はーい」
元気よく返事をして料理を始める子供達。
それぞれ魔法で食材を生成してから食材を洗ったり切ったりを始めた。
え、、、食材出したのに使わないの?
どうもいつもの癖で自分達で生成したらしい。
樹先生はすみませんと苦笑した。
生成した食材が無駄になるのはもったいないので量が多すぎるが冷蔵庫にしまった。
心で泣いた。
「先生~見てみて~上手に出来たよ~」
調理時間も元気で賑やかだ。
一人の生徒が先生と私に向かって呼んでから恥ずかしそうにした。
持ってきたのは味見の小皿だった。
私はびっくりした。
私の出したカレーから大幅にレベルアップしているように感じた。
甘めに調整されたカレーだったけど、私のよく食べる辛めのカレーより深みのある味でしかもとろみが増していた。
少量の味見なのが惜しいと感じるほど子供達の作るカレーは美味しかった。
「すごい! これ美味しいよ」
素直にそう言うと嬉しそうに破顔した。
「あのね。今の私のお友達であおいちゃんっていうの。
あおいちゃんの考えたカレーなんだよ。それ」
美野里ちゃんが嬉しそうに朝陽を連れてきてそう話しかけてきた。
「みのりちゃんの友達か~。美味しいカレーを作ってくれて良かったね。」
「うん。すごいんだよ、あおいちゃん。
カレーだけじゃなくて肉じゃがとかも作れるんだ」
「ご飯屋さんが開けるね」
「ご飯屋さんって何?」
「みんなにご飯を食べてもらうところだよ」
「じゃあ、私もあおいちゃんとごはん屋さんする」
「じゃあ、今度作りに行くから楽しみにしててね」
「やった」
そんな会話をしていると、美野里ちゃんお皿用意して
という声に反応してすぐさまカレー皿を生成するとお盆を出してそれをそれぞれセットしていく。
私は隣りにいる樹先生に
「これはすごいですね。
美味しい食事もお皿の準備も子供達だけでできるようになっているなんて」
「それが・・・そういう単純な話でもないのです。
どうも、魔法の上手さというか、イメージ力の差なのかあの精度でお皿を出せるのは今のところ多々山さんだけで、他の子達も得意なイメージするものが少しずつ違うんですよ。」
そう教えてもらった。
ふむ、イメージ力の差か。
ここに来たのも何かの縁だし少しテコ入れするとしよう。
「樹先生。昼食の後、私に課外授業をさせてもらえませんか?」
「え、先生が?私達の教え方では駄目でしたか?」
「いえいえ、違いますよ。樹先生は期待以上にしっかり教えてくれていることは子供達を見ていればわかります。
私の家で寝泊まりしながら勉強したことをしっかり教えてくれているようです。
ただ、イメージは元の世界を知っている私と知識だけしか知らない先生方では違うので、そこを少しお手伝いするだけですよ。」
そう言うと明らかにホッとした表情で樹先生はお願いしますと委ねてくれた。
「あっ、ですが、私と妻も参加させていただいてよろしいですか?」
「もちろんです。むしろ先生方に参加してもらってイメージを固めて教えてもらわないといけませんからね。」
そういうわけで私の突発授業が決定した。
授業は準備で9割が決まる。
みんなの賑やかな食事中にすぐに食べ終わらせて授業準備をした。
広いホールがなかったので簡易テーブルと椅子を家の外に設置してお皿を作っていった。
木の皿、プラスチックの皿、チタンの皿に陶器の皿
それぞれの材質を触って硬さを確かめてもらおうと思う。
おそらく木を触ってみた人の中には脆いイメージを持つ人もいるかも知れないし、お皿を割ったことがある人はその体験から割れるものとイメージして堅いイメージが出来ないだろう。
陶器を土だと思うことも同様だ。
中には汁物をいれると土が溶け出すイメージになっていたら危険なのでそれぞれをしっかりイメージできるように簡易で陶器を作る実習も予定している。
それからそれぞれの苦手分野のイメージを補完できるように質問時間を儲けようと思う。
お昼ごはんが終わり生徒たちが出てきた。
真壁夫妻と小垣さん質とわんこも全員集合している。
「では、今から先生の先生である中島先生に教えてもらうのでよく聞いてくださいね」
「はーい」
昼食後に眠くなるどころか生徒一人ひとりの目はランランと輝いていた。
「今から授業をしますが、みんながわからないところや質問は後で時間を作るのでその時にお願いしますね。
せっかくみんなここまで来てくれたので机でペンを持ってというのは眠くなるし今からみんなの前にあるお皿を割ってもらいます。
まず、お皿を触って硬さを確かめてから割ってみてください。」
え?とギョッとした表情で先生方と生徒たちが見てくるが、私は笑いながらその様子を見守った。
みんな興味津々で触ったり見てみたりしていたが、両端を持って力を入れてわろうとする男の子が居た。
持っていたのは木の皿だったけど割れない。
その皿を地面に叩きつけるも割れない。
「こんなん割れないよ」
そう、割れないイメージをきっちり上書きしていってくれ。
木、陶器、チタン、それぞれを前に陶器だけ割ることが出来た子が居たが、殆どは諦めてしまった。
「はい、中々割れませんね。
簡単に割れないことがわかってもらえましたか?」
「はい」
ちょっと悔しそうにしてる数人が居たが気にしない。
「では、元が木や土というのを想像して割れやすいと思ってた人は手を上げて」
複数人から手が上がる。
「そうですね。土が素材とか、木が素材だと割れたり溶けたりしやすいでしょう。
土に水を含ませて家を作ったりした子は特に思うでしょう。
ですので、今から土を元にお皿を作ってみましょう。」
そう言って赤土を用意して配っていく。
先生方も参加して粘土をこねていく。
保守的な考え方と思った通り、樹先生は一般的なお皿の形を整えていき、翠先生は花びらの形に整形していく。
きれいに整形できるように手伝いながらなるべくお皿の中を平にしていく。
なめらかな曲線を上手く作れない生徒が少なからずいるので先生方と手分けした上に小垣さん達にも手伝ってもらって全員分完成させると乾燥させる。
ここは魔法の世界なので水分を飛ばす事はイメージだけでできる。
焼入れに入るのだが、生徒に見えるように耐熱ガラスを設置したコレクションルームのような場所に均等に並べて均等に並べたバーナーで直接当てないようにして熱を加えていく。
釜は完全に熱を遮断するように設計したので熱く感じることはないけど、子供達が不用意に近づくのはヒヤヒヤする。
素焼きは長時間かかるので一旦ここまでとして質問時間に移行した。
美野里ちゃんとこみたいにわんちゃんがほしいという質問には参った。
僕も私もとみんなが欲しがっていた。
うんちのお世話をして餌もあげて、毎日ちゃんと散歩に行くと約束して、両親の許可を取ったらいいよと伝えていった。
親御さんにも生成できなかったそうだ。
ぬいぐるみを生成したらしいが、本物には及ばないらしい。
一家に一匹愛犬を連れている街になりそうだ。
ある程度話したら、今日は私が夕飯を作った。
日本でよく見たお子様ランチだ。
品数が多くて調理が面倒なので出来上がりをイメージして生成していった。
「中島先生、ありがとうございました」
そう終業の挨拶をして私は思ったより疲れていたことに驚きつつ散歩に行くと風呂に入ってさっさと寝た。
翌朝、美野里ちゃんと隼人くんが散歩に行こうと待ち構えていたので一緒に散歩に行った。
いつもペットの散歩に行っているので習慣になっているようだ。
今日は朝から昨日の続きで素焼きが終わっているので釉薬を塗り再度本焼き工程に入る。
絵を描いたりしたいかもしれないけど、あまり触ると崩れて脆いイメージになるかもしれないので今回は遠慮してもらった。
明日の朝には出来上がるから楽しみにしててねと伝えて樹先生の授業と翠先生の授業が始まり邪魔にならない程度に外から見守った。
体育の授業になり、男の子も女の子もバスケが良いということだったので外にゴールを設置した。
体育館ではないので滑るから注意して運動してもらいたい。
体育の授業には小垣さんが誘って西園寺さんも見学していた。
あんな小さな子供が魔法を使わないでこんな動きをしてますの?と驚いていた。
これから西園寺さんはウェディングドレスと結婚を目標に運動も頑張るんだろうな。
そんな気がする。
もしかしたら向こうの街に住み始めるかもしれないけど、そこは本人の意志次第だな。
今日私の出る幕はなさそうなので見ているだけで特に何事もなかった。
強いて言うなら、休み時間や放課後にうちに美野里ちゃんやあおいちゃんと隼人くんと友人3名が毎回朝陽と裕太に会いに来たくらいだろうか。
翌朝、釜の温度を下げると釜から出したみんなの陶器を眺めて、ヒビや欠けがあるものは内緒で補修しておいた。
せっかくだから喜んでもらいたいと思って苦心した。
一度温度を下げたらコレクションケースを生成してそれぞれを入れていった。
本来3,4日かかる工程が魔法のお陰で約1日作業だ。
起き出した子供達の声が響いてきた。
何事もなかったかのように今起きましたって感じに演出しますか。
釜を離れて帰路についた。
一旦家で一眠りしておこう。
それにしても子供の朝って早いんだな。
部屋で布団に潜った後、ウトウトしていると明らかに家が騒がしくなってきた。
仕方ない。ちょうど眠くなってきた時に起きることの辛さと言ったらないが、頑張ろう。
どうせ今日か明日くらいでみんな帰るだろうからね。
そうなったらぐーたら生活だ。
気合を入れて起き出した。
着替えて顔を洗うと外で生徒と先生、さらに多々山翔太さんと奥さんが勢ぞろいしていた。
「お久しぶり。中島さん」
「お久しぶりです。翔太さん、奥様」
「いつも美野里がお邪魔してすみません。」
「いえいえ、元気な声に癒されてますよ」
そんな社交辞令を交わしてから運転手として大変だった話を聞いた後、美野里ちゃんから聞いたお皿の話に興味を惹かれて見に来たそうだ。
全員集まったところで釜に移動する。
そこから釜から出してコレクションケースに入れたお皿を渡していった。
「それで、中島さん。これはどうやって作るんです?」
美野里ちゃんから見せてもらったお皿を見た翔太さんは興味津々に聞いてきた。
生成魔法で味気ないお皿を生成するより俄然興味が湧くらしい。
粘土質の土を捏ねて焼くだけと簡単に説明してから手順を書いてメモを手渡した。
みんなキラキラした目で自分で作ったお皿を大事そうに抱えた。
「これでご飯を食べられるからそれによそって食べてみてね。
自分で作ったお皿で食べるとまた違った感じで美味しく感じるかもね」
嬉しそうにする子供達にそう伝えて私の課外授業は終了した。
「せんせーい」
「何かな?」
「これも、先生の出してたお皿と同じで硬いの?」
「みんなが普段使ってるお皿も元はこうして作られたものを魔法で生成しただけなので、硬さは同じだよ。安心して使ってね」
納得したのか嬉しそうな笑顔で友達同士で見せあっていた。
「流石ですね、先生。私達には考えつかなかった方法でイメージを固める指導をするなんて」
褒められて嫌な気はしない。
翠先生は嬉しそうにそういうが、旦那さんの樹先生は少し悔しそうにしていた。
こればかりはイメージに至る過程が違うので仕方ないだろう。
「私は、子供達の考えるイメージを不安定か、魔力が不安定のどちらかに絞って魔力操作に重きをおいて教えていました。
しかし、そうではなく子供達が割った経験や材質に対する考え方に起因するものだったとは。
私も中島先生に教師になるために教えていただいたのに不甲斐ないです。」
真面目すぎるのも考えものだと思った。
どうせ、子供達の事を考えられてないとか自分を卑下して悩んでるのだろう。
あの頃の強気な感じはどこへ行ったんだか。
もしかしたら、子供達の将来に責任を感じているのかもしれないな。
そのあたりのケアを翠先生に小声で頼んでおいた。
こういう事を考えてそうだから、責任感が強いのも素晴らしいことだけど、気負いすぎては完璧な人間にしか教師は務まらない。
先生に必要な脂質だと私が考えていたことを思い出してくださいと。
「お父さん返して~」
美野里ちゃんの泣きそうな声が聞こえてそちらを見ると、じっと美野里ちゃんのお皿を手に考え込んでいる翔太さんの姿があった。
ごめんごめん。とお皿を返してからもじっと見つめていた。
そのうち釜やろくろでも作りに行くからと伝えて今は我慢してもらった。
わんこの生成に釜やろくろの工房建築。飲食店の生成とやってあげたいことは多い。
あまり人に囲まれることは好きじゃないけど仕方ないのでそのうちまた街へ行こうと思った。
今度は西園寺さんも連れて。




