48話.万能デバイス配布
ふと思うことがある。
世界を偶然の産物と考えるか創造物と考えるかで基本的な考え方は二分するだろう。
世界を作り給うた神が存在するのなら神への感謝を捧げ、生まれた感謝を糧に生きるべきだろうと。
反対に偶然の産物で発生した世界に生まれたと考えるなら神への感謝なんていう理解不可能な思考は持たないだろう。
そして私は後者である。
その私が山北さんに昨日あんな事を言ったのは、完全に否定しているわけでなく半信半疑だからだ。
オカルトを完全否定する人もいるけど、完全否定して優越感に浸る以外に意味なんて無いだろう。
現代科学で魂だの心の中だのが見えないのだから。
それに加えて心の有り様というか、考え、イメージがそのまま物質化する魔法なんて世界にいる私にはどうにも否定しきれない不確定性を抱えている。
それが全否定ではなく半信半疑にまでいったのは現状を考えれば当然とも言える。
私は今ある力を使えば、この魔法世界に現代日本の便利な文明さえ再現できるのではないかと考えている。
もし、意識が共有されているという私の説が正しければ例えばレオナルド・ダ・ヴィンチや黒田官兵衛等歴史の偉人を生成することさえ叶うだろう。
命の冒涜というモラルを考えると出来ないが、見たこともない書籍を図書館に収めることもできるかもしれない。
漫画でも図鑑でも何ならオンラインにある書籍ですら再現できるのではないだろうか。
曖昧なイメージでも可能なのであれば何ができるだろう?
時間も空間も超えて全てを魔法で生成する。
もはやそれは世界の創造と大差がない。
今欲しいものってなんだろう?
ランボルギーニ?テスラ?
車は他に必要とは思わない。
芦屋の六麓荘にあるような大豪邸?
無駄に広くても使う予定がない。
映画館はそこまで行く間のワクワク感と帰りの余韻に浸る時間まで必要だ。
遊園地?
従業員の居ない無機質な遊園地に魅力はない。
そもそも遊園地が好きではない。
パソコン、ゲーム、何でも出せるのに無性に虚しくなった。
わんこと遊べる施設?
わんこには私と遊んでほしい。
高層マンションが立ち並ぶ光景とか見たくないからね。
ちなみに現在の我が家にはエアコン、冷蔵庫、浴室乾燥機に浴室暖房
さらに洗濯機や掃除機までおおよそ生活必需品は揃っている。
忘れてたものが一つあった。
思い出して外に出ると洗車場を生成した。
私はもっぱら手洗い専門でコーティングも自分でするけど洗車機を作ったのは女性陣に自分達で管理させようと思ったからだ。
洗車をすることで愛車への愛着も湧くだろう。
私は横のスペースに高圧洗浄機を作っておいた。
私の洗車は拭き上げを使い古したバスタオルでしていたが、ここでは気にせず新品を出した。
何度か洗濯をしておいたので吸水もバッチリだ。
セーム革は張り付いたり引っかかる感覚があったので使わなくなった。
コーティング剤にシリコン、ワックスにウエスも完備している。
作ったら使ってみたくなるのが人の性ってことで私は自慢の愛車を持ってきた。
全体に水をかけて軽く埃や汚れを流すと高圧洗浄で一気に流して洗車シャンプーをスポンジに含むとルーフから順番に洗っていく
いつも思うがリアスポイラーの汚れを取るのが中々困難だ。
リアスポとトランク脇の溝までしっかり洗い、ドアを開けて隅々まで洗っていく。
一応この洗車場にはバカでかい屋根を付けているので雨染みがすぐできることはないだろう。
隅々まで水で泡を洗い流すと拭き上げた後、ウィンドウに撥水コートをかけていく。
それが終わるとルーフからワックスをかけていく。
少し時間を置いた後ウエスで拭き上げていく。
私は洗車に大体二時間半かけている。
普通かどうかは知らないが私のこだわりだ。
洗車とワックスがけが終わるとシリコンコートを上からかけていく。
これに更に1時間のトータル3時間になる。
その代わり夏場に多少の遠出しても雨が降ればほぼ落ちきる上にピッカピカに反射する新車同然になるのでプライスレスだな。
洗車が終わると今度は車内の掃除だ。
ここの洗車機はコインなんていれる必要はないので電源だけ入れて豪快に吸っていく。
純正のセミバケットシートは意外と隅に汚れが溜まりやすい。
掃除機をかけたら外に避けておいたフロアマットを機械にかけて汚れを落とす。
乾くまで屋根の外に布団干しを設置してかけておいた。
乾くまでの時間はいつも何をして良いのかわからない手持ち無沙汰になる。
前はスマホだったけど今は使える機能がほとんどなくて使うこともなくなっている。
あ、そうか。
電波基地局作れば良いんじゃないか?
もしくは、魔力が満ちているなら魔力を伝達する仕様で作ってみれば通話もできるのかな?
思い立ったが吉日。
私はとりあえず全く構造はわからないのに電波基地局とスマホを生成してみた。
そういうものだと思っていれば問題ないだろう。
スマホを見るとアンテナが立っていた。
距離がどこまで有効かわからないので朝陽と裕太を連れてドライブに出かけた。
ワンコたちは酔いやすいので速度を出して一気に距離を稼ぐ。
リミッターなんてものは存在しないし先に道路を一気に生成していたおかげでメーターは180キロを指していた。
来た時の3倍以上の速度になる。
しかし、行けども行けども電波が切れる様子はなかった。
仕方がないので一泊しようと思い、家を生成した。
朝陽も裕太もぐったりしている。
「ごめんね、明日もこんな感じになるけど行く?
それともここで待ってる?」
「「待ってる。」」
ちょっと寂しいけど相当つらいのだろう。
「じゃあ、いっぱい餌と水を出しておくからちゃんと食べてよ」
「うん」
「わかった~」
少し心配になった私は侵入者排除の大型の門を設置した。
運転で疲れたので今日はここで休むことにした。
出発前に生成した道路はまだ続いている。
一回でどこまで生成できたのだろうか?
それほどの魔力消費があった気はしないのにまだまだ延々続いていた。
翌朝、朝陽と裕太に門から出ないように強く言い聞かせて私は出発した。
この時点でアンテナが3本ということは魔力に満ちたこの世界では電波の減衰などは怒らないのだろうか?
わんこを乗せてない今は私のリミッターも解除されて速度は更に上がる。
所々休憩所が欲しくなってトイレや宿泊所を作った。
サービスエリアみたいな感じになった。
運転しながらブラックコーヒーを口にした。
振動も心地よい程度で道路のアスファルトに凸凹がない為疲れは殆ど感じなかった。
400キロ程走ったところでガソリンが心もとなくなってSAとスタンドを作った。
更に私は走り続ける。
ここまで来たのだから街によってスマホを渡そうと思ったのでそのまま走り続ける。
走っては休みを繰り返しながら何日か走ると街の前にショウが空を飛んでるのが見えた。
ぐるぐると空を回っていて私を歓迎しているように見えた。
街の入口で道路は終わっていた。
街に入ると以前にも増して賑わっていた。
何となく市長のようなポジションの社長宅を訪ねたが留守だったのでバスケットコートに向かうとちょうど社長がフェイクに引っかかり飛んだところだった。
シュートフォームに自然に移ろうとしているように見えたのにあそこから飛ばずに耐えるのすごいな。
見事なフェイクは橋田さんだった。
何となく背景が見えそうな気がした。
橋田さんを止められなくてムキになった社長が張り切ったところを逆手に取られたのだろう。
あの人建築会社社長なのにバスケも一流で出世頭だな。
結局社長のチームは負けて試合終了と同時に歓声が上がっていた。
何かの決勝戦か?
よくわからないが、とりあえず社長のもとに歩み寄る。
私に気づいた周りが道を開けてくれてモーゼのようだった。
「社長、お久しぶりです。」
「おお、中島くん。突然どうしたの?」
「いえ、ちょっといいものが出来たので皆さんに配ろうと思いまして」
「いいもの?何々?何でももらうよ~」
言われて私はスマホを取り出した。
別れの感じを引きずっていなくて助かった。
若干の気まずさはあったからね。
事前にパソコンでsimカードの番号を書き換えてある。
スマホを大量に持つとかさばるのでsimカードだけ大量に準備して持ってきている。
ネットワークは実は家にサーバーを設置して構築している。
大量にネットワークを使用すると帯域的に不安があったのでこの街にも電波塔を作るつもりだ。
そこから今住んでいる家まで有線でつなぐ。
「これで遠くに居ても念話を使わずに会話ができます。
使い方については説明書をそれぞれ付けておきましたのでどうぞ。
ちなみに、今ここの人口って何人ですか?」
「人口ね。とりあえず役所で管理してるから行ってみてよ。
今の時間でも誰か留守番してるからさ。」
どうやら時間で運動と仕事を分けているらしい。
役所に入ると数名が仕事をしているが、客は居ない。
みんな運動時間を楽しんでいるらしい。
案内板を見て市民課に行き、人口を聞くと
3251人ということだった。
赤ちゃんも含めているので使えるかどうかはわからないけどとりあえず全員分作る。
役所の屋上に巨大な電波塔を作り優先を家の近くに設置した電波塔までつなぐ。
Simカードの設定は番号を1つずらしで作っていく。
090-0000-0001の小垣さん、090-0000-0002の山北さんのような感じだろうか。
その番号は念のため8000通り作ってきた。
それぞれのsimカードに貼り付けてスマホとセットで渡すようにするにはどうすればいいかを市民課のお姉さんに聞くと、浜辺さんか多々山さんに相談すると良いですよと教えてくれた。
多々山課長に相談は今の私には敷居が高すぎるので、バスケコートに戻り、めっちゃ熱く応援している社長に呼びかけるも聞こえなかったらしいので肩をたたいた。
周りの声援もすごいが、社長の応援は常軌を逸しているレベルだった。
振り返った社長に管理を任せるために社長の家にお邪魔しようと思っていたのだが、試合が終わるまで待ってくれと泣きながら頼まれて承諾した。
どんだけハマってんのさ。
試合が終わり、社長が肩を落とした。
「で、何だっけ?」
不機嫌さを隠そうともせずに聞いてくる。
邪魔したかもしれないけど、朝陽も裕太も待ってるんだからしょうがないでしょ。
家にお邪魔したいと伝えると
「え?家かい?えーっと・・・」
となんだか歯切れが悪かったが覚悟を決めた表情で了承した。
どんなゴミ屋敷だろうかと戦々恐々としながら家にお邪魔するとめっちゃきれいに使っていた。
これで渋る意味がわからん。
そう思っているとお帰りなさいと声をかける女性が現れた。
スラリとした長身で髪を腰まで伸ばしている。
20代に見えるきれいなその女性は社長の彼女らしい。
最近付き合いだして同棲までしてすでに夫婦状態だそうだ。
「戸籍上の結婚はしてないんだけどね。どっちも一人暮らしだからそれならって家で一緒に生活してるんだ。
あっ!ちゃんと責任は取るから。婚姻届も準備してるし」
焦ったように社長がまくしたてるが、奥様予定の彼女さんは恥ずかしそうにうつむいていた。
社長は結局会社を興さず、市役所をまとめているらしい。
みんなで手分けしてここをもっと良くしていこうってことでわからないなりに頑張っているらしい。
税金は取っていないし、ほとんどボランティアでみんな仕事をこなしているということで一安心だった。
どうせ金なんてここでは無用の長物だしね。
昔ながらの助け合い精神みたいなもので運営しているそうだ。
ルールは役所で相談して決めている最中で法律みたいなものが出来つつあると語っていた。
取り締まる警察も作るのだろうか?
警察署、パトカー、消防署、消防車を作ろうか?と提案したが、今のところ不要らしい。
本題のスマホとsimカードは社長にまとめて渡して戸籍に合わせて全員に配ってもらうことになった。
ちなみに役所の仕事が暇すぎるためにパソコンでOS標準の簡単なゲームのスコアを競うことが流行っているらしい。
建築会社が作った家も好評だそうで、新婚さんが大豪邸で恥ずかしいとかの理由でお願いしてるらしい。
木造建築だけでなく、魔法を絡めた建築物を開発中らしい。
目指せ中島流を会社理念にしているとのことで社長にニヤニヤされた。
社長は市長にような立場なので市長という役職があるというと、気に入ったそうでそれにすると言っていたので良かった。
まだそんなに長いこと離れてたわけでもないのに一気に変わった気がする。
そういえば建築資材と思ったが、この短期間で森が大きく削られたそうだ。
道路を魔法で作る時に山も谷も木々さえもぶち抜いたのかと思ったが下地は建築会社も作っていたということで良しとした。
森を破壊しすぎないように再生にも力を入れるように伝えておいた。
馴れ初めだとかいろんな雑談を交えつつ、すっかり長居してしまったので奥様予定の方には社長とおそろいの婚約指輪をプレゼントしておいた。
デザインは疎いのでシンプルなものだけど二人共喜んでいた。
そういえば結婚式場がないなと思い、一旦以前の家で寝てから結婚式会場とサンプルのタキシードにウェディングドレスを生成して飾ると誰にも何も告げずに愛車に乗り込んだ。
帰り道でもSAとスタンドを造りながら戻った。
朝陽と裕太を迎えに行くとこんなに遅いと思わなかったとむくれていたので
そこで一泊して存分に甘やかした後帰路についた。




