46話.真奈美の憂鬱
私は山北真奈美と申します。
現在私は混乱の只中にあります。
と言いますのも、犬?わんこ?わんちゃん?
どれが正しいのかわかりませんが、そういう生き物と先輩の小垣美津さんが熱く語り合っているのです。
話題は中島さんが好きなもの。
いえ、恋する乙女である私にも理解はできるのですよ。理解するだけなら。
ですが、それでもやはり話の脱線度合いが酷すぎるのでえ?そんな話でした?
と思考がまとまる隙が無いと言いますか。
「中島さんが苦しんでるようですし、みんなで助けてあげましょう」
「私達が居たらしんどくても大丈夫って言ってくれるよ~?」
「そうそう、僕らをナデナデすると嬉しいって言ってた~僕も好き~」
「中島さんはあなた達が大好きだもんね」
「うん」
「そうだよ~」
「で、中島さんは他にどんなことが好きなの?」
「えっとね、私かな?」
「え?僕だよ?」
「あたしも好きになってくれると思う?」
「「わかんない」」
しょぼーん。
「あっ、でも好きかも」
「え~?そうかな~?」
「好きな人が増えたら中島さんも嬉しいからあたしを好きになってくれるように考えてよ」
「ん~ご主人は他の人を好きにならないよ?」
「そうだね、ご主人は人のことあんまり好きじゃない」
「じゃあ、いつもは何してんの?」
「「散歩!」」
いや、そういう質問じゃないでしょ。
「散歩以外は?」
「えーっとね、ご飯作って食べてる」
「あと、お風呂にはいる」
「・・・他は?」
「わかんない。たまに裕太だけ仲良くしてる。ずるい」
「朝陽だけの時もあるし、朝陽と話してるときのほうがご主人優しいからずるいよ」
言い争いが始まった。
そこから中島さんが好きな女の子の服の話で服を着れてずるい
家にいつも入れてずるい
等々
同じ言語なのにコミュニケーションが難しい。
それにしても先輩はこんな他に誰も居ない場所でも中島さんを心配してるんだ。
本当に好きなんだね。
私はどうなのでしょうか。
前の彼氏も勢いで付き合ってたけどあんな簡単に捨てられたし、ショックだったけどそこまで落ち込むって感じでもなかった。
私がやってあげたこと以上に私を愛してほしいって願望だったのかな?
恋愛って言っても何かしてあげれば想ってくれたり、愛してくれたりするわけじゃないし、そういうのを期待してる時点で好きとかの感情よりも打算的な感じで考えてたのかな。
無意識にだけど
中島さんにしてもらったことが大きすぎて、私も恩返しで好きになろうとしてる?
そうなのかな?
一緒に居たらもっと色々教えてもらったり優しくしてもらえることを期待してるのかな?
はぁ~やだな~こんな風に考えちゃうのって。
ふと意識を3人に向けると
何故か小垣さんが張り合っていた。
「朝陽ちゃんも裕太ちゃんも可愛すぎてずるい」
あれは三角関係と言って良いのだろうか。
それも違う気がする。
中島さんは結構年上だけど、包容力?お父さんみたいな感じ?
どれもピンとこない。
はっ! 迷子になって震えてる子供?
近い気がする。
必死に虚勢を張ってるけど足が震えてるみたいな感じかも。
だから守ってあげたくなっちゃった?
そんな感じでもないんだよね。
何なんだろ。何でも良いから抱きしめてあげたいというか慰めてあげたいというか。
無意識に対価を求めてるのかな?
自分の気持ちがわからない。
でも、何かしてあげなきゃと使命感みたいなものがある。
好きだから?
「んもう!わかんない!」
頭がおかしくなりそうになって叫んでしまった。
「えっ!何? どうしたのまなちゃん?」
「「大丈夫~?」」
「何でも無いので大丈夫です。
何か考え込んじゃって。」
今すぐ答えが必要なわけでもないんだからゆっくり考えればいいかな。
気持ちが落ち込む。
無性に中島さんに会いたくなった。
寂しいとか、落ち込んだから中島さんに会いたいって私が頼って依存してるのかな。
頼りがいがあるというか頼もしいというか、抱きしめてもらいたいっていうか。
何でだろう。中島さんにお父さんを感じてるのかな?
なのに震えてる子供みたいって変だよね。
私の叫びで中断していた言い争いは前の世界での中島さんの話に移っていた。
「ご主人は同じ服で『かいしゃ』いくか家にいるよ」
「後、散歩とご飯」
「会社か~」
「ねぇ、かいしゃってどんなとこ~?」
「連れて行ってもらったこと無いよ」
ベッドに座る先輩の膝にワンちゃんたちは顎を乗せて甘えて
それを先輩があやすように撫でながら会社の話になっていた。
実質今の私達は無職だから会社の話は少し複雑だけど、今はそれでいいと思う。
別に働くことは必要な訳では無いから。
そういえば、何で働かないといけないって思ってたんだろう。
結婚しなきゃいけないって思うのも何で?
働いてないと恥ずかしいとかそういう感情はどこから来るんだろう。
生きるために働く必要なんて別にないのに。
税金も何でだろう?
このあたりを中島さんと話してみよう。
話題が見つかって私の憂鬱な気分が少し晴れた。
そうか、私は中島さんともっと話をしていたいのかもしれない。




