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絶対のんびり至上主義  作者: sakura
逃亡編
42/86

42話.轟く咆哮と土煙

運転して疲れたら寝てを繰り返した。

数日が経過しており合間に散歩や散策を挟んでいるため大して距離は進んでいない。

出発前のメーターを確認していなかったけど、1500キロを越えた程度だ。

朝陽と裕太を遊ばせながら自由気ままに彷徨うのも悪くない。

ガソリンはいくらでも生成できるからね。

今のところ給油はしていなかった。

1500キロを超えて給油してないなんてありえないけど、タンクは予備を含めて大型のものを積んでいるのでそろそろ給油しておこう。

灯油缶にガソリンを生成してから給油口から注いでいく。

タンク容量が大きくて時間がかかる上に何度か生成しないといけないから腕がだるくなるけどこれも仕方ない。

計算してないけどハイブリッドの普通車並みに燃費が良さそうな気がした。

運転を長時間していると細々した動きで運転手だけ暑くなるのがドライバーあるあるだけど、他に乗っている人も居ないのでクーラーの設定は私に合わせている。

ワンコたちは大丈夫と言っていたので問題なさそうだ。

運転を続けると目が痛くなってくるのもまたあるあるなので、私は多めに休憩をはさみながら無理はしないように走っていた。

疲れが溜まってきてるのか、運転より休憩の時間のほうが長くなってきてるが、朝陽と裕太がその方が喜ぶから仕方ない。

このキャンピングカーにはオーディオ機器やスピーカーも拘っていたのでカラオケルームのようになっている。

私は曲をただ聞いていることが苦手でつい歌ってしまうのだが、朝陽と裕太に音小さくしてと一度だけ言われてからだいぶ音量を絞っている。

一度ベッドを新調したくて消去してから再生成した時に何となく布団が硬かったので気分転換に外に大型の自立するハンモックを作ったら朝陽と裕太も気に入ったのでのんびり風に揺られながら朝陽と裕太を抱えて昼寝する習慣がついた。

ゆったりのんびりしていると朝陽と裕太の耳がピクッと動いた。


「どうかした?」


「うーん、なんだろう、この音。まだ見えないけど音が聞こえてくるよ」

「匂いは分からないね」


私は焦った。

この世界が安全という保証はどこにもない。

たまたま人間の生活圏に危険生物が居なかっただけという可能性もあるわけだから。


「とりあえず、車に入ろう。動かしたら音に反応したりするかもしれないから窓を開けておくけど、危なかったらすぐ閉めるからね」


運転中もワンコたちは外の匂いをしきりに嗅いでいるので窓は開け放っているがワンコたちのいる場所付近以外は全て閉めた。

息を殺してその時を待つ。

方角はどうやら私達が来た道らしい。

徐々に私の耳にも音が聞こえ始めワンコたちは見えてきたよという。

プアーーーーン。

という音が遠くで鳴った。

私は理解した。

誰かがバスで追いかけてきたのだと。

よくわかったものだと思う。

こうなったら大人しく捕まるしか無い。

ここで逃げても追いかけてきた人たちを遭難させるだけだろう。

仕方ないので外に出て出迎えた。


大型バスはゆっくりと減速しつつ停車時のショックも最小限で停車した。

降りてきたのは社長、課長夫妻、息子さん達の家族に小垣さんと山北さんだった。


「あんた!何やってんだい!突然いなくなったら皆心配するじゃないか。せめて一言言ってからにしな!」


課長の咆哮はバスのクラクションより轟いていた。


「はい。すみません」


こういうのが面倒だから嫌なんだ。

人や組織に気を使いながら生きていくのが本当に面倒で仕方ない。

大して心配しても居ないのに心配したという免罪符を手に入れて怒りを発散させるのはクズな母親だけで十分だ。

いつもいつも、嘘をつくなと教えながら自分は平然と嘘をつく。

人の嫌がることをするなと言いつつ私の恥ずかしい過去を近所で話して談笑する。

心配してたと嘘をついて怒鳴りつける。

うんざりだ。

一応誤っておくが、どこまで本気かわかったものではない。

特に女性の心配したは愛しているという言葉の次に薄っぺらい。


「いや~腑抜けた顔してるね~中島君。何があったか知らないけど、気合が足りてないよ」


気合の問題ではないし、腑抜けてるわけでもない。


「「・・・・・・」」


小垣さんと山北さんは私の顔を覗き込んだと思ったら苦しそうにうつむいた。

どうせがっかりしたんだろう。

勝手に期待しておいて裏切られたってか?

しんどい。

美野里ちゃんと隼人くんは朝陽と裕太に駆け寄っていた。


「バイバイなの?また会えるよね?」


と抱きついて顔を横腹に押し付けていた。

課長の息子さんは交代で運転していたのかヘロヘロだった。

どうせガソリンも残ってないだろうから作っておくか。

大量にガソリン入の携行缶を生成していると


「聞いてんのかい!今大事なことはそっちじゃないんだよ」


怒りが収まらない課長の雷が落ちた。

怒りに任せて怒鳴りつけるためだけに追ってきたのか。面倒くさい。

もういいや。


「私はこれまで必要と思うものは十分作ってきたはずです。これ以上私に求めないでください!

あとは皆で楽しく生きてくれればいいじゃないですか?

何を私に求めてるのか知らないけど、会社もないなら私の役目は終わってますよ。

放って置いてください。迷惑なので」


そういうことじゃないんだよ。何でわからないんだい。

と目を見開いてブツブツ言い出す課長。


「中島君。私には君の気持ちがわかるような気がするよ。

周囲からお前も親と一緒で虐げるんだろ?と視線を向けられたり変に持ち上げられたり期待されるのがしんどいだろ?」


そう言って笑った。


「私もそうなんだ」


ハッとして社長を見る。


「私も色々投げ出したくなるけど、多分私には中島くんほど責任感が強くないらしくてね。結構楽観的でも居られるんだ。だから、おそらく課長の言葉が君に響かないだろうことも想像がつくよ。中島君がいなくなったことと方角はね、シャロンが教えてくれたんだ。

シャロンの領域内で移動した経路を考えたらこっちの方角だろうってね。

昭和さんもこっちの方角をしきりに気にしていたからね。

でも、私達は君を追いかけない。

戻ってきたくなれば戻ってくればいい。その時に石を投げたりしないからさ。

だから、ずっと自分を誤魔化して頑張った後の安らぎを求めるなら、少しゆっくりしてきなよ。そこらで野垂れ死ぬなんて想像もできないしね」


何となく、この人も同じような経験をしてきたんだろうと思った。

そっとしといてくれるなら問題ない。

この世界に来た当初は人恋しい想いもしたけど、魔法があるし生きるのに必要なことは全て魔法で賄える。


「これで最後にするつもりは今はないから、少し休むだけと思ってくれればいいです。

正直心底疲れたし、無意識に皆の生活のためにって自分を押し殺してたと思う。

だから、戻るかどうかはわからないけどまたね。

そこにガソリンを大量に生成してるから補給が必要なら補給しながら帰ってください。

気をつけてね。」


じゃあと言ってバスに乗り込んだ。

朝陽と裕太は泣きながら抱きつかれてたけど、名残惜しそうにしながら子供達から離れた。

美野里ちゃんと裕太くんも元気でなと心のなかで呼びかける。

子供は悪意を感じさせないから気が楽だな。

でも、あまりうちの子たちにベタベタしてると君たちのうちのワンコ達が嫉妬するから離れることも大事だろうね。

上手くコミュニケーションを取りながら幸せにしてあげてね。


多少の心苦しさを抱えながら、バスはそれぞれ反対方向へ向かって走り出した。


「ご主人、良かったの?」


「良いんだよ。私はもっと朝陽と裕太との時間を大事にしたいからね」


心配そうに私を見ているワンコたちが印象的だった。

さて、気持ちを入れ替えてのんびり走りますか。

走っては休み休んでは走る。

その繰り返しを再開する。

途中雨に振られてワイパーを動かすが、フロントの水はけが悪すぎる。

撥水効果が切れたというより油膜で虹色になる感じだ。

雨が上がったタイミングで洗車して油膜を落としてから撥水コートするかなと考えながら運転する。

通り雨のようで雨はすぐに止み雲間からオレンジ色の光が差し込んでいた。

今日は少し多めに走った気がしたのでそろそろご飯にしよう。

車を停車させて締めていた窓を開けていくと


「今日はもうお休みですか?」


と笑顔の小垣さんが立っていた。


「は・・・何で?」


「私も居ますよ」


山北さんも出てきた。

わんこを振り返ると


「え?良かったの?って聞いたよ?」


と上目遣いに見てくる。

え?そういう意味?

いや、あの場合の良かったのは、普通皆とお別れしてよかったのって意味じゃないの?

よくある話だけど主語や目的語を省略することで違った意味で捉える誤解は起こりがち。


流石にこの状況で帰らせるなんて鬼畜な所業は出来ないか。

社長以下向こうの面々は織り込み済みなんだろうし仕方ない。

気楽に食っちゃ寝生活したいんだけどな~

とはいえ、流石にこの世界の人達程堕落した生活しているとメタボ一直線だけど

気分が沈む。

今日の気分は乱高下していて疲れる。


「それで、どこへ向かうのですか?」


「海の向こうか、陸地がなければ海の中。

誰も居ない場所に生活拠点を作るつもり」


「はぁ、本当に同一人物ですか?

人好きな印象を受けていたのに本当は対人恐怖症というか、人嫌いというか」


「いちいち気を使って生活して相手が幸せに生活するための基盤作って渡してみたいな生活が疲れないとでも?」


山北さんからはどうも私が人が好きで何でもしてあげたいから近づいてきてって怯えるわんこにでも見えていたのだろうか?


「あたし、何となくそうなんじゃないかな~って思ってましたよ。

他人に優しくして自分より優先するのに他人に興味無いですよね?

だってあれだけ人数いるのに名前を覚えてる人ほとんどいないですもん」


「・・・・・」


「あたし達の名前は呼んでくれます。でも、社長、課長とかそういう感じが多いし、ちゃんと呼んでたのって美野里ちゃんと隼人くんくらい?」


確かに私は顔と名前が一致しないと名前を間違えて呼ぶのが失礼だから呼びかけることはないし、そもそも名前を覚える気もなかった。

よくそんな細かいことに気がつくものだ。やれやれです。


女性のこういう所が嫌なんだよな。

少しの態度の違いや置き場所の違い。

牢獄に閉じ込めて監視してるような感じ。

部屋を汚すなと言いながら洗い物や掃除はきっちりやらずに適当だったり言葉に一貫性も感じられない。

私は人嫌いの前に女性が嫌いなんだろう。

笑顔で嘘をつく、言葉を飾り正当化する。

そういった部分をおぞましく感じてしまう。

これもある意味両親に植え付けられたトラウマってやつかな。

やっぱり息が詰まる。


私は苦肉の策を思いついてキャンピングバスにヒッチメンバーを取り付けてトレーラーハウスを引くことにする。

ここで生活できるのは一人なので、快適に住めるように家を作ったのでそこで二人で生活してください。

ちゃんと移動可能な家なのでどこかに放置とかはしませんから

と言って無理やり納得させた。

言葉を弄する事になるけど嘘は言っていない。

本音は息が詰まるから別で生活してくれだけど、女性や営業マンがよくやる言い換えだ。

申し訳ないけど一緒に生活とか義務感なくやるのは無理だから


二人がトレーラーハウスに移動してようやく開放された気分だ。

一応トレーラーハウス内に進行方向を向くようにした座席を設置している。

移動中はシートベルトもつけるように言っておいた。

トイレがどうのとか同じ車両内だと遠慮しなければならないことも増えるのであちらはあちらで快適に生活できる空間は用意しておいた。

こっちは朝陽と裕太と楽しく生活していこう。

ここからどれほど進めば海に出られるかわからないけど、今はただ進むのみ

だけど、今日はとりあえず寝よう。疲れた。

おやすみなさい。


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