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絶対のんびり至上主義  作者: sakura
逃亡編
40/86

40話.わんこと共に生きる。

色々なことがあった。

その中でも最も大きいものは私が魔法を使えるようになったことだろう。

生物まで生成できるというのは軽い全能感を喚起させる。

しかし、私は神になるつもりなど毛頭ない。

この世界で私が生み出したものは私が発明したものではない。

平賀源内が生み出しニコラ・テスラ等により昇華されてきた電気を作る技術に活用方法。

地球の連綿と続いてきた生き物の鼓動が朽ちて後、堆積していき重油になり石油になり、ガソリンになる。

紙から衣服等幅広く活用されてきた消費し続けるのみの有限資源。

これらがあって初めて地球が人間の独善的な発展を可能にした。

人間が人間の為だけに発明していった。

その最たる愚かな例は核爆弾であるだろう。

原子という目に見えない世界に踏み込み、人間のための発展でさえ罪深い人間が、人間を大量殺戮するためだけの兵器。


そのような愚かなものを作らせない。

その為に、私は私の評価基準で取捨選択し、それを再現しているだけに過ぎない。

もしかしたらこの世界にも原油等の資源が埋もれているのかもしれないが、この世界には人間しかいない。隣人(他の生物)に遠慮する必要さえない。

一度タガが外れれば魔法を交えた兵器が生み出されることになるかもしれない。

それは私の目指すところではない。

防戦用の何かは作るかもしれない。

この街(?)を囲うように設置した長城と壁に加えて魔法攻撃を防ぐ目に見えない膜さえ作っている。

誰も害さない、誰にも害させない。

それが私の目指すところだが、もう種まきは終わった。

教育が始まろうとも燃料の作り方は教えない。

歴史家は言う。

貴族社会を根付かせる最も良い方法は知識を貴族が独占することだと。

未来にこの街からこの街の知識を用いて兵器を生み出すものが出るかもしれない。

それを防ぐことは寿命ある人間という種族には不可能だ。

そのためのショウを生み出した。


会社を作るなら作ればいい。

迷惑をかけない範囲で楽しめばいい。

畜産という生物を利己的な考えで育てて食べるのもいいだろう。

魔法のある世界において畜産に手を出す事は正直憚られるが、地球では科学が発展しても食料を無から生み出すことは出来ずにいる。

例えばかき氷。

本来水は飲み物で満腹になったりはしないが、凍らせることで個体になり、それを砕くと食べる事がかろうじてできる。

そういった方法で食料を生み出すことは出来ないのだろうか?

もっと言えば、化学式で組み合わせることで液体だが食料になるような研究があってもいいとは思う。

日本に住んでいる限り食糧難を経験できる機会はそうそうあるものではないが、世界では貧困や食糧難で命を落とす子供がどれほど多いことか。

それでも無から有を生み出すことは出来ていない。

生きるために食う。

ヴィーガンは動物に迷惑をかけていない等と考える人を私には理解が出来ない。

植物は生きていないのか?という言葉の定義から問いただしたくなる。

動かなければ人間の食料のためにそこにあるという考え方なら動物を食べることと何らかわりはない。

ただただ傲慢で自分勝手な価値観だ。

自分は動物を食べていないから偉くて動物を食べることは野蛮だと言う考え方なら、酸素を消費し、衣服を身にまとい土の上を歩けば微生物を殺す貴方の行動は矛盾している。

それを突き詰めれば人間は生きるだけで害悪だ。

私は私の勝手な判断で良し悪しを決めて、自分で許される範囲でここを暮らしやすくしようと思う。

生物が生きるための自然の摂理に従って。



学校が開校するこの日。

朝早く目覚めた私は朝陽と裕太におはようと声をかけながら土間に降りる。

散歩セットを持って二匹のリードを胴輪にかける。


「ご主人、何か嬉しい気分?」


るんるんで横を歩く朝陽が聞いてくる。


「そうだね~。今日からやっと朝陽と裕太とゆっくり遊べるからね」


「本当~?」


どうにも納得しきれていない様子の朝陽と裕太だが、散歩中に滅多にない尻尾ブンブンで感情まるわかりだぞ~


「本当。今日からゆっくり一緒に居られる予定だからね。

やってほしいこととかあったら何でも言うんだよ」


今日は美野里ちゃんも隼人くんも居ない。

今日から学校だからね。

多々山家は夫婦で散歩に連れて行くらしい。

始業式の時間には間に合わせるように息子さんたち夫婦も全員早めに散歩に出かけるといっていた。

子供達は以前作った制服をアレンジした入学生全員に支給された制服を身にまとう。

教師陣と有志の奥様方で考えて決定していた。

男の子は少しかわいい感じになり、女の子は髪の毛のリボンまで決められている。

男の子用の制服に花柄デザインだけは止めてもらったが、チェック柄のワイシャツは止めきれなかった。

着たくないと言い出す子供が居ないことを願う。


「でも、ご主人、違うこと考えてるよ。本当に一緒?」


不安そうな朝陽と裕太を撫でてから散歩の続きを楽しむ。

春先の気持ちのいい風を受けながら二匹と歩く。

残念ながらこの世界では風に揺られる木々の音がしなければ基本的に無音になるので少しおセンチな気分にもなるのだが、朝陽と裕太の可愛くはずんだ足取りを見ていると音なんてどうでもいいよねって気分になる。


最近は川沿いを歩く必要すら全く無いので東西南北どこにでも足を向けた。

朝陽と裕太は森がお気に入りだ。

木々の匂いしか感じないはずで、虫も微生物も居ないので匂いを嗅いだりマーキングしたりにさほども意味はなさそうだけど嬉しそうだからついここばかりになっている。

こちらに来るコースだとボール遊びやフリスビーは出来ないけどここがいいらしいので問題ない。

元気いっぱいに走り回る朝陽と裕太にリードは付けていない。

意思疎通を図れて危険なものもない状況で問題なんてあるはずもない。

一応私の目の届く範囲で駆け回っているので安心できるし、見失っても自分達で帰ってこられる。

最悪でも火の玉や水の玉を飛ばして狼煙代わりにするように言い聞かせたので大丈夫だろう。

最初は魔法があるなんて思いもしなかったし使い方も分からなかったのに今ではそれが当たり前の生活になってきている。

朝陽と裕太の胴輪にも何か異常が起きれば携帯を鳴らせるように作り直した。

魔法で携帯にアクセスできないかといろいろ試した結果、予め仕込んだメッセージをイメージした事をトリガーにして送信することができることがわかったのですぐに胴輪に仕込んだ。

Bluetoothのような規格の波形はイメージしてもどうにもならなかったので、単純なメッセージ機能を送ることのみに限定している。

私は木陰に腰を下ろし、ズボン越しに湿り気を感じでも気にせずただ二匹の戯れを見て満喫の一時を過ごした。


朝から夜まで働いて

朝陽と裕太を蔑ろにし

今まで一体何をしていたんだろうか。

私は朝陽と裕太を守ってるつもりで守れていなかった。

まともに稼げず、就職難時代にどれほど苦労してもスキルも身に付かず

ただ無為に生活できるだけの金を稼いで生活する。

そんな生活が苦痛でしかなかった。

会社が新卒採用した人達がスキルや会社の教育で成長していき追い越されて

行き着く先は最低賃金を割るような会社で労働の日々

朝陽と裕太と遊んであげられる時間も作れない社会を面白く思った事はないが、あの世界での生活がここに来るための布石であったのだから今では多少の感謝もしている。

犬の寿命は15年ほどで20近くまで生きてもボケて苦しみ始める。

そんな短い時間を私は二人に無理を強いてきたのだろうか。

木陰で一人鬱々ととりとめもないことを考え始める。

あの世界に戻りたいとは思わない。

だからこそ、これからの命はこの子達の目一杯の笑顔を見るために使おう。

人間関係が煩わしくなったら誰も居ない土地に引っ越そう。

ここでは何でも自由だ。

朝陽と裕太がいれば自分が作り上げてきた娯楽すべてを失ってもどうということもない。

この地に居なければいけない理由ももうない。

スカウトメールから始まったけど、退職も自由だし、今は会社そのものもないのだから。

例え今死んでも、悔いも心残りもない。

疲れた。朝陽と裕太を看取るまで死ぬ気はないが、心底疲れた。

思えば責任感だけで生きてきた気がするな。

全ての責任を放り投げた今は、どうでも良くなってしまった。

朝陽と裕太が疑うほど一緒に居られなかったんだから、面倒事の前に逃げ出そうかな?

真剣にそう考える。

誰も居ない場所で魔力だけを頼りに

もう嫌なんだよ。全てが煩わしくてさ。

うんざりなんだ。

ここの人達はそこまで悪感情を持っていない。

でも、貧富の差ができればどうだろう?

羨むものも出るだろう。

美醜はどうだ?

同じだ。

個性だとか言うよりも遅かれ早かれ誰が一番美人だなんて話が始まる。

そんな未来予想図が私を苛んでくる。

誰が強くて誰が弱い

誰が綺麗で誰が見にくい

そんなに差別の種をばらまきたいか?

テレビに映る芸能人がかっこいいか?

性格がいいから好き?

本音は違うだろ?

結婚したら好きだったところが嫌悪に変わるんだろ?

世界に私と朝陽と裕太だけなら良かったな。

魔法だけ使えて楽しく暮らすだけ。

退屈することもあるかもしれないけどそれでいい。


私は決意した。

人を滅ぼそうというのではない。

そんな事をすればショウが私を殺しに来るだろう。

私は皆が好きに生きてくれればいい。私も好きに生きる。

それだけだから。


私は盛大にいじけていた。

大好きな朝陽と裕太の疑いの眼差しが思いの外、心をえぐった。

そして私は散歩のまま北へ向かった。



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