36話.のんびり休暇の予定だった。
今日は一日朝陽と裕太とのんびり過ごす。
こっちに来てからこれほど忙しい日々を過ごすなんて思ってもみなかった私は暦を作ることを決意した。
今が何月かわからないので寒い時期の月を適当に振り分けようとも思ったが、時期がズレて12月に春が来るとかちょっと嫌なので寝てた時期の事もあって全くわからない。
今が寒いのはわかるが11月か2月か全く想像もつかない。
暦は後回しにして週を決めよう。
とりあえず今日は日曜日ってことでよろしく。
あっ、スマホは・・・12月23日
明日クリスマスイブやないか~い
どうする?いや、来年余裕があればでいいだろう。
朝陽と裕太とその他大勢でお散歩に行った後
「朝陽も裕太ももう少し歩いてから家でご飯でもいい?」
にいいよ~と答えてくれたので多々山一家と分かれて学校に行く。
学校でアナログな日めくりカレンダーを取り付けて校長室にだけデジタルクロックを設置した。
これは年月日、曜日、気温、湿度を表示してくれるすぐれものだ。
私はスマートスピーカーと組み合わせて使っていた。
そういえばスマートスピーカーは復活できなかった。
LANが繋がっていないのでネットワークが形成されていない。
そのため、ネットワークやサーバーがなく、そこが前提になっているスマートスピーカーは使えない。
さて、校庭に残しておいた朝陽と裕太を迎えに行くと何故かジャングルジムに登って降りられなくなっていた。
犬が高いところからおりられないイメージがなくて違和感はあったけど
「ごしゅじん~たすけて~」
と泣きそうな声で言われてしまうと救出が最優先。
ジャングルジムの上にいる朝陽を抱きかかえて降ろしてから裕太を下ろす。
「こわかった」
尻尾を股に挟んでうなだれた二匹がとてつもなく可愛かった。
ヨシヨシしながら落ち着くのを待って尻尾を振り始めたのを確認したら家路についた。
家に変えると突然テンションMAXになってはしゃぎまわって私も一緒に走り回った。
姿勢を低くし手で頬をタッチすると遠くに走っていき戻ってくる。
私には何が楽しいのかわからないが、二人が喜んでいるので飽きるまでやっていた。
ふと思いついて縁側に二人が上がっていいスペースを作りわんこ用のベッドを作ってみた。
一緒にのんびりお昼寝タイムを楽しみたかったのでここまで上がっていいよと二人を呼んでベッドに丸まった二匹を眺めながら縁側だろうと建物の中なので寒さはそこまで厳しくないのでゆったりした気分で二人と過ごす。
ねえご主人、今日は一緒にいれる?とか可愛いことを言ってくれたりしてのんびりゆったりした。
たまにお腹見せて転がるからお腹を撫でたりしていた。
服従のポーズとよく言われるけど、撫でてほしいだけじゃないかな?
急所が詰まっているから警戒心があればお腹を見せないというのはそうかも知れないけど、痒くてもかけない場所だから警戒してない相手には撫でてもらいたいだけな気がする。
「ごしゅじん~あれして、手をここにおくやつ」
うとうとしているとそんな事を朝陽から言われたのでぼんやりなんだっけと思ったが、朝陽が言うのは寝転んだ朝陽の頬の部分に手の平枕をしてくれということだと気づき朝陽と裕太にそうした。
まどろんでいたらいつの間にか値落ちしていた。
寒さを感じて起きたら朝陽と裕太はぐっすり眠っていた。
野生を忘れない犬は熟睡することはないと言われる。
少しの物音で起きるわんこのほうが圧倒的大多数だと思う。
猟犬はその比率も一気に上がることだろう。
柴犬は遺伝子的に狼に最も近しい犬と言われ、かつ猟犬だった。
うちの子は柴犬だけど熟睡しきるので無理して生きている感じがなくて安心できるね。
そろそろ夕方か。
二人が起きたら散歩行ってからご飯かな。
ってか中々起きないな。
と思っていたら裕太がビクっとした。
わんこってたまにこうなるよね。
授業中に寝ててビクっ!ガタってなるみたいな。
それに反応して朝陽が起きた。
ごしゅじん~
起きていきなりやることが手に頭をスリスリするっていうのがまたかわいいね。
と思ったら裕太が起きて3度吠えた。
玄関を見てるので誰か来たらしい。
「ありがとう裕太」
少し頭をなでて玄関に向かい扉を開けると小垣さんと山北さんがいた。
「あっ、お休みのところすみません。今日の報告に来ました。」
山北さんはそう言うとジトッと小垣さんを見た。
何かトラブったかな?
と少し嫌な予感を感じて家に上げてお茶を出した。
「結論から言いますと、料理教室は大成功でした。
材料を出して中島さんが出してくれていたカレールゥを色んな種類並べて全員で作りました。
美味しかったです。」
ニコニコ笑顔で山北さんはそういった。
これはだいぶカレー作りにハマってる顔だな。
じゃあ、さっきの妙な間は何だったんだろう。
「それは良かったですね。トラブルはありませんでしたか?」
「ええ、トラブルもなくみんな嬉しそうにしてましたよ。
来てそれほど時間が経っていない人達の食いつきが目の色が変わってて怖かったくらいですよ。」
「ああ、食事の楽しさを覚え始めてすぐに自分でカレー作りすると感動するのかもしれないですね。
小垣さんはどうですか?」
気まずそうにして会話に参加しない小垣さんにも話を振る。
「え?あたしですか。楽しかったし美味しかったです。」
概ね好評のようで安心できた。
カレーができるならシチューもできる。
ウコンとかターメリックを揃えれば完全魔法なしのご飯も作れるようになるだろうし、うまくすればこの世界でもカレールゥを開発できるかもしれない。
どんどん夢が広がってくる。
あとは、今いるわんこたちが楽しく暮らせる環境づくりもありかもしれないな。
ショウにも楽しめる何かを作ってあげたいところだ。
最近ショウは悠然と大空を泳いでから定位置に戻って寝るという生活スタイルだった。
食事も排泄もないがどこか満足気に目を細めている姿をよく見かける。
「そういえば・・・昭和さんに子供達がカレーを持っていったけど食べてもらえなかったと残念がってました。」
思い出したように山北さんが言い出した。
ショウは食べ物を食べる習慣も必要もないので仕方がないが、その感覚でわんこにカレーを与える子供が出ることを危惧した私は犬には毒になる食べ物もあるので人間以外に気軽に食べ物を渡さないようにしてほしい事を伝えておいた。
人間に問題なくてもわんこには毒だから本当に危険なので人と食べ物を共有するのは本当に危険だし、人間の食べ物のほうがかなり味が濃いので、それを食べ始めて勝手に人間用のご飯を食べたりしかねない。
だから絶対に許されないことだと強く主張しておいた。
報告を聞いた後、小垣さんと山北さんがうちのわんこと遊び始めた。
報告をだしにうちのわんこを可愛がりに来たようにしか思えない速さで行ったので、私は微笑ましく思ってから例の6人に会いに行った。
6人は魔法主義者からだいぶ意識改革していたようだったがそれでも少し周りと距離を取っているので家に6人でいることが多いと聞いていたのでリーダー格の家を訪ねた。
不便だから呼び鈴をつけようつけようと思って忘れていたが、まぁこれはタイミングを見て全員に周知してからのほうがいいだろう。
「こんばんは、今少しいいですか?」
ノックの後声をかけるとすぐに出てきてくれた。
相変わらず体型は太り気味だけどまぁ、徐々に改善されると思う。
相手は気まずく思っているようでどうにも歯切れが悪く何ですか?と聞いてきたが私はこういう時に空気を読んで遠慮すると真意が伝わらないと思っているのでハッキリ告げる。
「私はあなた方の保守的というか、伝統を守ろうとする考え方も必要だと思ってます。
そこで、魔法も、科学も含めて知識を教える先生になってもらえるよう勧誘に来ました。」
「は?」
いやいや、いきなり意味わからんみたいに呆気にとられているが私の中ではあの件以来決定事項だ。
「あなた方は私の持ち込んだ思想を魔法を壊し、伝統を壊すものとして否定しましたね。
それはこれからに必要な考え方だと思います。
知っての通り私も魔法を便利に使ってますが、もし、魔力が有限で世界から魔力が失われたらどうします?」
「いや、そんな事考えたこともなかったけど・・・魔力ってそもそも何だ?」
「ええ、その感じ方が必要だと思ってます。魔力とは何か?世界から失われることは絶対にないのか?そういった事に答えを見つけようとする人もいませんよね?
私はそれをとても怖いと思ってます。なぜ無くならないと言えるのか?もし減って言ってるならどうすれば増やせるのか?
そういった事を考え実験しつつ、魔法と科学の両面から研究してみませんか?
そのついでに子供たちに必要なことを教えていただければと思ってます。」
「はぁ、それで何で俺達に?」
「それはあなた方の方が自分でしっかりと良し悪しを判断し、自ら思考し判断しようとしているからです。
根拠がない考え方が浸透している魔法の知識では御存知の通り明確なイメージは生まれません。
また、風や闇を生み出すことができない理由も私には説明できますが、この世界で説明できる人はいないでしょう。」
「は? 風に闇?」
「そうですね。では実験してみましょう。
まず風ですが、空気に物理的な力があるのはわかりますか?」
「そりゃ、風が強いと押されるからな。」
「それなら風を生み出す魔法は強い壁のような空気を押し出すイメージでできますよね?このように」
そう言いながら台風のような風の層を押し出すイメージで魔法を使う。
「うおっ!」
少しのけぞった後、足に力を込め魔力を通して耐えていた。
とっさに魔法を発動する事ができるのも魔法を伝統と捉えて壊したくない意思の賜物だろう。
どっぷり筋肉に依存しているマッスルマン達だと下手すればとっさに魔法を発動できない可能性もある。
「次に闇ですが、光はどういうものですか?」
「光?闇じゃなくてか?」
「光と闇は表裏一体のものです。
光がなければ闇を知覚できず、逆もまた然りです。」
「光か、眩しいとか明るいとかそういうことか?」
「そうですね。では闇は?」
「暗いとか見えないとか」
「そうですね。光はどうやって生まれます?」
「そうだな、光は朝になると勝手に生まれて夜になると消えるって感じか?」
「魔法で考えると魔法だからとか魔力がとか考えがちですがあなた方にそれがないことが私が誘った理由です。
ちなみに、本来光は他の星がなければ存在しません。答えを言えば太陽が見える状況で光が太陽から届いています。
星は太陽の逆を向いていると光が届かず闇になります。
構造としてはこういう感じです。」
太陽を模したライトとこの星を模した球体を生成する。
「これが私達が住んでいる星で太陽がこちらとします。
この時に星はゆっくりとずっと回転しているわけですが、この星が太陽の逆を向いている時に闇になります。」
そういいながら星にわかりやすく顔を描く。
「そうなると、太陽がなければ真っ暗なのが当たり前ってことになるんじゃないか?」
「ええ、その通りです。闇が基本になります。天体、つまり他の星がなければ光は発生しません。」
「それはおかしいだろ?他の星が壊れたら真っ暗になっちまって生活できないぞ」
「人が偉大で人の為に世界が生まれたわけではありません。ハッキリわかりませんが、人が発生したことはただの偶然の産物で、目に見えない生物が徐々に進化したと考えられてますが、この世界にはそういった微生物も存在しないので世界の成り立ちも全く想像がつきません。
一つ言えることは、人というのはこの星にとってあってもなくても関係ないほど小さいものですので、人の生活の為に太陽は存在してないってことですね。」
「ふむ、そういった事を考えたり、実験したり、子供たちに教えることが仕事といったな?
あんたがわかってることを俺達は知らないわけだが、あんたが教えたほうがいいんじゃないか?」
「いえ、私はやりたいことが多すぎて大事な教育分野であっても私自身が直接教えていく時間が惜しいと思ってます。あなた方には天職に思えますし、そういう意味であなた方がいることで私はその重要任務を適任者にお任せしようと思いました。」
「ふむ・・・条件がある。」
「何でしょう?」
「俺達にあんたの知ってることを教えてくれ。そこから自分たちで考えて魔法も含めた知識を教えていこうと思う。なんて言ったっけ?科学?それと魔法を両面から考えれば成長できるんじゃないか?
俺達が成長できれば教わる子供たちも成長できるってわけだがどうだ?」
「わかりました。それでは、当面の間あなた方は私の家で生活してください。
私が分かる範囲で教えていこうと思います。」
「何でそうなる?」
「日常生活において知識がどれほど密接に関わっていて、知識を得るとどうなるかを体感してもらいます。」
「まぁ、そういうことなら」
どうにも不満そうにそういうリーダー
「何か不都合があれば考慮しますよ」
「いや、個人的なことだから必要ない」
「真壁さんは最近運動し始めた頃にサポートしてくれた女の子といい感じだからな」
ニヤニヤと他のメンバーがからかうように言った。
なるほど。
運動を始めてへばってるところに優しくサポートされて惹かれたわけか。ありがちすぎて笑う。
待てよ、では、その女性にも参加してもらおう。何せアウトローを気取って運動を拒んだ相手を優しく手伝ってあげるような心根の女の子なら保健室にイメージがぴったりじゃないか?
「ふむ、ではその女性を連れてきてください。一緒に勉強してもらいましょう。
ついでに怪我とかの手当を勉強してもらって保健室の先生になってもらいましょうか」
「え、他の男の看護だと」
真壁さんとやらの目が座り睨まれた。
「いえ、子供達のです。子供達に優しく手当してあげる先生って美しいと思いませんか?見てみたくありません?」
「ぐぅ・・・話すだけ話してみよう」
私にとってはどうでもいいことだが、彼の誘導には彼の嫉妬心を煽ると簡単そうだなと思った瞬間だった。
そうして家の中に普通のサイズの家を土間に作り計7人が参加することになったわけだが、家の中の家に違和感がある上、うちのワンコスペースが押しやられて申し訳なかった。
謝ろうと朝陽と裕太を探して土間を歩いていると、縁側に小垣さんと山北さんが朝陽と裕太を抱っこして2人と2匹で寝ていた。
家の準備を終えてから玄関前で待っていると7人が合流してそれぞれの家を案内した。
真壁さんとその彼女は1軒で良いらしいので中々いい雰囲気のようだった。
1軒余ったわけだが、まぁ、そこは置いておこう。
そう思い、ふと視線に気づいて振り返ると2人と2匹が寄ってきた。
念入りに説明すると1軒空いてるなら私達も参加しますのでここに住みます。
そんな流れになった。いつの間にやる気スイッチを押したのかわからないけどそのうち参加してもらおうと思ってたのに最初から参加になったことは棚ぼただったね。
夕方の散歩には全員参加でリードを引くのは小垣さんと山北さんだった。
川沿いを歩くので液体の説明を簡単にしていた。
水と水蒸気と氷の関係を説明すると驚いていた。
そうだよね。氷は氷で魔法で出すものだから全く結びつかないのも魔法の弊害なんだろう。
ここから徐々に説明していけばいい。
とりあえず、小学校からの全教科書を出しておくことにしよう。
一通り終わったら学校を開校しよう。
その後私は隠居生活かな。




