35話.学校の準備より料理教室
今日の散歩もトラブルなく終わった。
最近子犬達に個性が出てきたそうだ。
やんちゃな子で家でも外でも走り回る子
普段は大人しい子なのにはしゃぎだすと中々おさまらない子
家の外に出るとお利口さんなのに家の中では暴君な子
と様々で、私のイメージする子犬のイメージがそれぞれ反映されているようだ。
まぁ、みんな一緒の反応だと愛情も湧きにくいかもしれないしいい事だ。
朝のお散歩隊でそんな話をしながら歩いた。
草原側には木が生えていないし、散歩ルートはいつも川沿いなので川を渡れば木々も生い茂っているが逃げ出したら見つけにくそうなので川沿いしか連れて行かない。
お散歩コースが基本的に同じルートになりがちなのはよくある話だと思う。
散歩を終えると餌をあげる。
なぜか一品追加のデザートが二人共少し豪勢になっている。
見た目は人間の食べ物風だけど、人の食べ物を与えたことはないので味は缶詰とかおやつだろう。人間に憧れでもあるのかな?
朝の日課を一通りこなした後、バイクで田畑と果樹園を見回り、問題なさそうだったのでそのまま学校に向かった。
調理実習みたいなものだからどのくらい集まるかなと思いながら学校につくと校門前に大勢が待機していた。
いや、無理。
こんな収容人数は想定してません。
おそらく女性は子供まで全員。
男性についても半数ほどが待機している。
どうしよう・・・想定外過ぎて頭真っ白だ。
仕方ない。今日一日使って各教室で作ってもらおう。
面倒だけど水と簡易コンロを使ってオーブンは無しにしよう。
うーん・・・毎日開催はこれだと難しいから5日で全員回るようにして子供たちの給食扱いにしてしまおう。
学校の給食作りが有志で賄えそうだな。
想定が甘かった反省はありつつもおかげで今後の想定が楽になりそうでホクホクだと思うことにしよう。
結局お手伝いに頼んだ小垣さんと山北さんは勝手が変わってしまい心底悔しそうな顔をした。
作ったのはハンバーガー。
まず各々でそれぞれの素材の味を確認してもらい、組み合わせを考えてもらう。
バンズによってサイズが決まっているので中に挟む具材を選ぶ自由度は下がるが大人数だと仕方がない。
バンズは全員分ボトムとトップをそれぞれ取りに来て貰う形にして大量に生成。
しかも、人数×5倍で生成した。
マヨネーズは甘口、辛口を用意
野菜はレタスやキャベツ、ピクルス等よくあるバーガーの具材にした。
肉はエビやカツ、ベーコン、パティとある程度の組み合わせは楽しめるようにした。
今が時期の月見を作る人が現れるかわからないけど卵焼きとチーズも用意してみた。
魔力はこれだけ出してもほとんど消費してないけどこれでも十分楽しんでもらえるだろう。
「すみません、私の想定外に大人数になってしまいましたので当初の予定通りに料理をすることができません。
カレーを材料から作ろうと思いましたが、これは希望者で人数を分けて毎日曜日毎のグループで参加していただこうと思います。
ですので今日は申し訳ございませんが今日はハンバーガーになります。」
参加者はやや苦笑気味だったが、料理ができるとなったことで安堵していた。
おそらく全員が迷惑かもしれないけど参加したいから皆諦めてくださいとか思ってそうだったしね。
全員がそれぞれの素材の味見をしていくがピクルスについては大多数が顔をしかめていた。
まぁ、そうだよね。
ご飯無しで納豆とか、ご飯無しで梅干しとか好きな人にしかハマらないものです。
それでも組み合わせを考えてニヤリとする人もいたから意思は伝わったと思う。
ちなみに、こうなったからには小垣さんと山北さんもただの参加者として色々試していた。
全員が5種類のバーガーを作り終えた所で包丁とまな板を生成する。
全員に渡すのも怖いので私と小垣さんと山北さんの前にそれぞれ出して全員が並び、それぞれの前で指導を受けながら切ってもらうことにした。
5種類のバーガーを4等分してもらい怪我のないようによく見張る。
が、人数多すぎて時間がかかる。
子供たち用には果物ナイフを用意しているのでそれで切ってもらった。
切り方というよりバーガーの性質上自立しないで崩れたものもあったけどそれも含めて楽しめたようで何よりだ。
一人面白い男の子がいた。
俺は全部乗せだぜと言いながらピクルスだけ抜いたバーガの高さがタワーのようになっていて、お母さんに持ってもらってまな板に置き、崩れないように支えていたのだが、ナイフを入れるとあっけなく崩壊して泣きそうになっていた。
仕方がないので空気の層を作って直してあげると笑顔に戻ったものの、食べる段階でまた泣きそうになる。
そりゃそうだよね。こんなの口に入り切らない。
少しずつ分解しながら食べていたけど4分の一でもなかなかの量になるので悲しそうな顔になっていたが、周囲にいた子供たちとシェアしながら素材そのものを食べ直しているようなその光景を見て「バーガーとは?」とボソッと呟いた近くにいた社長の言葉に吹き出してしまった。
4等分してシェアしながらどれとどれを組み合わせたのかみんな話し合っている。
人気はエビとレタスの甘口ソースだったが、辛口にパティとキャベツがなかなかいいと熱く語っていたマッチョ隊がいた。建設業は今日は休みなのかな?と思ったが気になって聞いてみると
「社長(橋田さん)がお前が一番器用だから生成魔法でも料理でも覚えて作って欲しい」
と仕事として頼まれているらしい。
「いや、俺等皆めっちゃ食うんですよ。何か鍛えれば鍛えるほど腹が減るみたいで、全員太ってた頃より何倍も食うから、3食じゃ足りないんすよね。橋田社長なんて10倍くらい食ってんじゃないっすか?」
とどこか誇らしげに話していた。
食事係が必要になるわけだね。
雑談ついでに橋田さんに彼女ができたという話を聞いた。
しかも全員の体型がほっそりしたことで顔の美醜を気にする女の子も増えて何と10歳以上年下の彼女らしい。
橋田さんは30手前のマッチョなのだが、10歳以上年下って私からすれば犯罪スレスレだ。
まぁ、気にすまい。
ちなみにその橋田さんの彼女も彼氏の為に料理を覚えたいと参加しているらしい。
いや、気にはなるがあえて聞かんぞ。鋼の意志だ。
15歳とかだと額に手を当て空を見上げてしまうことだろう。
それぞれが楽しく雑談しながら何がどう美味しいとかピクルスの使い方が絶妙だとか褒め合ったりこうすればとより美味しくするために会話をしていたが、腹がふくれると水分が欲しくなるのは道理だ。
忘れてたことに反省しつつ、ミキサーとりんごを生成した。
コンセントを差して皆の注目を集めると
「これはりんごという植物のみです。
今果樹園に植えているので、もっと育てばこれを収穫できます。
食べても美味しいけど、今はお腹いっぱいですよね。
なのでこうします。」
そういってミキサーにりんごと水、砂糖を加えてリンゴジュースを作っていった。
全員に行き渡るようにと大きめに生成したミキサーにせっせと材料を放り込み作ってはコップに出しを繰り返して渡していく。
こういう時のコップは紙コップがいいね。大量生産のイメージしやすいし。
全員が飲みながら目を見開いていく。子供たちは何度もおかわりしに来ていた。
これが魔法無しで作れるように!?と社長が一番驚いていた気がする。
程々の所で解散した。
正直疲れた。
もっとお役に立ちたかったですと山北さんは言っていたが、大丈夫。
今後需要はさらに増加すると見ている。
というよりも小垣さんと山北さんにもあの6人と一緒に先生になってもらえたらなと思っている。
男の先生ばかりなのは威圧感もありそうだしね。
ワンピース似合ってるし
真面目な感じの山北さんにふんわり天然系っぽい小垣さんは子供たちに人気になるだろう。
最近の学校というのは教師もいじめに参加するし生徒の人気がない教師が言われない嫌がらせを受けたりとカオスすぎる。
行き過ぎた暴力は絶対だめだけどある程度の体罰は必要だったと思う。
親の学校に向ける期待が教師という人間の限界を超えさせようとしているのが気になるね。
いや、普通に子供の教育の最前線を教師に丸投げするんじゃなくて両親が基本的に流行るべきだろうと思う。
PTAの力が強いとか校長が親や教育委員会にビビりまくってるとか教師のモラルが低いとかの原因はどう考えても力のない教師を舐めた子供にあると思っている。
というか、教育は昭和に戻せ。
教育に本気にならず学校の教育が悪いと他人のせいにする子供の教育もまともにできない親が他人事みたいに学校の責任にするから親子と学校の距離感がおかしくなるんだろうなと思ったりしているが、あの世界ではそんな事言おうものならモンスターペアレンツに囲まれること請け合いだ。
この世界最高~。
人気になるから小垣さんと山北さんを推したいというよりも、ある程度の人気は勉強への意欲にもつながるからって理由なので、誤解なきようお伝えしておく。
閑話休題。
のんびりやりたいことだけやっていこうと願ってるし無理をするつもりなんて欠片もない。
だが、のんびりしてても自動で発展していく未来のための準備ってやるべきことがねずみ算的に増えていくよな。大いなる矛盾だわ。
学校に着手しようというのに教師に知識がないのは論外。
箱物だけ完成しているって言うことと、興味を引く事に先に手を出した結果なんだから自業自得だけど、先は長いなと思い知った一日だった。
家にいなさすぎて軽く朝陽と裕太がむくれていたので明日は二人とのんびりしようと固く誓った。
小垣さんと山北さん二人に明日の料理教室の準備とメニューを考えるのを任せて明日のグループも丸ごと任せることにした。
カレーなら問題ないし多分そうなると思うからいいだろう。
家に帰って縁側に寝転ぶとわんこたちを撫で回し続けた。
はぁ~朝陽も裕太もかわいいな~




