34話.とある兄弟の回想録
俺の名は多々山 翔太
課長の息子とか長男とか呼ばれることが多い。
最近色々なことが目まぐるしく変わっていてついていくのに必死だ。
というのも、少しの間住んでる場所を離れただけなのに、帰ってきたらまた大幅に変化していて離れた自分を呪ったほどだった。
できることなら発展していく様を見たいと思うのは自然な事だろう?
帰ってきた時はなぜ俺は離れてしまったのかとあの時の決断を呪ったわ
スパイ活動と引き抜きを目的に以前住んでいた場所にバスを走らせた。
バスには中島さんが念の為にと予備のガソリンが妙な容器に入れられて積まれていた。
どのくらい距離があるのかわからないかららしい。
襲撃者達は全員大人しく座席についていた。
この襲撃者が来なければ私達がバスで故郷に戻ることはなかったのにと残念な気持ちがこみ上げる。
会長に従って襲撃になんて来るから襲撃者も俺達も無駄な時間を取られた。
お互い損しか産まないしょうもない策を仕掛けてくるあの会長には徹底的に反撃して二度とこんな真似ができないようにしてやろう。
皆そう思ったはずだ。
こういう仕事は俺達兄弟にうってつけだった。
社長が赴く?それは無理だ。
社長って立場にいたのに未だに父親がトラウマらしいからな。
強気で話すことができず怒鳴られると萎縮するなんて子供の頃のトラウマってやつはいつまでも尾を引く罪悪だと思わざるを得ない。
では、うちの母ならという話になると更にややこしい。
会長から毛嫌いされていてなおかつ奴の取り巻きまでこちら側に呼び寄せちまう。
うちの母はいろんな意味で爆弾だから完全に奴の取り巻きを切り離せない。
ハッキリ言ってしまえば母にも会長にも尻尾を振るようなやつはいらないって事だな。
今まで上手く立ち回って甘い汁を吸ってきたような奴らだ。
どのみちこっちの生活に耐えられるとも思えないしな。
なにせ運動やら考えることを自然に共用されるような環境になるからな。
バスは今の住処の方角に中島さんから教わったシャッター倉庫を作って鍵をかけて停めてから町の入口のようなものも何もないが住居が並んだ懐かしの故郷に足を向けた。
今となってはよくこんな所で生活してたなとさえ思える。
もうここに愛着も興味もなくなっている自分に気づく。
「なぁ、康太。俺、もうここに帰ってきたって気持ちになれないんだけどお前はどうだ。」
「わかるよ兄貴。ここには大していい思い出もないからな。古い知り合いに声をかけるくらいは許されるだろうけどそのくらいの興味しか無いね」
思いは同じようだった。
「母さんから言われてる声をかけておけって人だけど、俺面識ないんだけどお前は?」
「俺もないな。会社に行こうとも思わないし、とりあえずホワイトリストの顔見知りに声をかけてそこから話を秘密裏に進めてもらうくらいしかないんじゃないか?」
「そうだな、そうするか。一応ここから逃げたい友達とかには声をかけておくか。会社関係は後回しでいいだろ。」
会社は潰すので助けてあげたい苦しむ仲間達以外に興味はない。
そうして俺達は講堂を開始したが、一日で飽きた。
ここには楽しみがない。
夜にシャッターの中の簡易ベッドで康太と合流したが、会話内容は早く帰りたいだった。
よくこんなしょうもない所で30年以上も生活してたものだと笑った。
ただ、ここに入ってから人の視線が痛い。
ひそひそと陰口を叩かれるのだ。
あの貧相な体で恥ずかしくないのかしらとか
あんなのじゃ魔法が発動しないとかあるんじゃね?とか
「そっちはどうだった?」
「いや、知り合いとか幼馴染にもあってきたんだけど、体を見て笑われた」
「だよな~。俺達からすればお前らの方が酷い体型だぞって感じだけどな」
「本当にそうだよ。まぁ、それでも、幼馴染の家で料理を出したら手の平クルックルだったけどな」
「それで意見変えられても納得行かないけどな」
「いや、俺らもそうじゃん」
そんな会話で終止していた。
康太には知り合いに、俺は会社関係にって役割分担した結果だった。
ちなみに母に言われていた重要人物には会えたが、魔法を見せろと言われたので目立つものを作るのも憚られたから明日落ち合ってシャッターの近くで見せることになった。
豪邸の一つも建てて破壊すれば納得するだろうと思ったので、ホワイトリストのメンバーを全員集めてもらうことにしている。
少し危険もある。
いくら母の信用できる人物リストにある名前と言っても全員が大人しく俺達を信じてくれるかはわからない。
下手をすれば襲撃者のようなおかしな行動を取るかもしれない。
だから、明日は康太にも立ち会ってもらうことになった。
上手く行けば一日にして任務完了だな。
翌朝、ホワイトリストメンバーを迎えに呼び出された場所に二人でいって驚いた。
全員で8人ほどが揃っていた。
ホワイトリストメンバー全員が一人も欠けることなく揃っていた。
自己紹介をお互いにしてからシャッターに案内して手始めに豪邸を一気に建てた。
これだけの規模のものを作ってこれから寝るつもりなのか?とか言われたが、魔力を使わないと生活できないという考えの根底が覆らないとそういう反応になるのは仕方ない。
そのあたりをひたすら説明していった。
今、俺達兄弟は欠片も魔力を使っていない。
身体強化、食料等ハッキリ言って無駄な魔力消費をしていないので限界まで魔力を使えるのだが、その目で見ていた者たちも中々理解が及んでいないらしい。
仕方がないので多少魔力を残している照明のために起きて全員の質問に答えていった。
しかし、信じられないのも無理はないが、自分の体を使って歩くことが信じられないには参った。
動くことに魔力を使わないとしんどいのは体型のせいだと言っても理解してもらえないのである。
体型によっては魔力無しで歩けないというのは少し前の俺達にも当たり前のことだった。
いや、魔法を使わないと歩けないのだから体型のせいとさえ思っていなかった。
運動をしたことでここまで大きく生活が変わるものだと改めて中島さんの凄さがわかるな。
散々疑われた後に時間をくれと全員無駄な魔法を使いまくって帰っていった。
さすがにバスケットボールでも持ってくればよかったな。
暇すぎる。
翌日、その翌日。中々彼らは戻ってこなかった。
気になった俺達は再度会いに行くと驚きの反応を見た。
ホワイトリストのメンバーは全員が会社を辞めたらしい。
今は俺達が頼まれていたはずの人員の切り崩しと家族の全員を仕事を辞めさせて引っ越し準備をしているらしい。
あの日の後全員で話し合って決めたそうだ。
元々会社には愛想をつかしていた事
子供の頃との動きやすさの差
魔法が上手くない子供の頃の方が動きやすかったと思い出したんだそうだ。
あとは彼らに任せて俺達はサイズがイメージしきれなかったもののバスケットボールとゴールをシャッター倉庫の中に設置して彼らが蜂起するまでひたすら1on1を繰り返した。
今なら橋田君にも勝てるんじゃないかと思うほどひたすら勝負に明け暮れていた。。
汗を流して運動する。この感覚は何とも言えない。
起きてひたすら運動してご飯を食べて寝る。
トイレは再現できなかったので離れた場所に穴を掘って周りを囲った簡易トイレを作った。
臭いが気になるかと思ったけどトイレは臭いが消えるものとイメージしたのが良かったのか問題なかった。
半月ほど経った頃大勢がシャッターの前に集まっていた。
30人以上いる。
康太が頼んでいた知り合いとやらも全員タイミングを合わせて集まった。
これでもうここに来ることはないだろうな。
シャッター倉庫とトイレを解体してから全員をバスに押し込んで出発した。
本当は他にも来たい者はいたらしいが、そこは車の免許を取ってから自分たちで迎えに来てあげてくださいと伝えて帰路についた。
あぁ、早く帰りたい。




