31話.大宴会
また、寝てしまった。
起きても気力が湧かずすぐまた寝てしまう。
朝陽、裕太。元気にしてくれてるかな。
一度はガバっと布団を蹴り上げて起きたけど、ベッドから降りてまた眠ってしまったようだ。
起きても起きても時間が巻き戻ったようにベッドの中にいる。
私はどうしてしまったのか。
魔法は成功したと思うけど、神龍はどうなったかな?
動けるようになったらまず名前をつけよう。
どんな名前がいいかな。
そもそも性別あるのかな?考えてなかったけど
神の龍だから子孫も作らず永遠に生き続けるような気もするし、永遠の神の龍
だめだ、全くインスピレーションが浮かばない。
お、昭和ってどうだろう。
響きが東洋風で平成でも良さそうだけど名前っぽくないんだよね。
略して『しょう』って呼びかけるみたいな。
よし、これにしよう。
私のようなおじさん世代には平成ほどではないにしても馴染みのある年号だしね。
そんな事をダラダラ考えているとようやく動けそうな感覚が体から溢れてきた。
どうやら魔力枯渇は生きる気力さえなくすほどの無気力さで体が重い、自律神経失調症に例えるのがわかりやすいだろうか。
ストレスで体に変調を来すあれだ。
いや、本当はもっとえぐい感じの体の重さで全く動かせないわけだけど。
さて、起きるか。
目を開けてあたりを見回すと自分の部屋のベッドで間違いない。
ベッドのヘリに手を付き体を起こすが酷く重い。
筋力が衰えてる?筋肉痛のような痛みが走るが動きが酷く緩慢で痛みもあるとかマラソン大会翌日ですか?
私以外の誰かが私の体を乗っ取り動かしまくったような気だるさも感じる。
何でもいいから朝陽と裕太だ。
ゆっくり歩いて朝陽と裕太の近く、つまり縁側へ移動すると二人共いなかった。
ん?ああ、今は朝かな?
いつものお散歩タイムを誰かと一緒に行ってるんだろう。
多分美野里ちゃんたちか課長夫妻とかだろうな。
そんな風に思いながら喉が渇いたとお茶を入れる。
もちろん魔法で。
渋めの緑茶が染み渡る。
こういう時は味噌汁よりも緑茶に限るね。
ふぅ~と湯呑を置いてボーっとしていると「ごしゅじん~」と朝陽と裕太が猛ダッシュで駆け寄ってきた。
あ、これ死んだわ。
そう思うほどの全力疾走。
飛びつかれたら受け止められない自信がある。
だけど、数mの距離で急停止してゆっくり近寄ってくる。
本当に優しい子たちだ。
私を気遣い、飛びつきたいのを我慢して。
だから、私は公平に二人共をゆっくり撫で続けた。
「どこ行ってたの?」
「さんぽー」
「美野里と隼人とその家族が一緒」
「そっか。お礼言わないとね」
そんな話をしながらゆったりと柔らかい毛を撫で続ける。
二人共丁寧にブラッシングされてる毛並みで誰かがブラッシングまでしっかりしてくれているようだ。
今日は少し冷え込むけどいつの間にか生え変わった毛で抜け毛もなくきれいになっていた。
あれ、私が寝てたのって2,3日ってレベルじゃないのかな?
疑問には思ったけどまぁ些細な問題だな。
「ねぇ、ご主人。もう大丈夫?」
「僕たちいっぱい心配してたんだよ」
「そっかごめんな。もう大丈夫だよ」
「良かった~」
「これからもご主人と一緒~」
尻尾はブンブン振られていた。
迷惑をかけてたみたいだしご近所さん達にもしっかりお礼をしないと。
快気祝いパーティーでもしますか。
パーティーの定番って言うとK◯Cのバーレルだけど、そういえばチキンは出したことないね。レッドホットとオリジナルとポテトにツイスター最近はバーガーも増えてたからお見せ所ではない量で大量に出すか。
魔力切れで倒れたのに魔法を使うことを考える。
これがこの世界の麻薬のような罠なんだろうな。
ついでにピザも作ってジャンキーなパーティーにしよう。
飲み物はコーラ一択で。
そんな事を考えていると手が止まっていて撫でろとばかりに頭を押し付けてくる二人。
ふふとその可愛らしい仕草に笑みこぼれている時玄関が騒がしくなってきた。
「やっと起きたんだね~」
「おじちゃん~」
それぞれが各々の方法で喜んでくれた。
総勢9名。
いや、散歩だよね?
よく見ると子犬が全員集合していた。
皆を宥めて話を聞いた。
私は半年間眠り続けていたらしい。
よく生きてるな。
ここには人工呼吸器も点滴もない。
栄養接種はできないし、筋力も著しく低下している。
それならしょうがないかと思っていたら課長の説教が始まった。
うへぇ。
皆さん当然のような顔をしないでいただけると助かるのですが。
触らぬ神に祟りなし
そう表情が物語っていた。
「あれ?翔太さんも康太さんも戻ったんですね。」
ふと気づいて課長の息子さん達に声をかけたら
「聞いてるのかい!」
と説教がグレードアップした。
息子さん達は今は声をかけないでと顔をそらした。
説教が終わり、事情も聞いたし、人が増えたことも聞いた。
「住居は間に合ってますか? 何か足りないものはないですか?」
そういうと異口同音にあんたは自分の心配をしてろと言われた。
それはそうだな。私も逆の立場ならそう言う。
子供もいない私には心配してくれる相手もいなかったけど、ここでは皆が気遣ってくれる。
本当に良い人達だと思う。
子供がいたら美野里ちゃんや隼人君と仲良く遊んでくれただろうか。
私は自分に絶対に生成魔法で生み出さない制限をかけていることがある。
人間を生み出さない事。
これは私が絶対に譲れないラインとなっている。
だけど、自分の子供を生み出す事に関してだけは真剣に悩んだ上で自制した。
この地にかのマッスルマン達が会社を設立したらしい。
会社の建物は自分たちで作り上げて家具まで自分たちで生み出したという。
社長は?というと会社を辞めてどうするか悩んでるらしかった。
金が必要ないこの地に会社をやる意味を見いだせないそうだ。
税金もない、貧民もいないこの地で魑魅魍魎を相手にするような会社を立ち上げたいとは思わないらしい。
私を呼び出した意義が呼び出した結果無くなったっていうのは何とも残念ではある。
田畑は全滅したらしい。
冬になる頃に世話の仕方もわからない彼らではどうしようもなかったと謝られた。
しょうがない。また1からやり直せばいいだけの話だから。
ふと小垣さんが泣いてるのを見つけて
「どうしました?」
と声をかけたところ、起きてくれてよかったです。と笑顔で泣かれた。
心配をかけたようだ。
初対面こそ最悪だったけど随分と変わったと思う。
体型は言わずもがなで正確まで柔らかくなったような気がする。
服装も何だか可愛らしいフリルの付いたワンピースだった。
一気に文化的になったもんだね。
そこから社長にも挨拶に行く。
浜辺社長はもう社長ではないよと苦笑したけど、呼び名が社長で皆固定化されてるそうだ。
夕飯は私に任せてくださいと言ったところ
病み上がりに無理はするべきじゃないよと諭されたがどうしてもと頼み込んだ。
人数が増えて豪邸の食堂では足りなくなっていたので現在の全員が入れる木造建築に案内された。
講堂のような巨大な木造建築が底にあった。
等間隔で柱が並び、その柱を上手く利用してテーブルと椅子が設置されていた。
マッスルマン、もとい、建築会社社長の橋田さんが人が増えたことではっちゃけたらしい。
用もないのに無駄に作るより頼まれてる家具が先じゃないかと言われても鍛えるチャンスを逃すかとばかりに絶対に必要になると主張したらしい。
動機は不純だがグッジョブだ。
朝、昼を過ぎてノロノロと外に出ると神の龍がそこに鎮座していた。
「君の名前は昭和にしたからしょうって呼ぶよ。よろしくね」
と声をかけると嬉しそうに首肯した。
ショウの横を通り木造建築に入ると時間的にまだ早いかもしれないが徐々に作り始めた。
ピザLサイズ数十枚
味は色々分けてみた。一気に大量に作るよりだいぶ面倒だし魔力消費も多いが全く問題にならないことが今ならわかる。
一度死にかけたせいなのか魔力の残りが感覚的にわかる。
ピザを生成したら次はバーレルを生み出す。
これは楽だった。入ってるものをイメージしたお馴染みの丸い箱を大量に生み出していき、子供用にレッドホットを除いたものを生み出す。
ポテトが油でベタベタにならないイメージは必須だ。
次にコーラを生み出してから大人向けに樽でビールを作っていく。
デザートにケーキを作ると準備は万端、と言いたいところだが、お世話になったお礼に防寒着を用意する。
コートにストール、マフラーに手袋等々大量に準備した。
体型に合わせてセットで持って帰ってくれればいい。
全員に行き渡ると思える量を出すとまだ半分ほど残っている魔力は温存しておくことにした。
時間はまだ夕食には早いが、今日は皆仕事やスポーツを切り上げたらしく徐々に人が集まってきた。
講堂の広さに対して扉の大きさがあっておらず、出入り口が渋滞しているのは改善ポイントだね。
時間はかかったが全員が入り切ると社長が舞台に上がった。
体育館のイメージで奥にステージのようなものがある。
「皆さん、こんばんは。元社長の浜辺 誠です。
我らの恩人中島君が目を覚ましたことは皆聞き及んでると思うんだけど、今日はその快気祝いを何故か本人が企画して開催する運びとなりました。
いや、私の不手際を指摘するのは止めてくださいね。本人の強い希望で彼は存外頑固なので仕方がなかったことを言い訳させていただきます。」
軽快に話し始めた社長は笑いを誘いつつ今日の意義を説明する。
「なぜだか責任感が強い彼は、自分が寝ている間迷惑をかけたとか謎理論でお礼をすると強硬に言い張ったのです。こんな暴挙を許せるはずないよね~。
私はここに宣言します。明日、彼へのお礼集会を開くと」
そう言うと
「うおおおおぉぉぉぉ」
「よく言った」
と全員が響き渡る声を張り上げた。
ビクッとしてしまったのは内緒だ。
手で興奮を沈めると社長は続ける。
「明日は今日に負けない盛大さで中島くんを歓待しようじゃないか」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉ」
プロ野球でも見てるのかってくらいの声で講堂が振動した。
出入り口閉めてたらうるさすぎて倒れる人出てるよ。
しかし、すごいな。全員筋肉質で男性はムキムキ、女性はスラッとしてて美男美女だらけだ。
あんなに肥満体質だったのにな。
「さて、それでは明日のことが決まったところで、本日の主役の頑固者に壇上に上がってもらいましょう」
え?ナニソレキイテナイヨ
「中島君、壇上へどうぞ~」
うっ、この空気は断れないやつだ。
くそ~目立つつもりはなかったから色々頑張ったのに
仕方ないので出入り口付近でひっそりしてたのにそこからステージに向かう。
あれが中島さんか~とか小声で話されてる上に視線が私に集中してて居心地が悪い。
仕方ないので明日の牽制をついでに入れてやろう。
「え~初めましての方は初めまして。中島 英人です。
急に自業自得で眠ってしまっている間、皆さんには心配とご迷惑をおかけしました。
なぜか謎理論とか言われましたが、うちのわんこの世話を含め、ずいぶん長く寝ていてお世話になりました。まだまだ完全復帰には程遠いので連日で宴会となるとまた長期間眠れる自信がありますし、あまり悪目立ちもしたくありませんので派手にされると恥ずかしがり屋の私は裸足で逃げ出してしまいます。その点ご考慮いただけると助かります。
さて、皆さんはこの寒い季節に夏服を着てる方が見受けられます。
今日は盛大に飲み食いしていただき、お土産に防寒着を用意したのでお持ち帰りください。
あと、酒も用意してありますし、辛い料理もありますのでお子様が間違って手を出さないようにしてあげてください。
皆さん本当にありがとうございます。
それではグラスを手に取ってください。
私の真似をしてくださいね。
乾杯!」
「かんぱーい」
そこから盛大に飲み食いが始まった。チキンを右手に左手にピザのような両手持ちがテーブルマナーも何もない今日は繰り広げたれていた。
炭酸が飲めなかった子供がいたので急遽オレンジジュースを用意した。
宴もたけなわ、全員が程よく酔っ払ってきた頃、徐々に酔い潰れる人が出始めた。
ビールはアルコール度数3%程のはずだが、雰囲気に酔ったのかもしれない。
私は酔い醒ましに渋い緑茶を注いで回った。
みんなの笑顔が嬉しかった。
私なんかを持ち上げる事なんてないのに、みんな良かったねって言ってくれて泣きそうになってしまいながら笑顔であいさつ回りをした。
明日が少し楽しみになってしまった。
目立つのは嫌いだし、人の視線は未だに怖い。
それでも、少し皆に近づけた気がした。
酔っ払ってしなだれかかってきた小垣さんと山北さんにはドキッとさせられた。
明日になれば忘れてるだろうけど、二人が両側から私に抱きついてきて両手で花だな~おいとからかわれて恥ずかしかった。
そうこうしていると橋田さんが上着を破り捨てて筋肉自慢を始め、周りにいた建築業者のマッスル達が対抗して上着を脱いでポーズを取り始め、女性が赤面してもチラ見するカオスな状況になっていった。
子供もいるのにやめなさいと奥さんかな?女性に注意されて小さくなっていた。
子供たちは総勢30人程になっていて学校の1クラス分ほどの人数になっていた。
それぞれがこれが美味しい、こっちだよ~とどれが美味しいか試していた。
ケーキに群がったのは女性陣と子供だけで男性陣は酒とピザ、レッドホットに群がった。
せっかく絞った体がぶよぶよにならないといいなと願っていた。
笑顔が耐えない食事会は深夜まで続き一人、また一人と帰宅していく中、やはりというか、一番タフなのは課長夫妻だった。
子供が酒エリアに近づくのを止め、レッドホットを男性陣に渡されそうになると殴り飛ばしていた。
暴力はだめだよ。
私も付き合いで数杯酒が入ったけど、程々の所で帰ることにした。
夕方からずっとだったから朝陽と裕太も心配してるかもしれないからね。
帰宅すると朝陽と裕太はむくれていた。
連れて行ってあげればよかったかもしれない。
縁側で酔を冷ましながらわんこたちを撫で続ける。
私の大事な家族。本当はこの二人が一番心配してくれていたかもしれない。
今日は寒いし、一緒に寝ることにした。
ここは借家ではないので何をしようと自由だ。
縁側から部屋に上げて一緒に布団で寝た。
掛け布団は暑すぎるのか掛け布団の上で丸まっていた。
この子たちが無事にいてくれたことが私も一番嬉しい。
寒いけど両手を出して抱えるようにわんこに触れて一緒に寝た。
私の大事な家族を守るように。




