23話.災難続きの一日
最近外を散歩していて気づいたことがある。
ローブを着ている人が減ってきた。
最初は私の下着や服装が毎日違う事を不思議そうに見ていただけだったが、あれ?いつの間に?
下着姿でうろついたことはないのだが、体調不良の折、心配して見舞いに来る人にはちょくちょく見られている。
スポーツをする上で必要になると余分にスポーツウェアを揃えてはいた。
そのアレンジというか、タンクトップにハーフパンツの男性や一見ローブに見えなくもないが色がパステルカラーのワンピースもどきの女性がそこら中に見える。
もちろん、ローブ姿の者もいるのだが、どういう心変わりだろうか?
気になって近くをランニングしていたマッチョに聞いてみた。
「みんなの服が色々増えてるみたいだけどどうしたの?」
「ああ、あれですか。俺らはみんなバスケをする時のユニフォーム?あれが気に入ってアレンジしたんだよ。ローブと違って動きやすいし、硬くなった筋肉を主張するのにあんな長い袖着てられんからな」
事の起こりは自分の体が硬くごつく筋肉が盛り上がってきたことを喜んだ一人が、これを隠して生活するのは苦痛だと言い始めた事だったそうだ。
多様性にあふれた私腹を着始めた男性を見て女性はおしゃれに目覚めたらしい。
男とは逆で筋肉が見えるような部分を隠し、自慢したいところを強調するような服装がはやり始めたそうだ。
「俺らはこの筋肉を維持、増強するために休んでる暇はねぇ。中島さんもちょっとは運動しろよ」
そういって彼は走っていった。
どう考えても想像の斜め上すぎるな。
いつも朝陽と雄太の散歩に付き合ってくれる美野里ちゃんと隼人君に衣服一式でも渡して文明開化の後押しをしてみようか。
私は歩きながら考える。
イメージは学生服かな?
子供達はまだ小学生高学年の年齢ではあるが、そこまで違和感もないだろう。
朝陽と雄太との散歩はいつも遊びのダッシュ時間やキャッチボールが入るので1時間半ほど時間がかかる。
少し考えて、美野里ちゃんにはブラウスとチェックのフリル付きスカートをプレゼントした。
隼人君にはワイシャツとスラックスだ。
美野里ちゃんのブラウスにはリボンもつけている。
隼人君のワイシャツにネクタイをつけるべきか悩んだが、結び方が面倒で私が個人的に嫌いだったことからやめておいた。
女の子に比べて男の子はシンプルであまりかっこよさはない。
悩んだ結果中に赤のド派手な柄物Tシャツを合わせてみた。
「何これかわいい!」
「えーひらひらしてて邪魔くさそう」
女の子の服装についての両者の意見はこんな感じ。
ついで
「こっちの赤い服もかわいいね」
「僕、赤より黒とか紫が好き」
とどちらにも辛口意見の隼人君
む~親世代のかっこよさが流行とズレすぎてて有難迷惑な子供世代って感じだろうか?
「これは組み合わせることで女の子はかわいく、男の子はかっこよくなるんだよ。
隼人君は赤い服を着てから白い服を着る時に上から3つくらいボタンをはずしてみな?」
不思議そうな顔をしてる隼人君に私流のアドバイスを送っておいた。
「私もかわいい服欲しい」
「僕も」
まさかの朝陽と雄太のおねだりにどうしようかと悩む私。
私は近所のおばちゃんが犬用の服を着せてるのを見て嫌な気持ちになった。
その犬はポメラニアンで度々服をうっとうしそうにするのだ。
うーんと悩んでから
「朝陽と雄太は本当に着たい?
毛を逆なでされる感じになっても耐えられる?」
等々優しく問いかけて諦めさせた。
徐々にしょぼんとしていく表情に心苦しさは感じた。
わんこは毛の向きに逆らった撫で方を極端に嫌う。
私の中での飼い主の鉄則
第一条:嫌がることをしない
を守るための必要な措置であり、個人的な意見は含まれていないと追記しておく。
朝陽と雄太の元気が急激になくなってしまったので
「朝陽も雄太もそのままの方が可愛いしかっこいいのにな~」
とつぶやくと耳ざとく拾って元気になった。
家に戻り二人に着替えて家まで帰りたいと言われたので家の中で着替えさせた。
女の子の制服って着方わからないね。スカートの構造なんて初めて見たぞ。
イメージが曖昧でも着てる人を見た事があるだけで再現できるんだね。
「おじちゃん着方もわからないのに何で作れたの?」
と純真無垢な目で問いかけられた時は本気で困った。
健康的な部活に励む少年少女の体系になっていた二人には予想以上に似合っていた。
「うん、いいね」
と感想を述べると思いの外喜んでいた。
隼人君はボタンいっぱいでめんどくさいと言っていたが、なんならボタン全部外しててもいいぞと言うとそれは嫌だと言っていたのでどういう感情かわからなかった。
二人は朝陽と雄太に毛まみれにされないように早く帰りなと紙袋にローブを入れて持たせると走って帰っていった。
さて、今日はどうするかなと考えながら午前中は教習所を作ることにした。
運転免許取得を促す為に必要だと思っていたのでラジコンサーキットと身体測定ができるようにしたので重い腰を上げた。
信号機はないので海外の交差点を参考にロータリー交差点を設置する。
舗装道路を敷き詰め縦列駐車や反転できる場所なども作った。
坂道もつくり監視塔を設置する。
道路交通法はどうしようか?
信号機のない世界なので最低限守るべきルールを覚えてもらって随時加筆するスタイルにした。
さて、教習所を作ったはいいが、教師も生徒もいない。
当面免許取得に来る者もいないと思っていたら、卓球にドハマりしているはずの多々山課長が後ろに立っていて驚いた。
「何やってんだい、また何か面白そうな事してたら気になるだろう?」
面白そうかどうかはよくわからないが、とりあえず課長は適任者かもしれない。
「課長、その面白そうな事を普及してみませんか?」
「あたしがかい?何させようっていうんだい」
「運転ルールの指導です」
「運転ルール?運転ってあれかい?あの車ってやつを動かす・・・」
「そうです。課長なら条件はクリアしてるでしょうから、一先ずやってみませんか?」
「面白そうだねぇ」
そんなわけで身体測定で基準は余裕でクリア。体脂肪率一桁か?ばあさんなのに。
視力2.0以上にはさすがにびっくりした。鉄人だな。
順番に基本ルールを覚えてもらい実際に車を教習者用にバックミラーやサイドミラーが助手席についている車を作成した。
ブレーキペダルが助手席にも配置されているので緊急時には教官がブレーキをかける事ができる。
MT車とAT車両方用意したのだが、課長はMT車の運転ができたらどちらも運転できるんだろ?それならあたしはMTに決まってんだよ。と当然のごとく言い切った。
「そうそう、そこでサイドブレーキを引いて、反クラになるクラッチの踏みしろに合わせて音が変わるのを確認したらそのままキープです。
ゆっくりとサイドブレーキを解除していき上り始めたらクラッチから足をゆっくり外してください。」
「こうだね?」
課長は結構大雑把な印象があったが、意外と繊細なコントロールができる人だった。
2時間ほど一人で運転して気に入ったのか、まだまだ練習させろという。
無理です。昼食の準備に行きますから、一人で練習はしないでください。と言い残してキッチンに向かった。
今日の昼食はすた丼にしてみた。
ラーメン屋発祥の某有名チェーン店が私の学生時代のお気に入りだったので再現してみた。
少し味付けが濃すぎるかもしれないと思いサラダも用意しておいた。
男性陣は大盛り上がりだった。
食事で大盛り上がりと言うのもおかしいがそうとしか言いようがない。
ガツガツかきこんで飲み物のようにどんぶりを空にしていった。
これこれ~マジで美味いんだよな~
私も大満足だった。
午後は適当にみんなの様子を見て回るのだが、突然歓声が上がったのでそちらに近づいていくと大人の輪の中に美野里ちゃんと隼人君がいた。
「きゃーかわいい~、何それどうやって作ったの?」
ともみくちゃにされている。
男は黙ってタンクトップ教の筋肉自慢達はここにはいない。
彼らはタンクトップよりも自分の筋肉にしか興味がない狂信者だから当然だ。
一番ハイテンションで隅々までじっくり観察していたのは小垣さんだった。
あの人独身でモテないって言ってたからスマートになった上おしゃれに目覚めたら覚醒するかもしれないな。
真剣と言うよりちょっと危ない目で学生服を見ていた。
隼人君にはちょっとチャラい印象の軽い口調の男が近づいていき
「イケてんじゃん。俺もこういうの作るか~、いや、これ以上モテると身が持たないかな~困ったな~」
とかニヤついてしゃべっていた。
貴方がモテてたのは太ってたからだよね?
みんなスマートになってきた今でもモテるかどうかは疑問ですよ。
美意識に目覚めてきた皆さんは筋肉がイイ派と顔がイイ派と性格だよ派に分かれているらしい。
その誰もが選ばなさそうなのが彼だった。
残念。
バスケや、卓球を見た後で私は歩いていたところを気づけば大勢に囲まれていた。
学生時代にいじめにあっていた頃を思い出し震えてくる。
無言で人を取り囲むって人としておかしいし、子供だろうと暴対法適用させろ。
とか意味不明なことを考えつつ
「何でしょう?」
かろうじて発した言葉で失敗を悟った。
気弱な奴がこういう時に強気で発言しないからいじめられるとわかっていたのに。
後悔が心を染めていく。
「中島さん!私にも服を作ってくれませんか?」
女性が裏返りながら大声で叫ぶと
「俺が先だぞ」
等続々と参加表明してくる。
全員の言い分は異口同音に服を作ってほしいというものだった。
仕方ないので全員分作る事にしました。
Tシャツ、ジーンズ、アクセサリー
ワンピース、パーカー、
男女ともに水着や下着も大量に作って勝手に持って行ってくれと適当に渡した。
思い出せる服装の種類はそれほど多くなかったのでセーラー服やメイドコスプレ、OLファッションなどもだいぶ混じった。
よくわからないながらも生成した女性ものと違い、男性ものについては充実している。
というのも、美容室で散髪の際に、対して興味もないのにヘアーカタログやファッションカタログを暇つぶしに見た事があって再現できたから楽だった。
今のスポーツウェアとローブの亜種から一気に発展しそうだ。
思い付きを即形にできる魔法が、考えなしに使っていいものではないという教訓を得た。
美野里ちゃんと隼人君の衣類をプレゼントしたことが全ての始まりだったわけで自業自得でしかない。
騒動が一段落すると多々山夫妻に強制連行された。
息子さん夫婦たちも含めた多々山家全員集合だった。
「あんた、あたしが待ってんのに何で来ないんだい」
身に覚えがない事で課長に怒られた。
約束してないよね?
「母さん、さすがにそれはちょっとひどいと思うけど?
約束したわけじゃないんでしょ」
次男さんがなだめてくれるが
「あんたらも特訓だよ! 四の五の言わずについてきな!」
そういって私は引っ張られた。
着いたのは運転免許試験場。
車の運転を今日中にマスターしたいらしい。
諦めて私は助手席に座った。
すると、爺さんと息子さん二人が後部座席に乗り込む。
課長の運転は危なげなく、問題もなさそうに見えた。
各ミラーもきっちり確認するし、加速、減速、後退に車線変更まで絶対の自信を持ってる様子で自在に車を操っていく。
1時間ほど運転する頃には坂道発進すらサイドなしでこなしていたので免許証を作成して手渡した。
付き合ってられない気持ちが多分に含まれていた。
時々車線変更でウインカー出しっぱなしになるくらいしか問題らしい問題は見受けられなかった。
全員が運転した頃にはへとへとになっていた私を無視して全員が運転をマスターしたのは暗闇が世界を支配した後だった。
ヘッドライトをつけ、運転練習するのはいいが、みんな夕食大丈夫なの?
先に練習用のゴーカートで慣れさせる私の計画は今日、この日に水泡に帰した。
ここまでやられたら仕方ない。明日この仕返しをさせてもらおう。
大型バスの運転を明日彼らにさせる事を決めて自宅へ戻った。
疲れているときに手軽に食べられるものと考える発想は残っているのか、この日の夕食は生成魔法で生み出したカップ麺にお湯を入れて食べた。
風呂に入った後で、朝陽と雄太にお風呂入るなら入りな~と声をかけて眠りについた。
疲れた。




