22話.復帰後の異変
あれから数日が経ち、私はようやく体調が戻った。
朝から朝陽と雄太と子供たち二人と散歩に行き
ベッドの暑さよりは風がある分少しマシな外気を吸い
晴れやかな気分で家に戻った。
どうも、朝陽と雄太は色々我慢していた様子で、久々に散歩を満喫してご機嫌だった。
歩き方と表情からルンルン気分が伝わってくる。
いつも通り餌を用意して水を出す。
「待て」、「良し」の後がつがつと食べ始めた。
餌を用意した上にトッピングのおやつを乗せるのは本人たちが好きでやっている事なので、最近はそれを考慮して餌は少し減らし気味にしている。
今の所太ってくるようなこともないので大丈夫だろう。
ご心配をおかけした皆さんに挨拶回りをしようと社長宅へ向かうと出てきた社長に目を見開いた。
「え?社長ですよね?」
ノックの後に出てきた社長はだいぶスマートになっていた。
顎下の肉も輪郭がわかる程度に落ち着いており、筋肉が見えるほどではないがだらしない体系には少なくとも見えない。
例えるなら一般的なサラリーマン体系だろうか。
「突然何だい?私以外の誰かに見えたかい?」
無自覚でしたか。
「いえ、だいぶ体系が引き締まってきたようで、見違えましたよ」
「これも、中島君のおかげだね。体が楽に動く実感はあったんだけど、そんなわかるほどかい?」
わかるほどとかいうレベルではない。もはや別人です。
「すでに別人みたいです。」
「うれしいものだね。最近ダンクができるようになってね。最初にできたのは橋田君だったんだけど、みんなで練習したんだよ。止められずに得点できるなんてずるいからね」
どうやら一人がダンクに成功してから一斉に俺も!とダンク練習に励んだらしい。
膝や足、握力の全てに負担がかかるダンクに熱い思いを寄せるというのは男バス部員あるあるですね。
そこから復帰した挨拶もそこそこにバスケ談議で盛り上がった。
女性はというと女バスあるあるかは知らないが、どうも2点より3点が入るスリーポイントの練習に終始しているらしい。
いえ、そもそもフリースローレーンまでボール運びしないとシュートチャンスはないですよ?みたいな話を延々しているとバスケにハマっている社員が次々現れた。
そこで私はバスケは基礎トレーニングが重要という話をして持久力の話と瞬発力の話をした。
魔力を使う予定は詰まっていたが、私は全員にバッシュをプレゼントした。
キュッとスキール音を鳴らして止まれることや、急激な反転ができる事にありえないくらい盛り上がっていた。
バスケ部の監督にでもなった気分だった。
次は多々山家と思ったが、長男夫婦や次男夫婦もここにいたので、訂正して課長夫婦に挨拶に行く。
ノックの後出てきた課長はさっき見たバスケ部員よりよほどスラっとしていた。
祖父母の年代で引き締まった体は見慣れていないのでかなりびっくりした。
散歩の後、おじいちゃんが参加した卓球に思いの外ハマってしまい、誰よりも動いて鉄壁の課長という異名をとったらしい。
にもかかわらず課長は左右に振っても運動量でついてくるらしい。
ちなみにおじいちゃんはなぜか日に焼けた肌で、練習の時の素振りの勢いがおかしかった。
ばあさんと対等に渡り合える唯一の人物らしく、ラケットの使い方が様になっている。
常にラケットを手放さず、ピン球をラケットで弄ぶように自在に操っていた。
うだつの上がらない表情はそこにはもうない。
自信を持ったことで一気に覚醒したらしい。
卓球談義にはならなかった。
多々山家で話をしていても卓球部員全員集まるようなことにはなりようがないので当然だ。
あとで卓球の様子を見に行こう。
挨拶回りを終えて今日やりたいことを考える。
1,卓球部にペンホルダーだけでなくシェイクハンドも用意する。
2,ラジコンカーとラジコンサーキットを作る。
やるべきことや、やらないといけないとは考えない。
ここはやりたいことしかやらなくても生きられる世界だから。
ちなみにこの数日で人が一気に増えていた。
今や300人規模である。
ここに来た第一陣が小垣さんだとすれば第二陣に山北さん
第三陣に社長他の皆さんで、第4陣の家族連れが一気に合流したそうだ。
第4陣には子供達も多く含まれていたのだが、まだ私は会えていない。
どうやら、教育から入るらしく、ここでの生活ルールを教えている最中だそうだ。
あまり堅苦しくする必要なくね?と思わなくもないが、魔力を使わない生活というのが意外と難しいらしい。
午前中は田んぼと畑の様子を見て回り、害虫もいないこの世界では、結構放置していても勝手に育つようだった。
脱穀機や、石臼、突き棒等も用意しないといけなさそうだ。
収穫後に作るリストに加えておく。
詳しい稲作方法がわからなくとも一安心だった。
水の量とかもわからんからこれは助かった。
昼食はさっぱりそうめんにしてみた。
みんな自分で作りますよと言ってきたがレパートリーが少ない中で頑張っていたようなので私が生成した。
めんつゆと生姜等を用意してねぎと合わせていただく。これが至高
中華も考えたが引き締まってきた第三陣までと第4陣に差が開きすぎていて、ここで脂っこいものはどうかと思った結果だ。
暑い時期に冷たいそうめんは大好評だった。
午後から各種スポーツの様子を見て回る。
ここに来て子供たちが外に出てきて遊び始めた。
追いかけっこで美野里ちゃんと隼人君に全く追いつけないらしく飽き始めていたので、柔らかいボールと鬼ごっこ、だるまさんが転んだを教えておいた。
バスケのコートは3面全て使用中でなかなか白熱していた。
ドリブルが多彩になりフェイクも入れつつ抜いていく。
マークマンが抜かれたところで残る4人が一気にその一人を囲いに行くとノールックパスでフリーの女性にボールが渡り両手シュートで3Pシュートを決める。
相手チームのボールになるとこちらは速攻で仕掛ける。
まだ戻り切れていないディフェンスを切り裂き細かいパス回しの後センターがポストで受けてダンク。
豪快に決めるも1点差があるので瞬時に戻りハンズアップ。
俊敏さと体力に対するはスキルと冷静な判断といった感じだろうか。
なかなか様になっていた。
続いて卓球場を訪れると、こちらはこちらで課長夫妻が無双している。
私はパワータイプ有利なペンホルダーからシェイクハンドに転換させるべく新たにシェイクハンドを作り、ラバーの種類もある程度見本で作ってみた。
多様性が生まれて自分に合ったラバーを合わせる事で課長夫妻に食らいつくこともできるだろう。
裏側が使えるなんてずるいだのスピンを無効化するとか卑怯だの言わないで楽しくやってほしい。
バスケに比べて地味な印象だが卓球はかなり運動量の多いスポーツだ。
課長夫婦は別格としてもあきらめずにみんな切磋琢磨してほしい。
軽くスピンのかけ方などを指導したら、一人の女の子が信じられないと目を見開いた。
呆然と球の行方を見て自分でもやろうと実践してすぐできた。
シェイクが持ちやすいと言っていたが、センスもあったようだ。
頑張れ。
私は一通り見て思ったことを実践していく。
身長体重計を作り、規定の表を作り、規定をクリアしたら遊べる施設を作成した。
ラジコンカーとラジコンサーキットだ。
これに関しては説明不要だろう。自由に遊んでほしい。
私はラジコンにほとんど興味がわかず、もっぱら実車専門なので遊ぶことはないと思う。
いずれ規定をクリアした人たちには車の運転も教えていこうと思う。
せっかく作った一家に一台自家用車を腐らせるのももったいないからね。
夕方になると私はキッチンに入り夕食づくりだ。
今日はシンプルに焼肉とサラダにしてみた。
塩でもタレでも好みで食べてほしいと振舞った。
一番喜んだのは課長夫妻だった。
肉食夫婦・・・。
一通り見て回って満足すると次は夕食の準備だ。
天ぷらを作り、これもタレと塩を用意した。
塩が最高というものとタレがいいというものでちょっとした論争が起きている。
「タレの甘い感じがこの衣のサクサク感とマッチして最高の組み合わせだろ?」
「いやいや、シンプルな塩は素材の味を・・・」
みたいなものにはならない。
そもそも調理後の野菜しか見た事のないこちらの人たちは原型を知らないので食卓に並ぶものがどういうものなのかも知らない。
なんなら魚ですら生き物と認識してはいない。
つまり、論争はどちらがよりおいしいかを感情論で延々語るだけ。
そのうち、もしかしたら漁場でも作ると美食家みたいなのがどの魚が美味いとかどの調理法が良いとか自分の好みで話し始めるのだろうか。
それはそれで面白そうだ。
夕飯後風呂に入って、朝陽と雄太を久しぶりに風呂に入れる。
風呂好きになったけど、残念ながらシャンプーは嫌いだ。
ここではノミやダニの心配は必要なさそうだしフィラリアも気にしなくてよさそうだけど、私は朝陽と雄太が楽しく長生きしてくれることが一番うれしい。
長く生きるとボケたり苦しそうにする姿を見ていられなくなるけど、ここは魔法の世界。
必ず朝陽と雄太の健康で永遠の命も可能だろう。
ずっと一緒にいてくれよな。




