20話.体調不良
どうもここ数日体調がすぐれない。
そこまで無理も無茶もしてるつもりはないんだよな。
何だろ。
体がだるい。
この世界には病院も医者もいないらしい。
病気になったら回復魔法。
自分に回復魔法をかけると少しすっきりするものの気怠い感じは抜けなかった。
それでもわんこの散歩は欠かせない。
いつも通り子供達は待っていたが今日は申し訳ないけど遠慮してもらった。
「だいじょうぶ?」
不安そうに見てくる朝陽と雄太に
「大丈夫」
と答えて歩く。
暑さは全く和らぐことなく容赦なく熱気が襲ってくるが、それでも犬の散歩は特に猟犬であった柴犬には欠かせないものだ。
魔力は設備遠しに回したい私だったが、どうにもふらつくのでキンキンに冷やしたタオルをバンダナのように額に巻いていた。
いつものお散歩コースの川沿いを歩くが今日は妙にリードを引っ張られる。
いつもは散歩中でもこちらを気にしてチラ見しながら歩くペース合わせてくれるのに。
んんん?
あっ、子供達の追いかけっこからちょっと感覚が狂ってるのかな?
そんな事を思いながら私はふらついて立っていられなくなり受け身も取れずに前に倒れた。
体が言うことを聞かない。
顔に砂がついてるだろうことは想像できるが払いのける気力さえわいてこない。
これは死んだわ。
「おーい、大丈夫かい?」
デジャブのように安眠妨害する声が聞こえてくる。
つっ!頭がずきずきする。
「回復魔法は使ったんだけど、何だろうね。聞いたこともないよ。回復魔法がきかない症状なんて」
「え?大丈夫ですか?異世界特有の何かでこっちの世界だと良くないみたいな?」
「あたしゃ異世界の人間見たのも初めてだからね。さすがにわからんね」
ごめん、ちょっと黙ってほしい。本当にキツイ。
文句を言おうと目を開けると多々山夫妻に社長に小垣さんと山北さんまでいてた。
「あれ?」
いつもの私の部屋ではなかった。
「おっ気づいたね。どうだい調子は? あんまり無茶すんじゃないよ」
課長に言われて気づいた。
調子悪くて倒れたんだったか。
「小僧が倒れたって孫が朝陽と一緒に来て慌てたね。車とやらも動かせないし社長に走ってもらったのさ」
う、いろいろご迷惑をおかけしてたらしい。
安眠妨害とか思ってすみませんでした。
「ご迷惑、ご心配をおかけしました。」
「それはいいんだけどね。回復魔法も効かないっていうし、どういう状況?」
もはや興味の対象とされてそうなのが腹立たしい。
「私にもわかりません。調子が悪いのはわかってましたが、散歩に行くと余計にひどくなってきまして」
「それに関して私に心当たりがあるのですが」
と山北さんが発言する。
「もしかして、魔力酔いでは?」
「そんなの子供しかならないじゃない。何言ってるのまなちゃん」
小垣さんが馬鹿にしたように言うけど、正直小垣さんより山北さんの方が理知的なので信用できる。
「いえ、先輩。考えてみてください。中島さんって魔法が使えるようになったの最近ですよね?
それなのに、これまで急激なオンオフを繰り返したから子供みたいに酔ったんじゃないっすか?」
山北さんはたまにですかがっすかになることがある。
「魔力酔いとは?」
ややこしい話をまとめてみると
魔力酔いは魔法を使い始めの子供に起きやすく、魔法に慣れてない人が大きな魔力を扱うと陥る、回復魔法も効かない現象という事だった。
原因も不明らしい。
魔力に慣れているか否かで変わる現象か。
仮に魔力が原子や電子のようなものと仮定する。
魔法に慣れた人はそのバランスを調整できるが、突然使い始めた人は体内で暴れた魔力によって例えば血液であれば血流が変わるような事になって不整脈や貧血のような状況を引き起こすと考えるとおかしな理屈ではないように思えた。
魔力が私には未知の物すぎて他の細胞や原子に作用するものかどうかも検討もつかないが。
「そういう状況になった子供はどうなるのでしょう?」
「そうだね~大体は寝てれば治るんだけど、中島君は大人になってからだからね。子供と大人で違いがあるかどうかはわからないね。経験する人は100%子供の頃に体験済みだからさ」
この世界で唯一無二の経験をする私だから大人になってからどうなるかはわからないと。
少し魔法を使う事は控える事にしましょう。
「課長、魔法を使う練習ってことですけど、魔法の練習は休止して少しずつ慣らすって感じでもいいですか?」
「そりゃもちろんいいんだけどね。魔法使い始めてすぐじゃないってとこが引っかかるね」
確かに
でも、二日酔いで寝た後に血中濃度で酔うとか花粉症みたいに体が異物を排除しようとするまで時間がかかるようなものと考えるとあながちおかしくはない気はする。
「おそらくですが、私の体が魔力を使う調整が終わっていないのに、魔法を使いすぎて体が自己防衛で反応したのかもしれません。寝てれば治るようなので一先ずは当面魔法を使わないようにします。
そんなわけで、申し訳ないのですが、食事に関しては皆さんで何とかしてもらえると助かります。」
私が魔法を使わなくなることで最も困るのはおそらく食事にかかわる部分になる。
「それは全員で何とかするよ。中島君はゆっくり休んでくれればいいから」
社長にそう言われたところで私は自宅に戻ることにした。
家を出てから確認すると社長用に作った邸宅だった。
社長は何故か他の社員と同じ豪邸住まいをしていて邸宅には住んでいないが、非常時に二階まで抱えるよりもということで一時的に開放してくれたらしい。
色々迷惑をかけてしまって申し訳ないので、しっかり休んで早く復帰しよう。
決意を新たに私はベッドにもぐりこむ。
明日は散歩に行ってあげたいな。




