18話.魔法は甘え
朝、いつも通り散歩に出かける。
人は増えたけど何故か子供が多々山家しかいなかった。
考えてみれば子供が増えないことは当然の事だった。
子連れでこんな辺境に移動する親が多々山家以外でそうそうあるはずもない。
もし、移動する事を考えたとしても準備には時間がかかるのが道理だった。
ここ最近子供たちは散歩に行くのを楽しみにしている気がする。
歩くことが楽しいというより、わんこが何かの拍子にテンションが上がって走りだした時に負けじと走り回るのが楽しいみたいだ。
「二人ともうちのわんこ好き?」
気になったので聞いてみた。
「大好き、朝陽ちゃんも雄太ちゃんもかわいい」
「え~かっこいいじゃん。僕は雄太が好き、何か静かでかっこいい感じがする」
そうだぞ~、かわいくてかっこよくて最高だぞ~
自慢したかったが、子供に対して自慢しまくるのもはばかられた。
いずれ一日中語り合いたいものだね。
あいかわらずうんちだの言うのはやめてほしいけど。
散歩から戻ると朝ごはんの準備にかかる。
今日はサンドイッチにしてみた。
サンドイッチになるので卵マヨネーズやサラダ
変わり種にはフルーツサンドなどかなりの種類を取り揃えてみた。
サンドイッチに合わせるのはリンゴ1個と飲み物はコーヒーにしておいた。
コーヒーはお好みでミルクと砂糖を準備した。
毎回の事だけど食べ方は逐一説明している。
食事を用意し始めてから思っていたことがあるので、朝食が終わると準備にかかる。
魔法がある事で一瞬で再現できる水田や畑を大規模に作ってみた。
面倒だからいずれ私の手を離れて全員で農作業とかできるようになるといいね。
「社長、少しお時間よろしいですか?」
「山北さんだっけ
うんいいよ」
「私たちがこちらに来てから、魔力を使う事が最低限になりました
何故だと思います?」
「そりゃ、制限してるからだろう?」
「いえ、そもそも使う意味がないのです」
意味がない?そんなことないでしょう。
「魔力を使う事を中島さんは無駄と言いました。
自分の体を甘やかして弱い体にするために魔力を使って倒れるのは無駄だって。」
「ふむ、続けて」
「私がこちらに来て思っていることは夜まで使わなかった魔力をためて販売できないかという事です。」
「ほう、その考えはなかった。」
「無駄な魔力をためる方法は水をためる貯水槽を参考にしました。
そもそも魔力って何でしょう?」
「そう聞かれると困るな、子供の頃からあって当たり前だからね。」
「ですが、ここで生活を始めると、食事と風呂以外で常時発動する魔法が実は全く必要なかったことに気が付きます。
夜に魔力制限といてどれだけ魔力が余っているかわかりますか?
この豪邸を建てられるほど魔力が余ってました。
一度全員で夜にこの豪邸のコピーを試してみました。
結局細部までうまくいかなくて消すところまで魔力切れを起こさなかったんですよね。」
まさか、あの巨大な物を中島君でなくても使えるとは思わなかった。
「それに、バスケで見ましたよね?
魔力を使わなくても動きが良くなってきてます。
最初はすぐにバテてましたが最近では少しバテるまでの時間が伸びてます。
必要な時に必要なだけ魔法を使う。
これが意外と効率的なんですよ。」
人事部で商品開発部のような考え方をする。
しかし、ここまで中島君の考えが正解という事なのかな。
面白い男だね。
こうなってくると物を売る必要もないわけだね。
私も少しここでの生活になれるように頑張ってから考えをまとめますか。
唐突に始まった山北さんのプレゼンには考えさせられるものがあった。
私はみんなが運動をしているのを横目で見つつ、中島君に張り付いて観察することを選択した。
「中島君、これから何をするんだい?」
務めて明るく話しかける。
「はい、これから田んぼと畑を作ります」
田んぼと畑が何か知らない。
「見させてもたってもいいかい?」
ええどうぞと許可してくれた。
私たちは北と呼ばれる方角に歩くとおもむろに中島君が瞑想のようにイメージに取り掛かった。
膨大な魔力がほとばしるのがわかる。
私は幼い頃より魔力をある程度知覚することができたので観察していると驚異的なことが分かった。
魔法を発動するときに大多数の人は魔法の際にイメージから零れ落ちた魔力が無駄に広がっていく。
それがこの中島君には全く見えなかった。
よほどはっきりとイメージで来ているのかな。
原因はわからないけど徐々に中島君の正面から広がり始めた四角い土の範囲は広範囲に広がり続けた。
「これは何かな?」
興味に負けて我慢できずに話しかける。
「これは田んぼと畑です。
田んぼはご飯を作るもので、畑は野菜や果物を作ります。
既に種も巻いている状態なのでそのうち目が出てくると思いますよ。
しかも、これが成功すれば食事に魔力が必要なくなります。
面白そうじゃないですか」
軽く説明された言葉に衝撃を受ける。
あんなにおいしい食べ物が魔力なしで食べられるようになる?
ここでの常識は完全に理解の範疇を超えている。
田んぼと畑を作り終えて満足したらしい中島君は次に北東方面に巨大な建造物を建て始めた。
階段があって椅子が並ぶ奥に行くほど高くなっている場所と
その下には黒くて硬そうな地面を敷き詰めていった。
そこを完成させると今日の魔力使用は終わりのようだ。
これが何かはわからない。
それでも、何かすごいものだと思えてしまう。
食事に関するものだろうかとワクワクする。
それが終わると中島君は他の人たちの視察に行く。
バスケがやはり人気の様子でコートと言われる設備は我々が到着してから3面になった。
あのバスケで分からされたんだったね。
心なしか先行チームの体が引き締まってきた気がする。
一通り見て回るのだが、魔力を使っていない事が信じられないほど歩くのが早くてすぐに息が上がってくる。
負けられない一心でくらいついていく。
中島君はみなが無事に運動をしてるのを眺めると微笑んでから食堂に向かった。
あれだけの魔力を使ってまだ、昼食分に余裕があるのだろう。
こう考えると如何に魔力を無駄遣いしていたかよくわかるね。
おかげで魔力を使わず動き回るきつさを身にしみて感じている。
しかも、私の中から魔力は全く減っていない。
徹夜で回復していないところに魔力を使う必要のない生活。
皆の言う事が実感として感じられた。
キッチンに向かうと親子丼とやらを大量に作っていった。
昼食が終わると中島君は食堂で私に向き直った。
「私を観察してみて面白い発見でもありました?」
少しニヤついているのはお前の考えそうな事等お見通しとでも言いたげな表情だった。
「そうだね。面白い発見しかないよ。
大量の魔力を使い、魔力切れかと思いきや昼食まで作る。
歩くスピードは速く、バテることもない。
以前の私なら人外の規格外だと思っただろうね」
「今は違うんですか?」
「そうだね、バスケで負けた時から運動の意味は理解してるつもりだよ」
「それは良かった。
私はこの世界はゆっくり収束に向かう世界だと考えてます」
突然すぎる話に面食らう。
「どういう意味だい?」
「もし何らかの理由で魔力が突然なくなる。
もしくは魔法が全く発動しなければどうなります?」
ありもしない事と笑うことはできない内容だ。
「なくなる可能性があると考えているのかい?」
「そうですね。まず魔力を使って魔法を使います。
例えば生成魔法を使うとしましょう。
生成魔法で食事を作ります。
食べた時に魔力は作った分と同等に吸収されますか?」
「いや、回復量は微々たるものだね」
「では、消費された魔力はどこに行くのでしょう?
際限なく無限に生み出されているのでしょうか?
そういった確証のない力に頼りすぎている事への恐怖心がない事が私がこの世界の人たちに感じる疑問と不安です」
「そう言われると確かにそうだね。考えたこともなかったよ」
「召喚をどうやって成し遂げたのかは知りません。
それでも異世界から知恵を得る必要性を感じて私を呼んだのではないのですか?」
「ごめんね。そんなつもりは全くなかったんだ。
君達の魔力を使わない生活を我が社が取り入れて商品開発出来たら売れそうだなっていう興味だけでそこまで考えてたわけじゃないんだよ」
「そうでしたか。それならそれでいいですが、せっかく呼んでもらいましたし、私ができる事はさせてもらいます。ですが、社長命令されて商品開発をさせられそうになれば私は逃げますからね。朝陽と雄太もつれて」
「ふ、面白いね。でも、安心していいよ。中島君には自由裁量権を与えてるつもりだし、仕事として動く必要は全くないから。それどころか我々は中島君に学ぶことが多そうだ。
君は普段通り生活してくれるだけでいいんだよ」
私より少し年上であろうこの中年は私を遥かに凌駕する頭の回転をしている。
課長を会社のトップにと考えたこともあるけど、彼の方がむしろ適任に思えるね。
普段はひょうひょうとしているのに胸の内に深謀遠慮を抱えて、話す内容も相手に合わせている。
これはうち以外の全会社とうちの会社で天地の差が生まれかねない。
山北さんの言った意味が今ハッキリわかった。
もう一度腰を据えて彼女とはじっくり話してみる事にしよう。




