14話.ラスボスと対峙
昨日は散歩に連れて行ってあげられなかったので朝陽と雄太を散歩に連れて行こうと庭に出ると先客がいた。
美野里ちゃん(12歳の女の子)と隼人君(10歳の男の子)だった。
多々山課長のお孫さん二人です。
二人は一生懸命に興味を引こうとうちのわんこ達に話しかけているけどうちの子達は結構な塩対応だ。少し手助けしてあげますか。
わんこ用のボールを持って庭に出ると匂いで気づかれているだろうけど子供達を無視してこっちに駆け寄れない不器用硬派なわんこ達に向けてボールを投げた。
二匹とも我先にとボールに飛びついた。
その様子を見た子供たちは目を輝かせた。
「すごい、わたしもやりたい」
「おおー早いし強そう」
それぞれ感想は違ったが男女差だろう。
12歳というと小学校6年生
10歳だと小学校4年生くらいかな?
そのくらいだとかわいいものに目がない女の子と
強さに憧れる男の子って感じだろうか?
二匹が1つのボールを取り合っていたのでもう一つ放ってやる。
すると二匹ともが反応して走りだした。
取り合ってたボールは地面に落として新しいボールを追いかける。
チャンスと見た美野里ちゃんはボールを確保しようて手に持つと
「うえ~よだれまみれ~」
と悲しそうな声を上げた。
そこの少女よ。わんこの信頼を得るにはトイレのお世話からよだれがつくのも耐える忍耐力が必要なのじゃよ。
仙人のような事を一人で思っていると隼人君が私に気づいた。
「おはよう」
先に挨拶する。
「「おはようございます」」
二人は礼儀正しく返してくれた。
あの肝っ玉ばあちゃんの孫とは思えないね。(超失礼)
「これから散歩行くけど二人も一緒に来る?」
「「行きたい!」」
二人は声をそろえた。
とはいえ、保護者に許可を得ないといけないので豪邸に入り多々山家の3部屋まで一緒に行く。
二人はそれぞれの部屋に入り、私は多々山課長に声をかけた。
散歩をしながら今後の事を話そうと思っていた。
部屋の扉をノックする。インターフォンが欲しいところだね。
出てきたのは多々山課長の旦那さんだった。
「これからお孫さん達とうちのわんこ達の散歩に行こうと思いますが、良ければ奥様と共にご一緒しませんか?」
「ほ、散歩ですか。それは良いですな、妻に声をかけてきましょう。」
初めて挨拶以外で会話をしたけど、穏やかそうな雰囲気のおじいちゃんだった。
肝っ玉ばあちゃんが横にいたらうだつが上がらない雰囲気になるから不思議だね。
絶対評価と相対評価みたいなものかな?
申し訳ないけど課長の方が話が通りやすそうなのでお孫さん達の世話をお願いしようと思う。
少し待つだけでご夫婦で出てきたので子供達に声をかけようとノックしようとすると
「美野里、隼人、散歩行くんだろ、早くしな」
と強権発動した。
これをされたら息子さん夫婦も許可せざるを得ないだろう。かわいそうに。
5人と二匹で西に向かう。散歩コースはもっぱら川沿いだ。
ちなみにだいぶ下流の方にはなるが下水を川に排水している。
子供たちはリードをもってウキウキだったが、私は心配だったので朝陽と雄太に子供たちに合わせてあげてねとお願いしてある。
「よく眠れました?」
「そんな心配は不要だよ。あんないい環境で寝られない人間なんていないさ」
「ほ、わしは迎えが来たかと思うほどよく眠ってましたわ」
独特すぎる反応に面食らう。
二人が二人とも表現が奇抜すぎる。
「であたしに何の話があるんだい?」
ドストレート過ぎて言葉に詰まる。
「あんたをみてりゃわかるさ。ハッキリ言っちまいな」
「そんなわかりやすいですか。まぁどのみち話す事なので覚悟を決めましょう。
皆さんは健康によくない体系です。子供達でもギリギリですね」
「何言ってんだい! あんたもそうだけどそんなやせっぽちじゃ舐められちまうよ」
そう、この常識の壁を打開しないといけない。
肥満体系が魔法を上手さの指標であるというのは間違いで健康を害していることと運動不足を指摘する。
今も絶対に魔法使いまくってるだろうからね。
「魔法で保護することによって人間は成長を阻害されてます。
筋肉という力を出すための人間の組織は自分自身に負荷をかけて初めて成長します。
つまり、魔法が上手ではなく、魔法で楽をした結果の体系だということを理解してください。」
「ほ、魔法なしの考え方だとそんな風になるんじゃのう」
「あんたは黙ってな!」
ぴしゃりと旦那さんを黙らせると肝っ玉ばあちゃんはこちらに向き直る。
「それは検証結果が出てるのかい?」
さすがに役職餅はデータに基づく考えを持っている。
「いえ、検証しなくても前の世界での常識であり、この世界の状況を聞くだけで分かります」
「あんたこの前こっち来たばかりだろう? 魔法も知らないのになぜ言い切れるんだい」
「みなさんは手を伸ばすより先に魔法で物を取りますね?
魔力の無駄です。
そういう行動の積み重ねが筋肉の発育を妨げて太りすぎの原因になります
私のいた世界では太りすぎの人間の平均寿命が短い事から適切な運動を推奨されてきました。結果として平均寿命は伸び続けてます」
「ふむ、出まかせってわけでもないんだね
まぁ、いいさ。それでどうやって改善できるってんだい?」
ここからが核心だ。
「今後もこちらに引っ越してくる方々がいらっしゃると聞きました。
その方達が来られた時に先に来た皆さんとの差を実感していただければと思います。」
「だから、どうやって」
「魔法を禁止してください。意識して魔法を使うのを止めてください。
身体魔法、疲労軽減魔法、その他様々な魔法を常時発動してるそうですね。
ハッキリ言って無駄です。そのせいで魔法力枯渇が早くなってますよね?
魔法に触り始めたばかりの私があの家を一日で建てました。
最初は魔力量かと思いましたが、ろうそくとライトで考えを改めました。
ライトの魔法を常時使い続けて魔力消費し続けるよりも、生成魔法でろうそくを生み出して火魔法で火をつけた方が効率がいいのです。
常時魔法を使わないようにしてください。」
「確かに新しい着眼点だねぇ。しかし、論拠が弱いね。もう少し何かないのかい」
「あります。あの子達を見る限り幼い子供はそこまで太ってませんよね?
これも完全に推測になりますが、子供は魔法の扱いが上手ではないので自身の身体能力で動くことが多く、しかも好奇心旺盛で運動量が多いでしょう。
体に負荷がかかっているので筋肉が発達しているから代謝が良くて太りにくいのです。
元気いっぱいで走り回ってせっかく発達しても、使わなくなれば筋肉は衰えます。これが大人になるにつれて太る理由でしょうね」
「ふむ、なかなか考えてるじゃないかい。合格だよ。あたしはこれまでなかなか太らない体質と言われてきたんだ。なのに、他より魔法運用はできている。不思議に思っていたんだけどね。あんたの話で説明がつきそうだね。あたしゃ動く量も多い方だからね」
「あくまで私の推測ですが、そう間違ってもいないと思います。できるだけ皆さんには自分の体を動かすようにしていただきたいと思ってます」
「いいだろう。やってみようじゃないか。この話をするだけじゃないね。子供たちに運動させようって腹かい。よくもまぁそこまで考えて行動するもんだね。」
この肝っ玉ばあさんなら年齢も考えずにすぐに魔法を解除するだろう。
時間が倍かかっても構わないのでゆっくり戻るとしましょうか。
「じいさん、あんたも魔法解除しな。
そこの若いのが言う通り魔法解除を維持するのも大変だし、それで歩くのはもっと大変だからねぇ」
「ほ、わしもやらにゃならんのかい。わかったからにらまんでくれぃ」
その後3倍ほどの時間をかけてゆっくり家までの道を歩いた。
子供達にはその話はしていない。散歩だけで事足りそうだから子供達には散歩に付き合ってもらうようにしようと思う。
わんこたちを見ていなかったが全く心配する必要はない。
「この子達川でウンチしたんだよ~」
「おしっこもしてた~」
小学生低学年のようにうんちだのおしっこだので喜んで報告してきたからだ。
言葉がわかる二匹は恥ずかしそうにしていた。
これで距離が開かなければいいな~
家に戻るとばあさんは大きく息を吸うと全員家の外に出てきな~と大声を張り上げた。
防音にはしているが、さすがに玄関を開けてこの大声なら全部屋に伝わってるのは間違いない。
全員を集めたばあさんは早速さっきの話をみんなに伝えた。
「この小僧の言いだしたことは正直眉唾物さね。
それでも、説明におかしなことは見つけられなかった。
このあたしがこんな若造に言いくるめられるとは思わなかったけどね
だから試してみようじゃないかい。
全員毎日夜まで魔法禁止にするよ」
反発は出なかった。
このばあさんには強引に全員を従わせる何か(たぶん大声)があるのだろう。
唯一不満そうなのが小垣さんだった。
「そのかわり、小僧は魔法の練習をしな」
私にもしっかり枷が嵌った。
それから私は遊びを工夫してみることにする。
公園を作り遊具を作った。
アスレチック設備は構想ができてないため後回しにする。
ブランコと滑り台、バスケットコートとバスケットボール。
卓球台と卓球セット
公園というには少し変わっているが運動の為なので問題ない。
魔法を使わずにバスケをするのはかなり大変そうでみんな動きはひどかった。
その中で異彩を放っていたのがばあさんだった。
いや、おかしいでしょ!魔法を使わず散歩から帰ってきてバスケができるばあさんってありえない。
ばあさんより若い息子さん二人が一瞬で抜かれてダックイン
このままレイアップかと思いきや急制動をかけてスリーポイントレーンにバックステップでマークを完全に外すと華麗にスリーポイントを決めた。
絶対魔法使ってるでしょと思えてならない試合内容だった。
「っか、かあさん、ちょっと手加減してよ」
息も絶え絶えに息子さんが意見するが、ばあさんは一喝した。
「年寄りに負けて悔しかったら必死で練習するんだね」
このばあさん、日本でオリンピック代表になれるんじゃないだろうか。
おそらく動きが多い事で魔法を使っていても自身も鍛えていたのだろう。
ぜい肉でおおわれているが、イメージ的には関取だろうか。
チームをシャッフルしながら何ゲームかやってみたが、どうやってもばあさんのチームが勝ってしまった。
なお、見どころは独身男女がたまたま組んだ時に営業部の男性がかっこを付けようとして調子に乗った結果試合時間が残っているのに体力ギレでへたり込んでばあさんがぶちギレてボールを顔面にぶつけたシーンだった。
試合内容に見どころなんて全くなかったからね。
小垣さんと山北さんはボールが怖くてよけていた。ばあさんに睨まれたのは言うまでもない。
ところでわんこと子供たちはというと壮絶な訓練と化したバスケットコートの横で公園の池の周りを補助輪をつけた子供用の自転車でわんこを追い回していた。
かけっこの自転車バージョンだがルールは簡単。
よーい、どんで一斉に走り出す。わんこたちに2回抜かれたら子供たちの負けという謎ルールで5周にもかかわらず、子供たちは一勝もできなかった。
美野里ちゃんはわんこに負けた事よりも年下の隼人君に負けたことでやる気になり、途中から二人の三輪車競争になっていたが、魔力制限はかけていない。
魔力補助があってもこれほど運動量があればなんとかなるんじゃないかな~と淡く期待しているが、太っていくようなら制限させることにしよう。
こんなかわいい子達が肥満で早死になんて考えたくもないからね。
さて、魔力制限は毎夜解除されるわけだけど、魔力を何に使うのかと言ったら私の出した料理の再現と風呂と貯水タンクの補充だった。
翌朝私は外で朝から三輪車で遊んでいた子供たちを連れて散歩に出かけた。
おじいちゃんと肝っ玉ばあさんは参加しなかった。
というか、筋肉痛らしい。
回復魔法を夜にかけなかったのが敗因だとか。
それでも朝起きて魔力制限があるからと回復魔法を使わない根性は孫がいる年齢とは思えないね。
散歩に行って子供たちはわんこ達と徐々に打ち解けてきたようだった。
朝陽も雄太も頭を撫でられても嫌がらなくなった。
しゃべりはしないけど。
散歩から戻ると餌の用意をするが、毎回必ず好きなおやつを一品増やすんだよね。
そのくらいなら許容範囲かと思って何も言わないけど。
朝から魔力制限がかかるので朝、昼と魔法練習を兼ねて私が登板をしている。
好き嫌いが分かれるので納豆は出せないが、メニューをどうするか悩みどころだ。
慣れない箸を使わせるのも筋肉痛できついと思うので今朝はおにぎりとみそ汁にした。
おにぎりは定番のツナマヨと年配が喜びそうな昆布と梅干
変わり種で焼肉と唐揚げをそれぞれ多めに作って出してみたところ、焼肉と唐揚げが一瞬でなくなった。
ばあさんは予想通り梅干が気に入り、子供たちはツナマヨだった。
昆布の不人気だったので次は鮭にしようと思う。
午前中は昨日のハードなスポーツで動けない人が続出したのでお休みになった。
ばあさんにリベンジチャンスと見たのか二人の息子さん達はバスケの練習をしていた。
腕が上がらないのでドリブル練習だった。
昼ごはんは昨日頑張ったご褒美とばかりに渾身のラーメンにした。
さっぱりとんこつしょうゆ味だ。
ただ、私は考えが甘かった。ラーメンがおいしかったからか筋肉痛の体で器を持ち上げてスープごと麺を食べ始めた。
みんなお箸慣れてないからね。
昼食後はそれぞれ好きなようにスポーツに勤しんだ。
私は実力を見せつけて気持ち良くなれるなんてことはない。
私はスポーツ禁止でひたすら魔法使用だったからだ。
魔法は面白いので全く苦ではない。
私は優先順位をつけて作りたいものを作っていった。
現在作りたいもの第一位
人数が増えることを考えて家を作ることにした。
どうやら会社の社長さんが来るとのことだったので、その方だけ戸建てにしようと思い、プール付きの領主館のような規模の一軒家を立てた。
イメージで何とでもなるとわかったので排気口は作っていない。
煙は透過すると必死で考えて作った。
現代人には容易な電気を完備した。
スイッチをオンにすれば照明がつくものだというイメージで作ってみたのだが、やはり動作はしなかった。
魔力にせよ、ガソリンにせよ動力は必要らしいが、電気を作り出し貯しくするイメージがわかない為にただの飾りになってしまった。
無念である。
社長の家以外はマンションにしようと思ったが、高層マンションはエレベーターなしだときつすぎるので最強の家地下室無しバージョンを2棟追加すること決めた。
たぶん、今日の分の魔力で作ると死ぬと思うので明日にしよう。
お風呂に入ってベッドに入ったときにハッとした。
洗面台あるのに歯磨きを教えていなかった。
歯ブラシも追加しないとな~と思いながら眠りについた。




