13話.次の構想とお披露目
私は小垣さんに叱られはしたものの、私の作ったものでよい意味でびっくりされたのが楽しくて、起きる時間が遅かったこともあって夜になっても目が冴えたままだった。
こうなると夜の内にサプライズを用意したいという少年のような悪戯心が芽生えてくる。
光魔法でライトを照らす事が魔力の無駄だということはわかっている。
常時発動してるより、ろうそく等を生成して灯した方が省エネになるので、暗さは気になるけど燭台のようなものと蝋燭を生成して火魔法を極小サイズで出して蝋燭を灯した。
ここからは時間との勝負になる。
蝋燭の光が届く範囲が狭いのでまずは光量を確保しようと建物を作る。
壁にずらりと燭台が並び、換気用に壁の上部には窓を設置した。
窓をすべて開放していて燭台の蝋燭に手に持っている蝋燭から火を移していく。
一気に明るくなったので早速製造にかかる。
まずは大前提のガソリン生成をしてみる。
地下室を作り、そこに巨大なガソリンタンクを作る。
ポンプがないのでスタンドにあるガンは再現できたが汲み上げができなかった。
試行錯誤して結局昔の井戸用手動ポンプを設置してスタンドにある給油機のようなものに貯める方式をとることになった。
そこからは水道と同じ理屈でガンのトリガーを引かなければガソリンは出てこない。
トリガーもストッパーを付けてガンの先端に空気口を作った。
これでほぼ全自動だ。
ガンの構造の理屈は空気が入ってくるのであればガソリンが出ていくが、ガソリンで空気口がふさがれると醤油さしの空気穴をふさいだような状態になるので止まるという単純構造だ。
ガソリンスタンドは完成した。
現金のやり取りが必要ないので支払い機など電機の必要なものは全く必要ない。
そこそこ満足できる結果になったので次は車を生み出す。
外側の形成は後回し。
必要な構造を書き出してみる。
ここで大問題に直結した。
バッテリーの電源を用いてエンジンを始動することはわかる。
エンジンの構造もわかるので水平対向にしてみた。
ここで問題が発生した。
どのように配線すれば始動するのかが全く分かりません。
そういえばECUとか電子回路も使われている。
これは無理だと思ったが、諦められなくて車は走るものだと想像して何とかならないか試してみると何とかなっちゃいました。
さすがに下からのぞき込めるようなスペースはない。
何せ地下はガソリンタンクが占めている。
まぁ、整備用に今度穴を掘って上に車を停車できるようにピットを作ってみようと思ったが、よくよく考えてやめた。
ガソリンだけあれば動く、バッテリーも生み出せる。電池と同じようなものだからだ。
それなら電気も行けるんじゃないかと思うけれどそれは今後の課題でよいのでまずは車だ。
ボンネットを開けてみると完全に記憶にある通りになっていた。
これはヤバい。興奮する。
コーションプレートは私のオリジナルの車両しかないこの世界では必要ないしここには車検も道路交通法もない。最高だ。
調子に乗って、大型バス、大型トラックと作っては給油して駐車場に移動を繰り返した。
慣れない大型車の内輪差には苦労したがぶつけることなく立駐に移動できた。
ここからは完全に趣味の車
セダン、SUV、スポーツカーと作ってからノリにノッていた私は二輪車にも手を出した。
日本企業なのに海外でしか販売していない逆輸入のハイパワーモデルをコピーできた時は本当に頭が沸騰したような興奮状態になっていた。
このメーカーはブランドカラーがグリーンなので色まで完全再現である。
こうなってくると歯止めは効かない。
小回りの利く物ということで数百台の自転車を生み出し、ロードバイクからママチャリまで取りそろえた。
住人が増えるかもしれないと聞いていたので作成してみたが、電動アシスト自転車はバッテリーが作れるので再現可能だけど作らなかった。
なぜかって?ダイエットのためだよ。
魔法で楽ばかりしてる人たちの健康を考えるとこれは必要だと思ってくれることだろう。
小垣さんが来たときは肥満の浮浪者という意味不明な第一印象だったので当然だ。
ここまでやってそろそろ魔力が切れるかもしれないと思って自重した。
自重がもう少し早ければ翌朝の地獄は緩和されたのだろうか。
そんなことはつゆ知らず、サプライズで驚く彼女たちを楽しみに部屋に戻るともう朝日が昇り始めていた。
魔力で生活リズムを崩すのは仕方がない。
私はそう思い朝から眠るのだった。
昼まで寝てやると固く決意していた私は大声で起こされた。
バタバタと階段を駆け上がってくる音が聞こえる。
うちは木造だから重量級が駆け上がって耐久的に大丈夫か不安になるな。
そんな失礼なことを考えているとバンっとドアをあけ放ち小垣さんが目を吊り上げて怒鳴った。
「あんた!またやったわね~」
ノストラダムス先生。恐怖の大魔王が降臨したのは地球ではありません。異世界です。
こんこんと説教されてまだ眠かったはずの私は仕方なく体を起こした。
驚く顔が見たかっただけだし喜んでもらえると思っていたらこんなことになってしまった。
自重するのが遅すぎたんだ。
今度からは1台ずつにしよう。
実は欲しい物はまだまだある。
自転車用の駐輪場を作っていないのだ。
つまり外に放置してるだけ。
説教が終わったらご飯にするか。
1日が長いが、明日までお預けだ。
朝食には焼き魚定食にしてみた。
異世界にはこんな生き物まで!?と不気味そうに見ていた二人は食べて意見を180度変えた。
この世界になぜ魚がいないのかと泣きながら嘆いていた。
二人になったことで共感しあってハウリングしているというか、だいぶうるさくなった。
朝食が終わり食器を洗って片付けると二人に引っ張られて外に出た。
「これよこれ!何よこれは!」
もう一度再確認して怒りが再燃したらしい。
「さすがにこれは、驚きますね。先輩が愚痴る気持ちもわかります。
異常ですよ」
整然と並んでスタンドで立っている自転車を見て二人はそういった。
あっそっち?と私は拍子抜けしてしまった。
車ではなく自転車に驚いていたらしい。
「これはこうやってスタンドを跳ね上げたら足をかけてペダルをこぎます。
するとこんな風に前に進む乗り物ですよ」
乗って見せると二人は目を見開いて固まった。
こんな単純構造の物も開発されていない文化レベルである事が不安になるが、社会形成では地球と変わらない何ともアンバランスな世界だった。
政治においては日本より成熟しているかもしれない。
戦争もなければ国もないのだから当然ともいえる。
それにしても、道路がないために道がデコボコで走りにくいことこの上ない。
道路を整備したいものだね。
二人に乗り方を教えて乗らせてみたところ、重量でバランスを崩しやすいのか端的に言って二人とも下手だった。
「私は自転車に乗るためにここに来たわけではありませんので徐々に練習させていただきますね」
と山北さんは早々に諦めた。
行けたら行く理論だろう。多分練習しないと思われる。
「あんた、負けたままで悔しくないわけ」
小垣さんはむきになって練習していたが、ほどほどにしてもらわないと私の楽しみな時間が訪れない。
「もう一つ見てもらいたいものがありますのでこちらへどうぞ」
と駐車場へ先導する。
駐車場自体は以前からあるが、車は置いていなかった。
駐車場の前で少し待っててと二人を残して駐車場に入りインパクト重視で二階建て大型バスのエンジンをかけた。
安全運転で駐車場から出して乗降口を開ける。
中へどうぞと言葉をかけると二人は腰が抜けたのかへたり込んでしまった。
その反応は予想してなかった。少し申し訳なくなるが、乗ってもらわない事には恐怖のイメージで固まってしまいそうでそれは避けたかった。
助け起こしてから朝陽と雄太を呼びに行き、全員乗車でバスを走らせた。
森や山、川に囲まれた平地ではなかなか長い距離を走ることは難しいが、二人はスピードに驚きその便利さを体感してもらった。
すると便宜上勝手に決めた家から見て門の方角が南で草原になっている。
東に川と奥に森
北には遠くに森があり、その向こうには山も見える。
以前よりも視力が良くなったのかうすぼんやりと北に山が見えた。
西に川とその奥に森がある。
つまり飛ばせるのは草原で長距離走れるのも草原である南になる。
だいぶ南に走ってから朝陽と雄太を遊ばせてキャンプ用品を広げた。
組み立て式のイスとテーブルだけだけど。
こうなるとわかっていたらキャンピングカー作ったのに・・・よし作ろう。
今決めた。
「どうでした? これが自動車と言います。
自転車は自分でこがないと進みませんが、自動車はちゃんと操作手順がわかれば誰でも操作が可能ですよ」
まぁ、運転方法を教えるつもりは今のところない。
私が生み出したもので交通事故とか笑えない。
まして、ここには舗装された道路もないし道交法もないので興味が出たら簡易サーキットとカートくらいかなとは考えている。
女性だしあまり興味もないだろうしね。
買い物に行く事もない現状では正直言ってしまえば車の需要自体全くない。
「私が全力で身体強化使ってもここまで早く移動できませんし、それ以前に5分で動けなくなりますね。こんな便利なものが異世界にはたくさんあるのですか?」
根が真面目そうな山北さんの質問に丁寧に答えていった。
地を走るだけでなく空も飛んでいたと。
初めてのバスで疲れただろうと思って休憩にしたが、正解だったようだ。目が回ってるのか小垣さんは一言も発していなかった。
「小垣さん、大丈夫ですか?」
心配になって声をかけてみると小垣さんは真剣な表情で口に人差し指を当てた。
黙れってことですね。わかりました。
山北さんの質問に私は前の世界の事を一つ一つ話していると朝陽と雄太が大慌てでこちらに猛ダッシュしてきた。
何かあったか!と立ち上がり朝陽と雄太に駆け寄ると
「ご主人、誰かいる」
と言われて驚いた。
「全然見えないんだけど?」
「本当だよ、まだすごく遠いからご主人には見えないかも」
君たちいったいどこまで走ってたの?
という疑問はあるが小垣さんと山北さんに誰かいたみたいと伝えると
「あ、課長、あたしの上司が近くまで来てるみたいだから連絡とってたんだけど、このバス?で迎えに行ける?」
「じゃあ、すぐ迎えに行こうか、山北さんもお茶残ってるのにごめんね」
急いでテーブルを片付けてさらに南へとバスを走らせた。
バスで10分ほど走るとようやく人の姿が確認できた。
本当に朝陽も雄太もどれだけ速く走ってたの!?
車より早いわんこはさすがに聞いたことがない。
これも魔法なんだろうか?私にはちょっとわからないけど、健康なら問題ないね。
近づいてきたので徐々にスピードを落とす。
さすがに70キロで近づく巨大な鉄の塊は恐怖だろうと思ったが
「これはすごいね~
あんたが作ったのかい? あたしゃこんな大きさの物は初めて見たね~」
と自己紹介もすっ飛ばして興味津々でバスを撫でまわしていた。
周りに20人ほど一緒に来ていたようで、危険がないとわかったのか徐々に集まってきた。
人事課長であるというこのおばちゃんは小垣さんと山北さんの上司らしい。
ちなみに山北さんの旦那さんはうだつの上がらなそうなおじさんで子供二人はどちらも男で40歳と38歳二人とも妻子持ちで12歳の女の子と10歳の男の子がいた。
つまりおばあちゃんになる。
子供はそこまで肥満体系ではなかったが大人はみな肥満だった。
これは平均寿命がかなり短いのではないだろうか?
せっかくここまで来たんだから遊びを通して健康になれるように考えてみるかな?
アスレチックとかよさそうだね。
全員と自己紹介をしてから目指す先は我が家ということで全員バスに乗り込んでもらった。
何でも課長には驚かないように小垣さんが課長さんから念話を受けたタイミングで話していたそうだ。
全員が乗り込んだのを確認して乗降口を閉める。
シートベルトを締めてもらって北に向けて出発した。
走りだすと後ろから歓声が上がって拍手が起きた。
悪い気はしない。
2人の子供たちは興奮でキャッキャとはしゃいでいるが、危ないからおとなしくしててね~と願うばかりだ。
結構な遠出をしていたこともあって家に着いた頃には日が沈み始めていた。
全員が大豪邸と大量の自転車に目を見開いていた。
一部失神者あり
豪邸の中は小垣さんに案内を任せて部屋の割り当ても自由にしてもらった。
多々山課長さんは孫も含めた8人で1部屋でいいと言っていたが、それはダメだと断った。
いくら家族仲が良くてもちょっとね~狭い部屋に押し込むみたいで嫌だし、息子さんたちの奥様方も気が休まらないだろう。
多々山家は課長夫婦で一部屋、息子さん達の家族ごとに1部屋ずつの3部屋になった。
どういう部屋割りでそうなったのかは知らないが、独身者が男女問わず独身者だけで固まる一角ができたらしい。
正直部屋割りもそうだけど豪邸にはほとんど興味がないのでどうでもよかった。
好きにやってくださいよ~っと。
人数も人数なのでご飯と肉じゃがを生成して大食堂で振舞った。
小垣さんと山北さんも含めて全員号泣していた。
そこまでじゃなくない?
朝食も出したのに涙が枯れるほど全員泣いていた。
子供はそんな大人たちを見て困惑した後に「だいじょうぶ?」とけなげに声をかけていた。
トイレも風呂も小垣さんと山北さんが案内してくれるだろう。
部屋割りの際に女性は一階の大浴場で男性は二階の大浴場より少し小さな風呂と分けたらしい。
まぁ、他人のましてや異性の前で裸にはなれんわな。
男性陣には説明役がいないが、正直言って口頭説明で事足りるだろう。
小垣さんも最初それで何とかなったんだし。
私は遠慮なく自宅のお風呂に入り、そのあとわんこ達を風呂に入れた後風呂掃除をした。
わんこ達も風呂が気に入ったらしく入りたがるので風呂掃除は毎日仕事になっている。
明日は何をしようかな。
楽しみが多すぎて毎日充実しすぎて怖くなるね。
スマホで日記をつけた後瞼を閉じた。
9/12 誤字脱字修正




