95.容子のお仕置きと求人募集
王都の屋敷を経由して自宅に帰ると、容子と男衆三人が居なかった。
残っていた者達に聞くと、ボトル作りに飽きて逃亡したとのこと。
急いで屋敷に戻り、容子が帰ってくるのを門前で仁王立ちして待った。
容子は、艶々した顔で鼻歌を歌いながら帰ってきた。
同行していた三人衆は、逆にゲッソリとした顔をしている。
般若の顔をしている私を見た瞬間、容子はヤベッと思ったのか顔面蒼白になっている。
「お前なぁぁああああああああああああああ!! こっの! 馬鹿容子ぉぉぉおお!!」
絶叫と共に繰り出された渾身の右ストレートが炸裂した。
体重を乗せて抉るように繰り出された拳は、容子の体を吹っ飛ばすのは簡単だった。
ゴロゴロと地面を転がり木に激突している。
頬を押さえながら治癒を掛けている容子を見下ろす。
絶対零度の視線をくれてやった。
「お前、何、逃亡してんのっ? 誰が仕事サボッて良いと言った? ボトル等を量産するように言いつけたよなぁ!?」
ギロっと睨み付けると、必死に言い訳してきた。
「だって、だって、耐えられなかったんだもん! 向こうでも量産量産! 残業代出ないのは、不公平だ!」
「私だって同じだ! 残業代の事で、アンナ含めて相談しようとした矢先に仕事をサボられたら交渉の余地すら無くなったわ! 商談・交渉で忙しかったのに。代わりに私の仕事請け負うって言うんか? ああん?」
メンチきったら、酷い酷いと喚かれた。
うざっ! 本気うっざ!
「あ、それは無理。私に出来るわけなじゃん」
一気に素に戻ったのか、容子はスンッと顔から表情を無くして宣った。
「四の五の文句言わずに、まずはノルマをこなせ! 後、カルテットを連れて歩くな。歩くトラブルメーカーに、トラブル量産機が加わったら面倒事が量産されるでしょう」
容子とカルテットを掛け合わせたら、面倒事に発展することを自覚してくれ。
「あいつ等、放っておくと勝手に廃材で物騒な武器や呪具を作成してるんだもん。最近は、活動範囲広くなってるし。目の届く範囲で監視した方が、問題を起こされる前に事前に防げるでしょう!?」
「いや、監視も仕事の内だからね! サボっている間に、問題起こしてないよなぁ!?」
自然と声が低くなる。
私の問いにビクゥッと体を震わせる容子を見て、嗚呼やっぱり面倒事を持ち帰ってきたのかと察した。
暫く無言で見ていたが、中々口を口を割らない。
仕方がないので拡張空間ホームからハリセンを取出し、無表情で容子の側頭部目掛けて振り下ろした。
バシィィィインッと良い音が鳴る。
「痛ぃいいいいいいいいいい」
ピーギャーと泣く容子を放置して、三馬鹿男衆に事情聴取(と云う名の尋問)した。
話を聞くと、セブールに居た時に絡んできたバルドと再会し、クレクレ被害に遭った。
その対処を私に丸投げして、戻ってきたのだとさ。
怒りが上限突破すると、逆に笑顔が浮かぶんだね。
勉強になったよ。
ニコニコと黒い笑みを浮かべながら、容子の胸倉を掴みギリギリと締め上げる。
「何厄介事を背負ってるのかなぁ? 殺すぞ♡」
「済みません。ごめんなさい。もうしません。だって、あんな雑魚チームが王都にいるとは思わなかったんだもん!」
腐ってもAランクなんだから、王都に居てもおかしくないだろう。
それにダンジョンも近いのだから、遭遇する確率の方が高いと考えろよ。
厄介ごとを背負いこんで押し付けた所業は許すまじ。
「ノルマ一万追加な。それが出来上がるまでは、討伐は許さん。三馬鹿も容子のノルマが終わるまで、サービス残業の刑な」
「勘弁して!!!」
ノルマをさらに追加したら、ギャーッと悲鳴を上げているが知らね。
「説教は、これくらにして仕事があるから邪魔すんな、カス」
ペイッと容子を捨てて、私は一足先に自宅へと戻った。
談話室とは別に会議室を作っておいて正解だった。
とはいえ、六人も入れば狭くなるけどね!
アンナと会議室に籠り、一階で販売する基礎化粧品と化粧品について相談だ。
「本格的に日本で店を構えようと思う。化粧品を売るに当たって、スタッフを募集しようかと思うんだけど。どうかな?」
「奴隷を売り子として起用すれば良いのでは?」
「久世師匠経由で戸籍を買うにしても、お金が幾らあっても足りないよ。叩けば埃が仰山出る会社だよ? 調べられると困るのよ。化粧品を作っているのは私だからねぇ。私が生きている間に、同じ効果かそれ以上の効果がある化粧品を自力で開発出来ないと、会社は一代で終わる」
「それをさせない為に、化粧品以外の商品を売るつもりなのでしょう?」
「うん。そうだね。会社が軌道に乗ったら、後継者を育てるよ。私、結婚・妊娠する気ないし。身元が保証された人を雇おうと思う」
私の言葉に、アンナは成程と感心している。
「分かりました。求人募集をかけましょう。賃金はどうしますか?」
「固定給20万円、歩合で化粧品セット一つに対し一割還元でどう? 後は、社会保険・年金・失業保険・有給有くらいかな。社割で自社商品を購入できるようにするとか?」
「悪くはないと思います」
「住込み社員も募集すれば応募率上がるんじゃない?」
「そうすると一階は売り場、二階を倉庫、三階を作業場、四階を住居にする方向はどうでしょう? 雇った社員は、二階までしか行けない使用にすれば問題無いかと。内装の細かい調整は、矢代さんに相談すれば大丈夫でしょう」
アンナの提案に、私は概ね同意を示す。
しかし、疑問が残る。
「三階以上は、基本非常階段を閉める方向ですればOKだね。てか、エレベーターに細かい設定出来たっけ?」
「工事する必要はありますが、エレベータードアセキュリティを使えば出来ますよ。詳しい事は、エレベーター会社に説明と見積もりを出して貰いましょう」
知らなかった。
説明されても理解出来るか自信が無いわ……。
ここは、アンナに丸っとお任せしよう。
「OK、私は求人広告とハローワークに求人募集掛けてみるわ」
「私は、エレベーター会社にアポを取って内装工事と同時進行出来るように調整してみます」
アンナは、そう言うと自前のタブレットを持って退出して行った。
出来る女は違うな。
というか、タブレットいつの間に買ったんだ?
スワロフスキーのストーンが散りばめられて目がチカチカしたよ。
しかも、キティちゃんだった。
可愛い猫ちゃんシルエットをモノグラムで表現しているのが凄い。
どこで作ったんだろう。
自作?
思わず思考がそれてしまった。
「さてと、求人広告を探しますかね」
ネット検索しながら求人広告募集サイトを見まくる。
勿論、鑑定しながらだ。
小さくても手堅くきちんと仕事をしてくれる会社が良い。
ブラックな会社やお水系の広告を扱っているところはパス。
探すが、なかなか良いところは見つからない。
一度大手のタウンザワークやバイトールなどの大手会社に直接頼んでみるか。
ハローワーク、タウンザワーク、バイトールに求人を載せてもらう事にした。
販売員十五名、事務員二名、店長一名、チーフに名の計二十名を正社員として募集する事にした。
経験・未経験問わず、学歴も問わない。
営業時間は十時~十八時、一時間休憩あり、十八時~十九時までに店内掃除・売上計上・ミーティングをして貰って退勤。
基本残業なし。福利厚生有。ボーナス有(給与二ヶ月分/ただし売上や勤怠によって変動有)。
固定給20万円/歩合有もしくは、住込み(光熱水費・Wi-Hi込み)の場合は固定給16万円/歩合有で出してみたら応募者が殺到した。
そして、私は面接漬けの地獄を見た。