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琴陵姉妹の異世界日記  作者: もっけさん
ハルモニア王国 王都
95/152

92.事業を拡大します

「納品に来ました~」

 商業ギルドに入った瞬間、受付嬢二人がかりに拉致られました。

 問答無用でギルドマスターの部屋へ連行ですよ。

「こんにちは、マリオンさん。いきなり、問答無用で連行とか心臓に悪い」

 マリオンに文句たらたら不満を口にすると、

「ヒロコさん、お待ちしておりましたよ!」

 当の本人は、笑顔でスルーして人の手を握ってくる。

 セクハラで訴えるぞ、この野郎。

 とは噯にもださず、この対応は何かと聞くことにした。

「で、何でマリオンさんのところに連行されたんですかね?」

「ヒロコさんが来る時は、必ず私のところに通すように通達してますので」

 お前が原因か!!

 米神を揉みながら、商業ギルドの人間も灰汁が強いと実感した。

 アンナと出会った頃を思い出す。

「ドレスチーフの納品ですか?」

「それは、まだ作成中ですよ。数が揃い次第そちらに卸します」

と返せば、物凄く残念そうな顔をされた。

「あの後、豪商から下級貴族の方を中心にドレスの問合せが殺到しているんです。ドレスチーフだけでも、早く納品して頂きたかったです」

 あのドレスチーフには、これでもかというくらい複数の付与が施してある。

 広告塔にアンナを立てたのは当たりだった。

「あの服は、容子(まさこ)が作ってますので大量生産は難しいです。型紙を卸すことは出来ても、全く同じ物を作ることは出来ないと思いますよ」

「でしょうね。だから歯がゆいんです」

 心底悔しそうにしているマリオンに、苦笑いが思わず零れた。

 販売する側だったら、私もマリオンと同じことを考えると思う。

「今日、商業ギルドに訪れた目的は基礎化粧品の納品と試作品の化粧品セットのお披露目。容子(まさこ)作のアクセサリーの販売です」

宥子(ひろこ)様、特許申請もですよ」

 アンナの指摘に、

「そうだったね」

と返した。

「新しい化粧品とアクセサリーですか。是非、拝見させて下さい」

 おお、見事な食いつきっぷり。

 納品の事を丸っと忘れているようなので、先に基礎化粧品の納品を済ませる。

「これが、噂の美の魔法薬ですか。実物をこの目で見るのは初めてだ」

 基礎化粧品(普)を手に取り、マリオンは興味深そうに色んな角度から眺めている。

「人によって効果に差はありますが、Crema(クリマ)の自慢の品です。こちらが、新たに作った化粧品です」

 化粧品セット(BBクリーム・ピンクチーク・茶色ベースのアイシャドウ・口紅3種類)をトートバック経由で拡張空間ホームから取り出し、テーブルの上に並べる。

 その隣には、ジュエリーケースに入った容子(まさこ)作のアクセサリーを置く。

 それを見たマリオンの目が怖いです。

 獲物を狩る鷹の目になっているよ。

「ジュエリーケースもさることながら、使われている石と良い、細かい宝飾といい。普通に市場で流すよりも、顧客のニーズに合わせて特注(オーダーメイド)で受けた方が価値が上がりそうですね。化粧品関連は、試作品があれば譲って頂けませんかな? 受付嬢なら、喜んでテスターになってくれると思いますよ」

 マリオンの提案に、私はふと王都に来た頃の事を思い出して言った。

「以前、ここに来た時に受付のお姉さんに渡したんですけど……」

「何! それはどういう事ですか!!」

 凄い剣幕で顔を近づけてくるマリオンに、私は仰け反り返った。

 近い近い。

 それ以上近寄ると、思わず顔面にグーパンしたくなるじゃないか!

「アポなしでマリオンさんに会おうと思って、受付のお姉さんに賄賂を渡しました」

「何で私にもくれないんだぁぁあ!」

 頭を抱えて叫ぶおっさんは、気持ち悪いだけだ。

 基礎化粧品より着ていた服に興味を持ってたじゃないかと指摘すると、そうだったと又も絶叫している。

 この世界の人達は、オーバーリアクションし過ぎだと思う。

「まあ、良いじゃないですか。それに試作品ですけど化粧品セットは初めて卸しますし。容子(まさこ)の新作も見れたでしょう。気を取り直して下さいよ」

 まあまあと宥め透かして、マリオンを落ち着かせる。

 理性を取り戻した(かのように思えた)マリオンは、化粧品セットを手に取ってまた大興奮している。

「このBBクリームというのは、どういった用途ですかな?」

「ああ、それは白粉を液状にしたものです。白粉を顔に塗りたくると厚化粧になりますし、肌にも悪い。こちらのBBクリームは、少量を出して乳液と混ぜて顔全体に満遍なく塗ることで透明感のある肌になります。そばかすも隠すことが出来ますよ。こちらのチークは指で塗っても良いし、専用の筆を使って塗っても良いです。血色を良く見せる効果があります。その茶色くキラキラ光っているのはアイシャドウと言いまして、今私も使っています。これを使うかどうかで、印象もガラリと変わりますよ。口紅は三色用意してます。人によって似あう似合わないがありますので、こればかりは実際に塗って試してみないと何とも言えませんね。唇の乾燥防止にもなりますよ」

「何とも興味深い。だが、実際にどのように変わるのか見てみないと価値が分からないな」

 ごもっともな意見だ。

 ならば証明してみせましょう!

「洗面所お借りしますね」

「ああ、三階の突き当りに共同の洗面所がある。そこを使ってくれ」

「分かりました。アンナは、ここで容子(まさこ)のアクセサリーの説明をして差し上げて」

「分かりました」

 ギルドマスターの部屋を出て洗面所へ向かい化粧を落とした。

 スッピンって気持ち良いね!

 ぶっちゃけ私はスッピン派なのだが、商人(営業職)としてはダメダメなので仕方なく化粧をしている。

 まあ気合も入るし、ちょっとしんどい時でも頑張れる。

 化粧を落とし洗顔後、フカフカのタオルで顔を拭く。

 そのままマリオンに元に戻ったら「誰?」って顔をされた。

 うん、化粧前と後だと印象全然変わるの自分でも自覚している。

 日本の秘術『詐欺メイク』だ!

 別人級になれるの詐欺メイクをYour Tubeで習得しました。

「マリオンさん、ヒロコですよ」

「……いや、随分印象が変わりますね」

「よく言われます。では、化粧していきますので価値を見極めて下さいね」

 トートバッグから化粧ポーチを取出し、今回持ってきた試作品化粧セットと同じものをテーブルの上に並べる、

 折り畳み鏡を設置して、いざ化粧を開始だ。

 化粧を初めて大体二十分ほどで完成した。

 うん、バッチリ化粧美人(笑)になっている。

「如何でしょう?」

「素晴らしいですね! これは売れますよ」

「口紅の色を変えるだけで印象もグッと変わりますよ」

 今付けているのは、マッドピンクである。

 化粧落としで口紅を落として、持参した3色を付け直して見せたら、また驚かれた。

 驚くのに忙しいマリオンに、化粧品セットの売り込みをした。

「BBクリームは金貨8枚、チークは金貨3枚、アイシャドウは金貨5枚、口紅各種一つ金貨3枚で販売しようと考えています。セットで購入する場合は金貨17枚とバラで買うよりも金貨2枚お安くなります」

「基礎化粧品とセットで販売した場合はどうなるのかね」

 マリオンの質問に、私はそこまで考えてなかったと無言になった。

「両方購入となると金貨32枚ですので、切り良く金貨30枚ですわ」

 アンナの絶妙なフォローに、テーブルのしたでGJと親指を立てた。

「これらの化粧品は、王都でも卸して貰えるのだろうか」

「はい、各商業ギルドで卸す予定です。どこか一ヵ所だけに絞る事は、考えておりません。一ヵ所に集中してしまうと、利益が集中して逆に危険です。店舗を持つまでは、均等に各ギルドに卸す予定です。また化粧の方法を講座も必要になってくると思います。それについては、こちらから従業員を手配しますので、ギルドの女性職員が受けて頂いて説明をして頂けると助かるのですが。如何でしょうか?」

 伝家の宝刀『丸投げ』が発動した。

 だって一々教えるのって面倒臭いんだもん。

 家には年頃の女性陣が多くいるので、是非とも日本の別人級になれる化粧を習得して、サイエスの伝道師となって貰う予定だ。

「独占出来ないのは残念ですが、こちらの基礎化粧品セットと化粧品セットはどれくらい納品可能ですか?」

「基礎化粧品セットは1万セットお持ちしました。結構噂になっているみたいですし、1万セットあれば暫くは持つでしょう。化粧品セットについては試作段階なので、実際に使い心地を試して貰える方を十名程募集しています。肌トラブルが無ければ、そのまま商品化したいと思っています。もし販売するのであれば、1000セットは用意が可能です」

「そうですか! それであれば、わたくし共の受付嬢たちにお願いすることにします」

 勝手に決めちゃってる!!

 まあ、肌が極端に弱いとかなければ万人受けできる品だと思うので、人選はマリオンに一任しよう。

「では、その方々に基礎化粧品セットと化粧品セットを渡して使い心地を毎日レポートでマリオンさんに報告して貰いましょう。大体1月分なので、使用前と使用後の様子を詳しく報告お願いします。モニター参加して下さる方は、無料で差し上げます。費用の負担はありませんのでご安心下さい」

「太っ腹ですね」

「いえ、これも先行投資ですから」

 損して得を取れという諺があるくらいだ。

 多少の出費は想定内である。

「使い方など間違うと思った効果が得られなくなります。指導者を送りますので、必ずやり方を覚えた上で販売して下さいね。実際に販売する時には、指導を受けた方のみに限定して下さい。また、メイク方法などは商業ギルドで無料で講習をお願いします。ただし、指導者の元で学んだ方に対し、貴族や豪商たちが人材として雇いたがると思いますが断固拒否して下さい。そうしないと、うちの従業員がいつまでも商業ギルドに縛り付けられることになりますので! もし、この条件が飲めないもしくは反故にされた場合は、私は商業ギルドから手を引きます」

と強気に出た。

 労働基準法なんて目じゃないぜ! なギルドに、うちの大事な従業員を預けたくない。

 私のところでバリバリ働いて予定だ。

「分かりました。しかし、それでは直接指導した者達があまりにも可哀そうではありませんか?」

「何故? いつも最先端の化粧方法を一番最初で体験でき学べる特権がありますよ? 裏を返せば、化粧の流行を作るのは王都の商業ギルドとなれば色々と旨味もあるのではありませんか?」

 世界共通で美に関してお金を費やすのは、異世界でも同じだった。

 流行の発信地と名が馳せれば、マリオンの名声も上がるだろう。

 その流行を作った女性たちの名声もだ。

「成程、それなら採算が取れますね」

「後、出来るだけ地味な女性を選出して下さい。その方が、効果が絶大です。後、結婚適齢期を過ぎた方も大歓迎です。寧ろ、その方にお願いします」

 受付嬢は美人か、可愛い子揃いなので元が良いと必然的に綺麗になる。

 それでは面白くない。

 寧ろ、結婚適齢期を逃した喪女が良い!

 可もなく不可もない平凡な顔こそ、化粧のし甲斐がある!

 日本の化粧テクの真骨頂を是非と味わって欲しい。

 そして、そのテクを生かして結婚出来ると良いね。

 私はしたくないけど。

「分かりました。そのように手配致します」

「基礎化粧品セットを1万セット、化粧品セットを1000セット、それとは別に各セットを10個ずつ渡しておきます。化粧品セットの販売は1ヶ月後、使用者の反応を見て販売をして下さい」

「代金については、9:1でお願いします」

 アンナが無茶をぶっこんで来た!!

 マリオンの顔がめっちゃ引きつっているよ。

「それは、あんまりじゃないですか?」

「そうでしょうか? 適切な使用方法などのレクチャーを懇切丁寧に指導員を付けてします。人件費はこちら側で持つことになりますし、常に最新のメイク術がタダで受けられるんですよ? 8:2にしても良いですけど、指導員なしになりますが宜しいですか? 逆に、こちらも店舗を構えて営業しても良いんですけど」

 慇懃無礼過ぎるよ、アンナ。

 7:3がボーダーラインとは言ったけど、この口ぶりからすると絶対9:1に持っていくつもりだ。

 流石、値切りのアンナ。

 敵対しなくて良かった。

 そっと胸を撫でおろした。

「いや、しかし……」

「ヒロコ様の化粧品セット売れると確信なさってますよね? 基礎化粧品セットだけでも入手困難な状態です。利益も得られて、流行の発信地として名声も上がる。これほど、美味しい話はないと思いますけど?」

 凄い追い打ちだ。

 思わずハイと言ってしまいそうな勢いだよ。

「……分かった。9:1で受けよう。指導員の派遣を宜しく頼む」

「承知しておりますわ」

 ニッコリと笑みを浮かべて、私に視線を送るアンナ。

 マジ怖い!!

容子(まさこ)さんの新作も優先的に商業ギルドに下ろして貰えるのだろうか?」

「それは確約出来ませんわ」

とバッサリぶった切った。

 闇市みたいにオークションで出す可能性もあるしね。

「この国にいる間は、優先して卸しますよ。ちゃんと適正価格で販売してくれるなら。後、販売時に所有者登録を必ず行ってくれるのが条件ですけど」

 暴利は許さん。

 転売もだ。

 そんな事したら、市場が荒れるからね。

「何故と伺っても?」

「オークションや転売で高値で取引されたら、市場が荒れるじゃないですか。それに、本当に必要な人に使って貰いたいんです。転売目的の奴に買い占められると困りますからね。後、賄賂とかに使われて国が腐ったら生き辛いですし」

 そこまで言って納得して貰った。

 取敢えず、容子(まさこ)のアクセサリー類の販路は確保出来た。

 お金は私の口座に振り込んで貰う事にし、商業ギルドを後にした。

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