90.今度は廃病院のリフォームです
「八代社長に美味しい話を持ってきましたよ~」
道場破りならぬ会社凸をしたら、いつもの受付のお姉ちゃんに苦笑いされた。
「琴陵様、アポはお取りですか?」
「取ってませんね!」
「ちゃんと取ってから来て下さいね」
釘を刺されたけど気にしない!
どうせアポ取って取らなくても、居たら会ってくれるしね。
なんせ、私は大型発注する顧客ですから!
「以後、気を付けます。八代社長に新しい仕事を依頼したいのだけど、会えますか?」
「少々お待ち下さい」
と受話器を取り、内線で八代に面会の有無を確認している。
「今は、別件の対応中です。暫く、応接室でお待ち頂けますか?」
「大丈夫です。こっちが押しかけてきたので、それくらいは待ちます」
別のスタッフが、私たちを応接室へと案内してくれた。
いつ来ても、このフカフカのソファーが気持ち良い。
家にも欲しいが、容子が五月蠅いし、人数分のソファーを揃えるにも結構なお金が掛る。
ソファーは、暫くは断念かな。
三十分程待たされ、八代が現れた。
「琴陵の嬢ちゃん、着工早めるのは無理だぜ」
開口一番に釘を刺された。
別に、着工の催促で来たんじゃないんだけどなぁ。
「着工は、期日通りで良いですよ~。それとは別件で、大口の改装やりませんか? っていうお誘いです」
「大口の仕事かい? そりゃまた急だな」
ちょっと興味が持ったのか、顎に手を当てて考えている。
「場所は、千葉です。物件は、この建物の改装をお願いします」
例の廃病院の写真や間取り図を見せたら、凄い嫌そうな顔をされた。
「ワシらには、荷が重い。無理だな」
流石八代社長、感が鋭いね。
一目見て、直感でヤバイと感じたんだろう。
その本能は正解だよ。
でも、そこで諦める私ではないのだよ。
「除霊後に仕事して貰えれば良いんで、受けてくれません?」
「……これ、相当ヤバイ物件だろう。この間、受けたのもそうだった」
「でも、何もなかったでしょう? それどころか、仕事した事で経営が上向いているって聞いてますけど」
ニヤッと笑みを浮かべると、八代は肩を竦めて溜息を吐いた。
「本当、琴陵の嬢ちゃんには敵わないなぁ」
「嬢ちゃんと言われる年齢じゃないんですけどね。依頼したビルの施工後に、着工して貰えると有難いんですけど」
「今回は、どんな風にするのか決まっているのか?」
「敷地内の駐車場はそのままで、地下一階・二階は工場にします。一階~五階までを十畳の1ルームと2DK・4DKの部屋を作って欲しいんですよ。後、一階に男湯・女湯の大浴場も欲しいですね」
凹の字で建っている病院をそのまま原型を残しつつ改装する構想を伝えた。
「工場なのに、居住区も作るつもりかい?」
「住込みで働いてくれる人を募集するので、どうしても住居部分が必要になるんです。後、今の従業員の保養所にもしたいので、ホテル風が良いですね」
完成前に、募集を掛ける予定だ。
書類選考後に面接して採用する算段だ。
面接官は、私とアンナで行う予定である。
派遣社員やアルバイト・パートという手もあるが、出来れば正社員で雇いたい。
長く勤勉に働いてくれる人材が欲しい。
社畜になれとは言わないが、会社に貢献してくれる人が欲しい。
家族単位で受け入れられるように、色々なバリエーションの部屋も用意しておきたい。
それに、私達が保養所としても使えるようにしたいから宴会場とかも欲しい。
「家具を揃えるのは、大変じゃないのか?」
「その辺りは、社長の紹介で家具職人の見習いを紹介して貰えれば有難いな~って思ってます。正当な値段で買い取りますよ?」
「その辺りは、心配してないさ」
「それで、この仕事受けてくれませんかね?」
私の提案に、八代は小さく肩を竦めた。
「その顔、断られると思ってないな」
「元は、総合病院。内装だけでなく、備え付け家具も受注するとなれば、大きなお金が動くでしょう? 耐震調査や諸々お願いしたいし、材料費や人件費除いても、家具職人さんへの仲介手数料を除いても十分な儲け話だと思うけど?」
八代が断るなら、他のところに持っていくしかない。
新たに腕の良い施工会社を探すとなると、結構な時間を要することになる。
時間のロスは、私としても避けたいものだ。
八代は、降参とばかりに両手を挙げた。
「分かった。その仕事を受けよう。今の抱えている仕事が終わってからの着工になる。家具職人には、伝手がある。こちらで話を通しておこう。後日、直接連絡があると思う。知らない番号でも電話に出るように」
「連絡する際は、留守番に伝言吹き込んで下さい。折り返し連絡しますとお伝え下さい」
サイエスに居る事もあるし、電話に出られないこともある。
留守電に吹き込まれさえすれば、誰から何の要件で掛けてきたか分かるしね!
「先方には、その様に伝えておこう」
「まずは、私のビルの内装工事お願いしますね」
「おう」
「廃病院の内装工事がどれくらいになるか、現地調査した後に見積もり宜しくお願いします」
「了解」
「じゃあ、また来ますね~」
「来るときくらい一報入れてから来やがれ」
「あははは、覚えてたらします」
お互い握手し合って、その場を後にした。
帰宅すると、容子が早速仕事してくれたようで、除霊の真っただ中だった。
電話すると、怨嗟の声と無理やり昇天させられる呻き声がBGMで流れている。
元浴場らしき場所で温泉を見つけたらしく、容子はやけに上機嫌だった。
源泉から引っ張ってくる手間も省けて、今のところは順調かな。