89.面倒なので丸投げしました
私達は、曰く付き物件を安値で買い叩くとに成功した。
早速、容子に廃病院に巣食う悪霊共を一掃して貰うべく、アトリエから出てきた彼女を拉致った。
「容子、喜べ! 保養所兼工場として、新しい物件を購入したよ」
「え? どういうこと? 化粧品の生産は、今のところ宥子しか作れないよね。機械で作れるようになったって事?」
意味が分からんと首を傾げる容子に、私はチッチッチッと指を振った。
「今時、主力商品一本で勝負する会社がどこにあるのさ。リスク分散化の為に、アパレルと宝飾部門を立ち上げるんだよ」
「言いたいことは、分かった。肝心の人材は、どうする気? 私のデザインなんて高が知れているんだけど」
容子の腕は、趣味の範囲で嗜む程度だ。
それが万人受けするかと言われると、答えに詰まる。
「私らには、鑑定があるでしょう。面接する人の中から、才能がありそうな人材を発掘して採用すれば無問題! 工場は、ネズミの国から車で三十分のところにあるんだよ!! 温泉もあるし、保養所にもなる。お得なじゃない?」
これで、ネズミの国へ遠征する時の宿泊場所が確保出来る。
社員旅行も夢じゃない!!
近場所に温泉街もあるので、源泉を引き込めば温泉使いたい放題だ!
ああ、なんて素晴らしき事かな。
うひょひょと笑みを浮かべ狂喜乱舞していた私に対し、容子はジットリとした目で見ていた。
「一応聞くけど、その建物は訳ありじゃないよね?」
嫌な予感しかしねぇって顔で私を見る容子に、親指をグッと立てて滅茶苦茶良い笑顔で返したら睨まれた。
タダ働きさせようとしたのがバレたのか?
思わずそっと目を逸らしてしまった。
アンナは、ニコニコと笑みを浮かべている。
容子の絶対零度の視線を受けても笑えるアンナの心は、あれか? 鋼の心なのか?!
「私に何をやらせたいのかは、凡そ把握した。でも、一応聞いてやる。何をさせたいの?」
「範囲治癒で除霊して下さい」
「お前なぁ、パンジーのように除霊出来なかったらどうするつもり?」
「あ、それは全然心配してないから。容子なら出来る。熟練度を上げるのには、丁度良い物件だよ。ファイト!」
「嬉しくない。イザベラのレベル上げで大物を狩ったら、全部私の材料として貰う。それで手打ちな」
案の定、素材を強請られました。
まあ、良いけどね。
半ば強奪に近い形で奪ってくるし、抗ったら嫌がらせ飯が発動するので若干諦めている部分はある。
「うーん、それで良いや」
今回は除霊だけなので、難易度は簡単な部類に入るだろう。
容子の範囲治癒なら悪霊も一掃できるだろう。
しぶとい奴は、治癒で一発昇天させれば良い。
「補佐としてイーリン、ジャックの二名を借りる」
「何故に?」
容子一人で十分だろうに、従業員が二人抜けるのは痛い。
「二人の手に余るから却下」
「熟練度上げをするなら、才能がある二人も参加させた方が良いでしょうが」
そう言われてしまうと、容子の言っている事は一理ある。
「分かった。仕事を完遂してくれるなら、それで良いよ。なるべく、早く浄化してきてね」
イーリンは、聖女候補の称号があるから分かる。
ジャックは、魔力は多いが聖魔法は取得させていないぞ。
「ジャックは、半魔人でしょう? 聖魔法の適性があるとは、思えないんだけど……」
「宥子、偏見だよ。うちの子は、全員加護持ちだよ。聖魔法の適性がある……はず!」
何だよ、その極論は。
半魔人だから聖魔法は使えないとは、断言することは出来ない。
「念のため、二人には神聖魔法を取得出来るだけのポイントを振るわ」
「OK」
GOサインを出すと、容子はキッチンに籠ってしまった。
やけ食いでもするつもりか?
肝心のイーリンとジャックを呼んで、除霊退治の話をすることにした。
「この物件の除霊を容子をリーダーに、イーリンとジャックでして貰う」
●×不動産で貰った物件の資料と写真を見せると、二人とも青い顔をしている。
「何かすっげぇヤバイものを感じるんだけど」
「私も、見ていて気持ち悪くなります……」
二人とも良い感性を持っている。
この程度で気持ち悪くなっていると、現場に入った途端に殺られそうだな。
「強力な怨念の塊が蠢いているもん。写真だけで相当ヤバイと感じられるだけ、感受性は合格かな。容子がいるから大丈夫とは思うけど、気持ち悪くなる。ゲロ袋は持参することをお勧めする。後、容子とジャックにはポイント振るから神聖魔法を取得する事。手本は、イーリンが見せてくれるから問題ないでしょう」
「いやいや、無理ですよぅ」
イーリンは、泣きベソをかきながら拒否している。
「神聖魔法を使えるとしたら、イーリンかサクラしかいないでしょう。何回か手本を見せれば、容子も見様見真似で出来ると思う。ランクは下がるけど、容子が範囲治癒を撃ちまくれば浄化できる!」
多少気持ち悪くなる程度で、加護もあるし死ぬことはない。
大丈夫、大丈夫とガクブルする二人を慰めにもならない言葉で慰めた。
これを人は追い打ちと言う。
容子達を廃病院へ送り出し、居残り組は今日も今日とて交代で勉強に勤しんで貰っている。
スマートフォンやパソコンに触って遊んで貰いつつ、知育アニメの鑑賞をして常識などを学んでいる。
小学生の時に見ていた番組の方が、質が良かった。
あの頃は、雑学や環境問題などを深く掘り下げた題材が多く、今よりも規制が緩かった。
勉強嫌いな私も、その時ばかりはテレビに食い入るように見入っていたのが懐かしい。
算数・国語・社会・理科の四科目の知育テレビを見るように言いつけて、後は好きなアニメなりドラマなりを見て良いとルールを決めた。
そんな彼らを他所に、私とアンナは贔屓にしている業者を訪ねていた。