87.2週間の使い方
翌朝、朝食の席で今後について話しをすことにした。
「食べながら聞いて。現状、部屋が圧倒的に足りない。昨日、アンナと共に内装工事専門の職人に仕事を依頼して来た。着工までに二週間ある。サイエスの一日が、こっちでは約一週間になる。そこで、着工までの二週間を有効活用する予定です。イザベラ、貴様は問答無用でレベル上げだ! それ以外は、どうしたいか聞かせてくれ?」
「私は、アトリエに籠ってノルマ達成せしなきゃならないからパス。手伝いにイスパハンを借りる」
アサリの味噌汁を飲みながら、容子がボソッと呟いた。
イスパハン戦線離脱が、決定した。
パンジーは戦力外なので離脱。
残り十五名は、何したいかだ。
「あの、買って頂いたスマホとパソコンなるものを使ってみたいのですがダメでしょうか?」
ルーシーが、おずおずと聞いてくる。
「容子、使い方まで教えろよ」
「無理。宥子が、取引先から帰ってきた時の皆の顔を思い出せ。脱力感が、半端なかっただろう。ガチで疲れてますって時に、教えられても覚えらないでしょうが」
確かに、昨日は皆ゲッソリした顔をしていたな。
「確かに、スマホとパソコンの使い方は覚えて貰う必要があるしなぁ。アンナ一人だと限界は近いし……」
元奴隷組は、サイエスでCremaの従業員になって貰う予定で購入している。
パソコンもスマートフォンも、覚える必要があるかと問われれば「無い」と答えるだろう。
経営のノウハウや機械を通して事務仕事を覚えれば、サイエスでも即戦力になるだろう。
「ワウルが、講師として皆に教えてあげるように」
はい決定とばかりに決めたら、
「ちょっ、姐さん嫌っすよ。人に教えるなんて苦手なんっす。イザベラの方が、詳しいっすよ」
と拒否られた。
イザベラは、何でもかんでもフィーリングで覚えてしまう。
説明も自己流で分かり辛いので、ワウルの訴えは却下だ。
「パソコンは、officeの基礎が使える程度で良い」
「いやいや、ハードルが高いっす。メールやネットくらいしか、使ったことないから無理っす」
ブンブンと首を横に振って、必死で断るワウルに若干イラッときて殺気を飛ばしていた。
「完璧に使いこなせるまで教えろとは言ってない。教本通りに説明しながら教えるだけ。簡単な仕事だろう。スマホ同様に、最低限の動作は覚えて貰う。電源のON・OFF、ネットの見方、地図アプリの使い方、メールの送受信の仕方。二週間、端末で遊んでいれば嫌でも覚える。専用のゲームソフトも用意してある」
昔お世話になったタイピングゲームのソフトを見せると、
「私が、教える」
イザベラが、自発的にシュバッと手を挙げてランランに目を輝かせていた。
一番ゲームにハマっているのイザベラだもんな。
何気にパソコンとスマートフォンの操作を逸早く覚えて、遊んでいるのは知っている。
偏った知識になりそうだが、イザベラがヤル気を出してくれただけでも御の字か?
操作に慣れるなら、実践が一番!
適当に触って慣れろだ。
「officeはワウル、それ以外の操作はイザベラに任せる」
「ちょっと待った! イザベラは、レベリングさせるんじゃないのか?」
私の決定に、容子が待ったをかけた。
「レベル上げも大事だけど、イザベラが自発的にヤル気になっているんだよ? 何事にも経験だよ。指導係をやらせて使えないと判断したら、その時はレベル上げの旅に出て貰う。容子も、むさ苦しいパーティーは嫌だって言ってたじゃん。見目麗しい美少女とツーマンセルで、ストレス発散出来るからwin-winだね」
そう返すと、容子の顔が苦虫を噛み潰したような顔になった。
「どっちに転んでも、面倒事押し付けられてる気がするんだけど……」
「ストレス発散の名目で逃亡されてた時の保険だよ」
「ぐっ……」
身に覚えがあるのか、容子は呻き声を上げて押し黙った。
「それと、日本に慣れる為にも、観ておいて損はないから。休憩時間にでも、映画鑑賞会でもしたら? 時間が限られているから、2倍速再生な」
ジブリールの名作映画や魔女っ娘アニメ、ド定番な青春ドラマなどなど、リモコンでテレビを操作しながらオンデマンドDiTV動画配信画面を表示させた。
DVDデッキは、我が家にはない!
何故なら嵩張るからだ!!
契約する配信会社によって見れるものが異なるので、一番安い会社と契約をしている。
TVはネット接続しているので、画面切替でニッコリ動画やYour Tubeの動画も見れる。
食事時は、ニュースを流すのが琴陵家の日課である。
時事ネタはネットで幾らでも手に入れることが出来るが、映像として見た方がより印象に残る。
N●Kはジャミングで見れないようにしているがな!
「他にしたい事がある人」
「あ、あの! ネズミの国という場所に行ってみたいです!!」
イーリンが、特集で流れていたネズミの国に行ってみたいと言い出した。
ネズミの国の入園料だけでも、結構なお金が飛ぶ。
交通費も馬鹿にならない。
私達は、この間行ったばかりだしなぁ。
「ネズミの国は、交通費や宿泊費が嵩むから今は無理かな。Cremaが軌道に乗ったら、社員旅行で連れて行くから、またの機会にな」
と言うと、ガーンッとショックを受けた顔をした。
ネズミの国に連れて行ってあげたいが、予算的に無理だ。
頭ごなしに無理と言うのは可哀そうなので、代替え案を用意した。
「ネズミの国ではないが、近くに二つテーマパークがある。そこへ行ってみたら?」
USOと枚方パークだ。
絶叫系遊具で遊ぶなら枚方パークだが、お土産やショーを楽しむならUSOだろう。
「テーマパーク代含めて予算は、一人二万円。事前にネットで情報調べて各自で行くこと。ただし、ジャックとチルドルは大人同伴が大前提です。一緒に行ってくれる人を見つけて説得しなさい。パークに行くお金は用意するけど、スマホとパソコンの基礎が使えるのが条件です。お金は、容子に預けておくから宜しく」
「私を巻き込まないでよ! アトリエに籠るって言ってるじゃん」
「私とアンナは他にも用事があるし、日本の金銭感覚があるのは、容子しかいないでしょう。家長命令」
伝家の宝刀『家長命令』!
全然効力はないけどな(笑)
仕事で外に出る私と、自宅に引き籠って物作りする容子とでは、容子の方が分が悪い。
だって、この世界の事をよく知る人物って私と容子しかいない。
アンナも最近、経済関連や世界情勢に興味を持ち始めて勉強しているみたいだから、その内あっという間に抜かされるだろう。
「ハイハイ、オ姉サマ。ヤラセテ頂キマス」
不服そうな顔をしながら、新人君達の押し付けに成功した。
私は、食事を終え一服した後にアンナを連れて●×不動産へと足を運んだ。