83.帰るまでがブートキャンプです
濃厚な三時間を過ごし、合流地点に集まった。
私・容子・アンナ・カルテット以外は、皆死んだ魚のような目をしていた。
「皆、どうした? 元気ないね」
「何か、皆死んだ魚のような目してるけど大丈夫?」
「本当ですね。ちょっとやり過ぎましたかね?」
ちょっとモンスターの討伐しただけで、これでは色々と困る。
ただでさえ、派手に金を使って悪いことを考える相手に目を着けられている可能性もあるのだ。
自衛出来て且つダンジョン突破するくらいには、成長して貰わないと困る。
安全とは、サイエスは程遠い世界線。
自分の命は、自分で守れるようにならなくては意味がない。
せめて、アンナくらい図太い神経を持って貰わないと困る。
私は、ちらりと彼らのステータスを見ると平均で60前後と成果は芳しくない。
これなら、Cランクの冒険者として通用するかどうかというところか。
「短時間で平均レベルが60前後なら、結果良しと判断するべきか。うーん……欲を出すなら80台は欲しかった」
そう私が呟くと、何故か元奴隷一同が絶望的な顔をした。
「流石に時間が許しませんよ。私も慣れるのに、時間がかかりましたし」
とアンナが突っ込んだ。
そんな素振りは見せたことがないので、私はちょっと驚いた。
何でもスマートにこなしてしまう人だから、結構な無茶ぶりを振ったこともある。
その都度、余裕綽々な顔をしてこなすから『それが当たり前』だと思っていた。
うん、アンナが言うくらいなら私の認識を大幅に改めないと、彼らの精神を蝕む原因を作りそうだ。
「皆、ごめん。私の基準で考えて、ちょっと詰め込み過ぎた。良くなかったね。これからは、気を付ける」
「いえ、良いんです」
「そうですよ! 私たちの為を思っての事だって分かってますから」
「そうです!」
口々に恐縮の言葉を述べられてしまった。
むぅ……、やっぱり元奴隷だからか距離が遠い気がする。
「今日は、屋敷に戻ろう。帰り道にモンスターと遭遇したら無視の方向でね。向かってきた奴らは、私達が相手するから戦い方を見ておくように。容子、お前はその斧で戦えよ。後、アンデッド系のモンスターが出たら即治癒な。それ以外の魔法は禁止」
「何で私だけ羞恥プレイ?」
「斧使いは、今のところ容子だけからだよ! 蛇二匹は、投擲しか出来ないから見本にもならないでしょう。後輩に見本を見せるのも先輩の役目でしょう。つか大体、お前魔法の才能ないじゃん。前衛治癒は、アンデッドモンスター系以外に効果ないし。グダグダ言わずにやれ。文句言うなし」
正直、後衛で楽したい気持ちはある。
皆が皆、魔法の才能があるわけではない。
私達が特殊であって、本来の理想のパーティー像とはかけ離れている。
そういう意味では、手本を見せるのはありだろう。
それに私達が使っているのは、世の中に出したら戦争に発展しかねないヤバイ武器だ。
容子が作業に没頭してカルテットを放置した結果、売れない系武器が量産された。
その尻ぬぐいをこういう形で押し付けても文句は言わせない!
「前衛って私だけじゃん! 宥子も前衛しろ」
「は? 何言ってんの。嫌よ。カルテットがいるでしょう。私は、解説しながら魔法を使うんだから」
肉球斧を振り回す容子の隣で、こっぱずかしい悪趣味なデザインの刀を振り回したくないで御座る。
「後衛ならアンナがいるでしょう! 何さ、恥ずかしい武器を使うのが嫌なだけじゃん」
「分かってるなら口に出すなボケ! 大体、そんなアホな名前かつ変な武器使いたくないで御座る!」
ドンッと薄い胸を張って答えたら、どこから取り出したのかハリセンでしばかれた。
テラ痛す。
「後衛は、アンナだけで十分。てか、お前が一番レベル高いんだから前に出て戦えよ。私だけに一人羞恥プレイさせんな」
容子は、そう言いながら拡張空間ホームから山賊の手を取り出して私に押し付けた。
「おい、これ武器じゃないでしょうが! まさか、私にこれで戦えと? これ、単純に何か解除する時に使う物でしょう。剣を寄こせよ、剣を」
ガッデムッと怒鳴ると、容子はフンッと鼻を鳴らしシラ~とした目で睨まれた。
「宥子の腕力なら物理で叩き潰せるでしょう。大体、お前に剣なんか勿体ない。持たせたら、その辺伐採しまくって環境破壊になるから却下」
図星を指されたよ。
確かに、私のレベルでチート武器を振り回したら、それこそ地形が変わりかねない。
だからと言って、山賊の手は無いわー。
本気で無いわー。
白目を剥きながら仕方がなく山賊の手を受け取った。
帰り道を歩くこと一時間。
その間に遭遇したモンスターの数は二十一回。
前の私だったら、もっとエンカウントしていたから少ない方だと思う。
山賊の手を使って、モンスターから金目の物を奪い撲殺を繰り返す。
山賊の手って、本当に何でもご開帳できるのが良いね。
狙った獲物の口を問答無用で開けてくれるので、毒薬を投入するのが楽だった。
モンスター相手に実験するには、良いサポートアイテムだ。
見た目は悪いけど。
後、死体がドロップ品に変わる前に魔石を奪い取れる事を発見したのも良かった。
これには、容子が一番歓喜していた。
魔石の半分(良質)は売り払うんだが、ちゃんとそこのところ分かっているんだろうか?
門が見えた辺りで清掃を皆に掛けて、屋敷へと戻った。
帰ったらパンジーが迎えてくれた。
しかも、どこも彼処もピカピカになっていて驚いた。
一息着こうということで皆でリビングに移動したら、リビングのソファーで某アニメの魔法少女がプリントされたTシャツと短パンで寝そべって漫画を読んでいるイザベラの姿があった。
「……イザベラ、何してんの?」
「? 漫画読んでいる」
「いや、何でお前レベル上げに来てないの?」
「何も言われなかったから」
そう回答されて、確かにイザベラには声を掛けてなかったことに気付き、膝から崩れ落ちた。
リアルOTZの状態である。
「自発的に参加しようよ」
「いや、漫画見たい」
それは、私がお勧めしたカードキャプチャーさくりんだよね!
面白いのは勧めた私が一番分かっているが、イザベラの超マイペースに眩暈がする。
「私達が居ないことに気付かなかったの?」
「気付いていたけど、静かだから丁度いいと思った」
「……」
「お前の落ち度やな」
「……」
容子に指摘されて怒るに怒れない。
「イザベラは、別で今日の分も含めてレベル上げするから」
「マギ☆コレ全部見てからでも良い?」
「ダメです。全十二話話+劇場版三作もあるでしょう」
「じゃあ、やらない」
ぷくぅと頬を膨らますイザベラに、
「レベル上げ終わったら見ても良いし、マギ☆コレのスマホゲームの先も見せてあげるけどなぁ~」
フリフリとスマートフォンを振ると、少し考えた後に頷いた。
チョロイ。
「じゃあ、お茶しながら反省会して家に戻るで」
「ういっす」
「はい」
容子・アンナ・イザベラ・ワウル以外は分かってない様子だが、後から分かるので今は無視して反省会をした。