79.奴隷を買いました
「契約したら家の精霊に種族が変化するとは、ご都合主義なファンタジーだね。しかし、顔は綺麗なのに死んでるのが残念でならないわぁ」
とパンジーを見ながら、突然容子が何か言い出した。
お前、他人を着飾らせるの好きだもんね。
アンナやイザベラの顔が、容子好みなのも知っている。
パンジーも美少女だから、容子の好みにド直球なのも分かっている。
でもさ、地縛霊…じゃなかった。
今は精霊か、目の前にいる相手に言う事じゃないと思う。
「取り合えず、ご飯にしない? 拡張空間ホームに作り置き飯が残ってるし、今日はそれを食べようよ」
「私はパス。MPポーションをがぶ飲みして、お腹がタプタプだから要らね」
うんざりとした顔をしている容子を放置し、エントランスに拡張空間ホームからテーブルと椅子を取り出した。
作り置き飯をテーブルの上に並べて、全員を座らせる。
「お弁当を受け取ったら、着席するように」
ワラワラと弁当に群がり、受け取って各自椅子に着席する。
「合掌、頂きます」
「「「「頂きます」」」」
ご飯を食べ始めるなか、容子は律儀にパンジーの分をテーブルの上に置いた。
「パンジーの実体化できるようにさせることは出来ないの?」
実体化させて飯でも食わせる気か? と思ったが、取敢えず聞いてみる。
「実体化して何をさせるつもり?」
「屋敷の管理と掃除をさせたい。ふよふよ居るだけなら、勿体ないと思わん?」
確かに体力∞だし、四六時中働かせても問題ない。
あれ? もしかして基礎化粧品セットの詰め替えを手伝わせれば経費削減になる??
そう考えたら、彼女の実体化は一石二鳥になるのではなかろうか。
「実体化するには、依り代が必要だよね」
私は、パンジーのステータス画面を表示させながら有用なスキルを見る。
憑依スキルが目についたので、私は試しにそれを取得させた。
「容子、確かSDだかCDだかの球体関節人形持ってたよね?」
「あ、うん。あるけど、それが何?」
「取り合えず、一旦それにパンジーを憑依させて実体化させる」
私の言葉に、容子は微妙な顔になった。
「いや、私が持ってる人形は全部男の子なんだけど」
「パンジー専用人形が出来るまでは、お前の球体関節人形を貸してよ。実体化させたいんでしょう?」
「ぐぬぬ……分かったよ」
容子は、渋々といった顔で球体関節人形を拡張空間ホームから一体取り出した。
「パンジーは、その人形に憑依してみて」
「はい! やってみます!! ふんぬーーーーーーー」
何か残念な気合を入れる声と共に、パンジーが人形に憑依する。
死んでも美少女なんだから、外聞をちょっとは気にしようよ。
「憑依出来ました!」
パンジーは、ワキワキと身体を動かしている。
「等身大の球体関節人形が出来上がるまでは、その身体で我慢してな」
全長70cmの球体関節人形に憑依したパンジーに告げると、
「はい!」
と彼女は、花のような笑顔を浮かべた。
「ご主人様、あの~私もお弁当とやらを食べてみたいです」
パンジーは、私に向かって目の前に置かれている食事を食べて良いか確認してくる。
「良いけど。食べられるの?」
「大丈夫です!」
私の許可を得て、パンジーは子供用スプーンを手にしてお弁当を食べ始めた。
食べたと言っても、弁当の中身は消えていないが、原型を残して干からびている。
「美味しいです!」
「あ、うん。お代わりがいるなら、容子に許可を貰ってね」
何とも言えない表情になりながらも、私は努めて冷静を装った。
「ありがとうございます! お代わり下さい」
パアッと顔を明るくさせ、パンジーは容子にお代わりを要求している。
「美味しいです! こんなに美味しい料理は初めてですv」
美味しい、美味しいと言いながらガツガツと食べるパンジーを見て、いつもの通過儀礼だと思った私は悪くない。
一通り食事も終わった所で、私は容子に本題を話した。
食事中に言ったら、絶対嫌がらせ飯にされるもん。
「奴隷を買いに行くから、パンジーは風呂の準備をしてね。終わったら、部屋の掃除。本題は、イザベラのステータスの不幸666についてどうにかしようと思ってます! 容子には、不幸値を何とかするアイテム作って貰いたい」
「無茶ぶり振んな!!」
容子たん、オコになりました。
まだ、激オコじゃないから大丈夫。
この様子だと多分作れるか、それに近い物は作れるのだろう。
「これに関しては、好きな素材使って構わない。作る過程で出た廃材は、好きにして良いよ」
「へいへい」
渋々といった感じだが、言質は取った。
後は、本当に使われたくない素材を隠しフォルダに仕舞い込んでおくだけだ。
食事が済んだ後、私はアンナと仕事の打ち合わせをしていた。
容子作の装飾品等の卸しと基礎化粧品セットの準備である。
拠点を手に入れたので、奴隷を買い付けに行くことにした。
ぶっちゃけ私だけでは、分からないところがあるんだよね。
アンナから聞くと、借金奴隷と犯罪奴隷、違法奴隷の三種類がある。
闇オークションは、違法奴隷に該当するが国は見て見ぬふりをしている。
多分、売り上げの何割かが国に納められているんだろうね。
この国、腐っているな。
国そのものなのか、それとも国の中枢にいる奴なのかは分からんが、ロクでもないのは確かである。
一ヵ所にとどまる気はないので、パンジーに買った家の管理を全て任せて色んな国を巡る予定だ。
基礎化粧品セットの卸し等もあるので、パンジーを筆頭に奴隷を上手く使って回していこう。
ワウルの情報による、比較的善良な奴隷商会イレカレーヌを訪れた。
「いらっしゃいませ」
ビシッとした燕尾服姿の美麗な男性に迎えられた。
イケメンは良いね。
眼福だけど、三次元でドキドキする事はないのが残念だ。
「奴隷を買いに来ました」
「どのような者をお探しですか?」
「犯罪奴隷以外で全て見させて下さい」
「えっ? ……畏まりました」
まあ、驚くわな。
何人いるか分からないが、それなりに繁盛しているみたいだし、掘り出し物もあるかもしれない。
鑑定もあるし、個々のステータスをのぞき見させて貰って面談してから考えよう。
「良いんですか? 大まかな指定をした方が手間も省けますよ?」
相手に聞こえない程度に忠告してくるアンナに、
「ステータスを見て候補を絞る。後は、面談して買うか決める。イザベラのような例もあるからな。まあ、黙って見てて」
と答えると、彼女はなるほどと納得してくれた。
通されたのは、鉄格子に区分けされた奴隷たちの部屋だった。
トイレもベッドもあるので、まだ奴隷としては良い扱いだとアンナは言った。
私からすれば、座敷牢に閉じ込められた人を連想したわ。
一人ずつ鑑定していく。
気になった者のナンバーをメモ帳に書いていく。
一通り見終わって、戻ろうかと思ったら、私の感が待ったをかけた。
奥の部屋が、やけに気になる。
「済みません。この奥の部屋にはいないんですか?」
「ああ、そこの部屋には処分する予定の奴隷たちしかいません」
美麗なお兄さんから衝撃的な言葉が返ってきた。
処分とか平気で言えちゃう神経が怖い。
「見せて貰えますか?」
「構いませんが、病気持ちだったり死にかけの者ばかりなので良い者はいないと思いますよ?」
本当に見るのかと再確認され、
「見せて下さい」
と返した。
奥の部屋を開けると、ウッとすえた臭いが鼻についた。
衛生が悪い上に、臭い。
表面上は良い商会なんだろうが、こういう闇を抱えている部分を目にすると何とも言えない気分になる。
中に居たのは、ザッと二十人ほど。
鑑定すると、病気や怪我の悪化でバッドステータスになっている人ばかりだ。
しかし、チェックしていた人たちよりも突出したものを個々に持っていた。
元々、私の契約チームがステ振り縛りプレイなステータスなので気にならない。
寧ろ丁度良い。
私のポーション、サクラの完全治癒で彼らの状態を通常に戻すことが出来るだろう。
どうにもならなかったら、それは私の見る目が無かっただけの話だ。
「この部屋にいる人全員と話をさせて下さい」
私の言葉に、お兄さんビックリしているよ!
でも気にしないぜ!
私が欲しいのは、労力兼特殊技能だからね。
暫く別の部屋で待たされ、欠伸をしていたら奴隷たちを連れてきた。
五人ずつ面談スタート。
一人に2~3問質問し、自己アピールして貰った。
皆、一様に自己アピールは控えめ。
使い潰しだと諦めているんだろう。
投げやりに吐き捨てるような自己紹介をした人もいる。
別の部屋に家族がいるので、一緒に買って貰えないかと懇願されたりもした。
その言葉に、急遽家族も呼んでもらい面談。
ギャンブルでの借金奴隷はパスし、病気や怪我、ギルドの違約金が払えずにやむを得ない状況で借金奴隷になった者を残したら十三人になっていた。
うち病人もしくは怪我人が九人。
半分以上である。
「決めました。この十三人を買います」
「本当に良いのですか? 特にこの九人は、思うような働きは出来ないと思いますよ」
仕事をする事もままならない者を買うのかと聞かれたが、私の意見は変わらない。
「問題ありません」
普通に考えたら欠陥品だろうが、その程度の病気や怪我なら何とかできる自信がある。
安い状態で買えるなら、願ったり叶ったりだ。
何よりスキルが美味しい。
「買います。返品することはありませんから、大丈夫ですよ」
「処分する奴隷だった九人は、全員合わせて金貨九枚で構いません。四人は、突出した特技があるわけでもありませんし、容姿も普通ですので一人金貨四十枚になります」
「分かりました。では、これでお願いします」
代金を支払い、十三人と奴隷契約を結んだ。
取敢えず、動ける人は動けない人に肩を貸して奴隷商会を出た。
奴隷商会から少し離れたところで、彼らに中級ポーション(劣)を飲ませる。
全員に治癒と清掃を掛けた。
「体が楽になった」
「動ける……動けるぞ」
「傷が治ってる」
それぞれ、ワッと歓声が上がった。
彼らのステータスを見ると、身体は大分良くなっているが完治はしていない。
「はいはい、ちょっと静かに。今から移動するよ。動けない人は手上げて」
パンパンと手を叩いて、奴隷たちを静かにさせた。
うん、取敢えずは動けない者は居ないようだ。
「まだ、しんどい人もいると思うが、もう少し頑張って」
そう言って、奴隷達を歩かせて拠点へと戻った。
出迎えてくれたパンジーに、サクラがどこにいるか訊ねると、容子のアトリエにいると教えてくれた。
「パンジー、彼らを風呂場に案内してあげて。アンナは、シャンプーなどの使い方を教えてあげて。全員風呂から上がったら、リビングに集合すること。お茶の準備も宜しく」
「分かりました。皆様こちらへどうぞ~」
「了解しました。予備の服等を準備します」
アンナ達を見送り、私は容子のアトリエに押し掛けた。
「容子、サクラそっちにいる?」
「そこにいるよ。丁度、例の奴が出来たところ」
手渡されたイヤリングを鑑定したら、ヤバイことになっていた。
巫女の耳飾り改:会心+60%・運共有化・バッドステータス無効化・回避+50%・電光石火(移動加速)・バーストストリーム(20連撃)・冥府の癒し手(HPとMP全回復/永続)
「おい、誰が鬼仕様なチートアイテムを作れと言った?」
「仕方ないじゃん。悪運を帳消しにする為に全員の運を統合、再分配する為のアイテムだもん。別にこれを売るつもりは無いし、良いじゃん。それより、これ見てよ」
差し出された別のイヤリングも、これまたヤバかった。
巫女の耳飾り:物防25700 魔防31000 スキル(豪運+1000)
なるほど、失敗して作り直したのか。
頭が痛い。
「どういう経緯でこうなった?」
「失敗作は魔石だけで作ってみた。出来作は、カルテットの身体の一部を魔石と併せて混ぜて作ったらこうなった」
「ふぁっ?」
変な声が出たよ!
巫女の耳飾りだけでもチートなのに、それ以上ってカルテットは破格過ぎでしょう!!
これ、表に出したらヤバい代物だ。
うん、見なかった事にしよう。
「……奴隷も買ったし。その子らの分も追加で作って。十三人分な。後、サクラはちょっと借りるで」
「えええーっ! これ以上作るの? 勘弁してよ」
「全員の運を均等にするんだから、頑張れ。労働力欲しいんでしょう? MPポーション必要なら置いていくから作れ。サクラは用事が済んだら、お前のアトリエに戻してあげる。良いか? 作れるところまで作れ」
有無を言わさずサクラを掴んで、私は容子のアトリエを後にした。