74.潜入、闇オークション
闇市をぶらついて興味がそそられるものを購入し、闇オークションが開催される時間が迫ったので、マーキュリーホテルにやって来ました。
お貴族様御用達のお店だけあって、従業員の身なりはしっかりしている。
私達がホテルに入り、地下への入り口になっている場所まで行くとボーイに止められた。
パーティーバッグから招待状を取り出し、ボーイに見せるとスッと身体を引いて道を開けてくれた。
身のこなしからして、最低でも冒険者Bランク相当の力はある。
闇オークションって、物騒なのな。
地下のドアを開けて貰い中に入ると、場内がざわついた。
鑑定スキルがあれば、今私達が身に着けているドレススーツの性能が一発で分かる。
パーティバッグの中には、サクラ・紅白・赤白が入っている。
楽白だけは、ハーフアップにした髪に隠れて貰っている。
バッグを開けて、中にいる三匹に念話する。
<場内に進入出来たから、オークション終了まで自由行動して良いよ。隠密は、常時発動させること>
<分かったで>
<ほな、探索してくるわ>
<了解ですの>
それぞれ、鞄の中からでて隠密を発動させて散らばって行った。
三匹なら誰かに見つかることもなく、移動出来るだろう。
「好きにさせて良かったんですか?」
アンナの問いかけに、
「逆に大人しくバッグの中にいるような奴らじゃないからね。ある程度、好きにさせた方が楽。それに、万が一の逃走経路は確保しておかないと」
普通のオークションではないのだ。
何が起こるか分からない。
容子に突貫で作らせたドレススーツも、防御に特化した物を要求した。
物防+10000・魔防+10000・清掃付与・温度調整付与という高性能な代物だ。
汚れも付かない快適な温度が保たる、且つ斬新で動きやすい防護服である。
高性能な分、貯め込んでいた素材を大盤振る舞いで吐き出した。
容子め、ここぞとばかりに高価な素材ばかり持っていくのは止めて欲しかった。
その甲斐もあって、文句なしのドレススーツが仕上がった。
カルテットもドレススーツ製作を手伝ったので、容子には内緒でお菓子を上げた。
蛇達は酒を所望してきたが、臭いでばれるから酒は却下したよ。
ワウルは、執事兼虫よけとして傍に控えて貰っている。
口を開かなければ、アンナもワウルも立ち居振る舞いは、どことなく品がある。
二人は、黙っていれば良家のご子息・ご令嬢に見える。
ちょっと羨ましい。
ワウルには、口を開くなと厳命して闇オークションに挑んだ。
闇オークション内での役割分担も決めてある。
私は鑑定に集中し、念を入れて楽白にも看破で真偽を見て貰う。
アンナは落札と交渉を全て任せ、容子は周囲の警戒を任せた。
各ギルドに貯めていたお金を半分引き出して持ってきた。
王都に来るまでにモンスターを討伐した時にドロップしたお金もたんまりある。
容子の目当てのハイエルフは、多分落札できるだろう。
手持ちのお金以上なら諦めろと、容子に釘を刺しておいた。
照明が、阻害魔法が書けられた仮面の男に集まる。
「これより闇オークションを開催します!」
男は、高らかに闇オークション開催の宣言をした。
競りに出された商品の番号に対し、金額を言い合い競り合っている。
物珍しい物はあったが、別段欲しいものはない。
ちょっと期待外れだったかもと、今更ながらに後悔していた。
私の出品したローブは、白金貨300枚からスタートして白金貨5000枚で落札された。
ローブを説明する時の司会の興奮が、異様なテンションでキモかった。
謳い文句が『賢者のローブ』に変わっていたが、念のため鑑定したら残念なネーミングのままだったのでホッと胸を撫でおろした。
容子が所望したハイエルフ(女)は、白金貨3000枚にまで競り上がった。
「白金貨3000枚出して買うほどの価値はないから諦めろ」
と言ったら、容子に泣かれた。
「折角、時間かけて色々作って闇オークションに参加したのにあんまりだー」
「良いところが、容姿以外にないんだよね。人よりは魔力はあると思うよ。ただ、それだけの存在にお金掛けるのは無理。突出したところも無いし、伸びしろが無いから無理」
仮に買ってハイエルフを鍛えたとしても、伸びしろが殆ど無いので最弱の足で纏いを養うことになる。
人一人養うのは、金が掛るのだ。
投資が出来ない相手に金は出せない。
今回は目ぼしい物がないので失敗したと思っていたら、ハイエルフの落札後に出てきた奴隷に目が釘付けになった。
種族はハーフエルフだが、膨大な魔力を宿している。
ただ、見た目が人の印象に残らない顔をしている。
しかし、それがスキルの変装のなせる技だと見えている。
「金貨50枚」
カンと木槌を鳴らす司会者に、
「白金貨1枚」
と答えた。
誰も買いたがらないのは目に見えていたが、体面もあるので白金貨1枚を出すことにした。
金貨60枚でも良かったんだけどね。
アンナが、運営側が仕込んでいるサクラが値を吊り上げてくると予想した。
その対応策として、易々と出せない金額を提示するのがセオリーだと助言をくれたのだ。
「他にはありませんか?」
司会者の言葉にシーンとする場内。
「33番は、白金貨1枚で落札されました。お客様、こちらへどうぞ」
私達は別室に移動して、ハーフエルフの女の子と対面した。
白金貨を支払い終えると支配人補佐が、
「奴隷譲渡の魔法を行いますか?」
と聞いてきた。
「お願いします」
と答えると、ダラダラと長い制約文章を読み上げ、譲渡と呪文を口にされた瞬間、私の小指とハーフエルフの女の子の首に幾何学模様の印が浮かび上がった。
私の場合はピンキーリングに見えなくもないが、ハーフエルフの子は完全に首輪である。
「貴女の意志に背いたり、逃亡しようとしたりする場合に、締まれと唱えれば首が締まります。また、一定の距離を離れた場合も同じです」
淡々と説明する司会者に、
ど偉い物騒な魔法を掛けやがった!!
「締まるのは、奴隷だけですか?」
「はい」
私の指は締まらないのか。
ちょっと安心した。
「オークション会場に戻られますか?」
「いえ、もう帰ります。出品したローブの支払いをお願い出来ますか?」
「畏まりました。少々、お待ちください」
暫く待たされて、出品したローブは手数料を抜いて白金貨4300枚が支払われた。
鑑定でお金を抜いてないか確認して受け取ったら、支配人補佐に大層驚かれた。
「確認はされないのですか?」
「鑑定すれば枚数ぐらい分かります。きちんと白金貨4300枚と鑑定に出たので問題ありません」
偽貨幣だったりしたら困るので、看破持ちの楽白にも鑑定を頼んでおいた。
楽白が髪を一回引っ張ったので、白金貨は本物だ。
因みに少なかったら二回、偽貨幣は三回、少ない上に偽貨幣だった場合は四回髪を引っ張ると前もって決めていた。
「では、ご機嫌よう」
パーティバッグを通じて拡張空間ホームに白金貨を収納する。
<全員、ホテルのロビーに集合。帰ったら酒盛りするぞー>
放し飼いにしていた三匹を呼び寄せる。
今日は疲れた。
もう遅いし、一旦宿に戻って自宅へ帰る!
そして、私はビールが飲みたい!!
私達は、ホテルを出て早々に脇道に入り、隠密を発動させて宿へと走って帰った。
レベルの低いワウルは容子が俵担ぎし、ハーフエルフの女の子は姫抱っこで私が運んで移動したさ。
容子は『約束と違う! おっさんなんて担ぎたくないでござる』と、最後までブチブチ文句言っていた。
宿に着いて大部屋を一つ貸し切りにして貰った。
一泊で金貨3枚とは、懐が痛いね!
取敢えず二泊でと頼み、私達は自宅へと戻ったのだった。