73.闇オークションに乗り込む
一度自宅に戻って、闇市とオークションについてワウルを問いただした。
アンナの協力も必要になるため、彼女にも同席して貰っている。
容子は、アトリエに籠って出てこない。
情報通の称号は伊達ではなかった。
アンナは勿論、私や容子の事もある程度は知っていた。
顔までは知らなかったのは、運が悪かったとしか言いようがない。
容子と出会ったのが運の尽き。
「闇市って、どの世界でも同じなのか。まあ、良いや。三日後、マーキュリーホテルの地下で行われる闇オークション。興味はあるけど、入場制限があるんじゃない?」
「へい、そうなっすよ。主に貴族か大富豪が出席してます」
成程ねぇ、富豪や貴族が参加するとなれば平民は出席出来ないだろう。
ギルドで発行された各種のカードで身元が保証されても、闇オークションに無理矢理参加することはほぼ不可能だ。
「Sランク冒険者の肩書は、逆に邪魔になるね」
冒険者=野蛮と捉える貴族は多い。
だったら、商人として参加した方が良いかもしれない。
「出品者として、飛び入り参加は出来ないの?」
「いや、無理っすね。紹介状とかないとダメっす」
「そっか。ワウルの初仕事は、紹介状の入手な。参加者側じゃなく、出品者側でなら入手できるだろう。セブールの商業ギルドで白金貨150枚で買い取った杖と対になるローブを出すと言えば、許可されるんじゃない?」
予想外の言葉に、アンナとワウルの目が点になっている。
カルテットが制作した物の中に、規格外なローブを発見した。
その名も、『紙装甲な貴方にお勧め! 極力物理攻撃軽減(大)ローブ』である。
一見ただの白いローブに見えるチート級アイテムである。
「まだ素材の使用規制を掛ける前に作られた死蔵アイテムの中で、一番世に出せそうな代物だから安心してよ」
カルテットが、大人しく言う事を聞くような奴らじゃないのは身に染みて分かっている。
隙を見ては、容子からアイテムをくすねて何か作っているのは知っていた。
作るなら、せめて性能はそこそこで良い。
恥ずかしくないネーミングにして欲しいものだ。
「ヒロコ様、ローブの性能は非常に良いと思います。ですが、ネーミングがちょっと……」
微妙な顔をするアンナに、私は小さく肩を竦める。
「ローブ以外にも色々あるよ。武器は、自分達で使用する分なら良いんだけどね。私は、武器は絶対売らない。それなのに、カルテットときたら平気で物騒な物を作るんだよ。今ある中で一番マシなのがこれなのさ」
頭に『極力』と付いているので、身に着けている相手の運の高さによって確率は変わるが、物理攻撃の軽減(大)の恩恵は受けられない場合もあるだろう。
容子からすれば、欠陥品を出品するなんてと言い出しそうだが、十分破格な性能だと私は思う。
初期でこれだけ作れるのだ。
素材使用禁止を出しているが、カルテットが何もしないわけがない。
血圧が上がりそうな物を作ってないと良いのだが、定期的にフォルダ内をチェックしよう。
「性能だけなら、セブールで売った杖に少し劣るくらいの品です。勇者や聖女の装備品にしても良いくらいの出来ですよ。残念な名前は、この際無視しましょう! これなら正面から堂々と参加出来ますよ」
フンスッと鼻息を荒くするアンナに、私はうんざりとした顔で問うた。
「競売にかければ結構な値が付くことは予想出来るよ。でもさ、後々面倒な事にならないか心配だなぁ」
「国王と言えど、商業ギルドを敵に回せば経済の停滞が起きますから大丈夫です」
ドス黒い笑みを浮かべて、経済を停滞させること出来ます発言に、私は恐れ慄いた。
つくづく怖い事を考えるな、この人は。
「アンナが、太鼓判押すなら出品するのはローブで決定だね。ワウルが、三日後の闇オークションに出品する手配を取ってね。必要なら、アンナを貸し出すから」
「え? 俺っすか?」
私の指示に、ワウルは目を白黒させている。
「了解です。支度してきます」
アンナは、支度するとリビングを出て行った。
暫し流れる静寂の時間。
ぶっちゃけおっさん相手に何を話せば良いのか全然分からない。
容子が拾ってきた奴だしなぁ。
「何か話して」
「なんて適当な!」
「ネタが無い。提供くらいしろ」
「無茶ぶりが酷すぎるっす」
王都について根掘り葉掘り聞き出し、闇オークションに参加する際の注意事項などを聞いて時間を潰した。
どうせオークションに参加するのなら、新作のドレススーツとアクセサリーをお披露目しよう。
勿論、詐欺メイクで中の上くらいの顔は作れる……と思いたい。
容子に、突貫で新作のドレススーツと小物一式を作って貰うことにした。
おっさんを拾ってきたツケは、きっちり身体で払って貰う。
フフフフと邪な笑みを浮かべている私は、ワウルが怯えているなどつゆ知らず、どんなデザインにしようかな~と考えていた。
アンナにローブを持たせて、ワウルと共にサイエスに送り出した。
二週間後、アンナから念話が入り迎えに行くと、彼女は満面の笑みを浮かべて自宅に戻ってきた。
その手には、闇市のオークション招待券が握られている。
キッチリ四枚も用意してくるとは、本当に有能である。
アトリエから出てきた容子確保し、かくかくジカジカでと説明して、闇市オークションの為の新作ドレススーツ&小物作りを要求した。
最初は渋っていたが、ワウルの件もあり渋々だが要求を飲ませた。
アンナは赤薔薇、容子は菖蒲、私は牡丹をモチーフにした和風ドレススーツを作って貰らった。
ゴスロリ要素は控えめに、民族衣装っぽいスーツで袖は広がり、スカートはマーメイドラインになっている。
一見変わったドレススーツである。
ドレススーツに似合うように、口紅やチークも新しく作った。
ワウルは、既製品の燕尾服を着て貰うことにした。
突貫で作ったドレスの割には、上出来だと思う。
メイクは私が担当したよ!
Your Tube様様である。
自分でするより人に施した方が、綺麗に仕上がるのは何故だろう。
私のメイクは、アンナにお願いした。
容子にさせたら、コケシみたいになるので全力でお断りした。
折角のスーツも台無しになってしまう。
空間収納を付与したパーティバッグを手に、いざ闇オークションが開催されるホテルに私達+カルテットで乗り込んだ。